冷凍食品の常識を変えるカイワレとエノキタケ

冷凍食品の常識を変えるカイワレとエノキタケ

  • JBpress
  • 更新日:2017/10/13
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冷凍うどん。しこしこした食感を楽しめる裏には、冷凍食品の技術が隠されている。

近ごろの冷凍食品の種類の多さやおいしさには、目を見張るものがある。いまや私たちの暮らしに欠かせない、便利でおいしい冷凍食品は、優れた冷凍技術が支えている。その中でも、品質を維持する画期的な技術として「不凍素材」が注目されている。

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いまや花盛りの冷凍食品

2016年、フランスの冷凍食品専門店「ピカール」が東京に出店して話題にもなったが、近頃の冷凍食品の種類の多さには圧倒される。スープから具材まで一体化した麺やふわふわのオムライスなど、少し前では考えられなかったような商品が目白押しだ。日本人1人年間あたりの冷凍食品の消費量は20キログラムを超えており、冷凍食品は私たちの食生活に欠かせない存在になっている。

冷凍食品とは、長期保存を目的として-18℃以下で冷凍された加工食品のこと。業務用から家庭用までさまざまなタイプがあるが、大別すると素材をそのまま冷凍したものと調理食品になる。

日本では、調理食品の生産量や種類が圧倒的に多いのが特徴だ。生産量の多いのはコロッケやハンバーグ、うどん、チャーハンなど。家庭では、冷凍食品はお弁当のおかずとして人気が高いが、近ごろでは主食の麺類やご飯類の人気が増している。日本冷凍食品協会が公表した2016年の冷凍食品国内生産ランキングでは、1位がコロッケ、2位がうどん、3位が炒飯で、炒飯の生産量が前年より急上昇した。

氷の結晶が品質を低下させる

日本で冷凍食品が多く出回るようになったのは、1960年代のこと。そのきっかけは、1964年の東京オリンピックのときに選手村で使われたことだった。

ただ、そのころの冷凍技術では品質の低下がよく起こっていた。ある一定の年代以上の人には、冷凍食品はおいしくないというイメージがあるかもしれない。その原因は食品中の水分にある。

初期の冷凍食品は「緩慢凍結法」といって、食品をゆっくりと凍らせていた。食品中の水分は-1℃から凍り始め、-5℃でほぼ凍結する。この温度帯を「最大氷結晶生成温度帯」という。この温度帯をゆっくり通ると氷の結晶は大きくなり、食品の組織を傷つけてしまう。そうなると解凍したときに大量のドリップ(水分)が出てしまい、旨味が流出する。また、歯触りの変化や形くずれが起こってしまう。

そこで、いま、冷凍食品工場では「急速凍結法」が使われている。できるだけ短時間で最大氷結晶生成温度帯を通過させることで、氷の結晶を小さくし、組織の損失を防いでいる。そのため、いまでは緩慢凍結を原因とするような品質の低下は見られなくなった。急速凍結技術も次々開発され、最近では磁場を利用した「CAS(Cells Alive System)凍結」や「プロトン凍結」などの画期的な技術も登場している。

冷凍食品の品質を低下させるもう1つの要因は、冷凍食品を保管している間に起こる「冷凍焼け」とよばれる現象だ。いくら急速凍結しても、冷凍食品の運搬や保存の過程で温度が高くなると冷凍食品中の水分が溶け、溶けた水分が再び凍ると氷の結晶が大きくなり組織を傷つける。また、水分が蒸発してしまうこともある。これらの結果、食品が乾燥してぱさぱさになったり、変色したりしてしまうのだ。

ちなみに、家庭用の冷凍庫で凍らせた食品の品質が低下しやすいのは、温度が低下するのに時間がかかり緩慢凍結になるため。また、扉の開閉を繰り返すことが多く、そのたびに温度が上がるため、冷凍食品を保存している間に冷凍焼けが進みやすいためだ。

南極にいる魚から見つかったタンパク質

化学メーカーであるカネカの寳川厚司(たからがわ・あつし)さんたちは、「不凍タンパク質」や「不凍多糖」を加えて、組織内の氷の結晶の再結晶化を抑制するという冷凍技術を、関西大学の河原秀久(かわはら・ひでひさ)教授などと共同で研究開発した。

不凍タンパク質(antifreeze protein)は1969年、南極にいるノトセニア科の魚の血液内から発見された。このタンパク質は、凍結するとき氷の内部に生成する氷の単結晶(氷核)に強く結合して、氷の結晶の成長を止める機能がある。「不凍」といっても凍らないわけではなく、凍りにくくする機能があるということだ。

南極海の魚類は、このタンパク質によって血液や体液を凍りにくくすることで、凍結から身を守っていることが分かった。その後、魚類ばかりでなく、軟体動物や植物、昆虫、微生物など、寒冷地に生息するさまざまな生物から同じような機能をもつ不凍タンパク質が見つかっている。

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カイワレ大根。

「不凍タンパク質を使えば、冷凍食品の保存中に起こる氷結晶の成長を妨げることができ、品質の低下を防げると考えられてきました。ですが、いままで見つかっている南極の魚などを使って不凍タンパク質を実用化するのは、あまり現実的ではありませんでした。しかし、食経験があり、身近なカイワレ大根ならば、食品に利用するのに適しているし、工業的に安定生産するのも可能です。そこで、カイワレ大根の不凍タンパク質を製品化することを目指しました」と寶川さんは振り返る。

カネカは、河原教授、そして製造を担当する有限会社ビック・ワールドと共同研究開発を開始し、カイワレ大根のエキスを製品化することに成功した。食品を加工するときにカイワレ大根エキスを加えると、冷凍時の氷の結晶を微細化するだけでなく、保存時に起こる再結晶化も抑え、冷凍食品の品質を維持できる。

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エノキタケ。

さらに、エノキタケから不凍多糖も見つかった。これまでの研究から、不凍タンパク質以外にも氷の結晶の成長を抑える物質があることが示唆されていたが、アラスカにいる甲虫からタンパク質以外の不凍物質が見つかったのをきっかけに、河原教授はエノキタケから不凍多糖を発見し、2014年にエノキタケエキスの量産化に成功した。

「カイワレ大根エキスは、タンパク質が変性してしまうため熱や酸にはあまり強くないですが、エノキタケエキスは多糖類であり熱や酸に強いという特徴があります。そこで、高温処理が必要な鶏の唐揚げや酸性のゼリーなどに不凍多糖を使えるようになりました」と寶川さんが続ける。

200品目以上の冷凍食品で実用化済み

不凍タンパク質は、2012年に大手麺メーカーに採用されたのを皮切りに、本格販売が開始された。不凍タンパク質は、冷凍したうどんやごはんなど、やわらかくモチモチとした食感を保つのに威力を発揮する。こうした食感は、外側に水分が多く内側の水分が少ないという水分勾配があることで実現する。そこで、麺のちょうどいい水分状態のとき急速凍結すれば、麺の食感を維持できる。保存している間に氷結晶が大きくなれば、この状態が壊れてしまうが、不凍タンパク質を加えることによってこの状態を維持し、食感を保つことができるようになったわけだ。

製品化されたカイワレ大根エキスやエノキタケエキスは、不凍素材として業務用や家庭向けに200品目以上の冷凍食品に使われ、用途が広がっている。

不凍多糖は高温処理が必要な鶏の唐揚げに使われ、肉のパサつきを防止している。デザートでは、ゼリーの形くずれ、生クリームのひび割れ防止などに効果がある。

「冷凍すれば食品の賞味期限が延びるので、食品の廃棄を低減することにつながります。いま、世界的に和食ブームですが、冷凍すればおいしいまま食品を輸送できるので、日本の食文化を世界に広げることに役立つのではないでしょうか」と寶川さんは言う。不凍素材の用途を拡大していきたいと意気込む。

おいしさを閉じ込める技術は進む

冷凍食品は「おいしさを閉じ込めた食品」といえる。そのおいしさを閉じ込めておくために不凍素材は一役買っている。このような技術の進化によって、さまざまな冷凍食品が誕生し、いまや冷凍できないものは生卵と生野菜だけといわれるほどになった。さて次はどんな製品が登場するのか。楽しみだ。

10月18日は冷凍食品の日である。1986年に日本食品冷凍協会が制定した。イベントなども行われるので、冷凍食品について知るいい機会になるかもしれない。

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