破綻寸前のサッカークラブを立て直した「ジャパネットの底力」

破綻寸前のサッカークラブを立て直した「ジャパネットの底力」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/06/14
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笑顔を絶やさず、独特のイントネーションで話す姿はテレビショッピングのときと同じ。あの高田社長は今、通販とはまるで異なる世界で挑戦を続けている。今年で70歳。原動力は地元長崎への愛だ。

楽天・三木谷とは正反対

インタビューの同時刻、九州・長崎から遠く離れた東京では、アンドレス・イニエスタが楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏が所有するプライベートジェットで来日し、J1ヴィッセル神戸への入団発表会見を行っていた。

日本サッカー界のビッグニュースに、V(ヴィ)・ファーレン長崎の社長を務める高田明(69歳)は、喜びと驚きが同居する複雑な感情を抱いていた。

「スペインの名門FCバルセロナで長く活躍した超大物選手ですよね。日本では飛び抜けた選手の出現、スターの登場によってそのスポーツ業界が盛り上がるということが起きる。

ゴルフの宮里藍ちゃんやテニスの錦織圭選手……イニエスタ選手の加入も、サッカー自体の関心を高めるという点での貢献が一番大きい」

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ヴィッセルのオーナー・三木谷氏は、イニエスタと年俸約32億円の3年契約を結んだ。総額100億円に迫る巨額投資に、高田は冷淡に「僕にはできない」と話した。

「32億円といったら、V・ファーレンの1年間の総収入よりも多い金額です。J1全18チームの平均収入も、大体37億。仮にそれだけの投資をして、イニエスタが加入したとしても、J1で優勝できる保証なんてありません。

これは投資としては相当のリスクですよね。確かにそれぐらいの価値がある選手で、三木谷さんもヴィッセルだけでなく、楽天グループ全体の費用対効果を考えての投資でしょうが……うらやましいですね」

日本のIT業界を牽引し、インターネットを使ったショッピングモールである「楽天市場」を展開してきた三木谷氏と、佐世保市の小さなカメラ店から、ジャパネットたかたを起業し、金利手数料を自社で負担するテレビショッピングを中心に大手通販会社に成長させてきた高田――。

メディアを通じた物販という意味では、近しい業種で日本のトップに上り詰めた両者だが、サッカークラブ経営者としてのタイプはまるで正反対だ。

'05年に発足したV・ファーレンは昨年3月、3億2460万円もの累積赤字が発覚し、選手や監督への給料が未払いになる恐れまで表面化した。

クラブ消滅の危機を招いた前経営陣が退陣し、再建に立ち上がったのが、メインスポンサーであったジャパネットたかたの創業者である高田だった。

さらにジャパネットホールディングス(HD)がクラブの株式を100%取得し、V・ファーレンは完全子会社となった。

高田に社長就任を要請したのは、'15年にHDの代表取締役社長を引き継いだ息子の旭人だ。39歳という若さながら、明が全幅の信頼を寄せる旭人が当時を振り返る。

「クラブを一致団結させるためには、父のような存在でないと無理だと思っていました。ジャパネットとしてもお金を大きく投下しなければ救えなかった。

経営者が父であれば、何も心配なくお金を預けられる。'17年末までに、再建のために7億から8億は投資しました」

父子がこだわったのは、株式の100%取得であり、その理由は'17年12月期に売り上げ1929億円、経常利益182億円(ともに過去最高)を記録するまでに成長したジャパネットたかたを、これまで上場させなかった理由と一致する。

株主の顔色をうかがわずに、「素早い経営判断」を可能にするための策が非上場であり、完全子会社化なのだ。旭人が続ける。

「一企業としての規模拡大よりも、お客様の幸福を考えることはサッカークラブの経営でも同じだと思うんです。ファンや選手にとって最善の環境をスピーディに作るためには、100%の子会社である必要があった」

「長崎の奇跡」

ジャパネットの傘下となってからも、V・ファーレンは旧経営陣が有料入場者数を水増しして報告していた事実が発覚し、Jリーグから300万円の制裁金処分を受ける。

また、前社長が開設していた整骨院が、療養費を不正請求していたことも明るみに。

選手の練習環境も劣悪で、練習着が少なく、洗濯・乾燥が追いつかない。選手たちは汗臭いウェアを着続けざるを得ないような状況だったという。

高田ら新経営陣がクラブの運営に就くと、真っ先に練習着を用意し、業務用の洗濯機や乾燥機をクラブハウスに導入。

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こうした環境面を少しずつ充実させることで、選手は初めてサッカーに集中できるようになったのだろう。下位に低迷していたチームが嘘のように勝利を重ね、J2で瞬く間に順位を上げていった。

長崎の国見高校出身で、現役時代は〝アジアの大砲〟と呼ばれ日本代表でも活躍した高木琢也は、'13年の監督就任以来、消滅の危機も昇格の歓喜も経験した。たかた効果を、次のように語る。

「選手は給料が未払いになる不安を抱え、日々の練習環境もままならなかった。経営陣が変わってからはそういう不安がなくなった。

現場としてありがたかったのは、シーズン中に2度、島原で短期合宿を敢行してくれたこと。僕らにとっては最大の成果が出ました」

シーズンも半ばを過ぎた昨年8月、高田は懇親会の席で「J1昇格が決まればハワイ旅行」を監督や選手に約束した。

「酒席でのことですから(笑)。ただ、それを伝えた時の選手の高ぶりといったらなかった」(高田)

高田が選手の前にぶら下げた「ニンジン」効果は絶大だった。以降、12試合負けなし。いつしかJ1に自動昇格となる2位となり、最後のホームゲームとなった11月11日には、本拠地トランスコスモススタジアム長崎の最多記録となる2万2407人を集めた。

同スタジアムは最寄り駅から徒歩30分という利便の悪さに加え、駐車場に停められる台数も多くない。

インフラ整備は最優先事項で、現在進行形だが、高田は新たに駐車場を増やし、行政ともかけあってシャトルバスや電車の本数を増やしてきた。それが実った「満員御礼」だった。

被爆県のチームとして

消滅の危機からわずか7ヵ月。V・ファーレンはJ1昇格を決めた。サポーターにとって、高田はまさしく救世主だった。そして選手たちはオフにハワイへ向かった。

男に二言なし。高田の就任まで、約束を反故にされ続けた選手にとってはより高田への信頼を厚くするプレゼントだったに違いない。高田は言う。

「獲得してくれと頼まれれば、イニエスタは難しいけれど、メッシぐらいだったら(笑)。

まあ、面白いビジネスです。だって閑古鳥が鳴いていたスタジアムにサポーターが増え、長崎の人が元気になっていった。たかがサッカー、されどサッカー。サッカーが県民にもたらす夢が広がりつつある」

ジャパネット時代から、経営者としての高田の根底に流れるのは、地元愛だ。長崎県平戸市に生まれ、ジャパネットの本社は現在も創業の地である佐世保市に置く。

企業経営の第一線から退いた高田にとって、V・ファーレンを軌道に乗せることは長崎に対する「ご奉公」なのかもしれない。

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昨年末のファン感謝祭において高田は、選手以上にサポーターに囲まれ、イベントの合間にはスタッフと打ち合わせを行い、スタジアムの清掃員にも労いの言葉をかけていた。

そして昇格を喜ぶサポーターを前に、テレビショッピングでお馴染みの甲高い声でこう訴えた。

「新しいユニフォームにも期待してください。そして、ぜひ購入してください。もちろん、金利手数料は……」

会場にはドッと笑いが起きた。平和の象徴であるハトをあしらった今季のユニフォームの背中には「ユニセフ」のロゴが入る。

通常、背番号の上にスポンサー名を入れることは、クラブにとって大きな収入源となる。しかし、「ユニセフ」からは一銭も入らず、むしろ3年で1億円を寄付する契約だ。ここに長崎のサッカークラブとしての理念が込められている。

「被爆県である長崎のクラブとして、平和を全世界に訴えていく。僕はですね、V・ファーレンに対する投資の中で、『儲けてやろう』という考えはないんです。

長崎の夢を追うために、必要なのが投資。将来的にはアジアチャンピオンズリーグやクラブW杯に出場できるようなクラブに成長させていきたい。まずは育成システムの充実です」

年明けにはマットレスを販売する「エアウィーヴ」と睡眠サポーター契約を結び、ヘルスメーターを製造し社員の健康維持を目的とした社員食堂でも知られる「タニタ」とも食生活サポート契約を締結。両社とも、高田がジャパネット時代に取引をしていた企業だ。

「睡眠と食事というのは、アスリートがパフォーマンスを発揮する上で重要な要素ですよね。ビジネスの世界に45年もいて、幅広いお付き合いがあるのだから、それを利用しない手はない」

4月にはドイツの名門クラブであるレバークーゼンと育成業務提携を発表。指導者を呼んで若手選手の育成に力を入れるだけでなく、既に長崎県内のサッカー指導者に参加を呼びかけ、講習会も実施している。

さらに、JR長崎駅から北に500mほどの場所に位置する三菱重工の工場跡地の再開発事業公募で、ジャパネットHDが優先交渉権を獲得。

同社は2万3000人収容の新スタジアムを含む総合施設の建設構想を公表し、500億円以上の総工費をすべて自社で負担すると明かした。

地に足をつけ、上を向く

「まだ優先交渉権を得たというだけで、すべては最終契約をしてからの話。これに関しては、5年ぐらいかかるでしょうか」

しかし、会社の収支を安定させ、壮大なプロジェクトをスタートさせても、試合結果が伴わなければ、たちまち存続の危機に陥ってしまうのがスポーツビジネスの難しさだろう。

今季のV・ファーレンは開幕から第6節まで勝利がなく、3連勝もあったが現在の順位は15位。自動降格圏まで勝ち点差はわずか4だ。

「この順位が現在の実力とはいえ、前半戦は終了間際に相手に見事なフリーキックを決められたり、引き分け濃厚の試合のアディショナルタイムに勝ち越し点を許したり……。

ふだん、経営において僕は『運』という言葉は使わないんですが、15節までの戦いには不運もあった。だから私は(J1残留を)悲観していません」

インタビュー中、高田の口が重くなったのは、今季の観客動員の話題になったときだった。V・ファーレンの平均入場者数は1万755人で、J1で18位。つまり最下位である。

「現状はホームの試合でもアウェー側のサポーターが圧倒的。(来場を求める)メッセージを発信しているつもりですけど、県内の人々には届いていない。われわれの努力が足りないのでしょう」

ただ、高田が社長に就任したJ2時代は平均入場者数が4000人程度だったことを考えれば、格段にサポーターは増えている。それでも一切満足せず、ひたすら上だけを見ているのだ。

息子の旭人は、父である高田の商才を次のように語る。

「相手がテレビの視聴者であれ、サポーターであれ、あるいは社員であれ、自分が思い描く理想を、嘘偽りなくダイレクトに伝えることができる。だからこそ、みなが一体になる。求心力はすごいと思います」

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高田は情熱の男だ。アウェーのゲームにも可能な限り足を運び、選手や監督との対話を心がけ、これまで結んできた取引先との縁も大事にしながらV・ファーレンを立て直してきた。

その姿勢は佐世保の小さなカメラ屋の店主として、撮影やフィルムの販売、現像の営業にかけずり回った日々から何も変わっていない。

5月のGW中に筆者は、偶然にも新大阪から新幹線の指定席に乗り込む高田を目撃した。前日に行われたセレッソ大阪とのアウェーゲームを観戦した帰りなのだろう。

ジャパネットの創業者が、グリーン車を利用していないことには驚いた。プライベートジェットを交渉に活用するクラブオーナーがいる一方で、高田は地に足をつけて辣腕を振るっている。

(文中一部敬称略)

柳川悠二(やながわ・ゆうじ)
76年宮崎県都城市生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、出版社勤務を経て独立。著作に小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園六〇年目のゲームセット』など

「週刊現代」2018年6月9日号より

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