トヨタはマイカー時代の終焉の訪れを覚悟したのか?

トヨタはマイカー時代の終焉の訪れを覚悟したのか?

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  • 更新日:2018/10/12
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ソフトバンクとの提携発表でプレゼンする豊田章男社長(REUTERS/AFLO)

トヨタ自動車とソフトバンクは、新会社「MONET」を設立し、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS事業を開始すると発表しました(10月4日)。

年初のCES2018で、豊田社長は「私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」と宣言し、これまでユーザーが購入して所有していたハードウェア(自動車)をサービスとして利用できるよう(ハードウェア・アズ・ア・サービス)にするための、モビリティサービスプラットフォームという構想を発表しています。

今回の提携にも、マイカー時代の終焉の訪れを覚悟した豊田社長の決意が表れているようです。ここでは、そのモビリティサービスとMaaSについて考えてみたいと思います。

米国のLiftは全米の数十都市で、約2000人の自家用車のオーナーに500ドルから600ドルのクレジットを提供して、自家用車を使わずに自社のサービスを利用してもらおうというキャンペーンを開始しました(9月26日 Bloomberg)。クレジットは、公共交通やバイクシェアリングサービスにも利用することができます。

LiftやUberなどが提供する大規模な送迎サービスは、ライドヘイリング(ride-hailing)サービスと呼ばれています。それには、現在の個人所有の自動車を活用したサービスだけでなく、将来の自動運転車による送迎サービスも含まれています。

Liftの共同創業者のJohn Zimmer社長は、2年前に、米国の主要都市では2025年までに自動車を所有する人はいなくなるだろうと予言しています。

自動車交通への依存度が増した現代社会は、渋滞や交通事故件数の増加といった交通問題、そして、大気汚染や騒音、地球温暖化などの交通に起因する環境問題を抱えています。そして、2015年に締結されたパリ協定に基づき、21世紀後半には温室効果ガス排出の実質ゼロが国際的枠組みとして目指されています。

乗用車の稼働率は4%程度

日本の乗用車の稼働率は4%程度だと言われています。この数値は世界でも同様のようです。平均で1日1時間程度しか使用されていないことになります。一回の走行距離は5km未満が69%、3km未満が44%、平均の乗員は1.3人です(国土交通省 平成27年度自動車起終点調査)。自動車を所有する理由はいろいろあるでしょうが、多くの人にとって、それは合理的ではありません。

自動車を所有せずに、モビリティ(移動)サービスを利用することによって、自動車の交通量を減らすことには社会的なニーズがあります。しかし、それを強制するのではなく、人々が進んで利用したくなる、自家用車よりも便利で経済的で快適なモビリティサービスを提供する必要があります。

電車やバスなどの公共交通や、タクシー、レンタカー、カーシェアリングもモビリティサービスです。そしてバイクシェアリングやライドヘイリングサービスなど、新しいモビリティサービスを提供する事業者が続々と登場してきました。

新型アプリで自家用車の利用が減少

フィンランドのヘルシンキでは、住民の約4%の4万人が、2016年10月にMaaS Globalというベンチャー企業が提供を始めた、Whim(ウィム)というスマホアプリを利用しています。MaaS Globalは、Whimのユーザーが移動手段として自家用車を選択する割合が40%から20%に減り、逆に公共交通を利用する割合が48%から74%に増加したと報告しています(2017年9月)。

Whimには、ルート案内と決済の機能があります。ルート案内には、電車やバスなどの公共交通だけでなく、タクシーやレンタカー、そしてカーシェアリングやバイク(自転車)シェアリングのサービスも含まれています。それらの複数のモビリティサービスの予約や決済を、一括してWhimで行うことができます。

さらに、お得なパッケージプラン(公共交通の利用は無制限)や、すべてのサービスをほぼ無制限に利用できるプランが用意されています。ヘルシンキでは、それぞれ月額が49ユーロと499ユーロ(タクシーは一回に5kmまで)です。

MaaS Globalも「自動車の所有の終わり」というスローガンを掲げて、サービス地域の拡大を進めています。すでに英国のウェスト・ミッドランズ州(バーミンガム)でもサービスを開始しており(2017年11月)、アムステルダムとアントワープでも準備を始めています。サービスの事業者との調整が必要なので、地域や都市ごとに利用できるサービスや料金は異なります。

自動車や自転車などの移動手段をモノとして(販売して)提供するのではなく、サービスとして提供するという概念を、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と呼んでいます。狭義では、すべてのモビリティサービスを統合して、ルートの検索や決済などをシームレスに行うことができるプラットフォームを指すようです。

AndroidやiOS(iPhone/iPad)が、色々なスマホアプリを利用するためのプラットフォームであるように、Whimは複数のモビリティサービスをシームレスに利用するためのプラットフォームです。MaaS Globalのような事業者は、MaaSオペレーターと呼ばれています。

ロサンゼルス市も、Whimと同様のスマホアプリGoLA(ゴーエルエー)を、行政サービスとして2016年から提供しているMaaSオペレーターです。

GoLAには、モビリティサービスだけでなく、自家用車や自分の自転車やオートバイで移動するという選択肢も表示されます。自家用車はEVなのかハイブリッドなのか、あるいは小型車なのかトラックなのかという登録をしておきます。時間を優先するのか、料金を優先するのか、CO2の排出量が少ないことを優先するのかを選択でき、徒歩で移動する限界の時間が何分なのかなど、かなり細かい条件を設定することができる優れたアプリです。

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ロサンゼルス市は、公共交通のサービスプロバイダーでもあります。地下鉄や路面電車(LRT)、そしてバスを基盤とした大量輸送システム(BRT)の充実に力を注いでいます。自動車の交通量を減らすためには、大量輸送ができる公共交通の整備が必要です。ロサンゼルス市は「自動車の所有の終わり」といったスローガンは掲げていませんが、自家用車よりも便利で経済的で快適であれば、人々は自ら自家用車を捨ててモビリティサービスを選択することになるでしょう。

出遅れる日本

日本では、まだMaaSオペレーターと呼べるものは登場していません。日立製作所とJR東日本が「各種モビリティサービスの利用をワンストップ化」するRingo Passというスマホアプリによる実証実験を開始すると発表しました(9月4日)。まだ、モニター企業の従業員限定のサービスですが、Ringo Passは、(1)各種モビリティサービス(シェアサイクル、タクシー)を検索する機能、(2)Suicaをモビリティサービスの鍵として利用する機能、(3)QRコードによる決済機能の3つの機能を備えているそうです。

利用できるサービスは、ドコモのバイクシェアリングと、国際自動車のタクシーの配車サービスで、公共交通を含めたルート案内の機能は未対応のようです。身近な買い物客や旅行者の交通の利便性を向上する(プレスリリース)には、しばらく時間がかかりそうです。

ルート案内のスマホアプリは、日本での移動に欠かせないものになりました。各社とも機能やサポートするサービスを充実させています。最新のGoogleマップのスマホアプリも、ルート案内の機能が強化されて、自動車と公共交通、そして徒歩を組み合わせたルート提案と案内ができるようになりました。タクシーのルートを選択するとジャパン・タクシーの配車アプリが起動されます。彼等がMaaSオペレーターに名乗りをあげるのでしょうか。

ライドヘイリングが公共交通から客を奪う

マサチューセッツ州の公的機関(MAPC)が発表した、ボストンにおけるライドヘイリングサービスのユーザー調査(2018年2月)は、ライドヘイリングサービスが、公共交通から客を奪い、交通量を増加させていると報告しています。

ユーザーの42%が、これまで公共交通を使っていた移動にライドヘイリングサービスを利用したと回答し、12%が徒歩や自転車の代わりに利用したと回答しています。そして、ライドヘイリングサービスによる移動の15%が、朝と夕方のラッシュアワーに自動車を増やしているという結果となっています。LiftもUberも公共交通との共存を標榜していますが、自社サービスの収益化との矛盾を抱えています。

LiftとUberは共に、 最近注目を集めているマイクロモビリティ(5マイル未満の移動)サービスに参入するために、それぞれ電動自転車のMotivate、電動キックスクーターのJUMPというシェアリングサービスのベンチャー企業を買収しました。

オープンなMaaSプラットフォームを事業として展開するMaaS Globalや、行政サービスとして推進するロサンゼルス市などのMaaSオペレーターに対して、LiftとUberは、モビリティサービスを囲い込んで複数のサービスを提供するマルチプロバイダーを目指しているようです。

イノベーションには破壊がつきものです。しかし、結果的に交通問題や環境問題を助長したり、新たな社会問題を生んでしまうのであれば、事業者が利益を得ても社会にとってはマイナスです。また、地域ごとに抱える問題も異なります。ヘルシンキやロサンゼルスのように、地方の行政の積極的な関与がなければ、住民や旅行者にとって価値のあるMaaSを実現して、交通問題や環境問題を解決することはできないでしょう。

オープンなMaaSプラットフォームが用意されれば、その地域に不足している新たなモビリティサービスを提供しようとする事業者も現れるでしょう。公共交通が衰退した地方の交通弱者や、免許を返納した高齢者のためのモビリティサービスの実現も行政の課題です。それには、自動運転の無人タクシーなどのモビリティサービスが必要かもしれません。

トヨタとソフトバンクの新会社MONETでは、まず、ユーザーの需要に合わせてジャスト・イン・タイムに配車が行える「地域連携型オンデマンド交通」「企業向けシャトルサービス」などを、全国の自治体や企業向けに展開していくとのことです。

e-Palette(イーパレット) という自動運転の次世代電気自動車を使ったサービスは少し先(2025年ごろ)になるようですが、それまでにも、MaaSによるモビリティの大きな変化がありそうです。

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