吉野家「8億円超の赤字転落」の背景に見えた二つの要因

吉野家「8億円超の赤字転落」の背景に見えた二つの要因

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/10/10
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牛丼チェーン大手の吉野家が中間決算で赤字転落した。今の日本経済はデフレと超低金利の継続が大前提となっているが、その基本構造は徐々に変わりつつある。「安い」の代名詞であった吉野家の業績悪化は、デフレを前提とした外食産業にとって大きな転換点が迫っていることを示唆している。

米中の事情で牛肉価格が高騰

吉野家などを運営する吉野家ホールディングスの2018年3~8月期決算(中間決算)は8億5000万円の最終赤字となった。前年同期は12億9000万円の黒字であり、2018年2月期の通期決算も14億9000万円の黒字だったことを考えると、業績が急降下したことが分かる。

売上高は前年同期比で2.7%増加したにもかかわらず、最終損益が赤字に転落したのはコストの増加によって営業利益が激減してしまったからである。

同社の原価率は前年同期比で約1%ポイント上昇したが、これは原材料価格の高騰が原因である。主力チェーンの吉野家で使用する牛肉はショートプレートと呼ばれる部位で、ほとんどが米国からの輸入である。米国ではショートプレートは食用には用いられておらず、ただ廃棄されるだけだったので、日本の牛肉チェーンは安い価格で買い付けることができた。

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〔PHOTO〕iStock

牛丼チェーン各社が圧倒的な低価格で商品を提供できたことにはこうした背景があるのだが、この状況を大きく変えたのが中国の台頭とトランプ大統領である。

中国では火鍋に脂身の多い牛肉を使うことから、これまで日本だけが大量輸入していたショートプレートを中国も輸入するようになってきた。これに加えて、米国が中国との貿易戦争に乗り出したことで牛肉価格が高騰。昨年までキロあたり650円程度だったショートプレートの卸売価格は一時、800円近くまで上昇した。

牛肉の買い付けは長期契約が多く、価格上昇がすぐに全体の原価率アップにつながるわけではない。だが、アジア地域の経済発展は今後も続く可能性が高く、以前のような価格で牛肉を買うことはもはや不可能というのが業界関係者の一致した見方となっている。

吉野家をはじめとする牛丼チェーン各社はこうした事態を受けて、牛丼以外のメニューの開発を進めており、吉野家でも鯖ミソ定食や鶏丼などの強化を行っている。だが食材全般が値上がりしている状況では、その効果は限定的なものにならざるを得ない。

深刻な人手不足

原材料価格の高騰に加えて、大きな減益要因となっているのは、言うまでもなく人件費の高騰である。都市部においては、時給1000円ではアルバイトを確保することがかなり難しくなっており、かなりの金額を上乗せしないと必要な要員を確保できないことが多い。

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人手不足のなか人件費が高騰している〔PHOTO〕iStock

2018年2月期におけるパート社員の人件費は364億円で、前年度との比較で約19億円増加した。テナントの賃料も上がったことなどから販管費の総額は65億円以上も増え、これが利益を圧迫している。同社では人件費の高騰に対応するため、店舗の4割をセルフサービスに切り替える方針を明らかにしているが、外食チェーンのオペレーションは意外と複雑であり、完全な省力化は難しい。

さらに気になるのは広告宣伝費の増加である。

同社の広告宣伝費は前年度比で約8%増えたが、これで何とか売上高を維持している様子がうかがえる。日本の国内消費は冷え込んでおり、客足が堅調とは言い難い。消費者の財布の紐は固く、人件費の高騰などコスト増加分を価格に転嫁すれば売上高が減ってしまう。

会社としてはコストをかけても宣伝を強化し、来客数を伸ばすことで価格を据え置きたいと考えている。これが広告宣伝費の増加につながっているわけだが、このやり方にも限界がある。

今回、吉野家が赤字転落という事態になったが、低価格を武器にする外食チェーンはどこも似たような状況に陥っている。すき家を運営するゼンショーホールディングスや松屋を運営する松屋フーズなど競合他社は、赤字にはなっていないものの、四半期決算は大幅な減益だった。

人手不足が深刻化している現状を考えると、パート労働者の人件費が下がるとは考えにくく、どこかのタイミングで価格への転嫁を迫られるのはほぼ間違いない。

忍び寄る金利上昇の足音

さらに困ったことに、マイナス金利政策の導入以降、ほぼゼロ近辺に張り付いていた長期金利がジワジワと上昇を始めている。金利上昇の直接的な原因は米国の景気が堅調に推移し、米国の長期金利が上がったことだが、それだけが理由ではないだろう。

総務省が発表した8月の失業率は2.4%と近年では希に見る低さとなっている。日本における過去の失業率と物価上昇率の関係を見ると(いわゆるフィリップス曲線)、失業率が2.5%を切ると物価上昇に弾みが付くという傾向が顕著となっている。日銀は明示的には表明していないが、国債の買い入れ額は大幅に減少しており、事実上、緩和策からの撤退が始まっている。

国内の金利が上昇しているということは、今後、物価上昇がさらに進むことを示唆している。そうだとするならば、外食産業はもちろんのこと、低価格をウリにしたビジネスの多くが苦境に陥ることになる。

生活必需品でほかに選択肢がない場合、事業者がコストを価格に転嫁しても、消費者は渋々これを受け入れるだろう。ヤマトや佐川など運送事業者の値上げを消費者が受け入れたのは、ほかに選択肢がないからである。

だが外食産業の場合にはそうはいかない。

外食チェーン各社は、同業者で顧客の奪い合いをしているだけではなく、他業種とも激しい顧客獲得合戦を行っており、価格が上がれば、容易に他業種に顧客を持って行かれてしまう。最近ではコンビニなど小売店が、外食産業をターゲットに顧客獲得に乗り出しており、外食産業は小売店とも戦わなければならない。

大幅なスリム化は必至?

今後、外食産業にとって大きな転換点となるのは2019年10月に実施される消費税の10%への増税だろう。消費増税にあたっては、消費者の生活水準を維持するため、一部の商品やサービスに軽減税率が適用される。

コンビニ業界は、店内に配置された飲食スペースで買ったものを食べる、いわゆるイートインについても軽減税率の対象とする方向で政府と調整に入っている。イートインの多くは簡便な設備だが、中にはファストフード並みの設備を持つところもあり、小売店と飲食店の境界線は曖昧になっている。

コンビニ業界としては、イートインはあくまでも休憩施設と位置付けており、食事を提供する場所ではないことから、軽減税率を適用できるとしている。一方、外食産業は、ほぼ例外なく10%増税の対象となる可能性が高い。

コンビニでの購入が8%で、飲食店の利用が10%ということになると、飲食店ではなくコンビニ食べ物を購入する傾向に拍車がかかるだろう。そうなってくると、多くの外食チェーンが抜本的な戦略の転換を迫られる可能性が高い。

コストが利益を圧迫する環境において事業者には二つの選択肢がある。

ひとつは高付加価値型のサービスへの転換だが、大衆向けの飲食店にとって実現は簡単ではないだろう。もうひとつは店舗網の縮小によるコストダウンである。不採算店舗の廃止を徹底的に進め、経営をスリム化すれば、ある程度の時間を稼ぐことができる。多くの外食事業者が採用するのは、おそらく後者ということになるだろう。

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