高い給料のため「偏差値の高い大学へ行く」は幻想に これからの時代に求められる“働き方”とは

高い給料のため「偏差値の高い大学へ行く」は幻想に これからの時代に求められる“働き方”とは

  • マネーポストWEB
  • 更新日:2023/03/19
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「サイバー社会で通用する構想力」が鍵となる(イメージ)

新型コロナ禍が収束しつつある中で、対面での就職活動が再開されるようになっている。日本ではいまだに学歴を重視する傾向が残っているが、新刊『第4の波』の中で、AI(人工知能)革命がもたらすまったく新しい社会の到来を解説している経営コンサルタントの大前研一氏によれば、従来の大学教育や入試こそ変えていくべきだという。なぜ日本人の給料は上がらないのか——そんな疑問に答えるヒントがここにはある。

【図】サイバー社会の後半では、雇用や社会システムの維持が課題

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2022年1月に、東京大学の赤門の前で名古屋の高校2年生が受験生を刺した事件がありました。これは、偏差値1位が東大で2位が京都大学、とりわけ東大の中でも医学部が最難関で、将来もらえる給料が高いと、そういう勘違いをしたんです。

実際のところ、世の中はそれほど単純ではありません。いま医学部へ入ったとしても、インターンも含めて10年は学校に縛られて、その後も病院の勤務医になったら安月給で夜勤もあるし、長い間大きな病院に勤めていずれ開業できればいいんですけど、開業にはざっと2億円ぐらいかかるとも言われていますので、その資金を貯めるまでに50歳を過ぎてしまうと、最終的にリターンが得られません。

そのようなことで、医者になれば金持ちになれるとか、大企業のトップの給料よりも医者のほうがいいというのは、今では大きな誤解であると言えます。それならば、むしろ起業したほうが儲かるに決まっています。結局、偏差値によって大学の序列が決まるような偏った考え方から脱却するしかありません。

世界には「公平な大学」などない

たとえば、アメリカのスタンフォード大学は起業する学生が多い。それが大学の個性となって、優秀な学生たちが集まります。私もスタンフォードで2年教えていましたが、教授室のドアはいつも開いているので、学生たちがやって来ては私の前の椅子に座って、自分の起業のアイデアをプレゼンしていくわけです。それで、「先生も一枚どうですか?」と声がかかるので、有望なビジネスになりそうなら、教授たちも資本を投じていくわけです。そういうふうなことで、スタンフォードの先生は、講義で教えるよりも学生たちのアイデアを聞いて投資するミニ・インベスターみたいな感じでやっています。

あるいは、インド工科大学(IIT)なら優秀なエンジニアが多数揃っています。私は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の社外取締役を5年やりましたけど、入試を公平にやったら全員がインド人になってしまいます。そのぐらい、インド人の理数系の能力はすごいです。また、モスクワ大学も、公平にやるとユダヤ人の子弟だけになります。子弟の教育にものすごいお金をかけてきていますから。つまり、公平な大学なんて世界中にないんです。

だから、日本では大学入学共通テスト(前身は共通1次、センター試験)を実施していて、試験をやる以上は公平がいいと言われますが、世界から見ればそれは違います。大学側は自分たちが求めている学生のスペックを公開して、それに適った学生を入学させればいいんです。実際、私が学長を務めているビジネス・ブレークスルー(BBT)大学には、共通テストなんかありません。論文を書いてもらって、その内容について2人以上の先生が面接官として学生とディスカッションして、好きな人を合格させています。

「第4の波」では「富の偏在」が顕著になる

以上をまとめると、日本政府は、岩盤規制の撤廃、すなわち工業化社会を守るための規制を取り払って、21世紀型の教育をやる。これしかないです。

21世紀は、富の偏在が顕著になっています。その中で「第4の波」=サイバー社会の特徴を捉えた者が富を独占します(図を参照)。

「波」をいち早く捉えた者が勝つ——それは、「第2の波」の工業化社会でも、「第3の波」のIT社会でも同様でした。後者で言えば、マイクロソフトなどはその典型でしょう。

しかし、いま「第4の波」では、これはもっと極端です。サイバー社会で通用する構想力を持つ人が非常に少ないからです。そういう人に、世界規模でもって課税をする。逃れる場所をなくす。そして非常に重たい税金を払ってもらって、縁の下で地道に社会を支えているエッセンシャルワーカーのような人たちにお金を分配する。これが、世界政府の役割ということになります。

そういった“持つ者”と“持たざる者”との比率は、1対39ぐらいになるのではないかと私は思っていますけれども、そのほかに、たとえば飲食店をやったら、ちょっとひねって人と違うことをすると行列ができるとか、こういうことは身の回りにいっぱいありますよね。だから、実は人手が大量に余ってしまうサイバー社会になっても、心配の要らない仕事は、看護師や介護士、カウンセラーや芸術家、さらに寿司屋までいっぱいあります。

ということで、別に新しい波が打ち寄せてくるからといってパニックになる必要はないのですが、その波に見舞われる場所のちょうど真ん中に日本人が全部いますので、ここが問題だと思います。

ですから、私は日本の得意な分野──アニメとかそういうものを含めて、これをますます強化して、その人たちがちゃんと人間的な生活が送れるようにするというのが、社会制度として、21世紀のサイバー社会、シンギュラリティに向かう唯一の道ではないかと思います。

※大前研一『第4の波 大前流「21世紀型経済理論」』より一部抜粋・再構成

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