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未知の天体発見! 謎の天体現象「高速電波バースト」をご存じか?

未知の天体発見! 謎の天体現象「高速電波バースト」をご存じか?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/21
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宇宙にはさまざまな爆発現象が存在します!

そのなかでも、近年発見されたばかりの謎の天体現象が「高速電波バースト」です。
「爆発」というユニークな観点から宇宙を語りつくした新刊『爆発する宇宙』から、この「高速電波バースト」について、今わかっていることを一部編集のうえでお届けします。

謎の電波バーストの衝撃

あれは2010年頃だったと思うが、ガンマ線バーストの謎の解明もだいぶ進んだなと感じていた頃のことである。大学院生と酒を飲んでいて、いろいろと研究のことを話していた。そこで私はこのような発言をした。

「僕は君たちがちょっと気の毒に思うことがある。僕が大学院生の頃、ガンマ線バーストは距離すらまったく不明の、謎の天体だった。今の天文学では残念ながら、そこまで心惹かれるような謎の天体はないかもしれないね」。

その時は、とくに誰からも異論は出なかったのだが、この発言は私の思い上がりだったようで、ほどなく宇宙から鉄槌が下ることになった。

2013年の春、私は東大の天文学教室で、突発天体の論文紹介ゼミに出席していた。そこで紹介されたのが、米国のサイエンス誌に掲載されたばかりの、謎の突発電波バースト天体の発見についての論文であった。オーストラリアのシドニーから西に300キロメートルほどの場所にある、パークス天文台の巨大電波望遠鏡でパルサーを見つけるべくサーベイ(掃天観測)をしていたところ、一瞬だけ電波で光って消えてしまった奇妙なバースト天体を4つ見つけたというのだ。使用した電波は1000メガヘルツ付近の極超短波と呼ばれるもので、電子レンジや、UHFのテレビ電波、携帯電話、無線LAN、GPSなど我々がふだんお世話になっている通信用の電波としてもおなじみの周波数帯である。

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パークス天文台の電波望遠鏡(S.Amy,CSIRO)

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この天体現象で注目すべきはその継続時間である。どれも、わずか数ミリ秒(ミリ秒は1000分の1秒)ほどしか光っていない。ガンマ線バーストの場合、短い種族のなかでさらにもっとも短いものでも100ミリ秒ほどは続くから、それに比べても桁違いに短い突発現象といえる。

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高速電波バーストのシグナルの分散効果 (縦軸:振動数、横軸:到着時間で、パルスが、 低振動数ほど遅れていることが見られる)

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発見者らは、この現象に「fast radio burst (FRB)」という名前をつけた。日本語では、高速電波バーストと訳すのが自然だろう。この場合、fastは速く運動するという意味ではなく、「短時間で終わる」という意味である。日本語で「高速」と書くと、高速で運動するというイメージを持つ方が多いらしく、この訳語はよくないのではないかという意見も聞く。だが、「速い」という言葉は元々、「仕事が速い」など、短時間で終わるという意味であり、運動速度が「速い」というのは、移動するのに短時間で済むということだ。「高速」という単語になると、高速道路などの言葉が浮かんで「移動速度が大きい」という意味を思い浮かべるのかもしれないが、「高速処理」「高速計算」では、むろん、短時間で済むという意味だ。原語のニュアンスを残した素直な訳語としては、やはり「高速電波バースト」がよかろう。

忘れられかけた最初の発見

実は、上に述べた2013年の4例の高速電波バーストは、最初の発見ではない。真の最初の発見は2001年、偶然に検出され、2007年にサイエンス誌に報告された一つのバーストであった。論文として報告されるまでに6年もかかったというところも、偶然に発見されたこの天体が、本物の天体現象とはにわかには信じがたいものであったことを示している。信じがたいのは、この報告に接した多くの天文学者たちも同様であった。この発見は間もなく、真の天体現象ではないだろうとして、一度忘れられたのである。

パルサーのように、定常的にパルスを放っているのであれば、他の望遠鏡なども使って詳しい検証が可能だ。だが、高速電波バーストのように一度きりの現象では、本当の天体現象なのか、ノイズだったのか、検証が極めて難しい。さらには、高速電波バーストに似て、低い振動数のシグナルほど遅れてやってくるものの、明らかに地球起源のノイズと考えられる現象が見つかったことも疑いに拍車をかけた。こうして、この現象は天文学界ではあまり真面目に取り上げられない状態がしばらく続いたのである。

だが2013年に発見された4例は、吟味の上、地球起源のノイズとは考えにくいことが示された。一方、地球起源の似た現象の原因が解明されたことも復権に寄与した。冗談のような話だが、この紛らわしいノイズ現象は、なんと電波望遠鏡の観測室に置いてある電子レンジだったというのだ(笑)。この非天文学的「発見」は、英国天文学会の真面目なジャーナルに論文として報告された。このノイズ現象が起きる時間帯を調べてみると、皆が弁当を温める食事時に集中していることがわかるなど、読んでいてこれほど苦笑を抑えるのに苦労した論文も珍しい。

ちなみに、電子レンジを正しく使っている場合はこのノイズ現象は発生しない。発生するのは、まだ作動しているレンジを停止せずに、いきなり扉を開けたときとのことである。開けた瞬間、内部の強烈な電磁波が外に漏れるのであろう。なんだか健康にも悪そうな気がして、私はこの論文を読んでからは、必ずレンジを停止させてから扉を開けるようにしている。いずれにせよ、吟味してみると、高速電波バーストのシグナルは電子レンジによるノイズとは明らかに別ものであることがわかった。

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(Photo:getty images)

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ただ、慎重な天文学者のなかには、まだ本当に天体現象なのか、態度を保留する人もいた。なぜなら、それまでに見つかっていた高速電波バーストはすべて、パークス天文台の口径64メートル望遠鏡によって見つかったものだったからだ。この電波望遠鏡は、パルサーなどの変動電波天体をサーベイして見つける能力が世界でもずば抜けて高かったため、高速電波バーストを見つけることができた。そしてしばらくはこの望遠鏡の独壇場だった。ただ、一つの望遠鏡だけで見つかっているとなると、もしかしたらその望遠鏡に特有のノイズ現象という可能性も気にかかるというわけだ。

その心配も、2014年には解消した。アレシボ天文台でも高速電波バーストが検出されたのである。カリブ海に浮かぶ米国の自治連邦区であるプエルトリコのジャングルのただ中に分け入っていくと、突如、直径300メートルの巨大なお椀のようなアンテナが現れる。窪地を巧みに利用して作ったもので、あまりに巨大なので望遠鏡を動かすことはできず、地面に据え置きである。最近、中国に同種の、しかしさらに大きな直径500メートルの電波天文台ができるまでは、長く世界最大の単一鏡であった。このあたりからようやく、ほとんどの天文学者が本当の天体現象だと信じるようになり、一気に研究が活発化していった。

高速電波バーストの正体は何か!?

こうした謎めいた新天体が出てくると、それが一体何なのか、理論家は面白がって我先にアイデアを論文にするものである。かつてのガンマ線バーストと同じく、ピンからキリまで、さまざまなアイデアが出てきた。しばらくは、高速電波バーストの正体についての仮説の数のほうが、検出された高速電波バーストの数より多かったぐらいである。珍説・奇説ももちろん含まれていて、なかには、地球外知的生命体が宇宙船を加速している時の放射だとか、宇宙空間を航海するためのビーコンに使っているというものまである。だがここでは、比較的まとも(?)な、宇宙における自然現象であるという枠組みのなかの仮説で代表的なものをいくつか紹介しよう。

高速電波バーストの最大の特徴は、ガンマ線バーストよりさらに短いというその継続時間である。これだけ短時間で激しく時間変動するとなると、やはりその天体は非常にコンパクトでなければならない。中性子星ないしブラックホールを考えるのが、天文学者にとっての常道である。

そうなるとすぐに思いつくのは、なんといってもこれらが作られる天体現象である、超新星であろう。だが、超新星が爆発する際に高速電波バーストを生み出すのはかなり難しい。その短い時間スケールから、電波バーストが生まれるのは中心部の中性子星やブラックホール周辺でなければならない。だが、超新星が爆発する瞬間や直後は、周囲に星の外層を構成していた大量のガスがある。電波はこれらに完全に吸収され、外に飛び出すことができない。長いガンマ線バーストでは、この問題を、外層を突き破ったジェットで解決していた。同じ方法で電波を出すことは不可能ではないが、では、どうして高速電波バーストはガンマ線バーストよりさらに短い時間で終わるのかは説明が難しいし、長いガンマ線バーストと同時に起きた事例もない。

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宇宙最大の爆発現象「ガンマ線バースト」の想像図(筆者作成)

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そこでこんなアイデアが提唱された。中性子星の質量には上限があり、それより重くなるとブラックホールにつぶれてしまう。だが回転していると、遠心力が働いて重力に対抗するため、上限を少々超えた中性子星でも存在できる。超新星で生まれた直後の中性子星が高速で回転していれば、こういうことが起こる可能性がある。だが、回転エネルギーはパルサーの活動で徐々に失われ、やがて回転スピードが落ちてくると、どこかの時点でブラックホールにつぶれてしまう。その瞬間に電波バーストが出るというものだ。それまでに例えば1000年とか1万年かかるとすれば、超新星爆発で飛び散ったガスは十分に薄まっていて、電波は容易に我々まで届くし、ミリ秒の時間スケールも十分に説明可能だ。ただ、中性子星がブラックホールにつぶれるとき、電波がどれだけの強度で出るかは、理論的予想が難しくてなんともいえない。

実は筆者も高速電波バーストの仮説を提出している。2013年、高速電波バースト発見の論文の紹介をゼミで聴いてから、大学を出て知人との夕食に向かう途中、この謎めいた天体は何なのか、歩きながら考えていた。

ちょうど赤門の下をくぐるときであったと記憶しているが、連星中性子星合体ではどうだろうかと考え始めた。二つの中性子星がぐるぐると互いの周りを回りながら合体してできた中性子星は、当然ながら高速で回転している。その回転エネルギーの一部は、パルサーと同じメカニズムで、電波に転化するはずである。だが、その電波放射は長くは続かない。合体した中性子星は重たいので、すぐにブラックホールにつぶれてしまう可能性がある。さらには、超新星に比べれば少ないものの、やはり周囲に物質がまき散らされるため、電波はすぐに吸収されてしまうだろう。だが、合体の瞬間には、短い電波パルスが出てもよさそうだ。そうすれば、ミリ秒の継続時間も説明できる。高速電波バーストの発生頻度も中性子星合体の頻度も、不定性が大きいが、まずまず合わないこともない。

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中性子星の合体イメージ(Getty images))

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あとは、予想される電波強度が観測データに合うかどうかだ。翌日、研究室に戻り、パルサーと同じ機構、つまり磁石が回転することで回転エネルギーが電磁波に転化するとして、高速電波バーストから期待される電波強度を見積もってみた。まずまず、観測されている電波強度と一致するではないか! よし、これはすぐに論文にしようと、それから一週間程度で一気に論文を書いて投稿した。こうした最初のアイデアの論文では、詳細な計算などは必要ない。紙と鉛筆でささっと計算できるレベルで十分であり、図もない論文であった。理論屋はこういう論文を書くときに、いちばん血がたぎるものである。

ここまでに紹介した仮説は、基本的に高速電波バーストは一度きりの現象だと想定している。だが、バーストが起こる頻度が低いだけで、長時間モニターしていれば、いずれ繰り返して起こる可能性も否定できない。そんな繰り返し起こることが期待される仮説の中で有力なのが、マグネター(超強磁場の中性子星)のフレア説だ。この天体は時々、その強い磁気エネルギーの一部を爆発的に解放する。太陽表面で時々起こる巨大フレア現象に似ている。マグネターの巨大なフレアは、数十年に一度という頻度で起こり、銀河系内のマグネターで起きたフレアにより放出された強烈なガンマ線放射は、地球において人工衛星が危険にさらされたり、大気の電離状態が変えられたりしてしまうほどである。そんなマグネターの巨大フレアが、遠方の銀河で起きているという説である。

繰り返す!

こうしてさまざまな仮説が乱立する中、衝撃的な観測結果が報告された。前述したアレシボ天文台で見つかった高速電波バーストが、繰り返して起こることがわかったのである。少なくともこの天体は、超新星や中性子星の合体といった、一度きりの天体現象では説明ができない。中性子星が時々、電波バーストを起こすという説が極めて有力である。だが、パルサーとして観測される若い中性子星なら銀河系の中に1000個以上ある。これらと、遥かに遠方にあると思われる高速電波バーストを引き起こす中性子星は、何が違うのかという謎は残っている。

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(photo:Getty images)

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有力な容疑者はやはり、時折フレアを起こすことが知られているマグネターである。これについては最近、銀河系のマグネターの一つが、ミリ秒の継続時間で電波バーストを起こすことが確認された。銀河系の中で起きたものなので、数十億光年の遠方で観測される高速電波バーストに比べればはるかに明るいものであった。これを遠方の銀河に持っていけば、たしかに高速電波バーストとして観測されるであろう。しかし、これまでによく知られている、X線やガンマ線で観測されるマグネターのフレアが起きたら、必ず電波バーストが起こるというわけでもないらしい。どういう条件でマグネターが電波バーストを起こすのかは、今後の研究を待たねばならない。いずれにせよ、少なくとも一部の高速電波バーストは中性子星(とくにマグネター)を起源とすることは、間違いなさそうである。

一方で重要な問題は、すべての高速電波バーストは繰り返して起こるのか、あるいは複数の種族があって、一度きりの高速電波バーストもあるのか、ということである。歴史を振り返れば、軟ガンマ線リピーターは当初はガンマ線バーストとして一括りにされていた。だが、軟ガンマ線リピーターはその後、繰り返すことが判明し、残りの繰り返さないガンマ線バーストから分化した。これらは本質的に、まったく異なる天体現象であったのだ。

高速電波バーストでも同じことが起こらないともかぎらない。現在、繰り返すことが確認されたバーストは10を超える数になっているが、それ以外の数百を超える高速電波バーストは、多くの観測時間を投入してモニタリングしても、一度きりしか検出されていない。また、電波のパルス波形などの特徴も、繰り返すバーストと他のものは異なるという指摘もある。

2020年3月、タイで高速電波バーストの国際会議が行われるはずだった。筆者も参加予定で楽しみにしていたのだが、コロナ禍のために夏にオンラインで開催された。そこで、「すべての高速電波バーストが繰り返し起こるのか?」というパネルディスカッションがあり、参加者による投票が行われた。面白いことに、「すべては繰り返し起こる」という人と、「一度きりしか起きない別種族がある」という人と、ほぼ半々という結果であった。むろん、多数決で決めるものではなく、将来の観測で決着をつけるべきことだが、それにはもうしばらくかかりそうである。

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