ウクライナ戦争でのロシア支持と親露派2地域の国家承認で北朝鮮が得た見返り

ウクライナ戦争でのロシア支持と親露派2地域の国家承認で北朝鮮が得た見返り

  • JBpress
  • 更新日:2022/08/06
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ウクライナ戦争で大きな被害を受けているドネツク州(写真:Abaca/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

「ディール(Deal)」とは、本来、カードゲームでカードを配ることであり、ビジネスの場面では値段や値引き交渉などの「取引」を意味する英単語だが、韓国では「裏取引」というニュアンスで用いられることが多い。

先日、北朝鮮がウクライナ南東部ドンバス地域の親露派国家、ドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)を正式に国家として承認したことにより、ウクライナが北朝鮮と断交するという事態が生じた。

同時に、平壌駐在のロシア大使アレクサンドル・マツェゴラがDPRとLPRの再建に、北朝鮮の建設労働者を投入する可能性に言及したことで、ウクライナ戦争における北朝鮮の関与に世界中の関心が集まっている。

北朝鮮は、なぜウクライナと断交までしてDPRとLPRを国家として承認したのだろうか。また、平壌駐在のロシア大使は、なぜDPRとLPRの再建事業に北朝鮮の建設労働者投入の可能性まで言及したのだろうか。ウクライナ戦争における北朝鮮とロシアのディールに迫ろう。

事情を知る在ロシア北朝鮮大使館の関係者によると、ウクライナ戦争に関する北朝鮮とロシア間の本格的なディールは3月中旬から始まったという。「ウクライナ戦争開始した当初は、北朝鮮に対するロシアの関心はまったくなかった」と先の関係者は語る。

当初、北朝鮮に関心がなかったのは、ロシアがウクライナ戦争を速戦即決で簡単に終わらせることができると考えていたからだ。だが、ウクライナ戦争が思ったよりも長期戦になり、北朝鮮の協力が必要だとロシアが切実に感じるようになったのだ。

興味深いのは、その決断が3月3日に国連で開かれた、ロシアのウクライナ侵攻を糾弾する「国連緊急特別総会」の時だということだ。

国連緊急特別総会では、193カ国の国連会員国のうち141カ国が支持票を投じ、反対は5票、棄権は35票だった。この時、北朝鮮は棄権票を入れるつもりだった。中国が棄権票を入れたためだ。

国連駐在の金星(キム・ソン)北朝鮮代表は中国と同じように、ロシアとウクライナ間で綱渡り外交を展開しようと棄権票を投じることにしていた。だが、ロシアが北朝鮮政府に反対票を投じてほしいと強く要求したため、投票の数時間前に北朝鮮政府の立場を、棄権から反対に変更した。

反対票を投じた5カ国は、ロシア、ベラルーシ、シリア、アフリカ北東部の紅海沿岸の小さな君主国家エリトリア、そして北朝鮮だった。

これを契機に、ロシアは北朝鮮とのディールの必要性を強く感じるようになった。3月中旬頃、北朝鮮とロシアは、次のようなディールを互いに握ったと先の関係者は語る。

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ドンバス地域の再建で北朝鮮の建設労働者が言及された理由

まず、ウクライナ戦争に対する北朝鮮政府の公的なロシア支持宣言である。これは、ウクライナ全域に対する政権交代の支持と、親露派のドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)の正式承認などすべてを含んでいる。

このディールに従って、北朝鮮は政府として公的なロシア支持を様々な場所で宣言した。さらに、7月13日にはドンバス地域のDPRとLPRを正式国家として承認し、今後は国家関係にまで発展させるという立場を明らかにした。

次に、ロシアが北朝鮮にウクライナ戦争における人的動員および武器支援を要請する場合は、これに関する措置を履行することという約束だ。これは、ロシアがウクライナ戦争に必要な軍隊参戦や武器支援を北朝鮮に要求すれば、ただちにそれらを履行するという内容である。

現に、北朝鮮はロシアの従来型兵器と互換性のある122mm多連装ロケット砲と125mm滑腔砲を継続的に供給していると先の関係者は言う。

一方、北朝鮮がロシアから受けた対価は、以下の3つである。

第1に、ロシアが保有している核弾頭の小型化技術および中小型核弾頭を搭載した原子力潜水艦に関する技術の移転。第2に、ロシアによるエネルギー支援。第3に、ウクライナ戦争に対する北朝鮮軍事代表団の参観、およびウクライナ戦争後の復興フェーズおける北朝鮮の建設作業員の現地派遣──の3つである。

7月18日、北朝鮮駐在ロシア大使アレクサンドル・マツェゴラがロシアの日刊紙「イズベスチヤ」とのインタビューで、以下のように言及したのも、ディールの一環だろう。

「難しい環境でも仕事ができる良質な北朝鮮の建設労働者は、(ドンバスの)破壊された公共施設と産業施設を復旧する過程で重要な支援軍になるだろう。北朝鮮とドンバスの共和国が協力できる範囲はかなり幅広い」

このようなロシアと北朝鮮間のディールは、米国と西側世界による制裁で孤立している両国が互いの必要性によって結んだある種の密約である。先の関係者も、「世界はそれほど時間がたたないうちに、北朝鮮とロシア間のディールの正体を目撃することになるだろう」とも述べている。

緻密に準備される露朝ディール

先の関係者は、「7月13日に、北朝鮮が親露派であるドンバス地域のドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)を正式国家として承認したことは、緻密に構成された露朝ディールの一部であり、計画通りだ」と言う。

ドネツク人民共和国のトップであるデニス・プシーリン氏が、「北朝鮮が今日、DPRを承認した。DPRの国際的地位と国家性が一層強化されつつある。これも、我々の外交の勝利の一つだ。我々はドンバス住民の重要性を支持してくれた北朝鮮国民に感謝する」と、両国の活発で建設的な協力に期待を表明したのも、そのような文脈からである。

これは、2017年12月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を発射した報復として、国連安全保障理事会が海外の北朝鮮労働者を2019年末までに全員送還させるように規定した、国際連合安全保障理事会決議第2397号を巧妙に避けるためのものだ。

親露派のDPRとLPRは国連加盟国ではないどころか、正式に国家として承認を受けることもできない状態だ。そのため、「我々はロシアとは関係がない」と主張することで、北朝鮮の建設労働者を受け入れることができるという理屈である。

問題は、親露派のドンバス地域に派遣される北朝鮮労働者が純粋な建設労働者だけにとどまるのか、ということである。

先の関係者は、「その件はすでに、マツェゴラ大使の発言を通じて言及されている。マツェゴラ大使が、7月18日、ロシアの日刊紙『イズベスチヤ』とのインタビューで、『北朝鮮とドンバスの共和国が協力できる範囲はかなり幅広い』と言及した部分に、注目しなければならない」と語る。

これは、DPRとLPRに北朝鮮の建設労働者が派遣された場合、彼らに対する身辺警護と安全を目的として、北朝鮮が北朝鮮軍をドンバス地域に派遣する可能性を十分に示唆する部分である。

先の関係者はさらに続ける。

海外派遣命令を待ちわびている北朝鮮軍

「このようなことが今、北朝鮮で緻密に準備されている。朝鮮人民軍軍事建設局所属の建設部隊軍人3000人あまりと、朝鮮人民軍警備隊所属の7総局(建設部隊)と8総局(道路建設部隊)の軍人5000人あまりが海外派遣の準備をしている。また、軽歩教導指導局(特殊部隊)配下の特殊戦部隊の2000人あまりの戦闘兵と軍人が、ドンバス地域の現地状況に備えた訓練を極秘で進行中だ」

「北朝鮮は過去に、建設軍人をモンゴルと中東地域に大量派遣した経験がある。それゆえに、ロシアはもちろんのこと、ドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)にもかなり大きな関心を持っている。現地では兵営で暮らし、賃金に対する負担もなく、スピーディに再建ができる。北朝鮮軍総参謀部は、外貨を稼ぐことができる絶好のチャンスだと思い、北朝鮮政府から海外派遣命令が下されるのを、今か今かと待っている状態だ」

駐ロシア大使の申紅哲(シン・ホンチョル)が5月下旬に、DPRの外交長官ナタリア・ニコノロバ氏とLPRの外交長官ヴラディスラフ・デイネゴ氏とモスクワで会談したのも、このような文脈で始まったものだ。

ウクライナ戦争によって結ばれた、北朝鮮とロシア間のディール──。それは、世界的な孤立を自ら招いた権威主義国家の北朝鮮とロシアが、お互いの生存のために選択した共生戦略であり、世界的な流れに逆らう共倒れ戦略である。

郭 文完

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