トランプ、ペンス土壇場の対決、選挙結果確定めぐり緊張の舞台裏

トランプ、ペンス土壇場の対決、選挙結果確定めぐり緊張の舞台裏

  • WEDGE
  • 更新日:2021/01/13
No image

米下院本会議は1月12日、議会襲撃事件を受け、修正憲法25条に基づき、ペンス副大統領に「トランプ大統領の解任」を求める決議を可決した。ペンス氏がこの決議を拒否したため、民主党は大統領の弾劾訴追の審議に入る。だが、こうした政治的な動きの舞台裏では、選挙結果の最終確定をめぐってトランプ、ペンス両氏の亀裂が一気に深刻化、緊張感あふれるドラマが展開されていた。

12日、メキシコ国境の壁建設の視察を終えてホワイトハウスに戻ったトランプ氏(REUTERS/AFLO)

不和は12月15日に始まった

両氏の確執は12日付のワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどの米メディアによって伝えられた。これらの内幕報道を基に、2人の対決のドラマをたどってみたい。そこには、敗北の選挙結果を覆えそうと、なり振りかまわずペンス氏に圧力を掛け続けるトランプ氏に対し、毅然として抵抗するペンス氏の姿が浮き彫りにされている。

ペンス氏はキリスト教右派福音派の敬虔な信者で、トランプ氏がペンス氏を副大統領に選んだのも、これら宗教票を当て込んだことが大きな理由だった。6期に渡る下院議員の後、中西部インディアナ州知事を務めるという豊富な経験を持つ政治家で、人柄は温厚で冷静、沈着にして泰然と評される人物だ。

逆にトランプ氏は、政治は全くの素人。何事も直感に頼り、感情の起伏が激しい性格。日常的に怒りを爆発させ、この4年間、気に入らないと徹底的に相手をこき下ろし、いじめ抜く性癖を見せつけてきた。セッションズ元司法長官やティラーソン元国務長官らいじめの対象とされて政権を去った要人は枚挙にいとまがない。

しかし、ペンス氏はこうしたガキ大将のような大統領に対し、忠誠を誓い、黒子に徹してきた。傍らには控えているが決して目立たないよう振舞ってきた。時には、トランプ氏の暴言や怒りの緩衝材になり「彼の重要な役割は大統領をいかに怒らせないかということだった」(元退役軍人長官)という。無理難題を押し付けられても従順な姿勢を崩すことがなかった。しかし、そうしたペンス氏が今回、「我慢の限界に達した」(ニューヨーク・タイムズ見出し)。

決定的な対立が始まったのは昨年の12月15日だ。この日は各州の大統領選挙人が公式に民主党のバイデン氏を大統領に選出した日の翌日だ。選挙結果に異議を申し立てる法廷闘争でほぼ全敗していたトランプ氏が次の一手として考えたのが、一般投票で選出された選挙人ではなく、州議会に働きかけてトランプ支持の選挙人を選び、投票に持ち込む試みだった。しかし、これもうまくいかず、結局、選挙人投票でバイデン氏の当選が確定した。このため大統領は15日、最後の手段としてペンス氏を利用することを決断した。

ペンス氏が1月6日議会で、選挙人投票の結果を最終的に承認する議長を務めることに着目、同氏に不正選挙であることを理由にバイデン氏勝利を阻止させようと図ったのだ。このシナリオは顧問弁護士のジュリアーニ氏やナバロ大統領補佐官らが主張していたもので、大統領は「憲法上、ペンス氏には不正に選ばれた選挙人を拒否する権限がある」という説に乗った。この日から連日のように、大統領のペンス氏に対する圧力が始まり、両者の確執が深まった。

「愛国者」か「臆病者」かと迫る大統領

ペンス氏のショート首席補佐官らは著名な憲法学者らに意見を聞き、憲法上、議長役の副大統領は手続き的役割を果たすだけで、選挙結果を覆す権限がないことを確認。ペンス氏は憲法に記された義務を果たすか、ボスであるトランプ氏の要求に応じるか悩みながらも、副大統領にはそうした法的な権限がないとの見解を大統領に説明し、要求を断った。

こうした中、ペンス氏にトランプ氏の勝利を宣言するよう求めた連邦下院議員による訴訟も起きた。ペンス氏らは「この訴訟の背後にトランプ氏が介在していたと確信を深めている」(ワシントン・ポスト)という。トランプ氏はある時は、大統領執務室に保守派の憲法学者を招き「ペンス氏に選挙結果を覆す権限がある」と主張させ、同席していたペンス氏を丸め込もうとした。

ニューヨーク・タイムズによると、議会での選挙人投票の確定が行われる6日の朝、トランプ大統領はペンス氏の自宅にまで電話し、「マイク、愛国者として歴史に名を残すのか、それとも臆病者として名をとどめるのか」と土壇場で翻意を迫った。しかし、ペンス氏はこれを拒否、あくまでもバイデン氏勝利の認定を変えない考えを伝えた。

激怒した大統領はその日の午後、ホワイトハウス前で支持者らに「死ぬ気で戦え」などと演説、抗議のため議会へ行進するよう扇動した。この演説の直後、大統領はツイッターで「ペンスは国と憲法を守るためになすべきことをする勇気を持っていない」と非難した。これを受け、過激な支持者らは「ペンスはどこにいる」「ペンスを吊るせ」と叫んで議会に乱入した。

ペンス氏は暴徒の襲撃の際、妻子とともに地下に非難したが、議会脱出を促す警護関係者の求めを拒み、議事堂内に残った。同氏はそこから、議会指導者や国防総省幹部らに連絡、暴徒を一掃するため州兵を動員させた。トランプ氏はこの時、襲撃のもようを伝えるテレビ中継に夢中になっていた。ペンス氏の安否の確認などは一切行っていない。

ニューヨーク・タイムズによると、ある上院議員は後に、ペンス氏がこれほど怒ったのは見たことがないとし、尽くしてきた大統領に裏切られたと感じていたのではないか、と述懐している。

議会から脱出した共和党上院のマコネル院内総務はペンス氏の行動を称える一方、トランプ大統領に対しては激怒。事件後、大統領からの電話にも出ないでいるという。ペンス氏は大統領と顔を合わせないよう7日はホワイトハウスに出向かず、8日に副大統領室でスタッフとのお別れ会に出席、最後に4分間もスタンディングオベーションが続いたという。

ペンス氏はお別れ会の場で、事件後の7日未明に議会から離れる際、首席補佐官が送ってきたという聖書の一説のメッセージを紹介した。そこには「私は見事に戦った。戦いを終えた。信念を貫き通した」と記されてあったという。

佐々木伸

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加