ミュージカルの話をしよう 第16回 昆夏美、幼少期から今もずっと「わあー!」と歌っている(前編)

ミュージカルの話をしよう 第16回 昆夏美、幼少期から今もずっと「わあー!」と歌っている(前編)

  • ステージナタリー
  • 更新日:2021/11/26

生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第16回には、伸びのある歌声と確かな芝居力で物語を底上げし、どの舞台でもとんでもないパワーを放っている昆夏美に話を聞く。ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」でヒロイン役に抜擢され、プロデビューを果たした昆は、ミュージカル女優として順調に歩みを進め、今年でデビュー10周年を迎えた。「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」など大作ミュージカルの印象が強い昆だが、実は規模もジャンルもさまざまな作品に挑戦している。そうした経験の中には葛藤も多かったというが、聞けばやはり、“歌の女神”に愛されて生まれたとしか思えない彼女。30歳になり、新たな一歩踏み出そうとしている昆が、これまでの舞台人生を振り返る。

取材・文 / 大滝知里

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昆夏美

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「ぞうさん」歌う、スーパー1歳児なっちゃん

──昆さんは幼少期から劇団に入って活動されていましたが、音楽に触れた原体験はいつでしたか?

あまり考えたことがなかったんですが、母親が私の成長記録を音声でカセットテープに残してくれていて、1歳の頃からテレビで流れてくる音楽や教育番組の歌を完コピしていたみたいです(笑)。

──そんな1歳児……います?

あははは。言葉は変なところもあるんですけど、童謡の「ぞうさん」とか「ABCのうた」とか、ちゃんとした音程で歌えていて、それは私も、すごいなって思いました(笑)。そういう意味で言うと、物心付く前から音楽には触れていましたね。家族に音楽に詳しい人がいたわけでも、英才教育だったわけでもなく、ただ単に母親と一緒に歌ってみたら、私の反応が良かったみたいです。

──幼稚園のお遊戯会でもセンターにいるような子供だったんですか?

そうですね、お遊戯会や発表会はすごく好きでした。みんなの中で「わあー!」と歌っているのは私で、けっして目立ちたがり屋ではないんですが、そこを切り取るとすごく“我の強い子”(笑)。人一倍、歌ったり動いたりしていましたね。

──その後、小学生で地元の児童劇団に入られます。

小学校5年生のときです。歌ったり踊ったりするのは好きだったので、もともと興味はあったんですが、友達が入ったのをきっかけに、「私もやりたい」と両親にお願いして。でも、特に歌手になりたいとか、ミュージカルをやりたいという思いはありませんでした。音楽の成績は良かったんですが、音楽を特別なものとして思ってはいませんでしたし、ピアノも習っていたけど、弾くのが大っ嫌いで(笑)。ピアノ教室の日は「行ってきます」と言って、公園で友達と遊んでいるような子供でした。結局、教室から家に連絡が来て、バレて怒られるんですけど。

自分にとって歌は特別じゃない、日常的にそこに在るもの

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──では、昆さんの中で音楽が特別なものになった瞬間は?

児童劇団に入って、レッスンで先生から「歌がうまい」って言ってもらえたときに、子供ながらに少し自信が付いて、さらに歌が好きになったりはしたんですが、歌に対して特別な思いを抱いたきっかけというのがないんです。子供の頃から1日歌を歌わないということがないですし、気付いたらお風呂でもトイレでも、炒め物しながらでも「わあー!」って歌っちゃう。「あの高音、出るかな?」とか思いながら(笑)。でも、ミュージカル仲間に聞くと、それって珍しいみたいで。私にとって歌は日常的なもので、毎日歌うことは練習のためではないし、歌いたいから歌っているという。

──プロデビューはミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(以下ロミジュリ)のオーディションに受かったことからでした。洗足学園音楽大学ミュージカルコースに在籍されていた時期ですが、ミュージカル女優を目指したきっかけは何でしたか?

中学3年生まで劇団に所属していたんですが、ミュージカル女優になりたいとは思っていませんでした。それまでは、保育士さん、幼稚園の先生、看護師さんになりたいと思っていて、“それかミュージカル女優”だった。でも、母親の友人からミュージカルコースのある高校があることを教えられ、「行きたいな」となって。進学塾から音楽科の受験勉強ができる塾に急きょ変更しました。音楽を専門的に学ぶからには、将来OLになることは全然想像できなかったし、高校に入学して、「私はミュージカル女優1本でやっていきたい」と思えたんです。その頃は月に3本とか、娯楽としてミュージカルを家族で観に行っていましたね。作品で素敵な人を見つけたら、その人が出ているほかの作品を、音楽が良かったらその作曲家のほかの作品をと、芋づる式に沼にハマっていくというか。「ハワイに行けるね」と両親に言われるくらい、ミュージカルに心とお金を注いでいました。

“ザ・青春”だったロミジュリ、カーテンコールで全身がビリビリ

──児童劇団とはいえ、舞台経験があったうえでのプロデビューでしたが、苦労はありましたか?

今までの経験は糧にはならず、しっかりと緊張して、しっかりと「どうしよう」と思っていました(笑)。自分が舞台で観ていた方々、観ていた作品の演出家の方とご一緒して、1つひとつが自分の責任に変わっていく感覚がありました。作品の歴史としても責任の重さを感じましたし、年に1度、舞台で人前に立っていたということを言いたくないくらい、自分が不甲斐なかったし、右も左もわからない状態で。でも、「私はやっぱりミュージカルが好きなんだ」と思えた経験でもありました。例えばすごく怒られたりしても、嫌だと思わなかったし、ロミジュリのカンパニーの皆さんが本当に良くしてくださったんです。

──昆さんは、同じく女優デビュー作となったフランク莉奈さんとヒロイン役をWキャストで演じられましたが、このプロダクションにはロミオ役で城田優さんと山崎育三郎さんなどがいらっしゃいました。

経験豊富な皆さんの中にポンッと入ったフランク莉奈と昆夏美に、ロミオたちは「大丈夫、大丈夫」と言ってくれ、大先輩たちは笑わせてくれ、みんなが支えてくれた。今思えば、“新人”という枠をすごく強みにさせていただけた環境でした。

──ああ、素敵なお話ですね。

「やっぱり私、舞台大好き!」という感じで、本当にピュアピュアでしたね。初日のカーテンコールでお辞儀をしたときに、つま先から頭のてっぺんまでビリビリ!ってきて、「これだ」と思ったのを覚えています。思い返すと、経験がないぶん、ちょっとライトな責任感だったかもしれない。今は、お客様に演じる役の人生をどう伝えるか、といった深いところでの責任を意識しますが、当時は間違えちゃいけない、歌や物語をきちんとお客様に届けなきゃといった責任でしたから。なので、楽しさが先に来て、「神様ありがとう、私、これからもがんばります!」と思っていました。毎日楽しくて、キラキラして、青春でしたね。

前編では、歌の女神に愛された少女がすくすくと育ち、ロミジュリでヒロインに抜擢され、ひるむことなくデビュー作に臨み、最良なスタートを切った“順当なミュージカル人生”の様子が明かされた。しかしデビュー後、昆は映像作品に出演し、さっそく壁にぶち当たる。後編では昆が代表作のエピソード、芝居への思い、年齢を重ねることへの今の悩みなどを語る。

プロフィール

1991年、東京都生まれ。洗足学園音楽大学ミュージカルコースを経て、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のジュリエット役でプロデビュー。以降、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」、音楽劇「星の王子さま」ミュージカル「マリー・アントワネット」ミュージカル「ドッグファイト」などに出演。映画「美女と野獣」ではベル役の日本語版吹替を担当。2019年、第10回岩谷時子賞奨励賞に輝く。11月27・28日に東京・ヒューリックホール東京にてNatsumi Kon 10th Anniversary Concert「Aimer」が控えるほか、2022年1月にパルコ・プロデュース2022「ロッキー・ホラー・ショー」、3月にミュージカル「next to normal」、7・8月にミュージカル「ミス・サイゴン」に出演予定。

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