「パンデミック候補」のニパウイルス、インドで死者 知っておくべきこと

「パンデミック候補」のニパウイルス、インドで死者 知っておくべきこと

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/09/19

インド南部ケララ州でニパウイルス感染症のアウトブレイク(集団感染)が発生し、2人が死亡した。地元当局は学校や職場、公共交通機関を閉鎖したほか、数百人を対象に検査を行い、感染者の追跡や感染拡大の封じ込めを急いでいる。珍しいが致死率が最高で75%に達するニパウイルスは世界保健機関(WHO)によって、新たなパンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性があるウイルスのひとつに挙げられている。

感染源になり得るものは?

英BBCなどの報道によると、ケララ州では先週末までにほかに3人がニパウイルスへの感染で入院した。同州でニパウイルス感染症のアウトブレイクが起きたのは2018年以降で4回目だという。

ニパウイルスは、動物とヒトがともに感染する人獣共通感染症の原因となるウイルスだ。自然界で共生している宿主(しゅくしゅ)はオオコウモリ(フルーツコウモリ)で、ヒトのほか、ブタやヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌなど広範な宿主に伝染することが知られている。オオコウモリは感染しても目立った病気にならないとみられている。

さまざまな宿主にうつり得るという点が、公衆衛生の専門家による感染経路の追跡や感染拡大の抑制をいっそう難しくしている。過去のアウトブレイクでは、少なくともヒトとブタで重篤な病気を引き起こしていることが記録されている。

ヒトへは、感染した動物やその体液に直接触れたり、感染したコウモリの尿や唾液の付いた果物など、汚染された食品を食べたりすることで伝染する。

専門家はインドについて、人間の活動によってコウモリの生息地が破壊されていることなどから、各種ウイルスのスピルオーバー(自然宿主の動物種からほかの種への伝染)が起こるリスクがとくに高い国のひとつとみて警戒してきた。

これまでの発生例

WHOによると、ニパウイルス感染症のアウトブレイクは1999年にマレーシアの養豚業者の間で初めて確認され、シンガポールにも広がった。ヒトへの感染の大半は、病気のブタやその汚染された組織への直接接触で起きていた。

アウトブレイクは2001年以降、主にバングラデシュとインドで報告されており、ほかにマレーシアやフィリピン、シンガポールでも発生している。WHOによれば感染者は1998〜2015年に計600人超報告されている。

ヒトからヒトへも感染する?

米疾病対策センター(CDC)によると、過去のアウトブレイクではヒトからヒトへの感染も報告されている。最も多いのは感染者の家族や看護者らにうつるケースだった。

ウイルスの種類としては、麻疹ウイルスやムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)ウイルスと同じグループに属する。

どんな症状が出るのか

症状はまず、発熱や頭痛のほか、せきなど呼吸器疾患の兆候が表れることが多い。その後、急速に悪化して脳炎や発作を起こし、1日か2日で昏睡(こんすい)状態に陥ることもある。

WHOによると、ヒトの場合、症状は感染後数日から2週間の間に出るのが一般的だが、発症までに45日かかった例もあるという。潜伏期間中にヒトからヒトへ感染する可能性もあるとする研究もある。WHOは、ブタの場合、潜伏期には「感染力が高い」と指摘している。

WHOによると、ヒトが罹患した場合の致死率は40〜75%と推定される。数字は現地の医療体制などによって変わってくる。脳炎から回復した患者では、発作や人格変化といった長期的な神経症状も報告されているという。

ワクチンや薬は?

ヒトに対しても動物に対しても、ニパウイルスに対する使用が許可されているワクチンや薬はない。現時点で患者への処置は対症療法に限られる。

CDCによると、モノクローナル抗体を用いる免疫療法が初期段階の臨床試験(治験)に入っている。ほかの病気の治療でヒトに使われている抗ウイルス薬「レムデシビル」は、動物を使った実験で、ニパウイルスへの曝露(ばくろ)後に投与した場合も有効性が示された。

オーストラリアでは、ニパウイルスの近縁であるヘンドラウイルスのウマ用ワクチンが販売されており、ニパウイルスへの感染に対してもある程度の予防効果があるようだ。

研究開発の「優先病原体」に

WHOはニパウイルス感染症を、次のパンデミックを引き起こす可能性があるものの現時点で対策がほとんどない10の疾病リストに入れ、緊急に研究開発すべき「優先病原体」としている。

10の疾病は、コロナウイルスによる3つの感染症である新型コロナウイルス感染症と中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ジカ熱、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、リフトバレー熱。WHOはリストは網羅的ではないとし、パンデミックを引き起こす可能性のある未知の病原体として「疾病X」も加えている。

診断や検査の注意点

ニパウイルス感染症は特異な症状があるわけでなく、潜伏期間が長いケースもあるため、診断は一筋縄にはいかないかもしれない。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、ニパウイルス感染症は「最初は誤診されることが少なくない」と説明している。

感染の初期段階では、新型コロナのPCR検査と同様に患者の検体の遺伝子検査で感染を判定でき、それ以降の段階では抗体検査を利用できる。もっとも、こうした検査に必要な技術や安全手順が世界のどこでも提供されているとは限らない。

forbes.com 原文

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