「ゆりちゃんの承認欲求、わかる」 ムロツヨシ “おじさんの表現者論”と 次世代の表現者に残したいもの

「ゆりちゃんの承認欲求、わかる」 ムロツヨシ “おじさんの表現者論”と 次世代の表現者に残したいもの

  • CREA WEB
  • 更新日:2022/06/23

“前例”を下の世代に渡すことで格好つけたい

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『神は見返りを求める』公開記念、主演俳優ムロツヨシの「表現論」前後篇インタビュー。前篇では職業・俳優を志したムロツヨシ自身の“セルフプロデュース”について伺った。後半では、いまという時代/次世代に向けた「表現をすること/表現者になること」について、彼の見解を語っていただく。

――『神は見返りを求める』の中でYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)は売れたいけどうまくいかない、セルフプロデュースのやり方を模索しているキャラクターです。ムロさんが演じられた田母神は彼女を支える役ですが、ゆりちゃん自身にムロさんが共感される部分もあったのではないでしょうか。

それはありますね。僕らが20代の頃はあまり使われなかった「承認欲求」という言葉が、SNSが発達する中でどんどん言われるようになってきたと感じます。僕らみたいな世界では昔から絶対的に存在していたものですが、今やどんな仕事をしていても、どんな立場の人でも気軽に発信ができるような時代になってきたからこそ、みんなが「承認欲求」を抱くようになった。僕らが20代のときにはなかったシステムが存在する時代における彼女のような存在は、すごく理解できます。

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©2022「神は見返りを求める」製作委員会

最初は「人を喜ばせたい」という純粋な気持ちだったのが「もっと“いいね”がほしい」「動画の再生回数を増やしたい」という、少しうまくいくともっと欲しくなる病に取りつかれることって、往々にしてあると思います。

舞台を作っていても「面白いって何だろう」という病気にかかるんです。観る側は「なんでこんなつまんないんだろう。こうやったら面白いのに」って簡単に言うんですが、作る側に一歩入った瞬間に「面白いって何だ?」とわからなくなる。僕はこの病気にかかっている期間が長かったので、「何をやってもうまくいかないなかで成功者に出会って、成功者の言葉って説得力があるから自分もやってみたら動画の再生回数が上がって、それで喜びを得る」というゆりちゃんの気持ちはすごくわかります。

僕自身は、「自分の立ち上げたものしか信じない」みたいなところがあります。それが良かったか悪かったかはわからないけど、「だから時間がかかってしまった」ともいえる。もっと考え方を柔らかくして人の立ち上げたものにすんなりプレーヤーとして入っていけたら、もっと早い段階で職業として成立できて、違う形の俳優になっていた可能性はありますよね。でもまぁ、こればっかしはわからない。

「ケツを叩かれた」という感覚が存在しない世代に向けて

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――以前、中村倫也さんが売れずに腐っていたときに「ムロツヨシさんの言葉で自分を見つめなおせた」と語っていらっしゃいました。ムロさんもかつて本広克行監督に同じことを言われたとか……。

本広監督と君塚良一さんによく言われましたね。「お前は何者なんだ。何がしたいんだ。したいことをやればいいじゃないか。言い訳して、時代のせいにするんじゃない」と。それをそのまま、中村倫也くんに伝えました。

ただ、彼はよい解釈をしてくれてきっかけにしてくれたけど、いまの時代・或いは倫也くんの一個下の世代に同じことを言っても、全く響かない言葉になってしまったとも思います。僕自身、ここ数年で「下の世代にはもう届かない」と知り、言い方・応援の仕方を変えていかないとと考えるようになりました。

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©2022「神は見返りを求める」製作委員会

僕らはよく「ケツを叩かれた」という言い方をしますが、そんな言葉すら存在しないような感覚です。そういったなかで、どう背中を押していくか。僕たちも色々な人の背中を見て真似てやってきて、うまくいったこともあるけど、下の世代が僕らを真似していくことは少ないと思うんです。僕たちの世代は、上の人たちから教わったり真似しているパーセンテージが大きいけど、今はもっと新しいものを生み出す価値が高まっている。

僕らができることは、それを知ったうえで下の世代から教わることだったり、せめてもの格好つけで僕らより上の世代がまだやっていないことに挑戦し、その成功/失敗体験を集めて、小さくてもいいから“前例”を渡すこと。それを下の世代の人たちに見てもらい、真似するか消去法のひとつとして使ってもらえたら、面白いものができる確率が0.00001%上がるかもしれない。そうなったらうれしいし、「前例を作るために格好つける」は自分で自分に課しています。

若い世代の成功を「悔しい」と思えたら、こんなに美味い酒はない

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©2022「神は見返りを求める」製作委員会

――承認欲求が高まる一面がある一方、何者かに「なる」手段は多様化していますよね。そういった変化を、ムロさんはどうとらえていらっしゃいますか?

インターネットからみんなが知る歌手が台頭してくるなんて誰も想像しなかっただろうし、色々なオーディション番組が増えてきて役者だって様々な形で出てくるでしょうね。どこかに所属せずとも、フリーでもできることが少しずつ証明されてきていますし、情報の発信の仕方・アピールの仕方・やり方ひとつでこんなに変わるんだなと思います。僕個人はすごく面白いなと感じています。

僕自身、「非同期テック部」の真鍋大度や上田誠から「若い世代から教わる」姿勢や「自分たちの成功体験を伝えることが新しい思い付きへの近道」という思考を学びました。だから、自分たちがやってきたことを言語化して、下の世代に渡そうとする行動自体が、僕たちのためになる。

僕らは上の世代から「教わる」ことしか叩き込まれていないけど、引っ張るだけじゃなく、自分から下の世代に「どう思う?」と聞きに行って教わることを参考にして、形にしていくことが非常に大切だと感じます。これからの日本のエンターテインメントというような大それたものを背負うつもりはないけど、自分が面白いものに携わったり思いつく側に行こうと思うのであれば、柔軟性をもって多様性を認めるのは絶対に必要。若い世代の成功例を聞くとワクワクするし、思いつかなかった自分を悔しいと思えたら、そのときに飲む酒ほど美味いものはないですよね。

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――ご自身も刺激を受けて、進化していくというか。

進化というより、変化かな。「進化」というと成長していかなきゃいけないけど、後退したっていいんですよ。自分を変えて、その変わった自分を知る実験はこれからも続けていきたい。55歳くらいにはいい加減落ち着きたいから(笑)、そのためにもいまは色々実験期間。「もういいかな」と思えるまでは格好つけて「こんなことやりましたぜ。来てください」って言っていたいなと思います。

この前も野外劇「muro式.がくげいかい」をやって。悔しい気持ちの方がいまは大きいですが、やっぱりやっていかないと自分は(心が)死んじゃうなと改めて感じました。

「こういうおじさんたちがいるよ!」

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――先ほど、下の世代の応援の仕方のお話がありましたが、ムロさんご自身の期待やエールも伝わってきます。

表現・発信する場所は増えたと思いますが、僕たちの時代より厳しくなったルールもあって、表現の幅が狭くなったように見えてしまうかもしれない。でももしかしたら、下の世代の皆さんにとってはそのぶんやりがいがあるかもしれないし、ハラスメントや性に対する考え方は皆さんのほうが確実に感じて理解して、表現に落とし込めるスピードは速い。僕自身も知りたいので、どんどん発信してほしいなと思います。

ただ怖いのは、僕たちの時代よりも変に目立ってしまう可能性があること。僕たちのときは何かを表現したり発信する人を「叩く」という表現はありませんでした。もちろん今までもあったはあったんですが、「見えない石を投げられている」だったから、当たっている当人だけが痛くて、周りには見えなかった。今はそうではないですよね。当人以外にも見えてしまう。

僕はバイト漬けでしたが、好きなところに旅行に行けたし、飯食っちゃ喋って飲んじゃ喋ってができた。今はそれすら憚られて、アクリルの板越しに喋って、笑わせなきゃいけない。本当はもっと、空気という伝達手段で直接笑い声や音楽が聴こえたりするようにできればいいけど、そうもいかない。ただその中で生まれる新たな感覚はあると思います。

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©2022「神は見返りを求める」製作委員会

幼稚園や小学校で新しいカリキュラムが始まると聞きましたが、そうやって育った方の新たな発信を楽しみにしています。僕らおじさんは、前例を作って発信できる場所を一つでも多く作りたい。そういうおじさんたちがいるんだよということはアピールしたいですね。「そこまで言うんだったら、何か発信してみようぜ」でいいから、僕たちに見せてほしいです。本当に「変えちゃってください!」という気持ちです。

僕自身、「若い皆さんに観てほしい!」という発信が始まっているのは去年くらいから。ウイルスで色々なものがストップしてしまい、人と会話できなくなった途端に思うのは「いまの若い世代の皆さんにできることを見つけてほしい」ということ。

これまでは「そんなことは言わなくていいだろう」と思っていたアーティストや芸能の人たちが、若い世代に期待して、頼っていく。これからもっともっと、大人たちが言葉を使って若い世代に発信していくことや、それを耳にする機会は増えていくと思います。僕だけじゃないと思いますが、下の世代に「ふざけていいじゃん」と言う大人たちはもっと出てくるはず。

「muro式.がくげいかい」では、ラストを23歳の福田響志に任せてみました。信用して任せる=頼ることで、自分たちも得るものが大きいんです。「任せすぎだよ」というときは、遠慮せずに怒ってください!

ムロツヨシ(むろつよし)

1976年1月23日生まれ。神奈川県出身。1999年に活動開始。最近の出演作に舞台「muro式.がくげいかい」、ドラマ「ハコヅメ~たたかう! 交番女子~」、映画『新解釈・三國志』など。映画『川っぺりムコリッタ』が2022年9月16日(金)公開予定。

文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=池田真希
スタイリスト=森川雅代

SYO

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