【THE MATCH】譲り合いの精神がもたらした天心VS武尊 “50億円興行”の経済効果を読み解く

【THE MATCH】譲り合いの精神がもたらした天心VS武尊 “50億円興行”の経済効果を読み解く

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  • 更新日:2022/06/23
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那須川天心と武尊の一戦は譲り合いの精神で実現か【写真:ENCOUNT編集部】

当日4キロ戻しの“明と暗”

那須川天心VS武尊による「世紀の一戦」から早くも4日が経過した。結果だけをみれば、天心が5-0という大差の判定で武尊に勝利したが、この結果をひと月前の段階から予想していた男がいた。現在、米国の総合格闘技団体ベラトールで活躍する、RIZINバンタム級王者・堀口恭司である。今回は堀口が口にした言葉に改めて注視しながら、譲り合いの精神なくしてあり得なかった「世紀の一戦」による経済効果を読み解く。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

天心が最初に武尊への対戦表明を行ってからほぼ7年かかって実現した注目の一戦が終わったが、未だその残り香なり余韻が残っている今日この頃。後出しジャンケン的に天心勝利の理由を考えてみた。もちろん、死力を尽くして闘った両者の姿は何よりも美しかった。それを大前提として、誤解を恐れず、かつあらゆる枝葉末節を削って考えていくと、リング上の明暗を分けた最大のポイントは、いかにルール設定するか。この点になるだろう。

戦前、さまざまな関係者が語っていた通り、58キロという契約体重と、試合当日3時間前での計量の戻しが4キロ。つまり(とくに武尊が)62キロまでしか戻せなかった点。ここに尽きてしまう気がした。

これに関して、武尊が今年の1月末に公開された、魔裟斗のYouTubeチャンネルで語った言葉がある。

「当日計量の話は、(クリスマスイブにあった)会見の2日前とかに言われたんですよ。(戻しが)4キロってのを。めちゃめちゃ悩んで、(会見の)前日の朝くらいにOKしたんですけど、そこからノドが乾いたまま試合をする夢を毎日見るようになって。水を飲みたいけど、(体重を4キロしか)戻せないから、ノドカラカラのまま試合に行く、夢を見てみたいな。朝、口カラカラで起きるんですよ。それが怖くて、今めっちゃ落としてます」

当日計量の経験がない武尊。しかも7年の間にK-1スーパーバンタム級(55キロ)からK-1スーパーフェザー級(60キロ)の王者にまで階級を上げた武尊は、前日計量で60キロの契約体重をクリアした場合、試合当日のリカバリーに5、6キロ。つまり武尊は65なり66キロでの試合を得意とする。それが天心戦では、試合の3時間前までに戻せる体重は62キロまで。武尊からすれば、自分の得意なパターンからは程遠いことになるが、それでも武尊はこれを受けた。

結果を言えば、天才・武尊をしても、この条件を味方にすることはできなかった、ということになる。

一方、天心の声は、やはり自身のYouTubeにあった。公開されたのは会見直後の昨年末だったが、天心(55キロ)と武尊(60キロ)の体重の間を取って57.5キロと予測していたのを、58キロで当日戻しで62キロまで、という条件になったことに触れ、「聞いたときには向こう寄りといえば向こう寄りですけど、やるしかないでしょ。57.5ということであれば、ちょうどだと思うんですけど、それで勝ったらカッケーじゃん。そっちのほうが面白いでしょ。それだけですね」と答えている。

RIZIN王者・堀口恭司の勝敗予想

本来であれば、両者の一戦は丸1年前に実現の可能性を模索していた。だが、このときは武尊がK-1での直前の試合で拳を壊してしまい、結局は実現しないまま、天心がボクシングに転向してしまう可能性が懸念されていたことすらあった。

結果的には4月にキックボクシング引退を表明していた天心の人生設計を、2か月、先送りすることで、ようやく「世紀の一戦」が実現することになった。

ここには天心側による譲歩の存在が見て取れるが、一つひとつを見ていくと、実は両者共に細かな言い分があり、両者共に大きく実現に向けて譲り合った上で、あらゆる誹謗(ひぼう)中傷を乗り越えて、ついに実現する運びとなったのが「世紀の一戦」だったことが分かる。

とはいえ、冒頭で結論づけたように、勝敗という点だけに特化すれば、この初手ともいえる契約体重と戻しの体重をどうするか。それこそが実は最大の勝負の分かれ目になったような気がする。

ここで、契約体重と戻しの点について、第三者の言葉に耳を傾けてみる。

「まあ、自分の予想を言うと、判定で勝つなら天心くん、KOするなら武尊くんっていう読みだったんですけど、62キロっていう体重の戻しがあまりできないっていうのを聞いて、厳しいかなと思いますね、武尊くんが勝つのは」

「だから判定でもKOでも、62キロ同士なので、天心くん有利になっちゃうんじゃないかなと思いますね」

RIZINバンタム級王者・堀口恭司がそう口にしたのは、天心VS武尊戦のちょうどひと月前にあたる5月19日に公開された自身のYouTubeチャンネルでのこと。

その際、堀口は天心VS武尊戦の契約体重が58キロ。しかも試合3時間前にも計量を行い、62キロまでしか戻せない点を指摘。

「たぶん天心くんは元々、62キロなんだよね、通常体重が。武尊くんは65、66キロ? とかありますよ、たぶん通常が。だから結構、こう言ったらあれかもしれないけど、武尊くんは結構キツいんじゃないかと思いますよね」

「武尊選手の、ガチャガチャ前に出て、相手を……なんて言うんですか? つぶすっていうかパワー系のスタイルだと、体重が65キロまで戻っちゃうと、すごい(武尊が)有利だと思って、こういうルールにしたと思うんですけど、ルール的には間を取っていないと思いますね。どっちかというと天心くん寄りなのかなと」

「昔は体重も全部回復できると思って、そっちの予想でしたけど、蓋を開けたら同じ体重で、筋肉も削らないといけない。ってなったら(勝つのは)技術がある天心くんなんじゃないかなと思いますね」

また、堀口は試合1週間前に公開されたABEMAでのインタビューでも、「(武尊は)不利ではないですけど、キツいと思います」と、やはり前日計量から当日の試合3時間前での戻しが62キロまでしかできない点に触れ、天心の勝利を予想した。

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オープニングマッチの段階での会場風景。数時間後には記録的動員を果たすことに…

50億円興行という経済効果

さまざまな紆余曲折を経て行われた、天心VS武尊戦。そしてこれをメインに据え、RISE対K-1の対抗戦を含む、全16試合(うち1試合はオープニングファイト)がマッチメイクされた「THE MATCH2022」は、格闘技界にかつてない経済効果ををもたらした。

「チケット売り上げ20億、ペイパービュー50万件 25億スポンサー5億、計50億。観客数59000人すべての興行記録塗り替えたね。選手、並びに全ての関係者に心より感謝いたします。ありがとうございました!バラさんご苦労様でした。そして新たなスタートです」

正道会館の石井和義館長は、試合直後に当たる午後10時19分、自身のツイッターに投稿。その際、「THE MATCH」の開催された東京ドームのVIPルールで撮影したと思われる、今回の主催者・RIZINの榊原信行CEOとのツーショット写真を添えていた。

その数字がすべて正確なものかは定かではないが、興行記録を塗り替えたことは事実だろうし、それだけ格闘技の底力を満天下に見せつけたことは言うまでもない。

直前で放送中止を決めたフジテレビは本当に運がないと思った関係者がいるのもよく分かるが、「塞翁が馬」のことわざにもあるように、人生の幸・不幸は予測しがたいもの。ここからどう巻き返すのかは見ものでもある。

ともあれ、昨年のクリスマスイブにあった天心と武尊の両者が出席した初の会見の際には、榊原CEOも「過去最高のファイトマネーを用意する」と豪語していたし、天心、武尊の双方にはそれなりのファイトマネーが用意された。

つまりは、お互いに譲れるところを譲るだけの対価も、両者はもちろん、両陣営なり関わった全団体にも割り当てられているのだろう。

さらにいえば、アントニオ猪木VSモハメッド・アリ戦(1976年6月26日、日本武道館)という「世紀の一戦」が45年以上たっても語られ続けているように、天心VS武尊が「世紀の一戦」であれば、50年後の格闘技ファンにも伝説となって語り継がれている可能性は十分にあり得る。

そう考えれば、そんな試合を闘えた運を持つ両者は本当に幸せだったと思えてならない。

振り返れば、いくら強すぎてもライバル(仮想敵)をうまく設定できなかったために、その個性を世間にインパクトのあるカタチで示すことができないまま、リングを降りてしまったファイターだっている。

格闘技界の歴史をひも解くならば、プロレスではジャイアント馬場とアントニオ猪木が、キックボクシングでは沢村忠と藤原敏男が交わることなくリングを去っていった例もあったが、時代は変わり、とくに21世紀に入ってからは、お互いの生息する生態系をうまく尊重し、お互いが譲歩し合いながらたどり着ける領域が存在することが分かってきた。

要は、奪い合えば足らず、分け合えば余る。

なにより今回の場合、「鎖国」に近い政策を取ってきた新生K-1が、今回に限った特別措置として他団体との対抗戦に踏み込んだ点が大きい。まさに「溜めと至福」とはこのことである。いや、選手・関係者だけではない。「観る側」にもコロナ禍にさんざん苦渋を舐めさせられてきたがゆえの「溜めと至福」も加わったのだ。

今後はこの教訓と課題を糧に、次なる「THE MATCH2」の機運と開催を心待ちにしながらこの項を終えたいと思う。

選手・関係者・取材陣・観客・視聴者の皆さま、あらためてお疲れ様でした。

“Show”大谷泰顕

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