6種類以上の薬の併用で認知症に似た症状も... 家族の異変を見逃すな

6種類以上の薬の併用で認知症に似た症状も... 家族の異変を見逃すな

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/09/16

「462万人の認知症患者の1割近くが治る!」 その見極めポイントとはから続く

認知症と共にある人生を穏やかに送ることは十分可能。しかしそのためには本人や家族だけが背負うのではなく、ケアマネジャーと話し合い、介護保険サービスをフル活用することが必須となる。よいケアマネとの出会いこそが、よい「認知症生活」への近道なのだ。(全2回の2回目/前編を読む)

“治る認知症”の中には、手術が有効なものもある。特発性正常圧水頭症(iNPH)だ。滋賀医科大学脳神経外科学講座の山田茂樹助教が解説する。

「認知症を看ていても未だにiNPHのことを知らない、という医者もいます。脳の表面にあるくも膜下腔と脳の内部にある脳室という空間、さらに脊髄腔内には、脳脊髄液という無色透明の液体があります。脳脊髄液は脳内で産生された老廃物をリンパ管や静脈などを経由して脳外へ排出しますが、加齢以外の原因がないのに脳脊髄液の排出ができなくなり、蓄積してしまうのがiNPHです」

iNPHには特徴的な症状がある。患者の約9割に、他にはあまり例のない歩行障害が発生するという。

No image

©文藝春秋

「ほとんどの方が、歩く際につま先がハの字型になり開脚歩行、つまりガニ股になります。さらに歩幅が狭くなり、すり足で小刻みにしか進めなくなる。

8割近くの方に、物忘れや気力の低下なども認められます。歩行障害があるので、家に引きこもってぼんやりしがちで、より認知症のように見られてしまいます。六割の方には尿失禁も発生します」(同前)

山田氏は、こうした歩行障害を検知する「iTUG」というアプリを開発した。iPhoneにインストールすれば、誰でも自分の歩行状態を確認できる。

特徴的な歩行障害があれば、CTやMRIなどの画像診断を行う。脳室や脳の下部のくも膜下腔が大きくなり、脳の上部のくも膜下腔が狭くなる特徴的な脳脊髄液の分布(DESH)によってわかるという。画像診断でiNPHが疑われた場合には、試験的に腰から脳脊髄液を抜いて、症状の変化を観察する(タップテスト)。

脳の静脈が切れて……

確立されている治療法としては、脳脊髄液を腹腔内へと逃がす管を挿入する、シャントと呼ばれる手術がある。洛和会音羽病院・正常圧水頭症センターの石川正恒所長によれば、頭蓋骨に小さな穴を開け、そこから脳室に管を刺すV-Pシャント術は、術後二時間もすれば歩け、その日のうちに歩き方が改善する例もたくさんあるという。

脊髄の腰のあたりから腹腔内へ排出させるL-Pシャント術もある。

「手術を受ける側としては、こちらの方が気持ち的にも選択しやすい面がある。ただ、腰が曲がって腰椎が変形している高齢者などは選択できないこともある。また、脳脊髄液を排出させる細い管がすり切れ、再手術が必要になるケースも出てくる。70歳以上に再手術をするリスクを考えると、やはり確実なV-Pシャント術を薦めています」(石川氏)

慢性硬膜下血腫も、気づきにくい「治る認知症」だ。山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター長で国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授の内山真一郎氏が解説する。

「頭をぶつけるなどの外傷により、硬膜とくも膜の間に血液が溜まってしまう疾患ですが、高齢者に多いのが特徴です。

アルツハイマー型認知症でなくても、加齢に伴って脳は少しずつ萎縮し、頭蓋骨と脳の間の距離が広がっていきます。頭蓋骨と脳の表面は架橋静脈という血管で繫がっていますが、その静脈が伸びた状態になる。そこに衝撃が加わることで、簡単に切れてしまう。

厄介なことに、激しい転倒や頭部への衝撃でなくても、ちょっとよろけて柱や壁に頭をぶつけただけでも、発症してしまいます」

アルコールを多飲する人は脳の萎縮が進んでいるケースが多く、慢性硬膜下血腫になりやすいという。

認知症の薬が命に関わる

また、高齢者の脳には小さな梗塞がいくつかあり、ワーファリン、アスピリンといった抗血栓薬、抗凝固薬を服用している人も多い。どうしても出血しやすくなるためリスクが高くなる。普段から、引っかかって転びやすいカーペット端やコードはないか、大きな段差がないかなど、家の中の環境にも気をくばる必要があるだろう。

この病気が恐ろしいのは、忘れた頃に症状が出始めるということだ。

「“慢性”とあるように、急な大量出血は起こさず、じわじわと出血していき血腫が大きくなります。症状も数カ月経った頃に出るので、本人が頭をぶつけたことを忘れているケースも多い。聞かれて初めて思い出す方もいますが、要はその程度の外傷でも起こるということです」(同前)

その結果、脳の表面が圧迫され、記憶が曖昧になったり、物忘れが激しくなり、無気力になるといった認知症のような症状がでてくるのだ。頭痛など、出血に伴う他の症状はそれほど出ない人も多いという。

症状が現れるのが遅いため、慢性硬膜下血腫とは気付かれずに認知症と誤診されるケースが多い。そのまま認知症薬などを飲み続けていると、命に関わる可能性もあるという。

「放っておけば血腫がじわじわと大きくなります。脳は硬い頭蓋骨に囲まれているため、圧迫され続けると行き場がなくなり、下部、脳幹の方へ押し出されるという脳のヘルニアが発生します。ここは呼吸や血液循環などを司る中枢神経が集まっているので命に関わる。認知症と誤診して放置されていると、最悪のケースでは植物状態になってしまうのです。きちんと頭部のCT検査をすることが重要です」(同前)

慢性硬膜下血腫が見つかった時は、どのような治療が必要なのか。

「穿頭洗浄術、穿頭ドレナージ術といった手術が必要になりますが、脳外科手術としては比較的簡単な部類に入ります。あくまで脳の表面に出血しているので、頭蓋骨に穴を開け、溜まった血液を抜くだけ。一週間程度で退院が可能です。退院する頃には認知機能も回復しているはずです」(同前)

6種類以上の多剤併用は注意

意外なことで認知症に似た症状が出ることもある。

脈拍数が落ちてしまう徐脈もその一つ。認知症は基本的には急激に進行することはない。ところが、この数日で急にボケてきたとか、朝起きてきたら何かおかしい、返事も曖昧になっている、というケースがある。

そのような時は、まずは脈拍と体温を測ること、と話すのは前出の長谷川氏。

「70歳以上の1分間の脈拍数は通常は60から100くらいです。ところが、徐脈になり脈拍数が50、40まで落ちると、意識障害が出てしまいます。全身へ酸素を運ぶ血流量が落ち、脳への血流量も落ちてしまうからです。こうした場合は、不整脈や、脳塞栓の原因にもなる心房細動を疑う必要があります。心房細動は脈が早くなったり遅くなったりと不規則になり、血流が3分の2に落ちてしまうといわれています。

薬で脈のコントロールをしたり、場合によってはペースメーカーを入れる必要がありますが、それによって認知機能は回復します」

発熱も気がつきにくい認知機能低下の原因だ。高齢者は、気温や体温の感じ方が鈍くなっている。夏場なのに厚着することで服の中に熱がこもり、体温が上がって微熱状態になる。発熱によって脱水症状に陥り、意識障害が出ることがあるという。

薬剤性による症状も大きな問題だ。ポリファーマシー(多剤併用)が症状を引き起こすことがあるのだ。

認知症の在宅医療を中心にする、たかせクリニックの髙瀬義昌理事長がいう。

「6種類以上の薬を同時に飲んでいると、さまざまな弊害が出てくるという研究結果があります。認知機能低下もその弊害の一つ。

薬の種類によっても認知症に似た症状を引き起こすものがあります。代表格は、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安薬です。睡眠薬代わりに処方されている方も多いですが、できれば他の薬に変えた方がいいと思います。薬を減らす外来を行う病医院もでき始めています。一度、飲んでいる薬を見直すことも大切だと思います」

治る認知症チェックポイント

またビタミンB¹、B¹²が欠乏しても認知機能が低下する。ウェルニッケ脳症と呼ばれる疾患だ。

「本来は胃の切除手術や、アルコール多飲などが原因でビタミンB群が不足し発症します。ところが最近は、一人暮らしのお年寄りはコンビニ食で炭水化物や脂質の多いものばかり食べがちで、不足している人が多い。マルチビタミン&ミネラルのサプリメントを取り入れるのも一案です」(同前)

「治る認知症」を見つけるサインは必ずある。家族やパートナーの異変を見逃さないよう、医療知識を備えておくことが大切だろう。

◆ ◆ ◆

続きは『最新予防から発症後の対応まで 認知症 全部わかる!』に収録されています。

(「週刊文春」出版部)

「週刊文春」出版部

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加