高齢の親の実家を片付ける方法をプロが伝授「床に散らかっている物は親がよく使っている物」

高齢の親の実家を片付ける方法をプロが伝授「床に散らかっている物は親がよく使っている物」

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  • 更新日:2023/09/19
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(写真はイメージ/GettyImages)

高齢の親の実家の片付けをして「親とケンカになってしまった」という人は意外と多い。実家の片付けは、どこから手をつけて、どのように片づければ、スムーズにできるのだろうか? 介護福祉士として介護の現場で働いた経験を持つ、片づけヘルパーの永井美穂さんによると、実家の片付けは親に寄り添うことが大切だそうだ。「例えば『床に置いてあるもの』は、単に散らかしているのではなく、親が『日頃からよく使っているもの』。単に見えないようにしまえば良いというわけではない」と話す。プロに教わった、実家の片付けの手順やコツを紹介する。

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■実家の片付けを成功させる3つの準備事項

いよいよ片付け本番。となると、「とりあえず実家を訪ねて、目についたところから順番に片付けていこう」と考える人も多いが、慌てるなかれ。片付けを効率的に進めるには、その前にやるべきことがある。

「実家の片付けは、準備が8割と言っても過言ではありません」

こう話すのは、実家片づけアドバイザーの渡部亜矢さん(実家片づけ整理協会代表理事)。散らかった家ほど、片付けには計画性が必要だ。そのため“とりあえず”で動き始めるのではなく、最短ルートでのゴールを目指して準備することが必要だという。

片付けを効率的に進めるための主な準備事項は3点だ。

親に電話をして、やることをイメージする

聞き取りをもとに、やることリストを作成する

ゴミ収集日は必ず電話で確認する

実家に帰ったときの記憶をさかのぼったり、親に電話をかけて現状をさりげなく聞き出しながら、着手する前に片付けの全体像をイメージしておくことがポイントだ。

実家の片付けの準備事項3点について、それぞれ説明しよう。

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週刊朝日 2023年3月17日号より

■(1)実家の片付けの準備 親に電話をして、やることをイメージする

まずは(1)「親に電話をして、やることをイメージする」。電話を通じて片付けのポイントはもちろん、親の健康状態のほか、最近の行動範囲を推測する。

「これを聞き出しておくことで、実家の片付けを行う上での心構えがしやすくなります」(渡部さん)

さらに「さあ、始めよう!」と思ったときについ、形から入ってしまう人は要注意。片付け前に収納グッズや片付けグッズを買ってしまうと、サイズが合わなかったり、結局使わないままになって、ゴミが増えてしまうこともある。その最たる落とし穴と言えるのが、収納ボックスだ。

特にNGなのが、組み立て式の収納ボックス。もともと片付けが苦手な人は、買えば収納が解決すると思って買ってしまうが、組み立てることをせずに買いっぱなしになってしまうことが少なくないという。

「買ってから、5~10年は経過しているであろう中身が空っぽの収納ボックスが、箱からも出されずに放置されている光景を、何度片付けの現場で見たかわかりません」(同)

そのため、どうしても収納場所が必要なら、まずは今まで使っていた家具を工夫して使ってみること。そして片付けが全て終了し、物が減ったときに初めて、適切なサイズのものを購入しよう。

【親に電話をして聞きたい質問リスト】

日常生活のチェック
「買ってきてほしいものある?」
「衣替えしたの? 涼しくなったけど布団はどうしてる?」
⇒親が最近何がほしいのか、どんなことに興味があるかをチェック。

置きっぱなしにしているもの・使っていないものをチェック
「廊下に置いてあった段ボールの中身は何?」
「あそこのタンスって何が入っているんだっけ?」
「2階のあの部屋は、最近使ってるの?」
⇒重い物が運べないかチェック。使っていないか、忘れてしまっているかをチェック。部屋の使用頻度や、足腰が弱ってないかをチェック。

健康状況をチェック
「病院はいつ行っているんだっけ?」
「薬を入れる引き出しはどこ?」
⇒通院状況や薬の種類が増えていないかチェック

■(2)実家の片付けの準備 聞き取りをもとに、やることリストを作成する

次に(2)「聞き取りをもとに、やることリストを作成する」。片付けを始めると必ずと言っていいほど、「なんでこんなところにこんなものが」などと、壁にぶち当たる。そのたびに作業がストップし、そのうち「もうこの辺でいいや……」と中途半端な状態で切り上げてしまいたくなる。

「そうならないためにも、最初から全部片付けることをゴールにしないことが大切。まずは部屋ごとや、トイレまでの動線など、小さな空間から片付けていくことを意識して取り組んでください。最終的な“実家を片付ける”という大きなゴールを細分化していくことで、モチベーションの維持にもつながります」(同)

【やることリストの例】

廊下のものをなくす。段ボールの中身を出す。
⇒何も物が置かれていない安全な廊下にする

リビングの床や椅子の上に置かれている物をしまう。
⇒友達や親戚を呼んで食事ができるようにする

キッチンシンクの下の使わないものを捨てる
⇒キッチンで大人2人が楽々動ける空間にする

■(3)実家の片付けの準備 ゴミ収集日は必ず電話で確認する

さらに(3)「ゴミ収集日は必ず電話で確認する」こと。意外に忘れがちだが、実家がある自治体のゴミ収集日のチェックは、自宅にいるうちに済ませておいたほうがいい。なぜならゴミ収集日から逆算して、片付ける目標やスケジュールを立てる必要があるからだ。

たかがゴミ収集日と侮るなかれ。実は、ゴミ出しにはスケジュール管理のみならず、ゴミをまとめる、分別する、ゴミを運ぶなど、年老いた親にとっては高度な要素がたくさん詰まっている。そのため、ゴミ収集日と片付けるスケジュールが合っていないと、子どもが帰った後に大量のゴミ袋が残ってしまい、親にとっては大きな負担になってしまう。

中には部屋に積み重なったゴミ袋を見ているうちに、袋を開けて、せっかく捨てたはずのものを部屋に戻してしまう親もいる。

「実は、実家に物が増えていく原因の一つに、親がゴミを捨てるのが面倒になってくるというものがあります。その結果、ゴミが家の中にたまってしまう例もたくさん見てきました。片付けの段取りを考える上でもゴミ収集日は重要で、特に大きなものを片付ける日は、人の確保も必要ですし、身内に頼めないようなら業者の手配も必要になってきます。そのため、ゴミ収集日は、動く前に必ず確認するようにしてください」(同)

■片付けを最速・最短・最効率的にする3つのコツ

さて、ここまで準備をした上で、ようやく片付けの実践だ。それぞれのエリアごとに片付けを始める前に心がけてほしいのが、次の3点。渡部さんが「片付けを最速・最短・最効率的にするために絶対に欠かせない3点」と呼ぶ法則だ。

使うものだけを目に見える場所に

使わないものは捨てる

一時保管箱を活用する

まず一つ目が、「使うものだけを目に見える場所に」。基本的に、見える場所にしまうのは、日常的に使うもの“だけ”。注意しなければならないのが、「使える」と「使う」は全く違うということ。目に見える場所に出して良いのは、日常の中で実際に使っているものだけに厳選する。

次に、「使わないものは捨てる」。壊れたものや汚れたもの、使えないものは迷わず捨てること。高齢になるほど、日常の中で使うもの・使わないものはハッキリしている。「いつか使うかも」と取っておいたものでも、長期間使っていないままの状態が続いているなら、思い切って捨てよう。空いたスペースを有効活用できるし、普段使うものだけの状態のほうが、掃除も片付けもしやすく、何より安全に暮らせる。

三つ目が「一時保管箱を活用する」こと。一時保管箱とは、捨てるか捨てないかを迷ったときに入れる「一時的に保管しておく箱」のこと。箱は、プラスチックの衣装ケースでも、段ボールでも、ゴミ袋でもOK。ただし必ず見える場所に「一時保管箱」と、「半年後の日付」をセットで書いておくとわかりやすい。

この一時保管箱の存在は重要で、誰しもが持つ“捨てることへの罪悪感”をなくしてくれる役割がある。捨てる・捨てないをその場で判断するのではなく、“とりあえず一時的に保管しておく”という安心感があるため、片付けも進みやすい。一時保管箱は、半年ぐらい開けることがなければ、“使わないもの”として認定すること。もし一度も開けることがなければ、そのまま開けずに処分しよう。

「片付けで一番時間がかかるのは、捨てるか捨てないか、迷うものの判断です。特に物を捨てたがらない親世代は、無意識のうちに“捨てなくていい理由”を頭の中で探しがち。片付けには体力がいりますが、それ以上にこうして頭を使うので、疲れるのです。そんな中で、この一時保管箱という“逃げ道”があれば、迷う時間を短縮できる上に、疲れも最小限に抑えることができます」(同)

これらの法則を踏まえた上で、親に寄り添った片付けができると良い。

「親に寄り添うなら、まずは『片付け=綺麗にすること』ではないという認識を持って。高齢の親のために行う片付けは、自宅で少しでも長く生活できるよう、安心・安全・健康に暮らせる片付けが目標です」

こう話すのは、介護福祉士として介護の現場で働いた経験を持つ、片づけヘルパーの永井美穂さん。

■床に置いてあるものを片づける時の注意点

例えば、「床に置いてあるもの」は、単に散らかしているのではなく、親が「日頃からよく使っているもの」。そのため、「これをよく使っているのだな」と認識した上で、取り出しやすい場所、使いやすい場所に置くことが大切だ。床に置いてあるものを、単に見えないようにしまえば良いというわけではない。

「床に物があると、子ども世代は“あ~あ、こんなに散らかしちゃって”と片付けがちですが、親からしてみれば、しまうとわからなくなるから、床に置いているのです。あえて出しっぱなしにしているのと、だらしなく散らかしている状態とは別物であることを理解して」(永井さん)

その上で、転倒防止のためにも、床に物を置かないように促す。転倒の主な原因には、床に置いてある物につまずく、床に積んである荷物が崩れて、それにつまずくなどがある。そのリスクを避けるためにも、床には極力、何も置かないこと。床に置いてある物を親に確認しながら片付けると、日頃から何をよく使っているのか知ることができる。

「転倒して骨折し、入院すると筋肉が弱って、寝たきりになってしまう可能性もあります。特にマットなどの段差につまずいたり、滑ったりして転倒してしまう可能性もあるので、滑りやすいマットは敷かないほうがいい」(同)

収納も、高齢者には身体に負担がかからない場所を考える。ポイントは「高低」と「動線」だ。まずは、椅子などに乗らないと取れない天袋への収納や、しゃがまないと取れない場所への収納はやめること。日常的に使うものや使用頻度の高いものは、目の高さから腰の高さまでの取り出しやすい適度な高さに置く。

高齢になると身体機能が衰え、これまでのような動きができなくなることがあるため、椅子や脚立に乗らないと取れないような天袋や棚の高い場所に収納しているものは、なるべく下ろしたほうが良い。同様に、床下収納など、しゃがんで物を取る動作は、高齢になるほど身体に大きな負担がかかる。そのため、床下などにしまっているものも、取り出しやすい位置に移動させる。

次に、動線を考えた物の置き場所を考えること。例えば出かけるときのカバンや時計など、身につける順番が決まっているものは、近い場所に置く。キッチンの収納もしかりで、コンロの近くに木べら、菜箸、調味料を置くなど、料理しやすい動線を考えて物の置き場所を決めよう。

「親世代は、収納がうまく機能していないと『やりたいのにできない』という気持ちになりがち。年とともに身体機能が落ちてくる傾向を踏まえて、なるべく物の出し入れがしやすい位置と動線の中に、よく使うものを置くように工夫しましょう」(同)

■実家にある自分の荷物から片付け始めるのがコツ

また、実家が片付かない原因の中で意外と多いのが、子どもの物が実家に置いたままになっているケースだ。もし実家に置きっぱなしにしている物があるなら、最初に自分の荷物の整理から手をつけると良い。親は子どもの物が目につく場所にあると、それが意外なストレスになって片付ける気力が出ないという場合もあるという。子どもは「なんで親は片付けないんだろう」と思っても、親からすれば「あなたの物があるから」ということになるのだ。子どもが親に「実家にある自分の物は全部捨てて良い」と言ったとしても、親としては子どもの物は捨てづらいという。

「親は子どもの物が邪魔でも手を出せないもの。実家が片付かないのは、実は子どもの荷物のせいというケースも少なくないのです。そこで実家を片付けたいなら、まずは実家にある自分のものを引き揚げましょう。すると親も自然と片付けようという気になるはずです」(同)

実家の片付けは、好きなところから始めようとすると失敗しがちなので要注意。まずは子どもが「自分の物の整理から」と着手したり、親の思い入れの少ない場所から片付けるのがコツだ。

「親世代は、たとえ家族であっても、他人に片付けてもらうことを恥ずかしいことだと思っている場合が多い。その気持ちを考慮した上で、なるべく親の思い入れの少ない場所から片付けをスタートするのが、お互いに揉めずに、片付けのゴールまでたどり着きやすい」(渡部さん)

■親に物を手放してもらう魔法の言葉は「ちょうだい」

最後に、親とケンカせずに物を手放してもらうための魔法の言葉が「ちょうだい」。「こんなものいらない」じゃなく「ちょうだい(欲しい)」と言われると悪い気はしない。むしろ自分のものが必要とされて嬉しいと感じる親が多い。

「自分のものになれば、あとは自分でいる、いらないを決められます。もらってしまえば、あとは子どもが判断すればいいこと。『これ、捨てていい?』『いや、まだ使うから』と埒が明かないときには、ぜひ使ってみて。一気に片付けが進む魔法の言葉です」(同)

片付けは親孝行のチャンスでもある。少しでも長く安心・安全・健康に暮らせる空間に住んでもらうためにも、この春ぜひ取り組んでみては。(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日2023年3月17日号

松岡かすみ

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