
「範」を示すべき厚労省の職員が
「宴会」「会食」「卒業式」「入学式」「結婚式」はすっかり、世間の風紀を乱す「反社会的行為」になってしまったーー。
「まん防」が導入された大阪では「見回り隊」が登場し、各飲食店がきちんとコロナ感染対策をしているか、客が「マスク会食」なる天下の珍マナーを実践しているかをチェックするのだという。
テレビの夜の街レポートは「アッー! あの人たちマスクしていませんね!」が定番になった。もはやマスクをしているかどうかがまともな人間か否かを判断する「絶対的指標」といった状態になっている。

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この1年2ヵ月、テレビは「コロナはヤバ過ぎます!」という論調で報道しまくっている。だからこそ、我が国の健康を司る厚生労働省の老健局異動職員23人が3月24日、23時台まで宴会をしていたことが発覚した時は、ここぞとばかりにボコボコに叩きまくった。
厚労省は世論にビビりまくり、この会合を主催した老人保健課長を大臣官房付に更迭した。そして4月8日には、このうち3人の陽性が発表された。同局では他にも3人が感染したというが、経緯は分かっていないという。
「大人数の会食はしない」「21時には切り上げる」「会話時はマスクをする」といったことを国民にお願いしてきた、「範」を示すべき厚労省の職員がものの見事に全部を破ったのだから、ワイドショー的にここまでおいしいネタはない。
各局は早速、街頭インタビューに出て、「考えられない!」「我々は我慢しているのに!」「反省してもらいたい!」「これに合わせて国民の気が弛む!」といった模範解答を善良なる市民から獲得した。
一方、ネット上には「厚労省の役人が23人の大宴会をしたんだからコロナって大したことないんじゃね?」といった類のツッコミが多数入った。だが、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)を筆頭に、テレビも新聞も皆一様に厚労省の危機感の無さを徹底的に批判した。
ここまでは、「欲しがりません、勝つまでは!」と粉骨砕身した戦時中の日本国民的メンタリティに合った見事な流れだったといえよう。
玉川徹氏「ちょっと許せない」
そんな中、4月6日付けの読売オンラインにこんな記事が登場した。
●テレ朝「サンデーLIVE」放送終了後に送別会、4人感染…局「自覚欠く行動で大変遺憾」(https://www.yomiuri.co.jp/national/20210405-OYT1T50197/)
送別会の参加者は9名で、そのうち6人が2次回へ行き、4人が陽性となった。記事では、テレビ朝日が発表した「番組を通じて感染拡大防止を呼びかける立場にありながら、自覚を欠く行動があったことは大変遺憾であり、深く反省している」というコメントを紹介した。
『サンデーLIVE』は他のテレビ情報番組同様、「コロナはヤバい」路線だった。そして、この記事が登場した日(火曜日)に放送された同局の『モーニングショー』ではテレ朝社員コメンテーターの玉川徹氏が謝罪をしたうえで、「同じ新型コロナの問題を伝える立場としても恥ずかしい」「ちょっと許せない」と述べた。

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これに対してネットでは「さぁ、みなさんの今までの姿勢からいくと、送別会に参加した社員は、謝罪ではすまないのでは?」という書き込みがあった。その通りである。
これまで散々、厚労省を糾弾し、コロナの恐怖を煽っては厳正なる処分を求め続けたテレビ朝日さんならば、『サンデーLIVE』のプロデューサー更迭ぐらいやっておかないと整合性が取れないのではないか。
私はもちろん、そんなことを本気で言ってはいない。厚労省は宴会課長を処分しなくてもよかったし、そもそもテレビ局もあそこまで彼らを苛烈に叩く必要はなかったと思っている。
日本中、コロナに過剰反応し過ぎなんじゃないか。本当に呆れた。去年の5月ぐらいから私はずーーーーーっとこの論調で原稿を書いている(5月までは私も「コロナはヤバい」派だったことをここで告白する)。持病や既往症のある高齢者以外ほとんど死なないウイルスを題材に、いつまでこんな馬鹿げた騒動を続けるつもりなのか。
結局のところ「コロナ対策の徹底を!」を呼びかける厚労省の役人も、「コロナはヤバいです!」と訴えるテレビ番組のスタッフも、「コロナなんて別にたいしたことない」と思ってるから宴会をしているのだろう。それでもこの1年2ヵ月ほどの間「未知のウイルスです!」とやり続けた手前、もはや両者とも対外的には論調を戻せない状態になっているのだと思う。
そうした中、厚労省職員と番組スタッフはつい、行動で本音を出してしまった。それだけのことだ。玉川氏的には、はらわたが煮えくり返っただろう。「なんでオレの言ってることの説得力を減らすような余計なことをするんだ! 後ろから鉄砲玉撃ちやがって!」と。
今度は大阪府の職員が身をもって
そして、次なる大物が来た。「見回り隊」を大々的に動かし、「マスク会食義務化」を提唱した大阪府知事・吉村洋文氏の身内からの反撃の狼煙である!
「大阪自動車税事務所」に勤務する大阪府職員が、7人×2のグループで、マスクをつけずに送別会を行ない、3人が陽性となったのだ。吉村氏はすぐさまこうツイートした。
〈 大阪府は府民の皆様に感染対策をお願いしてる側で、あってはならない許されざる行為です。府民の皆様に心からお詫び申し上げます。厳正処分と府庁職員の全調査、再発防止を徹底します 〉

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そして、「4人以下のマスク会食をお願いする中、府の職員がそれを破ったということは、あるまじき行為でありますし、ここは厳しく対応していきます」と会見では述べた。これは「府の信用を失墜させる行為」だとし、厳正な処分を行うほか、他にも5人以上の会食をしていないか調査すると述べた。
これまた私としては「大阪府の職員、『マスク会食』に意味がないことをよくぞ伝えてくれた!」と思ったところであるし、「5人以下」にも科学的根拠がないことを身をもって示し、そして自らの処分をもって人身御供になってくれた、と気の毒ながらも感謝する次第である。
そもそも吉村氏自身も昨年7月の会見で「5人という数字に科学的根拠はない」と言っていたではないか。
かつての吉村氏であれば、ここまで強く職員の処分をちらつかせなかったかもしれないが、今は状況が違う。何しろ緊急事態宣言を一都三県に先駆けて解除し、その後大阪の陽性者数が激増してやり玉に挙げられ「マスク会食」の徹底を呼び掛けただけに、「何やってるんだよ!」という怒りが湧くのも仕方がない。
この3つの件について、というか、コロナについては要するに、「しょうがない」のである。メディアや専門家は「自粛疲れ」や「気の弛み」などと表現するが、違うのだ。真実は以下である。
新型コロナが大して危険ではないウイルスであることがジワジワと人々の心に浸透してきた。多くの人が「騒ぎ過ぎ」だと思っており、もはやマスクもアクリル板も消毒液も「コロナしぐさ」だと分かっている
これまでは「全員自粛」のスタンスで行動してきたが、ここからは日本人が大好きな「自己責任」の考えで「感染が怖い人や基礎疾患のある高齢者は今まで通り家にいろ。怖くない人およびかかっても構わないという人はマスクを外して外へ出ろ」でいいのではないか。
こうなると「陽性者が増えまくって医療崩壊する」という指摘が出るだろうが、そもそもの問題は、テレビと専門家が「コロナはヤバ過ぎ!」と昨年の2月から言い続け、収まりがつかなくなったことなのだ。
尾身会長の「お気持ち」
今回は、これまで散々危険性を述べてきた厚労省、テレビ朝日、大阪府という3つの組織に所属する人々が、組織の方針に真っ向から反したわけだが、もうこうなったら「コロナがヤバくなる人は少数いるが、大多数はそこまでヤバくない」といった方向に舵を切ればいい。
そしてコロナ感染症を「2類」(ポリオ・結核・ジフテリア・SARS等)から「5類」(インフルエンザ・手足口病・破傷風等)に引き下げれば、「コロナ差別」を減らすこともできる。
コロナの治療については、持病のない健康な人であれば、通常の風邪やインフルエンザと同じく自宅で数日間じっとしていれば治る、といった報告もある。街医者で「はい、お薬出しておきますね。安静にしてくださいね。今週は会社は休みましょうか」とやればいいのだ。
それでも怖い人は徹底的に家に籠っていればいい。なぜ、過剰に怖がる人ないしはリスクの高い人に国民全員が行動を合わせなくてはいけないのだ。

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政府分科会の尾身茂氏は3月、参議院予算委員会でこう述べている。
「今年の冬からさらに1年ほどがたてば、このウイルスに対する不安感や恐怖心が、だんだんと季節性インフルエンザのような形になっていくと考えている。多くの人がインフルエンザと同じような気持ちを持ったときがいわば終息のような感じになるのではないか」
要するに「コロナは“お気持ち”」と言い放ったわけだが、今回、この3つの組織がこれに対していずれも処分ないしは謝罪をし、神妙な面持ちで「あってはならないことをした……」的な態度を取ったことで、尾身氏が言うところの「お気持ち」が到来する日はまた延びた。
もう一生やっててくれ! というのが私の今の正直なお気持ちである。