短いサビ、中低音ブラス、カッティングギター......アイドルポップスのトレンドを探る|「偶像音楽 斯斯然然」第74回

短いサビ、中低音ブラス、カッティングギター......アイドルポップスのトレンドを探る|「偶像音楽 斯斯然然」第74回

  • Pop'n'Roll(ポップンロール)
  • 更新日:2022/01/15
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短いサビ、中低音ブラス、カッティングギター……アイドルポップスのトレンドを探る|「偶像音楽 斯斯然然」第74回

多種多様なサウンドを聴かせるアイドル楽曲。今回は、その中にも存在するトレンドを一般的なポップミュージックと比較しながら考察。アイドルポップスの現在、そして未来の潮流について、冬将軍が独自の視点で綴っていく。

『偶像音楽 斯斯然然』

これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

アイドルシーンにさまざま音楽ジャンルが混在していることは今さら説明するまでもないのだが、時折冷静になって考えてみるとあり得ないほどのその幅の広さに驚く時がある。乱暴な言い方をすれば、アーティストやバンドではちょっと古く思ったり少々野暮ったさを感じたりするものでも、アイドルではそれが個性になることも少なくはない。いろんな意味で、自由と可能性に満ち溢れたシーンでもある。

とはいえ、トレンドはある。アイドルはメインストリームのカルチャーではないが、国内外ヒットチャートのポップミュージックの影響を受けて楽曲が制作されることもあるし、シーン特有の流行もある。現在、そして未来におけるアイドルポップスのトレンドを一般的なポップミュージックと照らし合わせて考えてみる。

ポップミュージックのトレンドを知るにはK-POPシーンを見るのが早い。K-POPがなぜ人気なのかといえば、それだけ流行に敏感で、そこを研究された制作が行なわれているからである。

2021年12月1日にデビューしたIVEは、すでに日本をはじめ多くの国から注目を浴びている韓国のガールズグループだ。

IVE「ELEVEN」から考える新たなトレンド

IVEは、IZ*ONEでは最年少だったユジンがリーダーを務め、同じくIZ*ONEのウォニョン、そして日本人メンバーのレイが所属する6人組。メンバーの平均身長が169cmと、近年の韓国ガールクラッシュを象徴するようなビジュアルの強さを持っているが、最年少のイソはまだ14歳……。いったい何を食べたらこんな大人びた14歳になるのだろう……とうもろこし茶か……?

そんなIVEのデビュー曲「ELEVEN」の快進撃。2022年1月中旬の時点でYouTube再生回数は6,400万を優に超えている。

IVE「ELEVEN」

「ELEVEN」は音数を抑えたミニマルなサウンド構成ながら、随所に散りばめられた中東風味が韓国語詞と混じり、良い意味でミスマッチとなって無国籍で妖艶な雰囲気を作り出している。前奏らしい前奏も間奏もなく、近年主流の短めのトータルタイムよりさらに短めの3分3秒ながら、一旦BPMを低くして助走をつけながらポップなサビへ持っていく、という隙のない展開でドラマティックな印象を受ける強曲。一聴してのインパクトは少なめながらも、ついついリピートしてしまう曲の長さと、聴けば聴くほどに魅せられていく中毒性は今や海外ポップミュージックの常套句である。

一旦BPMを低くしてポップなサビへ、という手法は、妖しいラップ的な平歌から解放感のあるポップなサビへと移行する別曲感を繋ぐブリッジとしてウマく機能している。ヒップホップやラップミュージックでは珍しくはない手法だが、ポップミュージックでここまで大胆に使用されることは珍しく、新鮮に聴こえる。2022年は、サビ前に一旦BPMを低くする手法が流行るかもしれない。

SNSの“切り取り”による、短くなっていくサビ

「ELEVEN」は曲線的でなだらかなダンスも魅力的。TikTokで「#ELEVENchallenge」をスタートさせた。2022年1月中旬の時点で、同ハッシュタグは460万視聴に迫る勢いであり、モーニング娘。’22の森戸知沙希やAKB48の本田仁美をはじめ、多くのアイドルも挑戦している。

このBPMを低くしてからのサビへの突入部分は、短い時間で見せるTikTokにおける導入部分として最適であり、切り取りやすさを含めて、バズることに長けていると言っても言い過ぎではないだろう。

2021年、TikTokでバズったアイドルソングといえば、超ときめき♡宣伝部「すきっ!〜超ver〜」だ。

超ときめき♡宣伝部「すきっ!〜超ver〜」

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同曲は2018年の曲をリアレンジ、再レコーディングしたものだが、なんといっても耳に残る《すきっ!》の連呼フレーズが、TikTokの切り取り文化にバッチリハマったことも勝因の1つだろう。「すきっ!〜超ver〜」は旧曲であるが、アイドルファンのみならず、音楽ファンの間でも大きく注目を浴びた、ばってん少女隊の「OiSa」はまさにそこを狙って制作された楽曲である。TikTokではないが、呪文のようにくり返される《OiSa》の連呼がリスナーの耳を襲い、多くの人がその奇妙な中毒性に侵されたわけである。

ばってん少女隊「OiSa」

先述のとおり、楽曲自体の尺は短く、前奏も極力少なくするのがポップミュージックのトレンド、主流になっている。そこにあるものはリピート再生のしやすさ。一般リスナーのメインとなる音楽再生手段がオーディオ機器からスマートフォンへと移り変わり、音楽を聴く行為自体が手軽になっていることも大きいわけだが、実売数よりも再生回数へと変わったストリーミング市場も影響している。さらにSNSで切り取られた楽曲はアプリ上でループ再生されるのだ。その究極形態が《すきっ!》や《OiSa》という言葉の連呼であると言える。

これについては、「OiSa」の作曲者である渡邊忍(ASPARAGUS)が“サビが短くなっている”、“印象づける時間が短くなっている”という現代ポップスの傾向を分析し、その最短形態といえるのが「OiSa」であると語っている。

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タイアップから多くのヒット曲が生まれた90年代は、30秒や60秒といったテレビCM尺に合わせてサビが作られ、それが話題となってはじめて平歌部分が作られて楽曲リリースに至る、ということが多くあった。そこまでとは言わないにせよ、TikTokをはじめ、SNSで切り取られることを想定した短いサビ、わかりやすい構成、そこを踏まえた楽曲制作が今後もっと意識されていくことだろう。

EDMのドロップとビルドアップ

IVE「ELEVEN」の“サビ前に一旦BPMを低くする”手法が流行るかもしれないと考えるのは、現在、EDMにおける“ビルドアップ”が重宝されているからだ。ビルドアップとは、EDMのドロップ(EDM曲において最も盛り上がるパート)に向かう助走箇所のことを指す。具体的には、“タタタタタタタタ〜”とスネアロールやクラップの刻みなどをだんだん速くして煽っていくことが多い。

言わずもがな、世界的なEDMの隆盛はJ-POP、そしてアイドルポップスにも大きく影響を及ぼしている。ただ、“EDM=エレクトロニック・ダンス・ミュージック”が誤用されていることも多く見受けられる。単純にエレクトロニックサウンド(電子音)が使われているダンスミュージックであれば、そのすべてがEDMというわけではない。

では、EDMとはなんなのか。

エレクトロニックサウンドを武器とするグループ、EMPiREを例に挙げる。「IZA!!」はダンスミュージックではあるがサビがあるためEDMではない。「WE ARE THE WORLD」はサビがなくドロップがあるため、こちらはEDMである。ライブ映像を観ればわかりやすいが、「WE ARE THE WORLD」で1番の盛り上がりを見せている箇所(0:45〜)はボーカルパートではない。これこそがドロップであり、ここに向かっていく助走が、ビルドアップだ。MAYU EMPiREパート(0:42〜)からのMiDORiKO EMPiREの煽りの裏で捲し立てるような電子音が鳴っているのがわかるだろう。

EMPiRE / WE ARE THE WORLD [EMPiRE’S GREAT REVENGE LiVE] @Zepp DiverCity

EDMを定義する大きな特徴として以下の2つが挙げられる。

・ほぼすべてがシンセサウンドで構築されるダンスミュージック

・サビがない(曲の1番の盛り上がりは歌のない“ドロップ”と呼ばれるインストパート)

そもそもサビとはJ-POP特有の概念なので、正確にいえば、楽曲で1番盛り上がるパートにボーカルが存在しないということである。

以前、アメフラっシ「メタモルフォーズ」がEDMのお手本のような曲であると、サウンドを含めて解説したことがあるので、興味があれば読んでみてほしい。

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サビを盛り上げるためにBメロという概念ができたわけだが、もっと極端に“くるぞ、くるぞ(ざわざわ)……、キターーッ!!”というのが、EDMのビルドアップ→ドロップの関係性である。

EDMのお手本のような曲 アメフラっシ「メタモルフォーず」

サビ代わりのドロップ(1:17〜)に向かうための助走パート(1:10〜)がビルドアップ

ドロップに向かうための助走であるビルドアップは楽曲の盛り上がりとして汎用性も高く、EDMでない通常のポップスで使用されることもある。最近の曲でいえば、INUWASI「Lapse」。サウンド含めてEDMを意識している楽曲であるが、サビが存在しているのでEDMではない。というよりも、ドロップにボーカルを載せたといった方が正しいかもしれない。ビルドアップからのサビという流れで、破壊力を帯びたキャッチー性を生み出すことに成功している。

EDM風アイドルソング INUWASI「Lapse」。サビが存在するのでEDMではないのだが、ビルドアップ風のパート(1:06〜)を用いることでサビの爆発力を高めている

また、Kolokol「Lullaby」は逆の手法であり、EDMの楽曲構成をポップスへと綺麗に落とし込んだ楽曲。1番の盛り上がりを見せる、フロアが一斉に両手を翳して天を煽る光景こそまさにドロップの正しい形であり、そこに至る《Do Do Da Lu〜》の後半でビルドアップが行なわれている。刹那く儚いメロディと幻想的なサウンドプロダクトを含めて、グループの特性でもあるお伽噺世界観を持つ楽曲のため、ダンスミュージックという印象は薄いのだが、楽曲構成を見れば完全にEDMというわけだ。

EDM構成を絶妙にポップスへと落とし込んだKolokol「Lullaby」。みんな大好き\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/←がドロップで《Do Do Da Lu〜》の後ろで鳴っているのがビルドアップ

バストロンボーンにチューバ、中低音管楽器の重厚感

近年、ダンスミュージックのサウンド面で注目を浴びたのは、BLACKPINK「Kill This Love」における中低音管楽器のホーンサウンド。

BLACKPINKバンドについては幾度となく触れてきたが、重厚感の要となっているのがファンファーレに呼応する中低音管楽器

これまでホーン、管楽器のアレンジと言えばトランペット主体のブラスアンサンブルやサックスなどのジャジィなもの、はたまたスカといったものが多かったわけだが、BLACKPINKはエレクトロ特有の重低音に、バストロンボーンやチューバといった中低音管楽器を重ねることによって、電子楽器では得られない新たな重厚感とゴージャス感を生み出すことに成功し、ダンスミュージックにおけるサウンドの新基軸となった。音源とは別モノとして、ライブではアフリカ系の凄腕ミュージシャンを起用した、ラウドなバンドセットを展開してきたBLACKPINKらしいこだわりから生まれたものなのだろう。

NEO JAPONISM「TRAUMA」はそうした中低音管楽器をエレクトロとトラップ風の楽曲に見事に落とし込んだ好例だ。

NEO JAPONISM「TRAUMA」

バストロンボーン+チューバによる荘厳な響きがエレクトロのシーケンスと交わり、無重力的な空間を作り出しながらも、サビでは生ロックバンドが差配するアンサンブルによって輪郭がはっきりとする。緊張感を煽るようなストリングスも絶妙で、緻密なサウンドプロダクトとラップから流麗なメロディに変化する重なり方が秀逸すぎる、恐ろしいほどの完成度。聴けば聴くほどそのすごさがわかる、いぶし銀的な名曲。これまで多くのNEO JAPONISM楽曲を生み出してきた山本隼人による楽曲だが、King & PrinceやSixTONESなど、多くのメジャーアーティストを手掛けてきた、氏特有の嗅覚とセンスを持って生まれた楽曲だ。そしてこれがMEGMETAL作曲の新感覚和製EDM「TOMOSHIBI」に繋がっていったはず。正直これはアイドルポップスのニーズではないとは思うが、制作者と表現者の音楽探求と独自性という部分では至極真っ当の深化だ。これこそがアイドルの大きな可能性であるだろう。いいぞ、もっとやれ!

NEO JAPONISM「TOMOSHIBI」

そして、誰もシラナイ。「ハナイチモンメ」。表題どおりの童謡メロがエレクトロと交錯していくナンバー。

誰もシラナイ。「ハナイチモンメ」

エレクトロサウンドの厚みを中低音管楽器が足している。そのサウンドが前に出ているわけではないが、明確に存在感を示している。楽曲全体を通してダンスチューンなのにデジロックの香りがする不思議な耳当たり。オリエンタルなメロの中毒性、語尾をひっくり返す発音は、「OiSa」と同じベクトルのK-POP解釈でもある。日本人の土着性を裏切るレゲエっぽいブレイクがいい感じの不気味さを醸す、異様なほどの強度を持った楽曲だ。

誰もシラナイ。は、前回の年始好例企画「ギターがカッコいいアイドルソング」を通して初めてちゃんと聴いたグループなのだが、楽曲制作による真摯な姿勢、メンバーのポテンシャルを含めて、今年注視していきたいグループである。

海外からの影響ではなく、日本独自のサウンドもある。ボカロロックに見られるような、DTMならではの発展を遂げたバンドサウンドだ。オケ主体でライブを行なうアイドルとは親和性が高い。

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エッジの効いたカッティングギター

その代表的なサウンドがカッティングギターだ。「ギターがカッコいいアイドルソング」でも、カッティングギター楽曲の存在は大きかった。

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櫻坂46「流れ弾」のコリー・ウォンばりのミニマルファンクが、メジャーらしい手間暇をかけたアイドルポップスとして君臨する一方で、インディーズのライブアイドルシーンにはsituasion「1988」や美味しい曖昧「圧倒」といった、ブリティッシュのニューウェーヴにルーツを持ちながら、ポストロックやマスロックを昇華したような邦ロックバンド風のカッティングが目立つ。これはアイドルに限らず、ボカロシーンもそうであるし、そもそも邦ロックバンドシーンでこういったバンドサウンドが確立されていることが大きいだろう。

すっぽ抜けていくようなリズムとそこに絡むカッティング、不条理的なポップセンスがたまらない 美味しい曖昧「サプリメ」

数年前に“邦ロックのBPMが上がっている”ことが話題になった。4つ打ちのダンスロックをベースにした楽曲がブームとなったのである。それはバンドのみならず、アイドルにも波及した。

“くるくるとーん”の振りでお馴染みの誰もが認めるダンスロックキラーチューン 夢みるアドレセンス「ファンタスティックパレード」(2016年)

非4つ打ちのダンスロックナンバーとして当時センセーショナルだったCheeky Parade「Hands up!」(2016年)は、現在多くのラウドロックアイドルがやっているデジロックダンスチューンの先駆け

興味深いのは、ギターサウンドである。近年は真空管アンプのクランチサウンドよりも、“クリスタルクリーン”と呼ばれる、ライン直のようなコンプでハイ(高音)を持ち上げた鋭利なサウンドが好まれている傾向がある。それは宅録を主体とする近年の制作環境が大きく影響しているだろう。

DTMロック〜ボカロロック風楽曲の今どきなギターサウンドによるカッティング曲といえば、Payrin's「イドラホリック」(2020年)

個人的に“ジャズマスター系”と呼んでいるのだが、ジャズマスターを使っている(いそうな)オルタナティヴロックバンドが増えたことも、サウンドやプレイ自体が大きく変わった要因だと考える。最近の若いバンドマンにとってのフェンダーのギターといえば、ストラトキャスターでもテレキャスターでもなく、ジャズマスターだそうだ。ジャズマスターは、ほかのフェンダーギターに比べて倍音の抜けが弱く、音の立ち上がりも遅いため、ハイを強調したサウンドメイクとなる。

現代的とは相反する70〜80s’ブリティッシュなギターサウンドとコードワークが通好みなQUEENS「Flagship」(2018年)

NightOwlの最新EP『不完全な夜でも』収録「暁闇」が、今勢いのあるジャズマスター系バンド、そこに鳴るの鈴木重厚(Gt, Vo)の楽曲提供というのも、今どきのバンドとアイドルの関連性を物語っているように思える。

ライブキッズが一斉にツーステを踏み出す光景が広がる、ノリのよいリズムと音符を下から上へと抉っていく激情メロディといった、Emo(イーモウ)の発展型ロックがラウド系アイドルの一翼を担っている一方で、エッジの効いたギターのカッティングが唸りを上げているというのが、現在のロックアイドルのシーンである。

今回取り上げたのはアイドルポップスを構成する要素のごく一部にすぎない。これからまた新たなトレンドや聴いたことのないサウンドが生まれていくはず。最後にもう1回言っておくが、アイドルとは自由と可能性に満ち溢れたものである。

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偶像音楽 斯斯然然

冬将軍

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