「おもちゃとジェンダー」老舗メーカーが挑む難題

「おもちゃとジェンダー」老舗メーカーが挑む難題

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/08/06
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子どもの好奇心に根差した商品開発の重要性を語るピープルの桐渕真人社長(撮影:今井康一)

磁石でくっつく知育玩具「ピタゴラス」シリーズや抱き人形「ぽぽちゃん」などを手がける老舗玩具メーカー、ピープル。価格競争を勝ち抜く戦略として、「子どもの好奇心」を深掘りする商品展開やマーケティングを強化している(詳細は8月4日配信記事:知育玩具「ピタゴラス」爆売れでも会社が抱く焦燥

ただ、そうした戦略で売り上げ成長を目指すにはさまざまな課題もある。顕著なのは子ども自身や親の意識、そして業界全体に横たわる「ジェンダーの壁」だ。桐渕真人社長に、その分析を聞いた。

おもちゃの「外箱」で遊びだす子ども

――なぜ「好奇心」を軸に据えた研究開発を重視するのでしょう?

子どもの好奇心の研究は、実はまだ進んでいない部分も多い。つまりここを突き詰めることで、ピープルが好奇心研究の最先端になれる可能性がある。価格競争も激しくなる中、レッドオーシャンではない独自の成長領域として切り開いていけると思っている。

他社のものも含め、さまざまな玩具を乳幼児に与えてどんな反応をするかを観察してみるのだが、例えばいざ買ってパッケージごとわたすと、おもちゃ本体ではなく外箱で遊びだすというのはよくあること。「この透明な物体は何だろう?」とそちらに興味を持つのは素直な反応だ。

このような反応を受け止めた商品づくりをしようというのが、ピープルの開発姿勢なのかなと思う。コロナ禍でできなくなってしまったが、以前は社内に設置したモニタールームで週に3、4回、乳幼児とその親を招いて遊んでいるところを観察し、商品開発につなげていた。

希望に応じ、こうした手法について他社にシェアすることはあったが、それでもここまで深く「好奇心」という部分に根差した開発を行っている会社はうちだけだと思っている。

――子どものためのものでありつつ、選んで買い与えるのは親。純粋な好奇心とはどうしても隔たりができてしまうようにも感じます。

悩ましい部分だ。商品開発においても、どちらかというと親、とりわけお母さんの言葉というのを強く意識してしまうことがある。気づいたらお母さんのための商品を作っていたということもあるし、実際そういう商品も販売している。

ただ、開発の原点はあくまで子ども。それを第一に考えたい。そうしてできた商品を、親御さんにどう伝えて買ってもらうかというのはまた次の話、というふうに分けて考えていけばいいのかなと思っている。

その伝え方の面では、今まで「ピープル」という社名を出さずに行ってきたPRを少しずつ変えたい。われわれの商品は赤ちゃんが生まれてから2歳くらいまでで”通りすぎて”しまうものが多い。メーカー名を覚えてもらうより商品そのもので勝負することを重視してきた。

ただ、赤ちゃんと真摯に向き合って商品開発していることを、親御さんやビジネス界隈、メディアなどにしっかり伝えていくことで、大人目線で「なんだこれ」と思う商品でも子どもは喜ぶかもしれないと、選んでもらうきっかけになるだろう。2022年4月に新しい広報チームを立ち上げた狙いはここにある。

ヒットした「ねじハピ」の裏事情

――好奇心を追求した先には「ジェンダーレス化」もあると。

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ヒットにつながったDIY玩具「ねじハピ」にも、実は悩ましい点が(撮影:今井康一)

重要なテーマの1つになっている。われわれが明確にジェンダーのテーマをもったのは去年くらいからだが、これまでも子どもに対し「好奇心をストップさせなくていいんだよ」という商品開発・施策は行ってきた。

例えば2018年に発売したDIY玩具「ねじハピ」は、女の子も電動工具を使ってみたいよねという発想のもとに開発した商品だ。親からもこういう商品が欲しかったとの声をもらい、大きなヒットにつながった。

――ただ「ねじハピ」はピンク系の配色で、ジェンダーレスというよりは明確に「女の子向け」を意識した商品のように見えます。

そのとおりで、ここが非常に悩ましい。実際ねじハピは(楽しそうに遊んでいる女の子の様子を見るなどして)男の子からも関心を得ている商品で、販売店の方からは「男の子向けも出してほしい」といった声が多く寄せられていた。

そこで男女関係なく買ってもらえるよう、寒色・暖色の中間的な配色にしたものを発売したのだが、いざ出してみると、これがまったく売れなかったのだ。

――なぜ売れなかったのでしょう?

ねじハピは「かわいい×DIY」だからこそ売れた。ピンクにしたことで、女の子にとって「私のためのものだ」という意識を持ちやすく、手に取りやすかったのだろうと思う。この「手に取ってもらう」という部分にすでに大きなハードルがあり、背景には、子ども自身が自分の好奇心に100%従えていないという課題がある。

例えば小学校低学年の私の長男と運動靴を買いに行った際、店頭で真っ先にピンクでキラキラした靴に目を止めたことがあった。すると店員さんがすかさず、「それは女の子用だよ」と話しかけてきて。それ以来彼はずっと「ピンクは女の子のだ」と言うようになった。

店員さんに悪気はなかったはずだが、こういうバイアスはどこかでかかってしまうものだ。子どもが本当に興味があること、親や周りの大人に疑問符をつけられると委縮してしまう。

ほかにも、(子どもを観察する中で)例えばお人形のお世話をする遊びに熱を上げていた男の子が、ある年齢からそれを恥ずかしがったり、隠れてするようになったり、ということがよくある。

かつて「ぽぽちゃん」のCMに男の子が遊んでいる様子を起用したこともあったが、(購買動向への)反応はあまりよくなかった。ジェンダーレスといっても、単に商品デザインやマーケティングのクリエイティブで男女の分け隔てをなくすだけでは、ヒットは生まれない。

「男尊女卑」の感覚がすでに

――大人だけでなく、幼稚園や保育園で同年代の子どもとかかわる中で、子どもは「こうあるべき」という基準を内面化してしまうのですね。

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桐渕真人(きりぶち・まさと)/1979年生まれ。2005年、当社入社。2016年、自転車事業部長就任。2016年、執行役就任。2017年、取締役兼執行役就任。2019年、取締役兼代表執行役就任(撮影:今井康一)

しかも、男の子遊びとされるものに女の子が手を出すハードルより、女の子遊びとされるものに男の子が手を出すハードルのほうが圧倒的に高いという傾向がみられ、”男尊女卑”的な感覚がこんな小さな子どもにすでに身についてしまっているのか、と驚く。

ジェンダーレスな商品を売るのが難しいのは、流通側の事情もある。商品の買い付けを行うバイヤーや陳列棚が、実質的に男児・女児向け玩具で分かれているケースはまだまだ多い。ジェンダーレス化した商品を量産しても、売るためにはさまざまなハードルがあるということだ。

――一筋縄ではいかない課題ですね。

今ようやく、日本の玩具業界でもジェンダーバイアスを何とかしようという動きは出始めている。当社として次はどのようなステップを踏んでこのテーマに取り組んでいくか、改めて考えているところだ。

男女の問題に限らず、また子どもに限らず、好奇心を丸出しにして「私はこれが好きなんです」「これをやりたいんです」と言いづらい世の中になっていると、日々気づかされる。それなのに、大人になって新卒採用の試験などでは「好奇心が大事」と言われる。教育や生活の実態と合っていない感がある。

玩具は子どもたちが人生のごく最初のほうに触れて卒業していくもの。好奇心のままに遊べるよう、メーカーとしてできることをしていきたい。

(武山 隼大:東洋経済 記者)

武山 隼大

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