もうすぐ打ち上げの強化型イプシロン、デザインに込められた想いとは?

  • マイナビニュース
  • 更新日:2016/12/01

●強化型イプシロンでは何が変わったのか

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月24日、イプシロンロケット2号機に関する記者説明会を開催し、初号機(試験機)からの変更点や、現在の状況などについて説明した。イプシロンの打ち上げは、2013年9月以来、約3年ぶり。ジオスペース探査衛星「ERG」を搭載し、12月20日に内之浦宇宙空間観測所より打ち上げられる予定だ。

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イプシロンロケットの森田泰弘プロジェクトマネージャ

強化型イプシロンとは?

イプシロンロケットは、全段固体の3段式ロケットである。第1段としてH-IIAロケットの固体ロケットブースタ(SRB-A)を採用することで低コスト化を実現。大きな特徴は、「モバイル管制」「自律点検」といった新技術を搭載したことで、これにより、ロケットの打ち上げシステム全体をシンプル・コンパクトにすることを目指す。

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イプシロンの開発には、M-VロケットとH-IIAロケットの技術が活かされている (資料提供: JAXA)

2号機は「強化型イプシロン」の初フライトとなるもので、試験機とは外観がやや異なる。直径は2.6mで変わらないものの、全長は24.4mから26.0mへと、1.6m延長。打ち上げ能力(太陽同期軌道)は、450kgから590kgへと、3割ほど向上する。

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試験機(左)と強化型(右)。見分けるポイントは段間部の違いだ (C) JAXA

JAXAの森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャは、強化型の開発について「ロケットのコンセプトで重要なのは、機体と設備と運用。試験機では設備と運用を効率的に変えた一方で、機体は既存技術を最大限活用して大きく変えていなかった。今回の2号機では機体そのものを改革し、高性能・低コストな技術に挑戦した」と説明する。

<イプシロンロケット2号機のプロモーションビデオ (提供:JAXA)>

大きく改良されたのは第2段だ。試験機では、M-Vロケットの第3段モーター「M-34」をベースに改良した「M-34c」が使われていたが、2号機は新開発の「M-35」に変更。直径を2.2mから2.6mに大型化、推進剤の量が10.7トンから15.0トンに増えたことで、より重い衛星を搭載できるようになった。

※昨年12月に実施したM-35の燃焼試験については、現地で取材を行ったので以下のレポート記事を参照していただきたい。

【レポート】新しく生まれ変わったイプシロン…「強化型」では何が変わったのか

試験機では、第2段はフェアリング内に格納されていたのだが、この大型化により、第2段は外部に露出し、その上にフェアリングを乗せる形に変更された。第2段が抜けたぶん、フェアリング内の衛星搭載スペースが広くなり(高さ4.7m→5.4m)、より大きな衛星にも対応することが可能となっている。

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強化型イプシロンでの変更点。より重く、大きな衛星を搭載できるようになった (資料提供: JAXA)

今後の開発ロードマップ

以上の2点が大きな変更点だが、そのほか、細かな改良もいくつか実施されている。たとえば機体構造では、「第1段機器搭載構造」(B1PL)がアルミ製のスキンストリンガー構造から、CFRPスキン/アルミハニカム構造に変更。形状がシンプルな円筒形になり、軽量化とともに、製造性が大幅に向上した。

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機体構造の変更。さまざまな改良を行い、より作りやすく、軽くなった (資料提供: JAXA)

またコンポーネントでは、第2段と第3段に搭載される「電力シーケンス分配器」(PSDB)の小型・軽量化を行った。試験機では実績のある機械式リレーを採用していたが、強化型では半導体リレーに変更。これにより、重量は20kgから10.6kgに半減した。

PSDBは点火に使われる装置で、極めて高い信頼性が求められる。こうした場所は特に新しいものに変えにくいのだが、試験機からの3年で信頼性の問題をクリアし、搭載に漕ぎ着けた。「低コスト化のためには、アビオニクスの部品をどんどん最新のものに置き換える必要がある」(森田プロマネ)とし、今後も改良に取り組んでいくとのこと。

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新型のPSDBを開発。従来はいまだに機械式リレーが使われていた (資料提供: JAXA)

イプシロンには、固体3段の「基本形態」に加え、小型の液体推進系「PBS」を追加した「オプション形態」がある。固体ロケットは特性上、軌道投入精度は液体ロケットよりも不利であるが、最終段にPBSを乗せることで、液体並みの精度を実現する。2号機は基本形態、3号機はオプション形態で、この2機を打ち上げて強化型の開発は完了となる。

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強化型のスペック。第1段と第3段も、試験機から一部改修している (資料提供: JAXA)

なお試験機の形態での打ち上げは1回だけで終了となり、以降は当面、強化型が使用される見込み。強化型は打ち上げ能力を向上しつつ、コストについては試験機と同等であるため、あえて試験機を使う理由はないからだ。2号機の打ち上げコストは50億円(安全管理5億円を含む)。今後、コストは段階的に削減していく計画だ。

ただ、2020年にはH-IIAロケットの後継機となるH3ロケットが完成する予定で、それに伴い、第1段にしていたSRB-Aが利用できなくなる。その段階で第1段をH3の固体ロケットブースタ(SRB-3)に切り替える必要があるため、今回の強化型も使われるのは数年間だけということになるだろう。

機体デザインに込められた意味

強化型では、機体のデザインも若干変更されている。目をひくのは、中央付近に描かれた2重の矢(ダブルアロー)。これは、イプシロンロケットの革新性がこれからも続くことを表しているという。また、射場がある肝付町の伝統行事が流鏑馬(やぶさめ)であり、このイメージも重ねた。なおダブルアローについては2号機限定の塗装になるそうだ。

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2号機の塗装。ダブルアローは2号機のみとなる (C) JAXA

そしてもうひとつは、ちょっと気づきにくいのだが、細いラインの色の変更だ。太い赤線の隣に描かれているもので、従来は銀色だったラインが、強化型では紫色になっている。赤と紫は光のスペクトルの両端であり、この2色を描くことで、幅広く利用できるロケットを目指していることを表しているという。

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イプシロンのロゴの右側に、紫の細いラインがあるのがわかるだろうか (C) JAXA

日本の固体ロケットは東京大学にルーツを持つこともあり、長らく科学分野だけで使用されてきた。イプシロンも2号機までは科学衛星となるが、3号機では地球観測衛星「ASNARO-2」を搭載する。科学衛星から実用衛星まで、国内衛星から海外衛星まで、官需衛星から商業衛星まで、イプシロンを幅広く使って欲しい、というわけだ。

JAXAは、イプシロンの顧客となり得る海外衛星の需要を「年間5機程度」と見る。この獲得を目指すうえで、まず大きな課題はコストだ。以前、森田プロマネはコストについて「定常段階で38億円」と説明していたが、H3がまだ開発中ということもあり、最終目標の金額については現在検討中とのこと。これをどこまで下げられるかが鍵になるだろう。

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イプシロンは競争力を高め、JAXAミッション以外の打ち上げ需要も狙う (資料提供: JAXA)

イプシロンの強みとして、森田プロマネが挙げたのは利便性の高さだ。振動の少なさや、投入精度の高さは、試験機で実証済み。衛星分離時の衝撃の低減は、3号機で適用する。また柔軟な対応が可能ということもアピール。2号機では衛星側からの要望により、電波をシールドする追加対策を射場にて行ったこともあったそうだ。

低コスト化を進めつつ、プラスアルファの付加価値を出していくことで、今後増加する小型衛星のニーズに対応する。森田プロマネは、「国内外の需要を取り込み、数年先には年間2機くらいのペースで打てるようになれば」と期待。そのためには、まずは2号機の打ち上げを成功させ、その後も実績を重ねていく必要があるだろう。

森田プロマネの自信のほどは?

試験機では2回目の挑戦で成功したものの、1回目には直前(19秒前)の打ち上げ中止という、産みの苦しみもあった。この原因はソフトウェアの不具合であったが、その後、再発防止の対策として、総点検活動の常時化、エンドツーエンド試験の徹底、などに取り組んできたそうだ。

今回の自信を問われた森田プロマネは、「打ち上げに100%の自信は絶対必要だが、自信があっても成功するかどうかはわからないという世界。ひとみ(X線天文衛星)の件で思い知ったのは、我々はどんなに気をつけていても、成功と失敗の狭間にいるということ。ちょっとでも自信がない部分があれば失敗に直結してしまう」とコメント。

しかし、そんな厳しい世界であっても、「今までみんなで考え抜いてきた。それが自信になっていて、今は100%を超える数字が私にはある」と森田プロマネは語る。現在、2号機は射場で全段の組み立て・点検を行っているところ。今後、リハーサルを実施してから、いよいよ本番の打ち上げに臨む。

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イプシロン2号機の準備状況。現在は全段が組み立てられた状態だという (資料提供: JAXA)

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