経済ニュースの"ここがツボ" (94) 「小池劇場」失速の本当のワケと日本経済の行方(下) - 道半ばのアベノミクス、今後のカギは「改革」

経済ニュースの"ここがツボ" (94) 「小池劇場」失速の本当のワケと日本経済の行方(下) - 道半ばのアベノミクス、今後のカギは「改革」

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/11/15
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○この5年で株価も実体経済も様変わり

日経平均株価は11月7日に1996年6月の高値を上回って約26年ぶりの高値をつけたあと、一時は2万3000円台に乗せましたが、その後は下落幅がやや大きくなっています。急ピッチで上昇が続いてきた反動などで短期的には調整してもおかしくないところですが、それでも株価上昇の基調は続くとみています。

前号では、株価が約26年ぶりの高値をつけたことは景気回復の実態を反映していると指摘しました。「景気回復の実感がない」とよく言われますが、景気がここまで回復している事実を正確に認識することが重要だと改めて強調したいと思います。

ここ数年の景気回復もたらした最大の要因はアベノミクスの効果です。第2次安倍内閣が誕生するきっかけとなった2012年11月の衆院解散が決まった時、ちょうど5年前の日経平均株価がどのぐらいだったか、皆さんは覚えているでしょうか。なんと8664円でした(野田首相=当時=が「衆院解散」を表明した2012年11月14日)。それが5年間で約2.6倍の約2万3000円に上昇したのです。円相場は1ドル=79円台でした。それが今では113円台です。

実体経済もこの5年間で様変わりしました。有効求人倍率は0.82倍から1.52倍(2017年9月)に、そのうち正社員は0.49倍から1.02倍(同)に上昇、失業率は4.1%から2.8%に低下しました。企業の純利益額(3月期決算の上場企業)は2012年3月期の8兆8644億円から24兆9845億円へと2.8倍に増えて過去最高となっており(東京証券取引所集計)、2018年3月期はさらに10%余り増益となる見込みです。

このように景気が良くなったわけですが、それでもまだ十分ではありません。日本経済がデフレから完全に脱却し競争力を取り戻すには、アベノミクスのさらなるパワーアップが必要です。そのためには今後どのような政策が必要なのでしょうか。ポイントは3つあります。

○「賃上げは社会的要請」~安倍首相は3%賃上げを後押し

第1は、賃金上昇を後押しすることです。最近の経済データが大幅に改善している中で、賃金はほとんど上昇しておらず、このことが「景気回復の実感がない」と言われる最大の原因です。したがって賃金上昇によって、国民一人一人の生活レベルに景気回復の果実が行き渡るようにすることが必要です。

安倍首相は総選挙後の10月下旬、経済界に対して来年春に3%の賃上げを要請する考えを表明しました。本来は各企業が決める賃上げ率について、首相が数値を挙げて要請するというのは異例です。これには異論もありますが、安倍政権が賃上げを重視していることの表れであり、その姿勢は評価できるといっていいでしょう。

また政府・自民党は賃上げへの環境を整備するため、3%以上の賃上げを実施した企業を対象に給与支払額の増加分の一部を法人税から控除できる軽減措置などを検討しています。こうした政策をさらに拡充して賃上げを後押しすることが期待されます。

そして何よりも企業経営者自身が賃上げに前向きになることが重要で、安倍首相が発言したように「賃上げはもはや社会的要請」です。多くの企業は長い間、厳しい経済環境が続いていたため賃上げを最大限に抑制してきたわけですが、そろそろ思考回路を転換して前向きな経営に転換することが求められています。

賃上げが進めば消費にプラスとなり、景気回復の流れを一段と加速することになります。

○成長政略のさらなる拡充・加速を~法人税引き下げなど

第2は、アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略を一段と拡充・加速することです。成長戦略は目先の景気対策ではなく、中長期的な日本経済の成長と競争力強化をめざすものです。法人税改革、規制改革、農業改革、イノベーション、IT革命推進、グローバル化、東京五輪と訪日外国人増加、さらには女性の活躍や子育て支援、教育無償化など少子高齢化・人口減少に対応する取り組み…… など多岐にわたりますが、いずれも重要なものばかりです。

そのひとつとして、ここでは法人税改革について見てみます。実は今、世界は法人税引き下げ競争の様相を呈しています。ドイツが2000年代に入ってから法人税の税率を35%から25%、そして15%と2段階で一気に引き下げたの続いて、イギリスはこの約10年で法人税率を30%から19%まで段階的に引き下げました。すでに中国より低くなっているのですが、さらにメイ政権は2020年までに17%まで下げる方針を表明しています。

一方、米国ではトランプ政権が法人税率を現行の35%から20%に引き下げることで議会共和党指導部と合意、これを受けて上院と下院で調整中です。1年先送り案も出ているので法案成立は不確定ですが、いずれにしても法人税率の20%への引き下げという方向はまず間違いないところです。

またフランスのマクロン大統領も33%から25%に引き下げる方針を打ち出しています。これらに対して日本の法人税率は23.4%(2018年度は23.2%の予定)ですが、国税である法人税と地方税(日本の場合は法人事業税・法人住民税など)の税率を合わせた実効税率で比較すると29.97%(2018年度は29.94%の予定)です。これは、米国やフランスの引き下げが実行されると、今のままでは日本が世界で最も法人税の高い国になってしまうことを意味しているのです。

法人税率が高いということは、グローバル市場で日本企業が競争していくうえで不利になります。日本企業の国際競争力を高めるためには、また外国企業の日本への投資を増やすには、法人税の引き下げが欠かせません。日本はここ数年は小刻みに税率を引き下げていますが、欧米主要国の引き下げには後れを取っているのが現状です。実効税率で25%程度まで引き下げることが必要だと思います。

第3は、少子高齢化・人口減少にどう対応するかについての総合戦略を示すことです。少子高齢化と人口減少が日本の最大の課題であると同時に、多くの人が将来に不安を抱いている背景にもなっているからです。すでに前述のように成長戦略で、女性の活躍、子育て支援、幼児教育無償化などの対策が打ち出されていますが、それらを含めて年金改革、医療改革などが不可欠です。

○アベノミクスのパワーアップ、「改革」がカギ

以上の3つの点を実行できるかどうか、今後のアベノミクスにとっての勝負どころと言えるでしょう。そのためには、これまで以上の大胆な改革が求められています。規制改革をはじめ既存の制度や仕組みを変える改革を実行しなければ、経済の持続的成長と経済再生を成し遂げることはできないでしょう。「改革」がカギなのです。

小池都知事は希望の党の立ち上げに際して「改革保守」をめざすと言明しましたが、選挙後はその基本路線さえもあいまいになっています。経済政策の面で与党と「改革」で競うような、しっかりとした総合的な政策を早く策定してもらいたいと思います。それこそが希望の党が進むべき道でしょうし、与野党がそうした建設的な議論を活発に展開することによって、さらに経済活性化につながることを期待したいものです。

政府は当面まず、12月中に今年度の補正予算案と来年度の予算案を編成しますが、その前段として新たな経済政策をまとめるとの報道が出ています。それは前述の内容を中心としたものになり、いわばアベノミクスのパワーアップ版となることに期待したいところです。

当面のもうひとつの注目点は、日銀の総裁人事です。現在の黒田総裁は、第2次安倍内閣が発足して間もなくの2013年3月に就任し、同年4月の「異次元の金融緩和」に踏み切りました。以来、安倍首相と協調して、アベノミクスの第1の矢である金融緩和を推進してきました。その黒田総裁が来年3月で任期切れを迎えているため、安倍首相がだれを後任総裁に指名するかが注目されているのです。

市場では黒田総裁の再任説が有力です。黒田総裁のこれまでの実績、安倍政権と協調姿勢、そして今後も金融緩和路線の継続方針をとるとみられることなどがその理由です。もしほかの人が指名される場合でも、金融緩和を継続する考えを持っている、安倍政権との協調が見込まれる―― などが条件になるとみられますが、年内から年明けにかけ人選が本格化しそうです。

さらに少し先の話になりますが、来年の秋ごろには2019年10月実施予定の消費税10%への引き上げについて最終決定しなければなりません。今回の総選挙で安倍首相は増税による税収増加分の半分を幼児教育無償化に回す方針を表明し選挙の争点のひとつになりましたが、今後は国会審議などで議論が活発化していくことなりそうです。

*  *  *

※2017/11/15 追記

この原稿が掲載された11月14日、小池東京都知事が希望の党の代表を辞任することを表明しました。「創業者としての責任を終えた。都政に邁進していきたい」と語りましたが、「小池劇場」は幕引きもまた電撃的でした。

しかしこれで希望の党がどこへ向かうのか、ますますわからなくなりました。後任の代表には共同代表に選ばれたばかりの玉木雄一郎氏が就任しましたが、すでに共同代表選で憲法改正や安全保障問題などで路線対立が表面化しています。ここで小池氏が代表を辞任したことは、結党の精神も失われてしまうことになるような気がします。

本稿で、希望の党が総合的な経済政策を早く策定して「改革」で与党と競ってもらいたいと書いたばかりですが、早くも期待薄のようです。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」

オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」

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