ソフトバンクはなぜ「金食い虫」WeWorkへの投資をやめないのか?

ソフトバンクはなぜ「金食い虫」WeWorkへの投資をやめないのか?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/11/19
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昨日、ついに正式発表がなされたヤフーとLINEの経営統合のニュース。世間の関心がその話題に移ったのを見て、ソフトバンクグループの面々は安堵しているかもしれない。6日に発表された2019年7~9月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が7001億円の赤字と文字通り「ボロボロ」だったからだ。
足を引っ張ったのは主力のファンド事業。中でもWeWork(ウィーワーク)の価値を高く見すぎたことについて、孫正義氏も反省の弁を述べた。

それにしても、なぜソフトバンクは「金食い虫」ウィーワークに資金を注ぎ込み、追加投資まで決めたのか? 米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、「巨象ファンド」の引くに引けない事情を解説する。

キャッシュが燃える!

「ボロボロでございます」

ビジョンファンド の巨額損失で営業赤字が7000億円を超えた四半期決算の説明会、ソフトバンクグループ(以下ソフトバンクG)の孫正義会長はこう切り出した。スクリーン上に映し出されたのは、大嵐で荒れる暗い海の映像。

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この後すぐLINEとヤフーの統合話が出てきて世の中の関心が切り替わったのは、ソフトバンクGにとっては幸いだっただろう。

英語で出費がかさんでキャッシュがどんどん減っていく状態をキャッシュバーンというが、まだ利益の出ないスタートアップ企業が一定期間に必要とする資金のことをバーンレイト(burn rate) ともいう。スタートアップに投資するベンチャーキャピタル(VC)にとっては重要な指標だ。

バーンレイトを直訳すると「燃焼率」。何を燃やしているのかというとキャッシュだ。現金が燃えるイメージは、クリストファー・ノーラン監督のバットマン映画「ダークナイト(2008年)」で、ヒース・レジャー扮するジョーカーが山積みの札束に火をつけるシーンだろうか。

10兆円のビジョンファンド が投資した共有オフィススペース事業 「ウィー(1月にウィーワークからザ・ウィーカンパニーに改称)」がキャッシュを燃やした速さは強烈だった。

ウィーが株式初公開(IPO)のために8月にSEC(米国証券取引委員会)に提出した目論見書を見ると、2019年の上半期だけで営業損失と投資で25億ドルを超える現金流出が起きている。日本円でおよそ6400万円の現金が一時間毎に減る計算だ。一方6月末時点の手持ち現預金は25億ドル弱と、約半年分の必要資金しかなかった。

にもかかわらずウィーが今年に入って大幅に投資を加速させたのは9月に予定していたIPOをあてにしていたからに違いない。1月のソフトバンクGの20億ドルの追加投資でついた評価額は470億ドル。ウーバーにつぐ今年第2位の超大型株式公開になるはずだった。その準備の最中、創業CEOだったアダム・ニューマンはモルジブにサーフィンに出かけてしまった。

ところがこの目論見書を見た投資家らがその内容の酷さに呆れ、IPOが延期されてしまう。ガバナンスの問題も問われ、ニューマンCEOは退陣に追い込まれた。市場からの資金投入がなくなれば現金が燃え尽きて破綻に追い込まれることは、この開示を見れば誰の目にも明らかだろう。ソフトバンクGが支援に乗り出した。

ソフトバンクGと傘下のビジョンファンドがこれまでにウィーに注ぎ込んだ投資資金は1兆円を超える。これに今回の資金貸付と株式買い付け、すでにコミットした追加投資実行の3点セット支援策がフルに実行されれば、さらに1兆円以上の資金を投入することになる。まさに「金食い虫」。

孫さんはこれは「救済」ではなく、株価の下落局面での「ナンピン買い」によって投資単価を引き下げることが目的だと突っぱねた。

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ファンドの1割強のポジションで大損を出して撤退するより、それを温存させてパフォーマンス挽回の可能性を残す道を選んだ訳だが、損切りしないことに違和感を覚えたソフトバンクGの投資家も多い。

米国の投資家やメディアは、これを一斉に「ダブルダウン」と呼んだ。「ナンピン買い」と変わらないが、ギャンブルで負ける度に賭け金を倍にすることを「ダブルダウン」という。ダブルダウンをやり続けてどこかで勝てば、その時点で元が取れる。ただし、掛け金が倍ならリスクも倍だ。

身動き取れない巨象ファンド?

VC業界での「ビジョンファンド」の並外れた存在感については以前このコラムでも書かせていただいたが(過去記事参照)、この巨象ファンドはガタイが大きすぎて身動きが取れなくなってしまったのではないだろうか。

KPMG社の推定では2017年の世界のVC投資額は1750億ドル、日本円で約19兆円。米国だけなら9兆円程度だ。そこに米国市場丸ごと分の10兆円ファンドが登場したのだから、業界の需給は大きく変わってしまったことだろう。

これだけ大規模なファンドになると、小粒なベンチャー企業を一つ一つ吟味していたのでは投資先の数が膨大になり、人手の方が追いつかない。孫さんは一号ファンドの投資先は90社弱と述べているが、10兆円を100社のベンチャーに均一に投資したとしても、一社あたりの投資金額は1000億円。全部が「ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)」級になってしまう。

このことから考えても、10兆円というファンド規模だと投資の中心はどうしても大型の未上場株、株式上場を間近に控えたレイトステージの「ユニコーン」にならざるを得ないだろうという想像がつく。

しかしレイトステージの優良案件となれば、買い物の選択肢は限られていて、どのVCもそれに投資しようと狙っている。巨象ファンドには自らが市場となってしまって、自分の買いによって自分の買い値を釣り上げてしまうリスクがあるのだ。

割高でもベンチャー投資をする理由

でも、ウィーが割高だったということはビジョンファンドを運用するプロたちは重々承知だったのではないだろうか。なぜならウィワークにはスイスに本社のあり、「リージャス」のブランドで世界にレンタルオフィスを展開するIWG (インターナショナル・ワークプレイス・グループ)という公開企業が類似会社として存在するからだ。

リージャスが世界に展開するワークステーションの数は60万程度で、ウィーワークと同程度。一方、IWGの11月13日現在の時価総額は35億ドルポンド。米ドル換算で43億ドル程度と、ビジョンファンドが想定したウィーの評価額470億ドルの10分の1程度でしかない。

「コンプス」と呼ばれる類似企業の評価をチェックするのは投資のプロなら当たり前なので、ビジョンファンドの運用者達もIWGの時価総額くらいは見ていただろう。実際、ウィーが上場したら「IWGのロング(買い)+ウィーのショート(空売り)」でポジションを取ろうと待ち構えていたヘッジファンドも多かった。

さらに、ウィーはニューヨークやサンフランシスコで、オフィススペース全体の2%程度を占める地域トップの不動産事業者だ。不動産企業なら他にも参考とすべき公開企業がいくらでもあっただろう。

ではVCのプロ達が470億ドルという極端な評価額でもウィーに投資したのはなぜか。

まず投資先が限られていたことからウィーに「何が何でも投資しなければ」というのが先にあったのだろう。ニューマン元CEOは、ウィーは「デジタル企業」であって類似企業は存在しないと主張してきたが、投資のプロ達もそれをムリやり自分達に言い聞かせ、ネット企業として割高に評価することを正当化した可能性だ。

ユーザーはその時々の需要に見合ったスペースをフレキシブルに利用できる、これは従来の「オフィス」の概念そのものを変えるものだ、とウィーは自社の革新性をアピールした。しかしオペレーションから見れば、オフィススペースを長期契約で大量に借りてきて、それを企業や個人に小分けしてショートタームで貸し付けるという「スペース又貸し」は、実にリアルな不動産業だ。

スペース又貸し事業というのは、売上を伸ばそうと思えばその都度スペースを借りてきて改造し、そこにスタッフも張り付けなくてはならない。コストの中でも変動費(売上が増えれば増えるコスト)の比率が高いと見られるので、売上が伸びた時に利益が爆発的に伸びることは想定しずらい。

IWGの粗利率(粗利=売上から仕入れ原価などを差し引いた利益。粗利率はそれを売上で割ったもの)を見れば、良い年でも2割程度。ウィーがIWGよりずっと効率的にスペースを活用できると仮定しても、粗利率が6〜8割とずば抜けて高いグーグルやフェイスブックなどのデジタル企業とは事業モデルが違うことは明らかだ。

「大バカ理論」

VCが割高でもベンチャーを買うもう一つの理由として考えられるのは、株式上場にさえ漕ぎつければ、それ以上の値段で買ってくれる「もっとアホな奴」がいるだろうという期待があることだ。

これには「大バカ理論(The Greater Fool Theory, TGFT)」という名前までついている。日本の不動産バブルやITバブル、そしてビットコインでも同じだが、自分が高値づかみをした「阿呆」だったとしても、それをもっと高値で買ってくれる「大阿呆」がいる限りは大丈夫という「理論(?)」が市場にまかり通るのだ。

VCをはじめとするプライベートエクイティー(私募ファンド、PE)は「買う前から出口を探す」と揶揄されるくらい、投資の出口戦略には注意を払う。これまでは、高値で買っても株式上場でさらに値が上がってエグジット出来たからそれで良かった。

しかし、配車サービスのリフトやウーバー、ビジネスチャットツールのスラックなどが夏頃から次々と上場後に株価失墜を起こしたことで、出口が良く見えなくなってしまった。

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「もっと阿呆な奴に売るつもりが、気がついたら自分がその阿呆になっていた」という落とし穴には気を付けなくてはならない。経済歴史家のエドワード・チャンセラーが「バブルの歴史ー最後に来た者は悪魔の餌食(Devil takes the hindmost)」の中で、株式市場最初のバブルである18世紀英国の「南海泡沫事件」に触れて警告した言葉だ。

「長期投資とは失敗した短期投資である」という辛口の投資ジョークもある。エグジット出来なくて「塩漬け」になるケースだ。チェックインはいつでも出来るがチェックアウトは決してできない「ホテルカリフォルニア」(イーグルス)を自嘲的に口ずさむ運用者もいる。

しょせんは、他人のマネー

一つ目と重なるが、もっとシンプルな理由としては「すでに投資家から資金を集めてしまったから」という事情があるだろう。投資家から運用手数料をとる限り、キャッシュを眠らせておくことはできないからだ。

買い物を頼まれたけど、割高な商品しかないーー。

これは公開企業株でも、バブルの市場で運用を任されたファンドマネジャーが陥るジレンマだ。本来、市場が割高で良い投資案件が見つからなければ投資家に資金を返却するのが筋だ。しかし、それを実際にやれる運用者は殆どいない。

その根本にある問題は、VCに限らず投資業界が「他人のマネー」を扱うことで回っていて、ともすると運用者が投資失敗の痛みを感じないことだ。

トゥー・トゥエンティー(2/20)などと言われるが、一般にVCを含めたPEファンドはヘッジファンドのように管理手数料1〜2%(ビジョンファンド は0.7〜1.3%と報じられる)、投資利益が出れば成功報酬としてその20%前後を手にする。投資損失を出しても管理手数料はしっかり徴収する。

では「他人のマネー」とは、誰のマネーか。

昔は私募ファンドに投資するのは企業や富裕層だったので、一般人にはあまり縁のない世界だった。ところが今はそうではない。年金基金までが積極的に「オルタナティブ(従来の債券や株式に代わる)投資」をするようになっている。米国ではPEファンドの個人投資家への解禁も検討されている。

米国ではCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)をはじめとする巨大な年金基金が運用資産の8〜10%程度をPE投資に回している。それぞれが日本円で2兆円を超える規模だ。
(日本の公的年金GPIFも5%までのオルタナティブ投資枠を設けているが、開示によれば不動産関連が多い)

その背景には目下の低金利で、国債などの低リスク資産に投資したのでは目標とするリターンが取れないことがある。「イールド(利回り)」を求めて高リスク資産への投資を増やしているのだ。それに未公開企業投資は一般的に保有期間が長く、株と違ってあまり取引されないから評価額の洗い替えが頻繁には起きない。運用者にとっては、その間投資パフォーマンスが「安定」して見えるメリットもあるわけだ。

しかし、米年金基金のオルタナティブ投資に対しては、教員や警察組合など加入者の抗議行動も起きている。これらの金融商品の実質的な価格変動やレバレッジ(借金によるテコ)のリスク、そして割高な手数料まで見込むと年金の1割も注ぎ込むべき投資対象なのだろうか、という疑問は残る。

VCはじめPE投資は昨年まで二桁の投資リターンをあげて大人気だったが、ユニコーンの失速が続けば、社会問題にもなりかねない。

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テレビ番組のキャスターを経て米国の投資運用会社で働いた著者が、市場を動かすプレーヤーたちの実像を、冷静な筆致で描く。

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