期待先行の「トランプノミクス」、本当に実現可能なのか?

期待先行の「トランプノミクス」、本当に実現可能なのか?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/12/01

トランプ政権の第一関門

米国大統領選後の「トランプラリー」は意外と長く続いている印象がある。トランプ氏が選挙期間中に言及してきた経済政策の多くが実行に移されると、米国の経済成長率が上方に押し上げられるとの期待が根強く残っているからだろう。

ところで、トランプ氏の経済政策の主体は「財政政策」である。だが、アメリカの制度上、財政政策は予算という形で、議会の承認を得る必要がある。

今回、大統領選と同時に上下院選も実施されたが、トランプ氏にとっては非常に幸運なことに、与党である共和党が上下院ともに過半数を獲得した。

そのため、トランプ新大統領は、少なくとも次回の中間選挙までの2年間は、政府と議会の間の「ねじれ現象(アメリカでは「Divided Government(分割政府)」といわれる)」を経験せずに政策立案を行うことができる。ブッシュ大統領もオバマ大統領もこの「ねじれ現象」で自らの政策構想を十分に実現できず、「レームダック化」してしまった。

もし、今回、民主党のクリントン候補が選挙戦に勝利していたら、上下院とも共和党が過半数を占める議会の強い抵抗で、就任早々、「レームダック化」していた可能性が高い。そういう意味では、「クリントン大統領」の下では、株価が急落していた可能性もあったかもしれない。

だが、「上下院で与党が過半数を有する」という状況は、トランプ政権にとっては、第一関門をクリアしたに過ぎない。

なぜならば、トランプ新大統領は、家計、企業向け大型減税に加え、インフラ整備を主体とした公共投資の拡大を経済政策の「目玉」にしているためである。

特に、インフラ整備を主体とした公共投資の拡大は、トランプ氏が大統領選に勝利した直後の演説で「インフラ整備による雇用創出で経済を回復させる」とわざわざ言及したように、経済政策の根幹である可能性が高い。

ところが、共和党は伝統的に「小さな政府」を志向している。一方で、インフラ整備等の公共投資は、政府が主体となって行う事業であり、大恐慌期におけるルーズベルト大統領のニューディール政策に起源を持つ「大きな政府」的政策である。これはむしろ、「民主党」的な経済政策であることは言うまでもない。

第二関門は議会執行部の説得

また、特に2009年以降、共和党内では、「Tea Party(ティー・パーティ)運動」という保守的なポピュリスト運動の影響力が強まっている。ここでいう「Tea Party」とは、独立前のアメリカで起こった「ボストン茶会事件」をもじったものである。

「ボストン茶会事件」とは、1773年12月16日、当時の宗主国であるイギリスの植民地政策に抗議した住人が、東インド会社の船荷である紅茶箱を海に投棄した事件であり、アメリカ独立革命の象徴的な事件の一つとして世界史的に有名な事件である。

最近の「Tea Party運動」における「Tea」とは、「Taxed Enough Already(もう十分に税は支払った、これ以上税金を支払うのはたくさんだ)」の略であり、オバマ政権下での公的資金を使った金融機関や自動車産業の救済、医療保険制度改革(通称「オバマケア」)に対する抗議運動である。

このような「Tea Party運動」の支持を受けた議員が、インフラ整備を主体とした大型財政出動に賛成するか否かは現時点では不明であり、もし、このような財政出動に議会が反対した場合、トランプ新大統領の経済政策「トランプノミクス」は就任早々、後退を余儀なくされることになる。

そこで、トランプ政権にとっての第二関門は、与党共和党との融和である。

アメリカの政治学者であるリチャード・ニュースタッド氏は、「大統領の仕事で最も重要なのは議会の説得である」と述べている。

例えば、過去の大統領の中では、リチャード・ニクソン氏は、議会と全面対立し、「帝王的大統領」という批判を受け、これといった業績を上げることができずに、「ウォーターゲート事件」というスキャンダルで失脚した。

その一方で、ビル・クリントン氏は、就任早々、巧みな説得工作で野党である共和党の議員も味方につけ、見事な経済政策運営を実現させた。

「彼はこんなふうに言うだろう。『これをしろ!あれをやれ!』と。でも何も起こりはしない。大統領という仕事は陸軍とは全然違う、彼はそれがとても欲求不満の募るものだと知ることになるだろう」

これは、かのフランクリン・ルーズベルト大統領の急死を受け、大統領を引き継ぎ、第二次世界大戦の収拾に奔走したハリー・トルーマン氏が、退任時に後任のドワイト・アイゼンハワー氏に向けて贈った言葉である(『アメリカ大統領制の現在 −権限の弱さをどう乗り越えるか−』〔待鳥聡史著、NHK出版〕より引用)。

大統領は自分と意見を異とする議員を粘り強く説得しなければならない。

もし、トランプ新大統領が、この資質に欠けるとすれば、議会において上下院とも与党共和党が過半数を有しながら、これまで何人もの大統領が対応に苦慮した「政党対立政府」となるリスクがある。そして、この場合、トランプ大統領は早々にやる気を失い、「レームダック」化してしまう懸念がある。

ただし、トランプ大統領が共和党の議員全員を説得する必要はない。

ゲーリー・コックスとマシュー・マッキビンの研究(2006年)によれば、立法過程においては、連邦議会内の執行部の影響力が極めて強いことが定量的に示されている。すなわち、トランプ大統領にとって、いかに議会の執行部(もしくは重鎮)を説得するかが、自らの政策遂行に重要な意味合いを持つことになる。

従って、今後、トランプ大統領の体制作りの過程では、共和党の執行部や重鎮とどの程度良好な関係を築くことができるかが重要なポイントとなるだろう。

なお、よく「ハネムーン期間」として就任100日までは、大統領の政策が議会で通りやすいという説があるが、これは、政治学の世界では、定量分析で明確に否定されているようだ。

もっとも、日本の政党のように、アメリカの共和党議員の意見も、必ずしも一致している訳ではない。特にアメリカの場合、各議員は、党の方針というよりも、むしろ、選挙区の意向を重視する傾向にあるといわれている。

従って、共和党議員の中で、選出された選挙区の選挙民がトランプ大統領の経済政策を支持すれば、トランプ氏の経済政策構想は議会に承認される可能性が高まるといえよう。

スコウロネク「モデル」に当てはめると

そこで、どのような場合に個々の共和党議員がトランプ大統領の経済政策に賛同するかであるが、ここに興味深い研究結果が存在する。

それは、米国の政治学者であるスティーブン・スコウロネク氏が2000年に発表した「Presidential Leadership in Political time」である。

これによれば、①現行の制度の理念が現状に即しているか、もしくは、その制度を運営した場合に国民は利益を得られるか、②大統領が現状変革に強い意欲を有するか、現状維持的か、の組み合わせ次第で、大統領が志向する政策構想が議員の支持を得ることができるか否かがある程度はわかる、という。

例えば、①現行の制度が経済の現状にそぐわず、国民が利益を得ていない場合に、②現状変革に強い意欲を持つ大統領に交代した場合、その大統領の経済政策は議員の支持を得られる可能性が高まる。

具体的には、世界大恐慌のさなかに大統領に就任したフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策はその好例である。

一方、世界大恐慌の直前に大統領に就任し、大恐慌が進行する中、何の有効な政策も講じることができなかったハーバート・フーバーは、①現行の制度が経済の現状にそぐわないにもかかわらず、②現状変革に消極的な大統領が就任した例である。

また、逆に、①現行の制度は経済の現状にそこそこマッチしているにもかかわらず、②大胆な政策転換を志向したジミー・カーターは、現状変革の意識に乏しい世論の支持を得ることができなかった。

その結果、実はレーガノミックスで提案された経済政策の多くを含んでいた先駆的な経済政策構想は議会の承認を得ることができず、しかも議会との対立が深刻化し、大きな実績を挙げられないまま任期を終えた例である。

このスコウロネク氏の「モデル」をトランプ大統領に当てはめた場合、彼の経済政策を転換させようという意欲と、現状(長期停滞)にそぐわない経済政策(財政出動に消極的)という組み合わせは、トランプ大統領の経済政策構想が、議員の支持を得られる可能性が高いことを示唆しているとも解釈できる。

以上のように考えていくと、トランプ大統領が、共和党の執行部(重鎮)とある程度良好な関係を築くことができれば、トランプノミクスは十分に実現可能ではないかと思われる。

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