名和晃平の神々しきオブジェ 彫刻的なるものを「眼で触る」

名和晃平の神々しきオブジェ 彫刻的なるものを「眼で触る」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/21

日本現代美術のトップランナーといえばこの人である。現在は京都を拠点に活動するアーティスト、名和晃平。

東京・明治神宮前のGYRE GALLERY(ジャイル・ギャラリー)では現在、彼の創作のエッセンスが詰まった個展「Oracle」が開かれている。

神々しい「神鹿」の像

会場を入ってすぐのところに、存在感たっぷりの立体物がドンと鎮座している。

金銀に光り輝く滑らかな表面を持つ、大きな像。ツノが2本確認できるところからして、シカだろうか。舟状のものに乗っているのは、うねった形状をしていてどうやら雲のよう。背中には装飾された透明な球体を戴いている。

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《Trans-Sacred Deer(g_p_cluod_agyo)》

《Trans-Sacred Deer(g/p_cloud_agyo)》と名付けられた作品だ。通称は「雲鹿」という。

このシカの形態は、鎌倉・南北朝時代につくられた「春日神鹿舎利厨子」の神鹿から写し取られたもの。神鹿とは、神の使いとして大切に扱われるシカのこと。日本では古来、シカに神々しいイメージが付与されてきたのだ。

何百年も昔にかたどられたシカをモチーフに選んだ名和は、3Dシステム上でその形態データを制作し、京都在住の仏師に木彫を依頼。さらには漆塗りと箔押しも、京都の職人に施してもらった。そうして伝統工芸技能の粋を集め、彫像は完成した。当代最高の業と精神を投じて生み出されたものは、やはりただならぬ存在感を発する。否応なく眼を持っていかれ、見ているだけで「ありがたい」感覚が訪れる。

眼で作品の表面を触っているような感覚

名和晃平はありとあらゆる素材と技法を用い、形態も立体から平面まで、多様な作品を着々と生み出してきた。ただしどんなときも、「彫刻的なるもの」を追求するという姿勢を名和が崩すことはない。

彫刻的というのは、表面の質感や物質の存在感を見る側に意識させ、モノがモノとしてあることの凄みや不思議を強く感じさせる……といったニュアンスか。《Trans-Sacred Deer(g/p_cloud_agyo)》はまさにこの格好の例といえそうだ。

他にも同展では、彫刻の表面に着目した名和の代表的なシリーズ「PixCell」も観ることができる。そのうちのひとつ《PixCell-Reed Buck(Aurora)》は、ウシ科の哺乳類リードバックの剥製をインターネットを介して入手し、その剥製の表皮を大小の透明な球体ですっぽり覆ってしまったもの。

この哺乳類の前に立った者は、無数のレンズによって拡大・歪曲されたかたちでしか像を見ることができない。なんとももどかしいけれど、近寄ったり離れたりして対峙しているうち、これほどモノの表面を何とか見ようと執着することもあまりなかったなと気づかされる。自分がふだんいかに「見ること」をいい加減に済ませていることか……、改めて突きつけられる思いだ。

さらには平面性の高い作品だと、粘度調整した絵具を詰めたタンクに圧力をかけ、ノズルから出る絵具によって線を描く「Moment」。大小の球体にライトグレーの短繊維を植毛してベルベット状にし、それらを平面上に貼り付けた「Rhythm」などのシリーズも観られる。

会場に展開されているのはいずれもモノの感触がはっきりと伝わってきて、強烈な存在感を発する作品ばかり。観て回っていると、ああいま自分は眼でモノを触っているな……、といった気分になってくる。視覚は触覚を兼ねることもある、そんな新たな発見をさせてもらえる展示だ。

(山内 宏泰)

山内 宏泰

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