「0-21 生駒高校の夏」あと1勝で夢の甲子園 その時、チームをコロナが襲った

「0-21 生駒高校の夏」あと1勝で夢の甲子園 その時、チームをコロナが襲った

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/08/06

全国13万人に及ぶ高校球児たちの夢、夏の甲子園がいよいよ開幕を迎える。今年の夏、猛威を振るう新型コロナウイルス・BA.5は高校球児たちを翻弄した。

【写真】天理高に21-0で敗れて涙を流す生駒高主将とナイン

0-21。奈良県大会決勝は、決勝ではほぼ見ることのない大差となった。勝者は夏2度の全国優勝を誇る名門・天理高校。敗れたのは、県立生駒高校。大差がついたのは、生駒がスポーツ推薦もなく、春夏ともに甲子園出場経験もない、まったく無名の県立高校だったからではない。BA.5によって、ベンチ入りメンバー12名の変更を余儀なくされたからだった。「生駒高校の夏」は、どう終わったのか。監督、選手に聞いた(全2回の1回目/#2「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手へ続く)。

◆◆◆

練習時間は2時間「長くダラダラした練習は意味がない」

「智弁学園さんはやっぱり奈良の主役ですから。とりあえず主役に勝たないといけないと。勝ってからは“あと1勝”、甲子園が見えてきましたね」

そう振り返るのは、生駒高校野球部の北野定雄監督。県立の斑鳩高校(現・法隆寺国際高校)や登美ヶ丘高校で監督や責任教師を務め、それぞれのチームを2度の県大会準優勝、春の予選大会優勝に導いた。2012年から生駒を率いて、今年で10年になる。

独特なのが、強豪校に比べると幾分短く感じる2時間という練習時間。

「(2時間という時間は)文科省が出している基準なので、決められたことはキッチリ守って、やっていこうというのが我が校のスタイルでした」(北野監督)

しかも、メニューは生徒にほぼ任せている。生徒が自分たちで見つけた課題を、どう時間内で打開していくかに意味があるのだという。

熊田颯馬主将が語る。

「(2時間は)基本自主練です。2時間は短いように聞こえますが、土日の練習試合で見つけた課題を平日の2時間の練習でどれだけ密度濃くクリアできるか。短い時間でいかに改善できるかを目標にして、それがモチベーション維持に繋がっていました。長くダラダラした練習をしても意味がないので」

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生駒高校野球部・熊田颯馬主将

スローガンは「私学を倒す」 昨夏準Vの智弁学園に勝利

掲げたスローガンは「私学を倒す」。

「これまでは公立の強豪校を倒せても、私立には歯が立たなかった。苦しんできてようやく今年の春ごろから私立にも勝てるようになったんです」(北野監督)

そして、始まった夏の県大会。ところが、初戦で、同じ県立校の奈良高校に思わぬ戦いを強いられた。熊田主将は、この試合が今大会の流れを作ったと明かす。

「途中まで1点差で、そこから逆転されて、流れが向こうにいきつつある中で勝てた(7-2)。あの試合で、耐えて耐えて後半勝負に持ち込む戦い方を身につけることができた」

北野監督も同じことを感じていた。

「山場は初戦の奈良高校戦でした。準々決勝の橿原戦(延長10回、5-4)では、追いつかれて延長までいきましたが、選手たちの表情を見ていたら大丈夫だなと確信しました。余裕がありましたね」

準決勝の相手は昨年夏、全国準優勝の智弁学園だった。試合は、序盤リードを許した生駒が追い上げる展開となった。4-5で迎えた7回裏、生駒は3点を奪い、7-5で逆転勝利した。

夢の甲子園まであと1勝。決勝の相手は、夏29回目の甲子園出場を狙う名門・天理だった。メンバーの中にはドラフト候補と注目される選手もいる。ただ、智弁学園を倒し、初の決勝進出を果たした“県立の星”生駒には勢いがあった。準決勝の翌日、その次の日の決勝に備えて、午後1時から練習が予定されていた。

まさかのコロナ感染…12人を入れ替えての決勝へ

「発熱者がいるらしいという報告がキャプテンからあがってきた。最初はコロナより熱中症の可能性を考えました。症状もそれぞれ異なっていたんです」(北野監督)

発熱した選手は、病院で診察を受けてもらった。

「一人、また一人とコロナ陽性が判明してきた時は、決勝は諦めようと思いました。諦めるというより、出場してはいけないと。天理高校さんに迷惑をかけてはいけない。ただ、高野連の公式ルールでは、出場することはできる。随分悩んで葛藤しました。最終的には、私がある程度(出場するという)決断をして、キャプテンに部員たちの意見を聞いてもらった。それで、皆が出ると決めたので、次の日、検査をして陰性の者だけで戦うことに決まりました」

準決勝の登録メンバー20人から12人を入れ替えて、決勝戦に臨むことになった。天理には、今年の春季大会で2-12と敗れている。にもかかわらず、レギュラーメンバーで出場できたのはわずか3名。熊田主将はこう振り返る。

「ここ1カ月は大会に向け、出場選手たちだけで練習してきていました。そこから半分以上抜けてしまった。正直、ショックでものすごく悲しかった。それでも新しく入ってくれた1年生や2年生が、目の色を変えて『頑張る』と言ってくれた。まずは試合をさせていただけることがありがたかったので、無理やり切り替えて試合に臨みました」

北野監督が続ける。

「外野以外みんないなくなってしまった。とりあえず出場できるバッテリーを全員入れ、内野をこなせる選手を入れる。エースの北村晄太郎、智弁学園戦で3安打した飯田智規、4番・捕手でチームの柱だった篠田莉玖が不在。もはや作戦を立てるといった次元を優に通り越していました」

熊田主将は、試合前、チームメイトにLINEでこう伝えた。

「半分くらいメンバーが代わってしまい、かなり難しい状況だけど、試合をさせてもらえることになった。厳しい戦いになるだろうけど、40点、50点とられても自分たちの野球を貫こう」

出られなくなった選手からの「本当に申し訳ない」との声には、「気にするな」と返事した。

〈#2へ続く〉

撮影:杉山拓也

「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手へ続く

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年8月11日号)

「週刊文春」編集部

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