静止衛星のダウンサイジングとプレイヤーの変更で何が起きるのか?

静止衛星のダウンサイジングとプレイヤーの変更で何が起きるのか?

  • @DIME
  • 更新日:2021/11/25
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静止軌道は、とても重要な場所である。それは、その経度上の国家にとっては、さまざまなメリットがあるからだ。たとえば、静止軌道上に衛星を打ち上げることができれば、あたかも止まっている(静止している)かのように見える。その性質を利用して、その経度上の国の情報を得ることができたり、情報を提供することができたりするからだ。

これまでに、静止軌道には、主に通信衛星や気象衛星などが打ち上げられてきた。これらの衛星は、一般的に大型だ。よく海外では、2階建バスくらいあるという表現を使う。しかし、近年、この静止衛星もダウンサイジング(小型化)が進められている。では、なぜダウンサイジングが進んでいるのか。今回は、そのようなテーマについて触れたいと思う。

静止衛星とは?

静止軌道とは、地球から高度36,000kmの赤道上空の宇宙空間の軌道だ。地球の時点速度と衛星の周回速度が一致するため、あたかも経度を同じくする地球上からは、衛星が静止しているように見えるのだ。そのため、静止衛星と呼ばれる。

静止衛星と聞くとどのような衛星を思い浮かべるだろうか。おそらく多くの人が、日本の気象衛星ひまわりを思い浮かべるのではないだろうか。他にも政府系の衛星で言えば、準天頂衛星のみちびき3号機は静止軌道帯に投入されている。なぜ、準天頂衛星が、静止軌道に?と思われた方もいらっしゃるかもしれないが、これはまた別の機会に譲るとして、他にも民間企業であれば、スカパーJSATの衛星が静止軌道へと投入されている。

これらの衛星のミッションからお分かりのとおり、気象衛星ひまわりであれば、24時間365日、日本上空の気象を観測し、天気予報などに役立てているのだ。準天頂衛星やスカパーJSATの通信・放送衛星も同様。常に日本上空にいることで、情報を提供することができるのだ。

また国によっては、たとえば、早期警戒衛星といい、高性能な赤外線カメラを搭載した衛星を静止軌道へと打ち上げ、ミサイルの発射炎を捉えるミッションを持った衛星など防衛、安全保障上、打ち上げられたりしている。

このように静止軌道というのは、その国にとって重要な場所となっている。そのため、静止軌道帯は取り合いの状態といってもよい。静止軌道には、静止衛星が世界各国で打ち上げられて同じ軌道上に並んでいるため、衛星の過密地帯になっているのだ。衛星が運用終了になっても、衛星を静止軌道に置きっぱなしにするケースもある。以前は衛星ごとに経度2度分の間隔を空けることになっていたが、現在は同一経度に複数の衛星が投入されて運用されるようになっているという。

ちなみに、静止軌道の取り合い、つまり、静止衛星の軌道割り当ては、国際電気通信連合無線通信部門ITU-Rが調整を行っている。たとえば、ある国家とある国家が同一経度に静止衛星を投入したいとなった場合、最初にITU-Rに申請した国家の衛星が優先されることになっている。なお、通信衛星の場合は、電波干渉の問題が調整できれば、同一軌道にて複数国の衛星が運用されることもありうるという。

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静止軌道が混み合っているイメージ

静止衛星のダウンサイジングが進む理由とは?

静止衛星といえば、気象衛星や通信・放送衛星などと上述で紹介した。これらの衛星は大型化しているのが一般的だ。理由は、静止軌道は地球から36,000kmも離れている。そのため、通信の際、伝送遅延が大きい、通信出力も大きくなること、静止軌道へと移動するためアポジエンジンなどの大型のスラスターやその燃料を搭載しなければならないことが理由として挙げられる。よく海外では、この大型化した静止衛星を2階建バスに例えることが多い。ちょうどサイズが同じくらいなのだ。

近年は、イオンエンジンなど衛星がオール電化化される傾向にあり、ダウンサイジングしているのは、この影響もある。
そして、大型化すれば、衛星製造コストも高くなる。衛星にも依存するが、一般的に数百億円が相場だろう。そしてロケットも大型のロケットで打ち上げるので輸送コストも100億円程度はかかるのだ。

しかし、最近、静止衛星のダウンサイジングの話題をよく耳にする。ただ、ダウンサイジングといっても、New Spaceのこの時代の地球周回衛星の”小型衛星”と同じようなサイズではない。

筆者が把握している最初の取り組みとしては、まず2017年に打ち上げられたOHBの通信衛星H36W-1だ。これは欧州宇宙機関ESAとドイツ宇宙機関DLRが主導したダウンサイジング化した静止衛星のプラットフォームSmallGEOのプロジェクトで開発された衛星だ。この衛星は、3.7mx 1.9mx 2mの大きさで質量は、ウェットで3,200kg。ヒドラジンと四酸化二窒素を燃料としたアポジエンジンを搭載。そして、最大400kgおよび3.5kWのペイロードを搭載することができるという。

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ダウンサイジング化静止衛星の第1弾であるOHBの通信衛星H36W-1

(出典:OHB

ここで読者のかたから、ご指摘を受けると思う。この通信衛星H36W-1は全然小型ではないと。ご指摘の通りだ。でも当時は、静止軌道への汎用小型バスを設計したことで低質量クラスの通信衛星市場への参入を容易にすることを目指していたのだ。

他にも、イオンエンジンなどを搭載し衛星をオール電化化する傾向がありダウンサイジングしているケースも含まれるだろう。

ダウンサイジング化の静止衛星の現状は?

近年さらにダウンサイジング化の静止衛星の開発が計画されている。SWISSto12とSaturn Satellite Networksは共同でダウンサイジング化した静止通信衛星を開発すると発表した。SWISSto12は、2kW級の通信衛星サービスを提供し、Saturn Satellite Networksは5kW級の大容量通信衛星(HTS)サービスを提供するという。SWISSto12は、サブシステムコンポーネットを3Dプリンターを用いて製造し、Saturn Satellite Networksは、衛星バスを担当するという。彼らの開発する衛星の具体的なサイズや重量については、確認できていない。

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SWISSto12とSaturn Satellite Networksが共同で開発するダウンサイジング化静止通信衛星

(出典:SWISSto12

ほかにも、アラブ首長国連邦のイスラエル航空宇宙産業IAIは、700kg級の静止衛星の開発を計画している。衛星寿命は平均14年と長い。KaバンドまたはKuバンドサービスが提供できるという。

IAIのダウンサイジング化した静止通信衛星

(出典:IAI

また、最も有名なのが、Astranisだろう。2021年9月にも270億円の資金調達に成功したというニュースが宇宙業界を駆け巡った。彼らの衛星の特徴は、寿命10年、軌道上でも再プログラム可能、ウェット重量が約350kgと、従来よりも1/20の重量、そして安価だという。

Today is the day! We're beyond excited to announce our next program: two satellites over North America and the Caribbean, providing dedicated connectivity to@anuvu_official's mobility customers.Read more athttps://t.co/htl2TKdJT1.pic.twitter.com/daBkwNPN40

— Astranis (@astranis_space)July 27, 2021

いかがだっただろうか。近年、静止衛星のダウンサイジング化が進んできている。最新の計画の衛星衛星は、1tは確実に切っている。

筆者が驚いているのは、もちろん、静止衛星がダウンサイジング化化していくことももちろんであるが、静止衛星をスタートアップが手がける時代になったことだ。Old Spaceでの課題に対する解決策を新しいアイデアで取り組むのはもちろんNew Spaceのスタートアップなのだろう。未来はどのようになっていくのだろうか。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。

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