ゲームキャスター・yukishiroが、14年間シーンを見つめ続けた末の悲願 『VALORANT』の快挙を振り返る【前編】

ゲームキャスター・yukishiroが、14年間シーンを見つめ続けた末の悲願 『VALORANT』の快挙を振り返る【前編】

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  • 更新日:2022/06/24
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(メイン画像=Getty Imagesより)

2022年4月10日から開催された、タクティカルFPS『VALORANT』の世界大会『Champions Tour 2022: Stage 1 Masters – Reykjavík』。そこへ日本代表として出場したZETA DIVISIONは世界3位というeスポーツ史に残る偉業を成し遂げ、Twitterでも「#ZETAWIN」がトレンド1位となるなど大きな話題となった。

しかし、「世界3位」という結果ばかり独り歩きし、どのようにしてZETA DIVISIONがそこに至ったのか、なにが勝因で、誰が重要だったのか、そうした内実はあまり鑑みられなかった。そこで今回、同大会にて解説を務め、ほかにも数々のキャスターとしての実績のあるyukishiro氏に、放送では話しきれなかった「#ZETAWINの正体」について質問した。なお、前編では、yukishiro氏がどのようにしてキャスターとしての活動をスタートしたのか。そして『VALORANT』を含む「爆破ルール」の醍醐味について話を聞いた。(Jini)

■14年見つめ続けた末の悲願

――早速ですが、yukishiroさんご自身はどのようにキャスターになり、『VALORANT』の解説をするに至ったのでしょうか。

yukishiro:現在は「eスポーツキャスター」として活動していますが、スタートは2008年ごろです。

――では、14年も活動されているわけですね。

yukishiro:最初に実況をした経験は『Cross Fire(クロスファイア)』というFPSのユーザー主催大会ですね。当時はいまのような配信サイトが少なく、LimeChatというIRC(当初のチャットツール)上で趣味として実況したんですが、たまたま誰かがそれを録画してニコニコ動画にアップしていたようで、それを見た会社さんに声をかけていただいたんです。

――現在は「eスポーツ」と呼ばれているものも、かなり草の根的なところから始まったわけですね。

yukishiro:そうですね。その時も『WarRock』というFPSの大会「WarRock 日本最強クラン決定戦2008」を『東京ゲームショウ(TGS)』で行うにあたって「実況をちょっとやってくれないか」と依頼されたのが最初の仕事でした。ちょうど沖縄旅行をしている時に電話がかかってきまして(笑)。

――『TGS』でデビューというのは鮮烈ですね!

yukishiro:昔、本当にまだeスポーツの実況者という存在が定着しておらず、初めての舞台がたくさんの人が集まる『東京ゲームショウ』だったので、それはもう緊張しましたよね。まず入場の時にはいきなり足元にある配線に足を引っ掛けて転びそうにもなりましたし。そういえば、この大会で優勝した「猛者の集い」というクランには、現在『VALORANT』を含む色々な大会で実況をしている岸大河もいたんです。当時はStanSmithという名前でプレイしていましたね。

――『VCT』で一緒にZETA DIVISIONを応援していた2人が、14年前からFPSの大会に挑んでいたというのはアツい話です。

yukishiro:いまでも、その時の録画データを持っていて、たまに自分がいる時に見せては「yukishiroの昔の実況、おもしれぇなぁ」みたいにイジってきます(笑)。それからは『サドンアタック』の大会で定期的に実況をさせていただくようになりました。

――気になったんですが、最初は完全にアマチュアで実況活動していたのが、突然『TGS』という環境でデビューするというのは、かなり期待を込められていたと思うんですが、yukishiroさんのどういう点が評価されていたのでしょうか。

yukishiro:強いて言うなら、自分でも『クロスファイア』を真剣にプレイして、後にはVaultというプロゲーミングチームに所属して世界大会にも挑みました。そういった経験を踏まえ、ある程度プレイヤーの目線を活かした実況ができる点を買ってもらえたんじゃないかと思いますね。現役のプレイヤーほどではないですが、一度ゲームをすごくやり込んだ経験があるからこそ、選手のプレイの一つひとつを発見して、言語化できるのが自分の長所だと自負しています。

――それは本当に同意します。今回の『VCT』でキャスターを務めた皆様もそうですが、特にyukishiroさんの実況や解説は本当に選手に対するリスペクトが滾々と伝わるような語彙や情熱がありますよね。それは元日本代表だからという以上に、純粋にゲーマーとしての能力そのものへの敬意もあるし、だからこそZETA DIVISIONとライバルとなるチームに対しても、名プレイが出れば等しく敬意を込めた解説と称賛を贈られていると思います。

yukishiro:ありがとうございます。

――yukishiroさん個人としては14年もの間、プロゲーマーやキャスターとしてずっとFPSの世界で活動してきたわけですが、その間FPSにおいて日本が国際大会にて結果を残すことは難しかったと思います。このような背景を踏まえても、今年のZETA DIVISIONの世界3位という結果は本当に悲願だったと思いますが、yukishiroさんは率直にどう受け止められましたか?

yukishiro:率直に、とても嬉しいと思いましたよ。僕がプレイしていた『クロスファイア』は、元々『カウンターストライク』シリーズの中でも「爆破ルール(※1)」をオマージュした作品で、『VALORANT』もそのひとつ。僕も国際大会で何度かチャレンジしてきましたが、いくら国内で結果を出したとしても、練習する環境や、各地域の戦法に対する情報の違い、なにより地力の違いを実感して敗北することがあって、ずっと悔しい思いがありました。だからこそZETA DIVISIONの選手、特にLaz選手やcrow選手は『カウンターストライク』(※2)で何年も挑戦して、一時期引退を考えるとすら話していたなかで、ずっと挑戦をしてきた。そんな彼らが自分が成し得なかった結果を出したことに感動してしまいますよね。

(※1)攻撃側、防御側に分かれ、それぞれ爆弾の設置と解除を巡って争うルール。1999年にベータ版が公開されたMOD『Counter-Strike』に実装されたルールの一つ、Bomb Defusal(de_)モードが原典と考えられている。
(※2)『カウンターストライク』には、1999年公開のMODから『Counter-Strike 1.6』、『Counter-Strike: Source』、そして最新作として2011年にリリースされた『Counter-Strike: Global Offensive』(CS:GO)が存在し、Laz選手やcrow選手が『VALORANT』以前に「Absolute」というチームで『CS:GO』の世界大会に何度も挑戦していた。

――失礼を承知でお聞きするんですが、たとえば自分がもし同じ環境だったらまた変わったのかなと考えたりしますか?

yukishiro:まぁ、たしかに、現在の環境に対する羨ましさはありますよ。ただ、羨ましさと同時にいまの環境を作るまでの過程もありますし、だからこそ難しいこともたくさんあります。たとえば、いまではチームにプレイヤーだけではなく彼らを監督するコーチや、情報を集めて共有するアナリストも存在しますが、逆をいえばは大半のチームがこうしたノウハウを共有しているので、結局勝つことの難しさは変わらないと思いますよ。

――世間一般の方から「eスポーツ」への認知が広がったことについてはどうでしょう。

yukishiro:今回もテレビに取り上げられましたよね。でも何より大きいのは、やはり選手の活躍ですよ。間違いなく。自分もキャスターとしてゲームの面白さを拡げていくことができればと考えて活動してきたので、ZETA DIVISIONの活躍も嬉しいですし、活躍を機にいろいろな人に認知してもらえるっていうのも本当に嬉しいですよね。

■『VALORANT』の「爆破ルール」とはどんなゲームなのか?

――実際に選手の活躍についてお聞きする前に、まずこの爆破ルールの魅力、ほかのFPSにはない魅力や見どころについても聞かせてもらってもよろしいでしょうか?

yukishiro:うーん。一言で表すのは結構難しいんですが、まずは設置や解除をめぐる戦略性の深さが挙げられます。特に『VALORANT』は各エージェントの「アビリティ」の駆け引きがありますよね。またプロ同士の試合ともなると、相手の戦略を事前に研究、対策するメタゲームであるとか、本当に多様な要素が詰まっていると思います。そうした諸々の戦略を積み重ねた先に、たまに出る「1人で5人を倒す」ような銃撃戦のスーパープレイもまた面白さです。

――なにも知らない人からすれば、FPSってどれもいかに相手を先に撃つかという銃撃戦だけで勝っているように見えると思うんです。

yukishiro:銃撃戦は前提なんですよ。トッププロ同士となると、たまに抜きん出た人もいますが、基本はみんな同じぐらい撃ち合いは上手い。なので、その撃ち合いを始めるまでに、どうすれば有利な撃ち合いを始められるのか……待ち伏せをしたり、逆に奇襲をかけたり、そういう駆け引きで撃ち合いを少しでも有利にする戦術面こそが「爆破ルール」の醍醐味だと思いますね。

――具体的に「撃ち合いを有利にする戦術」とはどのようなものでしょうか?

yukishiro:原則、爆破ルールでは守り側が有利になりがちなんです。攻めてくる相手を有利なポジションで待ち伏せすることができますからね。そこで攻め側は工夫をしなければいけません。たとえば「索敵」。『VALORANT』であれば、「ソーヴァ」など一部のエージェントはドローンなどを使って敵の位置を知ることができるんです。位置さえわかってしまえば、こちらが一点突破で攻撃したり、壁越しに攻撃することでむしろ攻撃側が有利になります。もうひとつは「撹乱」。エージェントの中には「スモーク」と呼ばれる煙幕や、「フラッシュ」と呼ばれる閃光弾を投げ込むアビリティを持っていて、敵が待ち構えていそうな場所にこうしたアビリティを使うことで撹乱し、攻め手が陣形を変えざるを得なくなる。ほんの一例ですが、こんな感じですね。

――攻め方についてはわかりましたが、逆に守り側もスモークやフラッシュを持ってるわけじゃないですか。守り側はどう使うんでしょう?

yukishiro:守る側はカウンターですよね。敵の使ったアビリティから敵の攻撃ルートを予測し、こちらもアビリティを使う。また逆に、守り側は攻め側の戦略を見越して逆に自分から先に仕掛けたり(詰める)、むしろ設置地点をあえてがら空きにしてアビリティを無駄遣いさせつつ、後で取り返す(リテイク)など、これもごく一部の例ですが本当に色々な守り方がありますね。

――そのような攻め方、守り方は試合前からチームで何度も練習して身につくものなんですよね?

yukishiro:そうですね。先程話したコーチやアナリストを交えつつチーム全体で事前にいくつも戦略を練ることが基本だと思います。また、現在では「スクリム」と呼ばれる国内外のプロチームとオンラインでの練習試合をすることもよくあります。

――そうしてチーム全体で培った戦略部分がチームの強みになっていくと。

yukishiro:たとえば『VALORANT』では基本的に13ラウンド先取ですが、同じ1ラウンド勝利にしても、1人生き残って勝利したか、3人生き残って勝利したかで価値が違うんです。生き残った数だけ武器を持ち越せるというのもありますが(※)、そもそも1人が生き残った場合、お互いがカバー勝負や時折出る連続キル等で取って取られての結果なので、そのわずかな差もチーム力とは言えますが再現性がすこし低いと思うんですよ。でも3人以上残ってラウンド勝利した場合、それは撃ち合いではなく戦略面で相手を上回って勝てているんです。それこそチームの強さだと思います。

(※)『VALORANT』では死亡する度に武器やアビリティをクレジットで購入する必要がある。強力な武器ほど高価であり、試合中に何度も買えるものではないため、それを失う(鹵獲される)ことは極力避けたい。

【後編へ続く】

(取材・文=ジニ(Jini))

ジニ(Jini)

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