「半導体供給網」の国内回帰に向けた投資が世界的に加速する理由

「半導体供給網」の国内回帰に向けた投資が世界的に加速する理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
No image

米インテルが2兆円なら台湾TSMCは10兆円

自動車産業をはじめ世界的な半導体不足が続く中、その生産設備の増強に向けた各国・地域の投資合戦が過熱している。

世界最大の売上高を誇る半導体メーカー、米インテルは先月23日、200億ドル(2兆円以上)を投じてアリゾナ州に生産工場を建設すると発表。それから1週間後の先月31日、今度はバイデン政権が国家的なインフラ強化策の一環として、半導体メーカーによる国内生産工場の新設・増強などへの補助金500億ドル(5兆円以上)の予算を議会に求める計画を明らかにした。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

このように、米国がいわば国を挙げて半導体生産の国内回帰を目指す中、台湾では今月1日、世界最大のファンドリ(半導体の受託生産会社)であるTSMC(台湾積体電路製造)が今後3年間で1000億ドル(10兆円以上)を投じて工場新設など生産設備の増強を図ると発表した。

対する米国にはインテル以外にもグローバル・ファンドリーズ(GF)という半導体の受託生産会社があるが、その事業規模はインテルやTSMCに比べれば小さい。またエヌビディアやクアルコムなど米国の有力な半導体メーカーは生産設備を持たないファブレス・メーカーだ。

したがって、GFによる投資額を含めたとしも、台湾メーカーのTSMC1社だけで米国全体の半導体生産に向けた投資額を上回ることになるだろう。

さらにEU(欧州連合)も今後、域内生産する半導体の世界シェア2割を目指し、これを中心にデジタル分野への新規投資として、新型コロナ復興基金7500億ユーロ(100兆円弱)の2割に当たる1500億ユーロ(19兆円以上)を投じる計画だ。

アジア依存への反省から

米国やEUが国内(域内)に半導体生産を回帰させようとしている主な理由は、中国や台湾、韓国メーカーなどアジア勢への依存体質に対する反省だ。

コロナ禍の下でのテレワークや学校の遠隔授業、あるいは家庭でのゲーム機など巣籠り需要によって半導体市場が急拡大する中、逆に自動車産業等に供給されるべき半導体が足りなくなった。

米欧の自動車メーカーはアジア勢に半導体の増産を求めたが、彼らはそれに即対応できなかったため、自動車の製造工場は稼働停止に追い込まれた。つまり「いざというときに外国メーカーは頼りにならない」との理由から、米国やEUは半導体供給網の国内(域内)回帰を図ろうとしているのだ。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

それに加え、国防や諜報活動など安全保障上の理由もある。米国防総省はAIや5Gなど先端ITを次世代の兵器開発や情報通信ネットワークの要と位置付け、これらに搭載される半導体チップを海外工場で生産することは重大なリスクであると考えている。特に中国と近い台湾のメーカーに依存したままでは、万一の有事に際に米国は半導体の供給を受けられなくなってしまう。

冒頭のインテルの発表は、こうした米政府関係者の懸念に同社が阿吽の呼吸で応えた形と見られている。

インテルは今年2月、元々同社のエンジニアだったパット・ゲルシンガー氏が新たなCEOとして返り咲いたばかりだ。それ以前は、一部の大株主や業界アナリストらから「半導体の生産部門を売却して、(半導体の設計に徹した)ファブレスに転身すべきだ」との声すら挙がっていた。

したがって、インテルが逆に200億ドルも投じて生産工場を増設することは、これまで想定されていた路線から180度の転換となる。米国防総省の関係者は、今回の動きを非常に歓迎していると言われる。

半導体の製造技術ではTSMCが独走

ただ、いかにやる気があっても、また大金を注いでも、思い通りに運ぶとは限らない。

ペンタゴンが想定しているAI兵器や5Gネットワークの構築には、最先端の半導体製造技術が必要になってくる。この点でインテルは、TSMCやサムスンなどアジア勢に極めて大きな遅れをとっている。

現在、最先端のプロセス・ルール(半導体の最小加工寸法)は7ナノ・メートル(ナノは10億分の1)だが、TSMCは既に2018年にはこのスケールでの量産体制を整えており、現在はその先にある5ナノ品の量産体制に入りつつある。

これに対しインテルは、7ナノ品の量産体制が当初の予定だった2019年から大幅に遅れ、2023年までずれ込む見通しだ。もっとも、こうした最小加工寸法は企業毎に評価基準が異なるので、インテルの7ナノ品は実はTSMCの5ナノ品と事実上等しいとの見方もある。しかし仮にそうだとしても、インテルはTSMCにやはり2~3年は遅れていることになる。

しかもTSMCは今後、インテルの5倍に達する1000億ドルを投じて生産工場を新設し、2024年には2ナノ品の量産に入る予定と表明している。インテルにしてみれば、先を走る強力なライバルの背中が見えない状況になりつつある。

これに対しTSMCは米国との関係も深めている。米政府の補助金も受け120億ドル(1兆2000億円以上)を投じ、アリゾナ州フェニックス市に工場を建てて、ここで2024年には軍事用半導体の量産に入る計画とされる。地元フェニックス市も雇用創出の面で大歓迎しており、工場周辺の道路整備などに総額2億ドル(200億円以上)を拠出する計画を市議会で承認した。

一方、日本政府も経済産業省の主導で、総額2000億円の予算を割いてTSMCの国内誘致に向けて動いているとされる。背景には当然、香港や台湾を巡り緊張する米中関係がある。

世界的な特需に沸く半導体産業は、日米台の共同サプライチェーンなどテクノロジーを中心とする新たな地政学を映し出す鏡の様相を呈している。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加