
11月12日、大相撲九州場所が福岡国際センターで始まり、中日を終えました。先場所優勝した大関・貴景勝の綱とりに注目が集まりますが、今場所はまた横綱不在…。『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」が今場所もテレビ観戦記を綴ります。
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前回「3大関が揃って白星スタート。貴景勝は3度目の綱とり、苦難の道か?快勝の道か? 2番が行司軍配差し違えで3分延長も」はこちら
何が起きるか分からない展開
大相撲九州場所は中日を終えて、混戦のうえ、物言い、取り直し、水入りなどの熱戦が繰り広げられ、何が起きるか分からない展開である。観客の声援も熱い。1敗で単独トップを走るのは前頭14枚目・一山本ひとりだ。
先場所優勝して綱とりをかけている大関・貴景勝は、平幕に負けて3敗という苦しさ。中日は、ふくらはぎを痛めて休場していた前頭筆頭・朝乃山が初登場し、貴景勝と対戦。貴景勝は突き押しがきかず、土俵際で朝乃山の下手投げに敗れた。物言いがついたが、朝乃山の勝ちとなった。
中日のNHK放送席のゲストは、今シーズン限りで現役を引退した元プロ野球選手で「熱男(あつお)」がキャッチフレーズの松田宣浩さん(40歳)。子供の頃からの大相撲ファンで、昭和風を感じる貴景勝が好きな力士。しかし、中日の相撲を見て「熱男」に貴景勝に勝った朝乃山を選んだ。
大関の霧島と豊昇龍はともに2敗だ。
5日目、豊昇龍は立ち合いで、前頭4枚目・豪ノ山が右手を土俵についたものの、自分は手をつかずに、にらみ合うこと90秒。私は、豊昇龍がどこか具合いが悪くて固まってしまったのかと心配した。その後仕切り直しになったが合わず、勝負が始まるまで約3分かかった。
この日の向正面解説は豊昇龍の師匠である立浪親方(元小結・旭豊)で「指導しておきます」と言っていた。翌日の新聞各紙には、粂川審判長(元小結・琴稲妻)が豊昇龍を呼び出して注意したとあった。豊昇龍は「熱くなった」そうだが、横綱昇進を意識しすぎて、叔父さんの横綱・朝青龍の荒々しい遺伝子が出てしまったのだろうか。
相手は関係ない
このにらみ合いから、私は先日、レトロな喫茶店でハヤシライスを一人で食べていた時のことを思い出した。隣のテーブルに70歳半ばの夫婦と見える二人がいた。奥さんが鋭い目で旦那さんをにらんでいた。若い頃は見つめ合いだった二人も、結婚して何十年もたつと、にらみ合いになるのだと思った。
すると奥さんが言った。「あなた、やっぱり白内障の手術をした方がいいわ」。旦那さんが「そうだなあ。つらくなってきた」と答えた。私は、手術の成功を陰ながら祈った。
話が大相撲から離れたが、私はずっと密かに応援している力士がいる。前頭11枚目・佐田の海だ。派手さはないが、自分の相撲をひたすら究めようとする姿が魅力なのだ。6日目に先場所貴景勝と優勝争いをした前頭8枚目・熱海富士の5連勝を、7日目には一山本の6連勝を、佐田の海はそれぞれに勝ちストップさせた。
7日目に連勝ストップについてレポーターが聞くと、佐田の海は「相手は関係ない。ただ白星は嬉しいですね」と答えた。佐田の海は、野球をよく見ていて、松田さんに対して、「年齢を重ねてもできるんだというところを証明してくれた。自分も長く頑張りたいので、そういったところを見習いたい」という談話がレポーターから伝えられた。
松田さんは、「明日から佐田の海関をめちゃめちゃ応援したいなと思います」と喜んでいた。佐田の海は5勝3敗だ。
8年ぶりの水入り
ちなみに、私は前頭2枚目・正代も密かに応援し、立ち腰のまま圧力をかけて進む時は「正代行け~」と、テレビの前で派手に叫んでいる。正代は4勝4敗。二人の勝ち越しを密かに祈っている。
8年ぶりの水入りの大相撲が7日目にあった。実況の三輪洋雄アナウンサーが「これぞ大相撲という体格差の一番です」と取組前に言ったが、6分40秒の大相撲だった。
身長174cm、体重115kgの前頭5枚目・翠富士と身長204cm、体重181kgの前頭7枚目・北青鵬との対戦だ。北青鵬は翠富士の肩越しに左上手で、廻しを絶対に離さない。翠富士は右下手でもぐって苦しい体勢。4分で水入りとなり、再開のために足の位置に塩を置くのは、大相撲らしい。
再開後、翠富士は下手投げをうったが、北青鵬の上手投げにより、土俵に倒れた。土俵に大の字になってすぐに起きられない翠富士が、負けてもカッコ良かった。
横綱の条件
次の大関候補として期待されている関脇・琴ノ若は、3日目に前頭2枚目・明生との土俵際の攻防で物言いがついた。結果は、琴ノ若が「大逆手(おおさかて)」という珍しい技で勝利した。2001年に追加された決まり手で、13年ぶりに見る大技である。肩越しに上手で廻しを深く取って、横にひねるように投げる技だ。
珍しい技は大相撲の魅力だ。相手を肩にかつぎあげる「撞木反り(しゅもくぞり)」や横綱の初代若乃花が得意とした「呼び戻し」など、誰か大技を見せてくれないか。
横綱・照ノ富士は夏場所(5月)に優勝して以来休場。新横綱の姿が見たいが、横綱は大関として2場所連続優勝かそれに準ずる成績が求められる。白星をあげるため3大関は必死である。しかし、横綱の条件は「品格・力量が抜群」とある。過去の横綱では品格を問われた力士たちがいた。
私は業界新聞社で記者をした時に、あるビジネスセミナーの取材に行き、一流企業のトップの人が、「部下に品格をもてと言っても部下に伝わらない。どうしたら品格をもたせられるのか?」と質問した。講演者は明確に答えることができなかった。
私は、品格のある人に何人かお会いしたことがあるが、心の構えにゆとりがあり、揺るぎないオーラを感じた。いつも不安定な精神で、些細なことで焦り出す私には、品格獲得は無理だと確信している。
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しろぼしマーサ