稲垣吾郎、フラットな受け手に徹することのできる彼あってこその作品で知る「傷ついても得られる人生の豊かさ」

稲垣吾郎、フラットな受け手に徹することのできる彼あってこその作品で知る「傷ついても得られる人生の豊かさ」

  • NEWSポストセブン
  • 更新日:2022/11/25
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妻について「ある悩み」を持つフリーライターを演じる稲垣。(c)2022「窓辺にて」製作委員会

稲垣吾郎(48才)が今泉力哉監督と初タッグを組んだ映画『窓辺にて』が好評だ。公開御礼・全国生中継つき舞台挨拶も実施され(11月17日)、稲垣、出演者の一人である中村ゆり、今泉監督が登壇。

【写真】フリーライターという“取材する側”を演じた稲垣。

稲垣が映画内の自身について、「演じてないんじゃないかな」と思うほど、また周囲からも「演じてないんじゃないの?」と言われるほど、自分に近い役だった、と語った。

それほど、彼を中心に、どこかにありそうで、たぶんどこにもない、そんな豊穣な人間ドラマが綴られている作品である。

本作は、『愛がなんだ』(2019年)や『街の上で』(2021年)などの代表作を持つ今泉監督のオリジナル最新作。来年は有村架純主演の『ちひろさん』の公開も控えている、いまもっとも新作が期待される今泉監督と、朝ドラへの出演をはじめ、映画や舞台での主演が続くなどアクティブな俳優活動を展開する稲垣との幸福な初タッグとなった。ウィットに富んだ会話の応酬や軽妙洒脱な展開の連続に魅了される作品だ。

あらすじはこうだ。かつて『STANDARDS』という小説を世に出し、現在はフリーライターとして活動している市川茂巳(稲垣)。彼はある日、とある文学賞の授賞式で高校生作家の久保留亜と出会う。彼女の書いた小説『ラ・フランス』に惹かれた茂巳は、主人公のモデルとなった人物に会わせてもらうことに。その一方で茂巳は、ある問題を抱えていた。編集者である妻の紗衣が、彼女の担当する人気小説家と浮気していることを知っていながらもそのことを言い出せない日々を過ごしているのだ。しかも彼は、妻の浮気を知ったときの自分の感情についても悩んでいる。そんな茂巳の元にさまざまな者たちが現れては、人縁関係が複雑に絡み合っていくーー。

若手からベテランまでのユニークな俳優陣がチャーミングなキャラクターたちに扮し、独特な世界観を構築している本作。茂巳とともに穏やかな時間を過ごす妻・紗衣(中村ゆり)は荒川円(佐々木詩音)と不倫関係にあり、この二人の関係が茂巳にとって“ある種”の悩みのタネとして存在する。

そんな彼の前に現れるのが、どこかミステリアスな雰囲気を持った高校生作家の久保留亜(玉城ティナ)。彼女のあけすけで大人びた言動が、茂巳の日常にゆるやかな変化をもたらす。

久保の「ラ・フランス」の主人公のモデルとなった何人かの人物の一人である恋人の優二(倉悠貴)は不良じみた見た目をしているが純粋な青年で、もう一人のモデルである久保の伯父・カワナベ(斉藤陽一郎)は俗世間をでの生活を捨てて山小屋で暮らしている。茂巳を慕う友人のマサ(若葉竜也)とその妻・ゆきの(志田未来)もそれぞれに問題を抱えており、少なからず彼に影響を与える存在だ。

この中でもっとも平凡なのが、稲垣が演じる主人公・市川茂巳である。彼は知的好奇心が旺盛な性格の持ち主だが、受動的な人間で周囲の人々の言動に流されやすい。さまざまな個性を持った者たちが茂巳の人生に介入してくることによって、彼はいつも翻弄される。

凡庸で何かをあきらめている飄々とした主人公の物語という点など、作家・村上春樹の作品に似た感触が本作にはある。特異な現状を基本的にただ受け入れるところなど、まさにそうだ。とはいえ、村上作品の主人公たちのような物事を達観する姿勢は、茂巳にはない。

茂巳の性格を“流されやすい”と記したが、これは多くの場合、ネガティブな印象を持たれるものだと思う。だが、茂巳に関してはそうではない。彼はあまり自己主張をしないだけでなく、他者を否定しない人間である。目の前の相手の考えにただ耳を傾け、相槌を打つ。そういう意味では“流されやすい”ではなく、異なる立場や考えを持った人々のことを誰よりも受容できる人間なのだという方が正しそうだ。

実際、彼と交流を持つことによって誰かが救われている様子が、劇中ではたびたび描かれる。茂巳自身が抱える問題は解決こそしないが、こうして人々と交流するうちに、彼にもやがて一つの大きな変化が訪れることになるのである。

スクリーンに映し出される稲垣の姿は、まさに「演じてないんじゃないかな」と思えるほどに自然なもの。誰に対してもフラットな受け手に徹することのできる、稲垣あってこその作品だ。

さて、この茂巳を中心とした群像劇を観ていると、いくつかの主題が見えてくる。一つはやはり“愛”に関するものだが、ここでは“他者との繋がり”というものに言及して結びとしたい。

本作に登場する者たちは誰もが悩んでいる。この映画においてその悩みとは、“他者との繋がり”におけるものだ。誰かと関係を築きたい、繋がっていたいと個々が願うからこそ、そこではすれ違いなどにより、それぞれの内に悩みが生じる。傷ついたり、悲しんだりすることだってあるだろう。けれどもこの映画に登場する者たちは、誰もが活き活きとし、輝いて見える。

他者との繋がりによって、傷ついたり悲しんだりすることで得られる人生の豊かさを、“市川茂巳=稲垣吾郎”というキャラクターを通して私たちは知るのだ。

文・折田侑駿

NEWSポストセブン

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