司令塔不在、日本のワクチン製造・開発

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  • 更新日:2021/06/10
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(Yakobchuk/gettyimages)

DNAワクチンの開発を進めている大学ベンチャー、アンジェスMG社の創業者で大阪大学大学院の森下竜一教授が9日、日本記者クラブで日本がワクチン開発に出遅れた要因、開発の現状、政策のあり方などについてオンライン講演し、「ワクチンを作る側としては政府に開発から製造までの『司令塔』を作ってほしい。そうでないと、いつまでにどれくらいの量のワクチンを作るのか決められない。ベンチャーのいち民間企業だけでは決定ができないので、誰に相談して開発、製造を進めるのか『司令塔』を明確にしてほしい」と要望した。

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もりした りゅういち 1987年に大阪大学医学部卒業。98年に同大学医学部講師、99年にメドジーンバイオサイエンス社(現在のアンジェスMG社)を設立、現在はアンジェスMG社のメディカルアドバイザー。2003年から大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授。59歳。岡山県出身(日本記者クラブ提供)

日本が欧米と比べてワクチン開発が遅れた理由については「欧米は感染症ワクチンに対してベンチャー企業が積極的に取り組んできていた上に、米国の場合は政府の支援が大きかった。

2001年の同時多発テロで炭そ菌によるバイオテロが起きたため、米国軍も積極的にベンチャーの開発を支援した。トランプ大統領の時に、ワープスピード計画によりワクチンの買取りを進めるとともに、開発に成功しなくても製造許可を与えるなど開発のスピードを優先した。

また欧米の場合は、自国で大規模な感染が起きたため、大規模な発症を見ることができたため実用化が早まった。

それに比べて日本は、製薬会社がワクチンはもうからないビジネスとみていたため、残念だが開発が遅れてしまった。野球に例えると、大リーグのブルペンでいつでも投げられる態勢だったのが米国で、遺伝子の研究というバットとボールは持っていたが、ソフトボールをしていたのが日本だった。準備不足だった」と指摘した。

森下教授は政府が6月1日に閣議決定した「ワクチン戦略」を高く評価し、「国家の安全保障として『ワクチン戦略』を決めたことはワクチン開発に新しいページを開くものだ。ワクチンは輸入するものだったものを、輸出を目指そうとしており、これは政策のコペルニクス的大転換だ。特にアジア各国と共同で立ち向かう姿勢を示したことは重要だ」と述べた。

「ワクチン戦略」では、世界トップレベルの研究開発拠点(フラッグシップ拠点)の形成や治験環境の整備、薬事承認プロセスの迅速化、ワクチン製造拠点の整備などを明示した。ワクチン開発・製造を行う企業等に対しては、感染症発生時による「国による買上げ」や原材料の国産化などを盛り込み、菅義偉首相は「政府として一丸となって取り組む」と強調している。

その上で政府に対する要望としては「ワクチンの開発、製造、接種、海外への提供などを包括する一元的に管理する『司令塔』を内閣府内に設置すべきで、われわれも政府と話し合う場を持ちたい」と述べた。「国内分だけのワクチンだけでなく、アジア各国、少なくとも数億人分のワクチンの製造体制作るまで踏み込まないと不十分だ」と指摘、アジア諸国から日本に対する強い期待に応えるべきだとの考えを示した。

国産ワクチン開発の現状については「現在、4社が開発を進めているが、わが社のものが一番実用化に近い。ファイザーやモデルナのRNAワクチンと違ってDNAワクチンを開発することに決めたのは、過去にDNAワクチンを使って実用化した経験、安全情報があるから昨年の3月から開発に乗り出した」と述べた。

アンジェス社が開発を進めているDNAワクチンについては「5年以上の長期保存が可能で、マイナス20度で保存できるので、現在実用化されているワクチンよりも使いやすい。しかも変異株に速く対応できる特徴があるので、変異株には一番有効ナワクチンではないか」とメリットを強調した。今後については「ワクチンの投与量をいまよりも減らすことができないかについても開発を進めている。また針を使わないで注射する方法をダイセル社と開発中で、現在、臨床試験をしている。飲むタイプの実用化は進んでいない」と話した。

国産ワクチンの実用化時期

関心が高い国産ワクチン実用化の時期については「まだ分からない。ワクチンの認可基準が明確でなかったので遅れた。WHO(世界保健機関)が近くどれくらいの規模の治験が必要なのか新しい指針を示すことになっており、それによって時期が違ってくる。もし東南アジアの数万人の大規模な治験が必要となれば、実用化の時期は遅れる」と説明した。

開発しているDNAワクチンの効果に関しては「新型コロナウイルスが体内に入ってきてから出ないと効果が出ないワクチンなので、感染は防げないが、発症、重症化を防ぐことができる。効果に関しては、明確なデータはないが、ファイザー社のワクチンよりは低いが、アストラゼネカと中国製の間くらいに入るのではないか。効果を上げようとすると副反応が高まるリスクがあるので、安全安心を担保しながら効果を上げるようにしたい」と述べ、安全性にも配慮しながら開発を進めていることを明らかにした。

また国産ワクチンの必要性について「海外のワクチンばかりに頼っていては、ローカルで局所的に変異株が流行した場合は、欧米の製薬メーカーもわざわざそのために対応はしてくれない恐れがあり、日本が『鎖国』状態になる可能性もある。こうした事態にしっかリ対応するためにも、国産ワクチンを実用化する必要がある」と指摘した。どういうワクチンを作るかに関しては「G7で対応を考えるなど、国際協調で取り組むことが重要である」と述べた。

ワクチンは変異により感染力が高まるタイプがある。「オリジナル株から1.5倍感染力の高まったのが英国型で、英国型がさらに1.5倍感染力が強いのがインド型だ。このほか南アフリカ型があるが、英国型とインド型には既存のワクチンがそこそこ効くといわれている。一方、南アフリカ型は感染力は強くないが、既存のワクチンの効果が弱いといわれている。このため、ファイザー、モデルナ社は南アフリカ型に対応する新しいワクチンの臨床試験に入っている。変異株について今後は、どれだけ感染力があるかと、既存のワクチンがどれくらい効くかの、2つの観点から調べる必要がある」と指摘した。

「我々の開発しているワクチンでも英国型では若干効果が落ちる。南アフリカ型にはかなり落ちることが分かっているので、再度作り直す必要があるので、DNA設計をやり直して、現在動物実験をしているところだ」と述べた。

来年以降のワクチン接種については「当面は毎年、流行しているか、流行する可能性のある変異株に対応したワクチンを接種する必要がある。そうすることが経済を回していくという点でも有効だ」との見方を示した。

中西 享

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