カルト宗教と民間療法は信じる者だけが救われる!? プラシーボな神をめぐる暗黒アニメ『我は神なり』

カルト宗教と民間療法は信じる者だけが救われる!? プラシーボな神をめぐる暗黒アニメ『我は神なり』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2017/10/14
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宗教に頼らずには生きていけない人間の弱さをリアルに描いた長編アニメ『我は神なり』。ヤン・イクチュンらが声優として参加。

神は存在する。ただし、神は存在しないという文脈においてのみ、神は存在する。言い換えれば、神は存在しないことを証明されるために存在する。つまり、神は数字のゼロのような存在だ。存在しないことによって存在する。そんな現実世界には実存しない神の解釈をめぐって、人々は長きにわたって争い、憎しみ合ってきた。実写映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)で大ブレイクしたヨン・サンホ監督の長編アニメ『我は神なり』(英題『FAKE』)では、神のご利益を説くことで信者たちからお金をむしり取るインチキ教団と、そんなインチキ宗教でもすがりつきたいと願う人々の心理を克明に描いた救いのないドラマが紡がれていく。

日本では今年9月から劇場公開が始まった『新感染』で実写映画デビューを飾り、『新感染』の前日談を描いた長編アニメ『ソウル・ステーション パンデミック』(16)も続いて公開され、ゾンビよりも人間のほうがよっぽど悪質で、おぞましい存在であることをこれでもかと見せつけたヨン・サンホ監督。8月来日時のトークイベントでは「日本のアニメや漫画の影響をすごく受けた。中でも今敏監督のリアリズム溢れる初期作品を観て、自分も映画をつくりたいと思った」と語った。なるほど、社会の底辺を生きる人々をリアルに描く作風は今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』(03)っぽくあり、最後の最後まで目が離せないサスペンスフルな演出は『パーフェクトブルー』(98)を思わせる。極彩色の悪夢『パプリカ』(06)を最後に、46歳の若さで亡くなった今敏監督の系譜を受け継ぐ才人が韓国から現われたことがうれしい。そんなヨン監督が2013年に発表した長編アニメが『我は神なり』。多くの人に好まれる宮崎駿アニメ風の欧州的な整った顔立ちではない、アジア人特有の平べったく、目の細く、筋ばった容姿のキャラクターたちが物語の主人公だ。

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補償金という慣れない大金を手にした村人たちは、ヤン牧師のいる教団にこぞって献金することに。

国家レベルの大規模な建設工事のために、村人全員が立ち退きを命じられた小さな集落に、とある宗教団体が訪れる。故郷を喪失することに動揺している村人たちは、若くてイケメンのソン牧師(声:オ・ジョンセ)を崇め、教団から分けてもらった神の水を呑めば万病に効くと信じ込んでいた。ソン牧師はあくまでも教団の表の顔で、詐欺師のギョンソク(声:クォン・ヘヒョ)が裏では仕切っている。他の土地へ移り住むために村人たちがもらっていた補償金を狙っての布教活動だった。神への信仰心として教団に献金すればするだけ、この世の苦しみから逃れることができるという。しかも、故郷を失う村人たちが一緒に暮らすことができる現世浄土としての施設「祈りの家」を、村人たちからの献金を元に建設するとギョンソクは約束する。世間から見捨てられた集落にしがみつくように暮らしてきた人々は、うさん臭い教団が提示した現代のユートピア計画にまんまと騙されてしまう。

性格もいいソン牧師に村人たちみんなが夢中になる中、1人だけ教団にツバを吐く人間がいた。ギャンブル好きな荒くれ男・ミンチョル(声:ヤン・イクチュン)は隣町の酒場でクダを巻いていた際に、ギョンソクがお金で雇ったサクラに足の不自由な信者を演じさせる打ち合わせの現場を目撃し、さらに警察署の指名手配書の中にギョンソクがいることに気づく。ミンチョルの娘・ヨンスン(声:パク・ヒボン)らも参加している教団の集会にミンチョルは乱入し、教団のインチキぶりを糾弾する。だが、ミンチョルは村人たちから嫌われていたため、娘のヨンスンも含め誰も彼の言葉に耳を傾けようとはしない。嫌われ者が暴くつらい現実よりも、人気者が語る甘い嘘をみんな信じようとする。

教団が分けてくれる神の水を毎日呑むことで、村の高齢者や難病に苦しんでいた人は一時的に元気になる。ただの砂糖水でも「これ、効くよ」と言って呑ませれば、身体の痛みを軽減させることができる。プラシーボ(偽薬)効果ってヤツだ。暗示によって、人間が本来持っている自然治癒力が高められる。民間療法や健康食品の効能の多くは、このプラシーボ効果によるもの。民間療法と宗教は信じる者だけが救われる。『我は神なり』で描かれる神さまとは、プラシーボな存在に過ぎない。それでも、村人たちはプラシーボな神さまにすがりつくしか選択肢はなかった。

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「宗教なんかインチキだ」と叫ぶミンチョルは、教団の武闘派グループからボコボコにされる。神は神を信じない者にはとことん厳しい。

カルト教団、新興宗教はこれまでにも映画の題材として度々取り上げられてきた。ビートたけし原作&出演作『教祖誕生』(93)では、情弱な人たちに付け込むインチキ教団の裏側がコミカルに描かれた。伊丹十三監督は遺作となった『マルタイの女』(97)で、カルト教団の反社会性について言及している。震災風俗嬢を主人公にした廣木隆一監督のオリジナル作『彼女の人生は間違いじゃない』(17)は、被災者たちが暮らす仮設住宅に新興宗教の勧誘が群がる現状について触れていた。サイエントロジーの創始者L・ロン・ハバードをモデルにして企画が生まれのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』(12)。宗教団体の創設者(フィリップ・シーモア・ホフマン)は人間の心を癒す特殊能力を持っていたが、信者数が増えるにつれて組織は巨大化し、単なる集金システムへと変貌を遂げていく。地縁もなく、血縁にも頼ることができない下流社会に生きる人々にとっては、神が存在しようがしまいが、敷居の低い宗教団体に救いを求めるしかないというシビアな現実がある。

村人たちがソン牧師の説く神の存在を信じているのに、鼻つまみ者のミンチョルが「こいつらはインチキだ」とののしり回るため、せっかくのプラシーボ効果が台無しである。インチキ教団を取り仕切るギョンソクだけでなく、村人たちは自主的にミンチョルを村から排除しようする。人民寺院集団自殺事件を再現した恐怖映画『サクラメント 死の楽園』(13)のように、もはや村人たちは集団催眠状態に陥っていた。また、純粋に神の存在を信じているソン牧師にとっても、異分子ミンチョルは目障りだった。神さまの存在を盲目的に信じたことで、やがてこの村はサイアクの結果を迎えることになる。

神さまにすべてを捧げた村人たちは、ゼロに向かって突き進んでいく。神さまに近づくということは、財産も捨て、家も捨て、煩悩も捨て、自分自身を完璧なゼロへと近づけていくことなのだろうか。確かに神は存在する。ただし、神は存在しないという文脈においてのみ、神は存在する。そんな矛盾を背負いながら、人間はこの不完全な世界を生きていくしかない。
(文=長野辰次)

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『我は神なり』
監督・脚本/ヨン・サンホ
声の出演/ヤン・イクチュン、オ・ジョンセ、クォン・ヘヒョ、パク・ヒボン
配給/ブロードウェイ 10月21日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国公開
(C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD INC.,&Studio DADASHOW All Rights Reserved.
https://warekami-movie.com

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