中国製の監視カメラ、米国の至る所に「目」

中国製の監視カメラ、米国の至る所に「目」

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/11/14
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米テネシー州メンフィスの警察は監視カメラを使って街頭での犯罪に目を光らせている。米陸軍はミズーリ州の基地を監視カメラでモニターしている。全米の住宅や企業にも防犯カメラは設置されている。

これら監視カメラは全て1社が製造している。中国政府が42%保有する杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)だ。同社のカメラは一時、アフガニスタンの首都カブールにある米大使館でも使用されていた。

ハイクビジョンは、14億人の国民を監視するためさまざまな新技術の導入を急いでいる中国政府を手助けしている。その過程で同社はほぼ無名の企業から世界最大の監視カメラメーカーへと成長した。同社はフランスの空港やアイルランドの港にカメラを納めているほか、ブラジルやイランにも機器を販売している。

ハイクビジョンの急速な台頭や中国政府とのつながりのほか、米国土安全保障省(DHS)が同社製品のサイバーセキュリティー上の欠陥を警告したことを受け、同社製品を採用する米国やイタリアの当局者は懸念をつのらせている。

米国の一部セキュリティー関連企業はハイクビジョンのカメラの取り扱いを拒否したり、購入に制限を設けたりしている。同社の機器を使って中国政府が米国民にスパイ行為を行う可能性を懸念しているためだ。

米政府の660億ドル(約7兆5000億円)に上る物資調達を担当する一般調達局(GSA)は、ハイクビジョンを自動的に承認されるサプライヤーのリストから外した。またDHSは5月、ハイクビジョンの一部カメラに簡単にハッキングされる恐れのあるセキュリティーホールがあると警告。その脆弱(ぜいじゃく)性に対し、セキュリティー面で最低評価を与えた。

監視カメラがバックドアに

こうした懸念は、中国人民解放軍の元エンジニアが創業した華為技術(ファーウェイ)を巡る物議をほうふつとさせる。米連邦議会が2012年に華為のネートワーク機器が米国民に対するスパイ行為に使用されている可能性があると報告したことを受け、同社製品は米国で実質的に販売が禁止された。華為はそのような懸念を繰り返し否定している。

ハイクビジョンは同社製品の安全性を強調し、事業を行う各地域の法律に従っていると説明。DHSと協力して指摘された欠陥も是正したとし、「ビデオカメラの映像を利用したり、コントロールしたりすることは一切できない」としている。また、製品の大半は外部の業者を通して販売されており、最終的に誰の手に渡るかは分からないことが多いという。

同社の胡揚忠・総裁はインタビューに応じ、「ハイクビジョンはビジネスだ」と語った。「当社のカメラに(ハッカーの侵入経路となる)バックドアを設けることは不可能だ。そんなことをすればビジネスにダメージが及ぶ」

インターネットに接続された機器の普及は加速しており、監視カメラの脆弱性に対する懸念が高まっている。カメラは各組織のIT(情報技術)ネットワークの弱点になり、特定の国が後ろ盾になっているものを含めハッカーにバックドアを開放することになりかねない。

昨年、ハッカーが何十万台ものカメラを乗っ取り、大規模なサービス妨害(DoS)攻撃を仕掛けた。それらカメラにはハイクビジョンが中国で競合する企業の製品も多く含まれていた。専門家によると、この攻撃でアマゾン・ドット・コムやペイパル、ツイッターなどが何時間も利用不能になった。

ハイクビジョンは、半世紀前に立ち上げられた軍民両用技術を開発する政府の研究施設を母体としている。筆頭株主は、防衛・軍事機器を製造する国有企業の中国電子科技集団(CETC)だ。最大の個人株主は香港の富豪で、ハイクビジョンの上級幹部とは大学の同級生だった龔虹嘉氏。中国の証券取引所に提出された書類によると、同社幹部の一部は共産党員でCETCの子会社にも在籍している。

龔氏はインタビューで、2001年にハイクビジョンの設立資本を提供したと述べた。残りの株式51%は政府支援の研究施設に与えられた。以来、政府は出資比率こそ下げているものの、ここ数年、同社への関与は高める一方だ。

ただ龔氏は「政府は海外市場での販売は手助けできない」と指摘。「それは全て同社が存在感を高めるべく、何年も投資した結果にほかならない」と述べた。

CETCはコメントの要請に応じなかった。

政府機関との取引が台頭を後押し

ハイクビジョンの台頭を後押ししたのは、政府機関との契約だ。同社は2008年の北京五輪でセキュリティー面を支援した。また2011年には、中国南西の重慶市で実施されている監視システムの切り替え・拡大プロジェクトの契約額が12億ドルに達したと明らかにした。今やハイクビジョンのカメラは重慶市の至る所に設置されている。

ハイテクを使ったセキュリティーを優先課題の1つに掲げる習近平国家主席は、2015年にハイクビジョンの本社を訪れている。その年以降、ハイクビジョンは中国の政策銀行3行のうち2行から大きな融資を受けている。

ハイクビジョンの鄭一波・副総裁は、CETCは同社の日常的業務には関与していないと述べた。中国政府関連の売上高については、「政府への販売比率は高くない」と述べるにとどまり、具体的な数字は明かさなかった。

同社で研究部門を率いる浦世亮氏は、中国公安部が運営する浙江省杭州の研究施設でも指導的地位に就いている。同研究施設のウェブサイトによると、同施設では当局がハイクビジョンのカメラやその他情報源から集めたデータを活用し、取り締まり活動を向上する方法を研究している。

浦氏は9月、中国当局が人工知能(AI)技術を活用した新たな監視プロジェクトを国内で推進していると語っていた。政府は革新的な監視技術を求めており、そのニーズに対応しようと多くのIT企業が競っている。

中国は、欧米であれば警戒感が抱かれるような方法で国民を監視する新たな技術を展開している。プライバシーの懸念や国民の議論にしばられない中国の強権的な指導部は、顔認証技術などの監視手段を用いてソーシャルエンジニアリングの広範な実験を行っている。その狙いは、法律違反者を特定し、国民の行動に影響を与えることにある。

時価総額はソニーに迫る勢い

ハイクビジョンの杭州にあるショールームの壁には、モニターとビデオカメラがずらりと並んでいる。それらはAIを採用し、遠くからでも物体や音を認識し、大気汚染で曇った空気の中や暗がりでも明瞭な画像を提供できる。「ダークファイター」と呼ばれる熱探知カメラは超微光環境でも映像を録画できるという。また、「ブレイザープロ」と呼ばれるサーバーは、自動車のナンバープレートを認証可能だ。そのほか防爆仕様のドーム型カメラや、カメラを装備したドローン(無人機)、大規模な集会を検知するようプログラムされたカメラなども提供しているという。

さらにスマートフォンと連動可能な「EZVIZ」という消費者向けカメラも扱っている。このソフトボールサイズの装置は、犬がほえる声やドアが開く音などを検知し、自動的にレンズをその方向に向けてスマホにアラートを配信する。

コンサルティング会社IHSマークイットによると、監視機器の世界の売上高は2016年までの5年間に55%増加した。IHSマークイットや他の業界分析によると、ハイクビジョンは欧米の競合他社よりも安い価格を設定することで、監視機器の販売で欧州ではトップ、米国では2位に踊り出ている。米国では同社製品は、代理店が別ブランドで販売していることが多い。業界ではこうしたことはよくある。

ハイクビジョンは今年、シリコンバレーとカナダのモントリオールに研究開発拠点を開設した。北米では年内に350人、2022年までに800人採用する計画だという。

同社の株価は2010年に深セン証券取引所に上場して以来、急伸している。年初来では2倍超の上昇となり、時価総額は560億ドルとソニーに迫る勢いだ。

指摘されるセキュリティーの脆弱性

イタリア政府は1月、一部政府庁舎へのハイクビジョン製カメラ設置を含む4900万ドルの契約をサプライヤーと交わした。この取引に対し、同国の議員アリアナ・スペソット氏が公に疑問を呈した。同氏はカメラが「国家の治安にリスクを及ぼしかねない」と述べ、政府はどのようにカメラの安全性を確認する計画なのかを追及した。

イタリア政府の調達担当局の報道官は、サプライヤーは「リスクに見合ったセキュリティーレベルを保証している」と説明。そのうえで「関与しているいずれかの企業が悪質な目的のためにバックドアデバイスやセキュリティー上の脆弱性をひそかに仕込んでいないとは誰も言い切れない」と述べた。

ハイクビジョンはスペソット氏のセキュリティーリスクを巡る懸念について、「全く根拠がなく、ばかげている」と述べた。

米サイバーセキュリティー会社ファイア・アイのアナリスト、ネーサン・ブルベーカー氏は、DHSが特定したハイクビジョンのソフトの脆弱性は、昨年発生した大規模なDoS攻撃のようなハッキングにさらされやすくする恐れがあると指摘する。

「カメラのセキュリティーは(業界全般で)往々にしてお粗末だ」。アイルランドのダブリンを拠点にカメラ向けソフトを開発するエバーキャムのマルコ・ハーブストCEOはこう指摘する。「多くの場合、ネットで公に入手可能なデフォルトのパスワードのまま不用意に設置されている」

ビデオ監視関連のニュースを配信するIPVMのエデイター、ジョン・ホノビック氏の推定によると、DHSが特定したハイクビジョンの欠陥は200を超えるカメラに影響しており、数千万台の出荷済み機器にも影響する可能性がある。

ホノビック氏とファイア・アイによると、その欠陥によってネットに接続されたハイクビジョンのカメラにわずかな手順で外部から侵入できる可能性がある。ハイクビジョンは欠陥が一部カメラに影響することは認めたが、ホノビック氏の推定については「根拠のない言いがかりであり、うわさにすぎない」と一蹴した。

ハイクビジョンは、顧客にはソフトウエアの修正を適用するよう指示したと説明。同社の広報担当者は「この問題はハイクビジョンの海外事業に目立った影響は与えていない」と述べた。

カナダのセキュリティー会社ジェネテックは、ハイクビジョンのカメラ購入を希望する顧客に対しては、セキュリティー侵害があった場合に自社は免責されることを明記した書類に署名するよう要請している。同社のピエール・ラーズCEOはその理由について、「中国政府が所有または支配する企業」が製造したカメラに対する懸念と、「中国政府が積極的なサイバースパイ活動を行っているとの風評」を挙げた。

一方、「ハイクビジョンをスパイ活動と結びつけるのは言語道断であり、事実無根だ」とハイクビジョン側は述べている。

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