フォード創業家会長「自分の出番」、巻き返しに意欲

フォード創業家会長「自分の出番」、巻き返しに意欲

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/08/11
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ビル・フォード氏(60)は20年前、一族が経営するフォード・モーターのかじ取りを任された。このとき同氏は電気自動車(EV)へのシフトが間もなく起きること、自動車所有という概念が最終的に消え去ることを、いつでも語る用意ができていた。

ビル氏のアイデアはことごとく却下された。あるときは代替輸送手段の開発に投資すべきだと訴えた。しかし「取締役会は私がまた勢い余ってつまずいたかのような目で見た」と同氏はインタビューで語った。

時を経て、他の自動車メーカーやハイテク企業はビル氏の考えに同調するようになった。フォードはEV技術でも自動運転技術でも追い越された。スタイリッシュなEVを製造・販売するテスラは今年4月、時価総額でもフォードを抜いた。大手自動車メーカーの成長見通しに投資家が懐疑的であることを知らせる警告ランプがダッシュボードに点灯した。

フォードは流れに取り残された。創業家出身のビル氏は、何年にもわたって会社を経営陣に委ねてきたが、ついに口を出すことに決めた。

これまでは最高経営責任者(CEO)に中心的役割を任せてきた。一方、同氏の頭を占めてきたのは、将来この業界の主流となるもの、つまり燃料効率や輸送手段の新しいコンセプトは何かということだ。加えて、同社で50年以上存在感を放った父親のウィリアム・クレイ・フォード・ジュニア氏が2014年に死去したことがきっかけになったと話す。

「自分の出番だと気づいた」と同氏は話す。「私がやるしかないと」

「あえて危険を冒す」

テスラの時価総額がフォードを抜いた1カ月後、珍しくビル氏の主導で経営陣の入れ替えが始まったと事情に詳しい関係者は話す。社歴28年のマーク・フィールズCEOが退陣し、ビル氏が社外からイノベーションの責任者として前年に迎えたジム・ハケット氏が昇格した。

「現在置かれた状況は、あえて危険を冒すことを求めている」とビル氏は話す。過去1年間に会長としての同氏自身の権限も拡大した。「未来を見据えて、賭けをする必要があった」

関係者によると、フォードの方向は見失われており、フィールズ前CEOには明確な長期的戦略がないというのがビル氏の見立てだった。経営幹部の間でも、会社の進むべき道について意見が割れていたという。

アナリストは、ハケット新CEOの戦略プランの概要(詳細は年内発表の予定)を聞くまでは判断を保留し、フォードにはまだ直近の課題が山積していると指摘する。CEO交代後も株価は動いておらず、同社は今年の税引き前営業利益が16%~25%減少すると予想する。

フォードをはじめ自動車業界は依然として内燃エンジンの乗用車やトラックの製造・販売を主力とする。このビジネスモデルは、テスラや、配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズ、グーグル親会社のアルファベットといった他のハイテク企業に覆されようとしている。これらの企業はEVや自律走行車、ライドシェアサービスへの転換を主導しており、自動車メーカーは個人がクルマを所有する必要がなくなることを恐れている。

市場調査会社IHSマークイットによると、2025年に生産される全自動車の3分の1をEVまたはハイブリッド車が占めるようになる。2016年の約4%からは大幅な拡大だ。一方、今年1~7月の米自動車販売台数は前年同期比で3%減少している。フォードの昨年の税引き前営業利益は4%減だった。

フォードは目下、全ての業務を見直す100日間の作業を進めている。目標はより無駄のない機動的な組織にすることだ。ハケットCEOは就任後すぐに「ショット・クロック」(訳注:バスケットボールで、ボールを持ったチームがシュートするまでの制限時間を測る時計)と銘打ち、期限を厳格化する方針を打ち出した。計画実行を迅速化するためだ。

揺れる経営方針

ビル氏は人生の大半を費やし、曽祖父が創業した自動車メーカーに環境問題や新たな輸送手段に関心を向けるよう促してきた。ただ、必ずしもタイミングが適切でなかったことは認めている。自らCEOを務めた01年~06年の時期もそうだったという。

米自動車産業が最悪の時期にあった2008年にも、ビル氏はフォードが従来と異なる輸送ビジネスに投資すべきだと提案したが、取締役は聞く耳を持たなかった。当時、会社は「向こう30年ではなく来週のこと」を考えていたと同氏は話す。

フォードが財務基盤を強化し、危機を切り抜けたのは、アラン・ムラーリー元CEOが進めた事業再編のおかげだ。ムラーリー氏は多くのブランドを廃止し、世界的に事業を合理化し、主力の「フォード」および「リンカーン」のラインナップ集中を進めた。

後任のフィールズ氏は14年半ばにCEO就任。フォードの利益は堅調だったが、将来に備えて方向転換する時期に来ていた。新体制になったフォードは、ビル氏が20年前近く前に発案した「モビリティー」(新しい形の輸送手段を指す)に軸足を移し始めた。

ただフィールズ氏は結局、収益を生み出す明確な進路を示せなかった。同氏の任期中に株価は約40%下落した。フィールズ氏はコメントの求めに応じなかった。

ビル氏が新CEOとして白羽の矢を立てたのは、オフィス家具メーカー、スチールケースを20年近く率いたハケット氏だった。前年に自動運転車の開発などを手がける「スマート・モビリティー」部門の責任者に起用され、取締役会のメンバーとなっていた。

フォードのモビリティー部門は、サンフランシスコの自転車シェア会社と協力し、人々がある場所から別の場所に移動する際のデータを分析している。また、通勤用バンのライドシェア(乗り合い)サービスを提供するチャリオットの買収も行った。アプリで予約可能なこのオンデマンドサービスは、サンフランシスコやニューヨーク、テキサス州オースチンで利用が拡大している。

ビル氏はインタビューでハケット氏について、自動車ビジネスの再構築を目指すという志を同じくしていると述べた。「われわれは共感する部分が非常に多い。相手がやろうとしていることに対して、私も彼も驚くことはない」

EVへの対応加速

フォードのハイブリッド車とEVの販売は昨年、17%伸びた。同社の販売全体に占める割合は3%にとどまるが、向こう5年間にスポーツカー「マスタング」や最も売れているピックアップトラック「F-150」のハイブリッド車を含め、新たに13車種を加える計画だ。

フォードは今年、自動運転向け人工知能(AI)を開発する新興企業のArgo AIに10億ドル出資すると発表した。フォードは、2021年までに完全自動運転車の商用化する計画だとしている。

ビル氏によると、1999年に会長に就任した当時の社内カルチャーは「階層的で、ほとんど軍隊のようだった」という。

長い開発サイクルと集中的な資本投下が勝負を分ける自動車業界では、フォードのこうした厳格なスタイルはリーダーでいるために必要だった。だが最終的には融通が利かなくなり、動きの速いハイテク企業との競争に出遅れることになった。

ハケット新CEOは6月、ビル氏や経営陣をスチールケースに連れて行き、古臭いオフィス家具販売会社がいかにしてサービス志向の強い企業に脱皮したかを説明した。

ビル氏は経営陣の刷新と並行して、自らも社内外の会合に積極的に顔を出し、戦略に関する議論に加わるようになった。

現在は渉外部門や米政府への対応を直接統括している。ドナルド・トランプ米大統領が小型車「フォーカス」の生産拠点をメキシコに移す同社の計画を批判した際の対応にも当たった。同社は計画を撤回し、中国での生産に切り替える方針を決めた。

経営陣にはできない役割

フォード創業家は議決権株式の40%を保有している。ビル氏自身はこの「スーパー議決権株」の17.7%を保有する。

ビル氏は若き経営幹部の時代、トヨタ自動車の製造技術や効率性、精密さを重視する姿勢を学んだ。

その後、電子商取引大手の米イーベイの取締役会に10年間加わった。「彼はシリコンバレーでは何か全く違うことをしていると感じ、保守的な企業が破壊されていることを理解した」。こう話すのは、ビル氏が加わった2005年に同社CEOだったメグ・ホイットマン氏だ。

ビル氏はその間も燃料効率に優れた自動車の開発を目指し続けた。フォードは2004年、米自動車業界初のハイブリッド車として小型SUV(スポーツ用多目的車)「エスケープ・ハイブリッド」を発売した。

ビル氏は2009年、ベンチャーキャピタル(VC)のフォンティナリス・パートナーズを共同で設立。配車サービスのリフトや自動運転ソフトウエアを開発するヌートノミーに創業資金を提供した。両社とも既存の自動車メーカーに対抗しようとする新興企業だ。

フォンティナリスを共同創業したフォード元幹部のマーク・シュルツ氏は「我々のビジネス計画や時間軸は5年単位であることが多い」と話す。「ビルは常に10年先、20年先に何が起きるかを考えている」

ビル氏はまだ先は長いと感じている。「私は経営陣にはできない方法で会社の長期的ビジョンを与えられるし、そうすべきだと思う」。同氏は創業家の役割をこう語る。「進路に何らかの修正が必要なときこそ、私は立ち上がり、力になりたい」

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