「自殺願望の正体」をAIで解明、命を救うイノベーションの最前線

「自殺願望の正体」をAIで解明、命を救うイノベーションの最前線

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/11/13
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神奈川県にある平凡なアパートの一室から、男女9人の遺体が発見された通称「座間猟奇殺人事件」は、発覚やいなや日本社会に大きな衝撃をもたらした。

まず人々の関心は、白石隆浩容疑者の生い立ちや殺人動機、そして猟奇性に向かったが、同時に被害者たちとの接点にも注目が集まった。白石容疑者は、ウェブサイトやSNSを通じて、「自殺願望」を持つ被害者たちに接触。その心理を巧みに犯罪に利用したというのだ。

2017年5月、政府は「平成28年度自殺対策白書」を閣議決定している。その資料に盛り込まれた警察庁統計によると、2016年の自殺者数は2万1897人。その前年2015年には、3万4427人を記録したとされている。同白書が比較した約90カ国内では、ワースト6位(女性は3位)の自殺率となった。自殺の全体数は減少傾向にあるとされているが、いまだ日本の社会的課題のひとつであることは間違いなく、解決の糸口は見つかっていない。

自殺問題と向き合う際には、様々なアプローチがありえる。経済状況の改善や社会との繋がり、すなわち格差や孤独感を解消することこそ自殺撲滅に繋がるという専門家や有識者の主張も多い。一方で、医療・ヘルスケア的なアプローチも考えうる。潜在的に自殺願望を持つ人々を把握することができれば、与えられた時間的猶予で決定的な状況を回避できる可能性がある。

昨今、そのような自殺願望を発見する手段として、期待を浴び始めているテクノロジーがある。がんなど病気の発見、また新薬開発などにおいて成果を出し始めている人工知能(AI)だ。

これまで身体に起きている変化や病気を見つけられたとしても、自殺を考えている人々を把握することは困難とされてきたが、脳画像・映像、診療記録などのデータから、予備自殺者を特定できるという研究結果が相次いで発表され始めている。

今年10月末、米カーネギーメロン大学のMarcel Just教授ら研究チームは、「Nature Human Behaviour」誌で、「AIで脳イメージを分析し、自殺する可能性が高い人々の90%以上を判別することに成功した」との研究結果を報告した。より詳細には、一般人と「自殺危険群」を91%の精度で、また自殺危険群のなかで実際に自殺を図った人々を94%の正確性で判別することに成功したというのだ。一体、どういうことか。

研究者たちは、自殺を企てた、もしくは自殺を真剣に考えたことがあると明かした18〜30歳の青年17名、そして同じ年齢帯の自殺を全く考えたことがない青年17人を研究対象にした。そして対象者に、ポジティブな言葉10個、ネガティブな言葉10個、自殺や死と関連した単語10個をそれぞれ示し、「磁気共鳴機能画像法(fMRI)」で脳を撮影した。次いで、撮影されたfMRI画像を人工知能が学習。自殺願望を持つ人々の特徴を割り出すことに成功したという。

研究結果によると、自殺しようと考えている人々が「死」という言葉を見ると、脳の中で「恥ずしかさ」を司る部位が他の研究対象者よりも反応したそうだ。同様に「苦境」という言葉を見ると「悲しみ」と関連付けられた部位が強く反応。一方、「怒り」と関連する領域は特段の反応を示さなかった。

研究者たちは進んで、「死・残酷・トラブル・気楽・幸せ・賞賛」などの6つの単語を提示した際、脳内5か所で、自殺危険群と一般人の差が際立っていたとしている。そこで人工知能は、6つの単語と5カ所の脳領域の反応を組み合わせた30種類のパターンを解析。自殺の予兆がある人を選別する方法を自ら見つけ出した。

研究関係者のひとりは「自殺を考えている人をAIで判別できれば、医療陣が事前に支援することができる。今後、分析する人員を増やす計画」としている。これら研究結果については、米国立衛生研究所(NIH)の関係者らも「今後、さまざまな精神疾患を診断するツールになる可能性が大きい」と期待を寄せた。

なお今年6月には、テキサス大学の研究チームが、AIによるMRI画像分析手法を使用し、うつ病患者を75%の確率で判別することに成功したとも発表している。加えて今年3月には、米フロリダ州立大学研究チームが、200万人の診療データをAIに学習させ、自殺を企てようとする人々の2年前の兆候を、80%の精度で判別することに成功したとした。

現在、フェイスブックやインスタグラムなどSNSを運営する企業でも、映像や音声、テキストをAIで解析し、自殺予備群を予測する研究を行っている。目に見えないとされてきた自殺願望の正体が、AIによって解明される日は訪れるのだろうか。命を救うイノベーションの発展に期待すると同時に、自殺そのものに対する認識の変化やプライバシー保護の充実にも目を向けていく必要がありそうだ。

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