本末転倒の林業政策、山を丸裸にする補助金の危うさ 自給率は上がっても利益は増えず

本末転倒の林業政策、山を丸裸にする補助金の危うさ 自給率は上がっても利益は増えず

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  • 更新日:2018/02/15
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林業界には数多くの補助制度がある。植えると補助金、草を刈ると補助金、間伐するのも補助金、伐(き)った木を運び出すのも補助金。林内に道を作ったり高額の林業機械を導入するにも補助金が出る。国のほか自治体の補助制度もあるから、経費の7割以上、時に満額を補助金で賄えることも珍しくない。

来年度の予算案によると、また新たな補助制度が設けられようとしている。「資源高度利用型施業」と名づけられた主伐、つまり森の木を全部伐る作業に補助金を出すというものだ。

補助金を支出するには公的な目的があるものに限られる。林業の補助金も、治山事業や森林の育成を行うことで水源涵養(かんよう)機能や山崩れ防止機能、生物多様性などを高め、最近ならCO2の森林吸収源として役立てることを目的に掲げられてきた。

植林だけでなく下草刈りや間伐にも出るのは、植えた苗木を育てるためである。

しかし、主伐には出さなかった。なぜなら森の木を全部収穫したら公益的機能の多くを失うからだ。だから国の方針の大転換になる。

山主にとっては主伐による木材の収穫こそ利益を得る最大の機会であり、経営計画に沿って行うものだ。それ自体は非難すべきではない。しかし、個人の経済行為に税金を投入するのはおかしくないだろうか。

しかも現実には主伐が進むことで、各地にはげ山が広がった。100ヘクタールを超える大面積の皆伐地さえ見られる。

山の木がなくなれば土壌流出や山崩れを起こしやすくなり、生物多様性なども破壊する。CO2も吸収しなくなる。森林土壌を失えば次世代の木が生えにくくなるだろう。伐採跡地の再造林をしないケースも少なくない。東北や南九州の各県で主伐後の状況を届け出から推測すると、伐採跡地(国有林を除く)の約6割が再造林されていなかった(朝日新聞調べ)。

伐採跡地の再造林もしないケースも少なくない (写真・ATSUO TANAKA)

今回の補助制度は再造林とセットで行い、森林の若返りを図るためと林野庁では説明している。しかし植えても再び森になるまでに順調でも数十年かかる。植えた苗がシカなどに食べられてしまう可能性も高い。また植林後に下刈りや間伐を行わないと、植えた木はちゃんと育たないだろう。形だけ植えても、森にもどらない可能性は高いのだ。

政策転換を正当化する自給率というマジックワード

なぜ林野庁は、従来の方針を転換した補助制度を設けるのだろうか。

「正確には伐採ではなく、伐った木をすべて集材して利用することに出す補助金です。そして全国で進む主伐時に再造林をしっかりしてもらうためです。面積の上限は20ヘクタールで、造林補助の中には獣害対策の費用も含めています」と林野庁は説明する。植え付け後の育林作業には別の補助制度を適用できるというが、実施するかどうかは山主次第だ。

ただ政策の目的には木材生産量の拡大も入っているという。国は25年に木材自給率を50%以上にするという目標を掲げている(16年の木材自給率は約35%)。この数字を達成するためには、もっと木材生産量を増やさなければならない。しかし間伐による木材生産はそろそろ限界だ。そこで主伐を推進する方向に向かうのだろう。

主伐に傾斜する理由は1950~60年代に大量に造林された森林が、伐期と定めた60年を迎え始めたことだ。だが伐期とは、苗を植える際に収穫する時期を人が設定するもの。木材不足の時代は40年と定めたが、その後60年に延ばした経緯がある。

伐期の年限に科学的な裏付けはない。林齢60年程度では森林として若い方で、水源涵養機能や森林の炭素蓄積量、生物多様性などの公益的機能から見ても、まだまだ延びることが研究で示されている。欧米などでは、伐採樹齢の目安を100年以上にしているところも多い。

一方で「林齢の平準化」も目的に掲げている。戦後の大造林が終わると、植える土地がなくなり若い森が少なくなってしまった。そこでボリュームのある50~60年生の木を伐って跡地に苗木を植えることで森を若返らせ、林齢を満遍なく散らすもくろみだ。

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(出所)林野庁資料を基にウェッジ作成
(注)齢級とは森林の年齢を5年の幅で括ったもの。苗木を植栽してから5年目までが1齢級。写真を拡大

だが、それは日本の森林バイオマス(木材蓄積)の絶対量を減らすことでもある。若い木々の森が増えて高齢林が減るのだから、将来再び木材不足の時代を招くかもしれない。

改めて振り返ると、近年の日本林業の問題点は国産材が売れないこととされた。そこで新たな木材需要をつくる政策を推進してきた。とくに大きかったのは国産材を合板の原料にすることだろう。それまで合板は熱帯産の広葉樹材が主な原料だったが、スギなど針葉樹材で合板をつくる技術を開発し普及したのだ。おかげで現在では国内生産の合板の原料の約8割が国産材に置き換わっている。

加えてバイオマス発電も木材需要を伸ばす切り札とされた。コストが合わずに林内に捨て置かれていた未利用材(切り捨てられた間伐材や枝・梢、切り株など)を燃料として使うものだ。搬出経費はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で価格を嵩(かさ)上げして賄う計算である。すでに15年から燃料材の区分を新設している。

現在稼働中のバイオマス発電所のうち未利用材によるものは発電容量の3分の1を占める。しかし、思いのほか林地からの搬出が進まず、燃料不足に陥ってきた。そのため残材ではなく燃やすために伐採したり建材になるような木を燃料に回すケースも増えてきた。一方で輸入燃料(ヤシ殻、木質ペレットなど)を使用したバイオマス発電計画が次々と申請されているが、これでは本末転倒だ。

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相続や後継者の不在のため、山の木を全部伐って林業を打ち止めにする山主も出てきた (写真・ATSUO TANAKA)

より問題なのは、合板や燃料材の用途は、製材用途と比べて価格が安いことである。いくら木材を生産しても山主の手元にはほとんど残らない。森をつくった努力は報われないのだ。だから伐るのに消極的になる。

また後継者がいない山主は、自分の代で林業を終わらせたい願望もある。だから主伐で山の木を全部現金化しようという発想も生まれる。その場合、跡地に再造林を行う意欲はない。利益が消えてしまうからだ。

一方で森林組合や民間の林業事業体にとっては、補助金がつくことで主伐が推進されると仕事が増える。利益は木材の販売ではなく補助金で得るわけである。伐採に続く再造林作業も仕事になるから歓迎だ。

このような各者の思惑から、再造林をセットにした主伐補助金が考えられたのだろう。

持続可能な林業経営につながる補助の仕組みづくりが必要

日本の森を役立つ補助制度とはいかなるものか。目先の木材生産量を上げても、山を荒らしてしまえば将来は林業を営めなくなる。だから主伐を行うにしても、面積や作業方法を厳しく規制すべきだろう。もちろん再造林とその後の育林は必須だ。

ただそれ以前に必要なのは、長期的な視点で持続的に林業経営を行える仕組みづくりではないか。そのためには山主へ還元額が増える策を考えるべきである。利益が出るとわかれば、山主の林業経営を続ける意欲が高まる。後継者も現れるかもしれない。将来も林業を続けるつもりなら、林地を荒らすような伐採は行わないし、再造林や育林にも熱心になるはずだ。

補助金が何のために、どこに、どれだけ投入されて、どんな成果が得られたか納税者に説明する「補助金の見える化」も進めるべきだ。毎年数千億円もの税金がほとんどの国民が知らないうちに林業に投入されているのに、成果が見えないのは不健全である。

気になるのは現在の補助金が、植え付けや下刈り、間伐……という個別作業に支払われている点だ。そのため結果を期待しない形だけの作業が行われがちだ。植えた苗が枯れても気にしないようでは森づくりに役立ったとはいえない。

たとえば植林後何年か後にちゃんと森が成立しているか結果を見届けて満額支払うような補助制度はつくれないだろうか。目的と成果がつながっていたら納税者も理解しやすい。

日本の山は地形や地質、気候みんな違う。だから、いつどんな作業を施せば将来どんな森ができるのか見極めるのは難しい。だが、そうした眼を持つ人材を育て、活用できる仕組みづくりが林業の健全化に欠かせない。補助金も、そのための一歩になる使い方を考えてほしい。

◆Wedge2018年2月号より

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