「北朝鮮がどこにあるか知らない人が7割」アメリカのヒドい現実

「北朝鮮がどこにあるか知らない人が7割」アメリカのヒドい現実

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/15
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互いに牽制をくり返す北朝鮮とアメリカ。北朝鮮への核攻撃も検討されているこの状況を、アメリカ国民はどう見ているのか。最近、『「招待所」という名の収容所〜北朝鮮による拉致の真実』を発表した、ニューヨーク大学のロバート・ボイントン教授に聞くと、非常に残念な実態が明らかに……。

「無知」と「確信」が共存する国民性

世界市民主義(コスモポリタニズム)を標榜する我々アメリカ国民だが、国境の向こうに広がる世界については、ほとんど何も知らない者ばかりだ。とりわけ、アジアのような遠く離れた場所のことについては。

今年5月、ニューヨーク・タイムズが行った調査によると、地図上で北朝鮮の位置を正しく示すことができたのは、回答者のわずか3分の1ほどだった(なかにはトルクメニスタンの位置に丸印をつけた者もいたそうだ)。

さらにダメ押しとも言えるのが、8月に放送された深夜のトーク番組。

ハリウッド中心街を歩いていた人たちに、司会者が「アメリカは北朝鮮に対して軍事行動を起こすべきか」と尋ねたところ、全員が「イエス」と回答。そしてその質問のすぐあと、地図上で北朝鮮の位置を指し示してもらったところ、誰一人として正解者はいなかった。知らない場所を空爆するのはたやすい、ということなのだろう。

このように、アメリカの最も残念な国民性の一つが、「無知」と「確信」を同時に受け入れてしまう能力である。その観点からすると、ドナルド・トランプは歴代大統領のなかで最もアメリカ(国民)的である、と言っていい。

彼は何も理解しようとしない。別の言い方をすれば、仕事を通じて学ぶということに一切の興味を持っていない。政策の専門家たちが言うことには耳を傾けず、自分の直感を何より頼りにしている。「私はとても頭がいい人間。私の第一のコンサルタントは自分なんだよ、生まれつきその才能があるんだね」などと、外交政策通ぶりを自慢げに語る。

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これだけ取り巻きがいても、全然話を聴かないとか…… photo by gettyimages

トランプにとって何より大事なのは、「勝つこと」と「取引すること」だ。しかし残念ながら、彼のビジネス上の成功はどれもこれも自分で言っているだけの話で、実際には、彼の会社は愚かにもそこに投資した人たちに大きな損害を与えている。それは、彼の会社が6度の破産を申請していることからも明らかだ。

トランプの大統領当選にがっかりさせられた人たちは、権力の集中や暴走を防ぐアメリカの堅牢な国家制度が、彼が国に決定的なダメージを与えるような事態は防いでくれるのではないか、という一縷の望みにすがろうとしている。

確かに、議会と裁判所のおかげで、これまでのところアメリカが破局を迎えるまでには至っていない。また、情け容赦のない立法や大統領令は、いつかトランプに続く大統領たち(とそこで新たに作られる法)によって改正されるのかもしれない。

ただ、国内はともかく、外交政策について言えば、話は別だ。

合衆国憲法は、国際問題に関して途方もない自由を大統領に与えている。とりわけ9.11(同時多発テロ)以降は、ホワイトハウスに驚くほどの軍事力が集中している。

そんな状況のなかで、トランプの朝のご機嫌斜めが、悪意に満ちたツイートではなく、核攻撃に向けられたとしたら、どうなるだろう? 我が国の誰かが果敢に立ち向かい、彼を止めようとするだろうか?

トランプの本性を見抜いた金正恩

実は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)より先に、トランプの本性を見抜いた世界のリーダーはいなかった。

それは別に驚くべきことでも何でもない。二人はもともと多くの面で相通ずるものを持っているからだ。一族でビジネスを展開する家に生まれ、莫大な財産を引き継ぎ、恥じらいもなく嘘をつき、大げさに振る舞うことの重要性をよく理解している。

だから、ペテン師が己をよく理解するように、金正恩はすぐにトランプがいかほどの人間であるかを見抜けた。そして、この経験不足の新アメリカ大統領は、北朝鮮の脅威に対して偉そうに怒鳴りちらすことはできても、実力行使には出られないだろうと判断したのである。

その思惑通り、トランプはおもむろにメガホンを手に取って、金正恩はかなりヤバい奴だと喧伝し、北朝鮮が世界の強国であるという「神話」を定着させるのに一役買った。金王朝が自国民に対して数十年そうしてきたのと、まさに同じように(現実の北朝鮮のGDPはモザンビークと同程度に過ぎないのにもかかわらず、だ)。

いまも、トランプが北朝鮮についてツイートするたび、金正恩のステータスは高まっていく(9月某日は1日5回もツイートしている)。

思えば、トランプと金正恩の戦いは、大統領就任前から始まっていた。今年1月、北朝鮮が、核弾頭を搭載可能なICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験の準備が最終段階に入ったことを表明したとき、トランプは「そうはさせない!」とツイートしている。

まあ、現実には、その後16回の発射実験が行われ、9月3日にはトランプ在任中初の核実験が行われたわけだが。

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北朝鮮の核実験による地震を伝えるニュース。ソウル市内にて photo by gettyimages

ちなみに、北朝鮮がこのペースで核・ミサイル実験をくり返せば、アメリカ大統領の任期(4年)中に行われた実験回数の最多記録を更新するだろう。

トランプと金正恩の「売り言葉に買い言葉」はいまも続いている。トランプが「世界が見たこともない炎と怒りに直面するだろう」と言うと、金正恩はグアムあたりにミサイルをぶち込むと返す。それに対し、トランプはこんな中身の薄い言葉を放っている。

「何らかの行動に出た場合、誰も起こらないと思っていたようなことが起こるだろう」

アメリカ国民を最も怒らせた事件

北朝鮮がどこにあるかさえ知らないアメリカ国民だが、核・ミサイル実験のペースがこれだけ早くなると、さすがに恐怖を感じる人が増えてきている。核実験の1か月前に行われた世論調査によると、72%が北朝鮮の核を脅威に感じると答えた一方、トランプがこの状況を打開できると答えた人は35%にとどまった。

国民の恐怖感は、北朝鮮よりむしろトランプに由来するものだ。バラク・オバマのような冷静な人がホワイトハウスにいたときは、北朝鮮のいわゆる「予測不能さ」は、大した問題ではなかった。しかし、いまや「予測不能な」リーダーを担いでしまった我が国は、戦争を回避できるのか疑わしい。

あらためて、アメリカ国民はいま恐怖を感じている。我らが大統領が、対アジア外交について長期的な政策を考えておらず、また、北朝鮮に対処するための短期的な計画すらも持っていないからだ。

トランプがどんな反応をしてみたところで、金正恩は祖父・金日成(キム・イルソン)が立ち上げ、父・金正日(キム・ジョンイル)が引き継いだ国家計画を、好き勝手に推し進めるだろう。そして、アメリカ・韓国・日本というアジアで最も強固な同盟関係は引き裂かれていく。

しかも、いまこそ同盟国と協力せねばならないこの時期に、トランプは同盟国を攻撃する。北朝鮮の核実験のあと、トランプは「韓国はだんだんわかってきたようだ。私が言ってきたように、北朝鮮との対話による融和など無意味だということを」などとツイートし、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領をあからさまに叱責している。

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米送還後に死去したオットー・ワームビアの遺族による会見。報道各社が集まった photo by gettyimages

もちろん、アメリカ国民にとって、北朝鮮との核戦争の脅威など、ほとんどありえない、非現実的な世界の話に過ぎない。しかし、今年6月にヴァージニア大学の学生、オットー・ワームビアが死んだことで、(核戦争はともかく)北朝鮮の脅威は現実のものとなった。

ワームビアについては、2016年1月に北朝鮮を訪問して当局に拘束され、ホテルの部屋からポスターを盗もうとした罪で禁錮15年を言い渡されたこと以外、ほとんど何もわかっていない。拘束から1年半後、彼は意識不明の状態でアメリカに送還され、1週間後に息を引き取った。

ワームビアの死は、この10年間北朝鮮研究を続けてきた私が見たなかで、アメリカ国民を最も怒らせた事件である。若くて将来有望な彼が、こんなに早く死ぬなんて、本当に残念としか言いようがない。しかも、北朝鮮には現在もまだ3人のアメリカ人が拘束されたままだ。

1970年代後半に何十人もの国民が北朝鮮に拉致された日本で、人々がどれほどの喪失感と無力感を感じているのか、アメリカ国民はワームビアの死をもってようやく理解できるところまできた。

これからもアメリカと北朝鮮の対立は続き、核兵器と長距離弾道ミサイルをめぐってより具体的な交渉が行われるだろうが、そこにオットー・ワームビアの死は重くのしかかってくるはずだ。

アメリカ国民はいつまでたっても北朝鮮がどこにあるか学ぼうとしないかもしれない。けれども、今後、北朝鮮について何か知っていることはあるかと聞かれたときに、「ワームビアの死」がその答えの一つになるだろうとは思う。

(敬称略、訳責・現代ビジネス編集部)

ロバート・S・ボイントン
ニューヨーク大学教授。同大学アーサー・L・カーター・ジャーナリズム研究所で「ニュージャーナリズム」を中心に、ノンフィクション論を講じる。ジャーナリストとして『ニューヨーカー』『アトランティック』『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』『ネーション』『ヴィレッジ・ヴォイス』などに寄稿。最新刊の邦訳『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』(柏書房)が好評発売中。

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