シリコンバレーのセクハラ裏事情 女と男と「無意識バイアス」

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  • 更新日:2018/01/15
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在米の戦略コンサルタントの2人に本音で語ってもらう企画第3弾は、昨年大きく話題になったセクハラ問題について。続々とビッグネームの辞職者が出た、事の発端は一体何だったのか。TIME誌の「パーソンオブザイヤー」にも選ばれたスーザン・ファウラーのブログとはどのようなものだったか? また、女性が「本当にひどい」と思う組織とは──。

渡辺:2017年は怒涛のセクハラ・イヤーでありました。

奥本:シリコンバレーでセクハラが社会問題化したのはエレン・パオのケース以来だね。ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンズで働いていた彼女が、会社をセクハラと女性差別で訴えて当時シリコンバレーではものすごい話題になった。

渡辺:さっき確認したら、驚いたことに訴訟を始めたのが2012年で、裁判が公になったのは2015年なんだよね。そんな昔の話だったんだ。

奥本:本当にシリコンバレーの女性問題の先陣を切った人だったのね。

渡辺:判決はエレン・パオの負けだったんだけど、その影響はすごく大きかった気がする。

奥本:ベンチャーキャピタル業界は女性がすごく少なくて、でもそれが当然なことと扱われてきたのだけど、あの件で「女性に機会が与えられていないのでは」と話題になり始めた。女性の投資家やエグゼクティブが中心になって、シリコンバレーの200名のシニアレベルの女性にアンケートしたの覚えてる?

渡辺:ポッドキャストで聞いたな。

奥本:「積極的すぎる」と揶揄されたことのある人が84%、「女性だというだけで重要なミーティングに呼ばれなかった」ことがあるのが66%、「セクハラにあった」が60%。エグゼクティブでもこの結果なら、他の女性社員はもっと酷い目にあってるはず。

渡辺:日本だったらさもありなんって感じだけど、アメリカでもそうなのか。残念だな。エレン・パオはそんな中敢然と訴訟に打って出たと。

奥本:そうね。セクハラは示談に持ち込まれてるのがほとんど。それを公にしたのは意義があったと思う。

渡辺:あのケース、公開された訴状を全部読んだんだけど、「出張先で強引に関係を持たされた同僚と付き合うようになったが別れてしまい、その後彼は出世したのに自分はしなかった」というくだりがあってちょっと引いた。本当に強引なんだったらそこで訴えるべきじゃないの? とか、その後付き合うってどういうことよ?とか。

奥本:でもそれって訴えのごく一部だよね?

渡辺:そうなんだけど、この1点で私の中では訴え全体の信頼性が揺らいじゃったんだよね。エレン・パオってすごい変な人なんじゃないかと。

奥本:何かのカンファレンスで隣に座ったことがあるのだけど、ものすごい真剣にメモをとってて真面目そうな人という印象だった。

渡辺:私の知り合いにエレン・パオと仲良しな人がいて、彼いわく、彼女はすごくいい人らしい。それを聞いてちょっと考え直したんだけどね。

奥本:訴えにあった「ミーティングで後ろに座らされる」といったような仕事上の女性差別の話はありそうだなと私は思ったわ。

渡辺:私だったら先に会議室に行って前に座っちゃうんだけどな(笑)。その辺も含めて、私的には「男社会なんだから、それくらい当たり前じゃない?」と思ってしまったことが多い訴状だった。で、話を去年に移すと、ものすごい話題になったのが、ウーバーでエンジニアをしていたスーザン・ファウラーのブログ

奥本:ああ、あれはすごくセンセーショナルだったよね。ウーバー社内でのセクハラや女性差別の話が、本人の言葉で実例をあげながら淡々と語られていて、ソーシャルメディアであっという間に拡散されて話題になった。

渡辺:「上司から露骨に性的な内容のメールが来たのを人事に訴えたのにスルーされた」とか色々酷い内容があったんだけど、私的に一番「ウーバーひどい」と思ったのは革ジャンの話だったな。

奥本:どんな話?

渡辺:彼女が所属していたエンジニアリングチームで全員に革ジャンを作ることになって、120人のうち女子が6人しかいなかったんだけど、最後の最後に「6人だと数量割引がないから女性の分はなし」ってことになったんだよね。これはあまりにせこい。というかただのいじめ。この一件で会社の雰囲気がわかるって感じ。

奥本:また変な話を覚えてるわね。

渡辺:あのブログの反響はすごくて、ウーバーが社内監査を入れたら結局20人くらいの管理職がセクハラで首になって、最後はCEOも辞任することになった。

奥本:あれ以降ウーバーからリフトに乗り換えたユーザも多くて、社会現象を起こしたという意味でも意義のあるブログだったね。

渡辺:訴訟って、時間がものすごくかかって疲弊したり、社会が必ずしも原告に好意的だとも限らなくて、訴えた方が傷つくことも多くて割に合わないイメージがあるよね。でも、ブログで思ったことを書くだけで圧倒的な影響がある。このやり方が効くということが世の中に分かったのは画期的だった。

奥本:スーザン・ファウラーは2017年のTIME誌のパーソンオブザイヤーにも選ばれてたものね。

渡辺:その後、私たちもよく知っている500 Startupsのデイブ・マクルアのハラスメントケースが出てきたのはちょっとショックだった。

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500 Startupsのデイブ・マクルア(Photo by Getty Images)

奥本:彼は、500 Startupsの共同設立パートナーも女性だったのにね。

渡辺:ニューヨークタイムズに、複数の女性が実名で登場する大々的な告発記事が出て、すぐにデイブが「失言でしたすみません」みたいな謝罪ブログを出したんだけど、それを読んだマレーシアの女性起業家が「失言どころではないことを私にしたのを忘れたか」みたいな感じで怒りの長文告発ブログを書いて目も当てられない事態になってしまった。

奥本:結局デイブは500 StartupsのCEOを辞めるだけじゃなく、全ファンドのゼネラルパートナーも退任することになったよね。

渡辺:私は「そこまでしなくても」と感じたんだけど、そう思ってしまうのは日本で働いた後遺症なのだろうか……。それより「こいつはひどい」と私が思ったベンチャーキャピタリストのセクハラケースはBinary capitalのジャスティン・カルドベック。

奥本:どんな風に?

渡辺:社員や投資先のアントレプレナーの女性にセクハラしてて、最近上場したStitch Fixでも社外取締役をしてたんだけど、女性CEOからの苦情で退任させられてるんだよね。でも、表沙汰にしようとする女性や、記事にしようとする記者が出てくると、その度に「逆に名誉毀損で訴える」とか脅して黙らせるといったことを10年くらいしてきたらしい。ところが、実際に告発記事が出たら、今度は突然手のひらを返したようにいろんな人に謝罪メールを出しまくって、しかもそれがどれもほとんどコピペ風の同じ文章だったという……。

奥本:それはちょっと人間としてどうかという感じね。

渡辺:そう。結局、彼は自分が立ち上げたBinary capitalを辞めることになったんだけど、さらに投資家が資金を引き上げたりしてファンドが解体してしまったという激しい最期だった。

奥本:そういえばシリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタル、Draper Fisher JurvetsonのJurvetsonもセクハラで辞任したね。

渡辺:自分の名前が入ってるファームを辞めるって相当なことだよねぇ……。今も社名はそのままだけど、なんだか微妙。

奥本:ベンチャー企業だとSoFiの社長もやめたね。20億ドル以上調達したのに。

渡辺:世の中に意義あるレンディング、みたいな良いイメージの会社だったのにね。もう誰が何をしてても驚かないって感じ。

奥本:まだくすぶっている噂もあるものね。

渡辺:そして真打ち、ハリウッドの大御所ハーヴェイ・ワインスタイン。テック業界じゃないけど。

奥本:あれはすごかったね。彼がプロデュースした映画はいろいろな賞を受けているし、奥さんは有名ブランドのデザイナーで子供も何人かいて、富と名声と幸せ、全てを手に入れた人みたいなイメージがあったのだけど……。

渡辺:今見たらオスカー受賞作が81本だって。

奥本:ハリウッド内部ではセクハラで悪名高かったそうなんだけど、彼の影響力が強すぎて誰も表だって糾弾する人はいなかったらしいよ。

渡辺:かなり裏で火消しもしてたみたいね。イスラエルの国家諜報機関のモサドでスパイをしてた女性を使って、誰が自分を告発しようとしているのかを調べてたとか。

奥本:彼の被害にあったと名乗りを上げた女性は84名もいるんだけど、そのリストにグウィネス・パルトロー、アンジェリーナ・ジョリー、アシュリー・ジャッドみたいな有名女優が含まれているのよね。

渡辺:元モサドまで投入したチームでもみ消し続ける意味があったわけだ。

奥本:警察に訴えた女優もいたけれど取り上げてもらえなかった、という話はショックを受けたわ。

渡辺:ワインスタインとパートナーを組んで雑誌をやってた女性がインタビューで「ハーヴェイが暴力的なレイプまでしてたというのは驚いた。女に手が早いというのは知っていたけれど、私の前ではハラスメントのそぶりも見せなかったから」みたいなことを言ってた。パートナーを組むくらい対等の立場にある彼女は尊重して、自分の下だと思う女性にはとんでもないハラスメントをしてたってことだよね。

奥本:それはそうでしょ。相手を見てしてるのよ。

渡辺:結局やっぱりセクハラって「いじめ」なんだよね。自分より弱い立場の人にしかしない。

奥本:本当にそう。そしてこの件で大きくなったのがソーシャルメディア上で自分が受けたセクハラを語る#MeTooムーブメント

渡辺:私のフェイスブックのタイムラインでも被害をカミングアウトしたアメリカ人の友達がいた。

奥本:アメリカのすごいトコロって、「この問題は社会的にちゃんと表に出して自分たちで変えていくべきだ」という意識が高くなったときに、それがムーブメントになるところだと思う。それで、本当に社会の規律や規範が変わったりするケースもあって、今後の動きに期待を持ってるわ。

渡辺:今回の件に限らず、アメリカでいろいろと弱者の権利が守られるのは、「それがアメリカという国だから」みたいに思われることもあるけど、実は歴史上どこかの時点でものすごい戦いがあって勝ち取ってきた権利なんだよね。例えば黒人の差別問題でも、座席が人種別になっているバスで白人側に座った黒人女性が罰金を取られたのを違法だと訴えて、最高裁まで争って勝訴して風向きが変わった。やっぱりそういう戦いがあってはじめて物事が動く。

奥本:確かに、そういう意味ではセクハラや女性差別って「大手を振ってこれはおかしいって主張していいのだっけ?」とか「おかしいと主張していじめられるのは自分?」と躊躇して諦める女性が大多数だったと思うのだけど、去年は女性たちの意識に大きな変化が起こっているのをひしひしと感じる。これまでみたいに泣き寝入りせず、ちゃんと表舞台で戦って権利を勝ち取っていこうとしているムーブメントをすごく感じた年だったわ。

渡辺:ただ男性側がちょっとかわいそうだと思うのは、過去何十年か分のセクハラや性犯罪を一気に暴かれているということ。芸能界とか政治の世界だと70年代、80年代のことが問題になったケースも多くて、もうまさに粛清って感じ。

奥本:なんでもそうだと思うのだけれど、した方はその罪を忘れて、された方は被害にあったことをずっと覚えてるものなのではないかな。「まあもう昔のことは水に流して」と言われても、自分にとって大切なものや人としての尊厳を傷つけられたことはトラウマとしてずっと残っている。傷はそんなに簡単に癒えるものではないと思う。

渡辺:話は変わって、どうですか、アメリカの会社で働いてセクハラはいかがでしたか?

奥本:幸いなことに私自身は心に傷が残るようなできごとはなかった。それに、ヤフーの米国本社でアジア・パシフィックをマネージしていた時は、上司のSVPが女性で同僚VPも7割が女性だったの。

渡辺:おお、すごい。女性が多い職場ってどういう感じ?

奥本:ものすごく話しやすくて、何を言っても真摯に受け入れてもらえて、遠慮なく意見を述べて、のびのびと話し合いや議論ができた。自分がチームの一員として尊重され信頼されているという実感はプロフェッショナルとしての自信にもつながったと思うの。雰囲気がオープンだからリスクを取ることに対する恐れがなくなって、大胆な戦略を遂行していい結果を産むことができたのよね。

渡辺:私は会社勤めでは自分以外に女性がいないことの方が多かったから、女性主体の職場って想像もできないな。

奥本:アメリカの会社ではセクハラトレーニングはコンプライアンスの一貫としてしっかりしているのよ。去年セクハラが問題になった時も、夫の勤めるベンチャーでも社員全員がセクハラについてオンラインクラスを受けることになっていたわ。

渡辺:あ、うちの夫も同じ頃オンラインクラス受けさせられてた。ウーバー事件の後だったから「トラヴィス・カラニックのせいでこんなことに」とか文句言ってた。

奥本:その手のトレーニングで登場するのだけど、たとえば、女性を頭のてっぺんから足のつま先まで眺める目の動きは”エレベーターアイズ”と称されてご法度なのよね。

渡辺:そういうのって文化だから難しいよね。 友達のフランス人男性が「アメリカ人の女性はじろじろチェックしてくれない、それがとてもつまらない」と言ってた。フランスでは男女ともにエレベーターアイズするのが礼儀なんだって。本当かどうか知らないけど。

奥本:イタリア人の同僚も同じことを言ってた(笑)。

渡辺:とあるイタリア系の友達が言ってたんだけど、父親が某グローバル企業で働いてて、最初アメリカで部下の女性に「今日は綺麗だね」とか言ったり肩に手を置いたりしていたらセクハラで会社に訴えられて、「これはやばい」と会社が彼をイタリアに転勤させた。そこで彼は「アメリカでの失敗は繰り返さない」と周りの女性の外見を褒めたり触ったりしなかったら、「本当に冷たい人だ」とイタリア女性の部下たちから文句が出て、「女性が文句を言わない国に飛ばすしかない」ということで日本転勤になって見事定年まで勤め上げたらしい。日本人女性舐められてる。

奥本:日本は本当に男性社会だから……。

渡辺:セクハラは仕事の一部ですみたいな日本の商社勤めをしていた私的には、去年アメリカで話題になった問題の中には「男性社会で働く以上それはわかってたことだから文句をいう方がおかしいんじゃない?」と思う話がたくさんあった。

奥本:私も米国企業で17年勤務したとはいえ、日本の男性社会も経験しているから「女性差別は男性社会で働く上はあって然るべきもの」という諦めに似た気持ちがあったと思うのね。でもね、「あれ、これってもしかして私が女性だから?」と感じるケースが重なると、さすがにやるせない気持ちになった。

渡辺:私も去年一年いろいろ考えて、「男性社会なんだから文句を言う方がおかしい」という私の感覚の方がおかしい、という結論に至ったわ。そんなこと言ってたらいつまでたっても今のまま。どんな小さなセクハラもしない、させない。

奥本:しちゃだめでしょ(笑)。

渡辺:セクハラも問題なんだけど、自分でも気づかないまま女性に差別的意識を持っている男性が周りにいるのもじわじわと首が閉まる感じがするよね。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)ってやつ。「男女平等」とか言ってる男性が、ものすごい差別的なことを言ったりしたりすることがあってがっくりきたりする。彼らは「自分は平等」っていう思いがあるから冷めた目で自らを観察する力を失ってるんだよね。

奥本:アンコンシャスバイアスはテック業界に女性が増えない理由とも言われてる。

渡辺:「うちの会社は能力主義、女性が少ないのは能力が劣るから」みたいな主張がこれまでのシリコンバレーでは許されてきたんだけど、結局これも「女性は技術に劣る」というアンコンシャスバイアスが反映されているんじゃないかと。そもそもソフトウェアエンジニアって最初は女性の仕事だったんだし。

奥本:そうなんだ。

渡辺:ハードウェアこそ男の仕事、とされてた。

奥本:フェイスブックではアンコンシャスバイアスについて社員に教育したりかなり努力しているみたいね。上司が女性の部下を評価をオンラインで評価するときに、最後に提出するところでメッセージが出て「あなたが評価している部下は女性です。無意識に低い評価をしていませんか」と聞いたりとか。

渡辺:アンコンシャスバイアスは、男性だけじゃなく女性にもある。知らず知らずのうちに自分がよく知らない特定のグループを差別してるってよくあることなんだよね。差別までいかなくてもステレオタイプで相手を見てしまう。もちろん私にもいろいろなバイアスがあるしね。

奥本:それはやはり、育った環境や文化を反映するものだから仕方ないところもない?

渡辺:でもやっぱり、自分の中のバイアスがなんなのか、そしてどうやったらそれを乗り越えていけるか、ということを考えて補正をかけ続けないといけないんじゃないかな。そんな面倒くさいこと嫌だっていう人も多いと思うけどね。

渡辺千賀×奥本直子の「誰も知らないシリコンバレーの裏事情」

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