『スカーレット』視聴率以上に評価される“攻めた朝ドラ”に...描き続けた喜美子の喪失感

『スカーレット』視聴率以上に評価される“攻めた朝ドラ”に...描き続けた喜美子の喪失感

  • Business Journal
  • 更新日:2020/03/26
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連続テレビ小説『スカーレット』|NHKオンライン」より

3月28日の最終回に向けて、いよいよクライマックスに突入した朝ドラ『スカーレット』(NHK)。

全話平均視聴率は8作ぶりに20%台を下回ることが濃厚など、手放しで「成功した」とは言い難い。しかし、ネット上の盛り上がりはここ数年間でもトップクラスであり、その過半数を称賛が占めるなど、「記録よりも記憶に残る作品」と言えるのかもしれない。

まもなく迎える最終回を前に、『スカーレット』はどんな物語だったのか? 川原喜美子(戸田恵梨香)はどんなヒロインだったのか? そして、どんな結末が予想されているのか?

クライマックスをより楽しむために、一足早く作品の全体像を見極めていきたい。

近年ではまれに見る地味なヒロイン

昨年10~12月に放送された前半パートを振り返ると、喜美子は苦労続きだった。幼い頃は、漢字が読めず給食費も払えないほどの貧乏暮らしの中でも家族のために尽くし、中学卒業後は単身大阪へ。女中として懸命に働き、実家にお金を送っていた。

そこで喜美子は美術学校への進学を夢見るようになり、女中の仕事に加えて内職もこなすが、家族の窮状を知って信楽へ戻ることに。「丸熊陶業」の社員食堂で働くことになるが、意を決して深野心仙(イッセー尾形)に弟子入りし、絵付けの修行を始める。しかし、絵付け師として歩み始めた頃、経営方針の変更で絵付けの仕事が減り、師匠との別れを余儀なくされてしまう……。

ここまで喜美子に朝ドラのヒロインらしい幸せはほとんど訪れず、「夢や目標を抱いても、すぐにくじかれてしまう」という、つらい人生続き。辛抱の日々でも家族を思い、ひたむきに生きる喜美子の姿は、近年の朝ドラヒロインには見られない地味なものだったが、女性視聴者を中心に支持を集めた。喜美子は『おしん』に象徴されるように、「往年の朝ドラらしいヒロイン」とも言えるだけに、当然なのかもしれない。

風向きが変わり始めたのは、前半の物語も終わりが見えた12月。喜美子は丸熊陶業の商品開発室で働く十代田八郎(松下洸平)から陶芸を教えてもらうことで急接近し、ほどなく相思相愛の仲になる。「独身の女性と2人きりになるのはよくない」「交際女性以外は下の名前で呼ばない」という、喜美子よりさらにまじめな人柄の八郎に女性視聴者たちは熱狂した。

八郎は朝ドラ史上に残る誠実な男性像であり、演じる松下洸平が「朝ドラ定番の若手イケメン俳優ではない」という意外性も加わって、喜美子との恋愛は大盛り上がり。これまで喜美子をさんざん振り回してきた父・常治(北村一輝)からの反対を受けたが、2人はめでたく結婚し、独立して「かわはら工房」を立ち上げた。ここが、『スカーレット』の中で最高の幸せなシーンだったのではないか。

前半パートの最後で、喜美子はようやく陶芸家としての第一歩を踏み出した。つまり、女性初の陶芸家を描く物語であるにもかかわらず、前半パートでその片鱗はほとんど見られなかったのだ。アンチ視聴者から「地味」と揶揄された最大の理由は、成功とはほど遠い晩成型の物語によるものだろう。

不倫よりも残酷だった才能の差

年をまたいだ2020年1月6日に後半パートがスタート。喜美子は陶芸家としての成功に向けて邁進していくのだが、そこに刺激的な筋書きが加えられた。

喜美子が陶芸の才能に目覚めていく一方、八郎は作陶に行き詰まり、2人の心がすれ違い始め、さらに弟子の松永三津(黒島結菜)と八郎の距離が近づいていく。その後、三津は身を引いたものの、喜美子が大金を使う穴窯での窯焚きにこだわり続けたことで2人の亀裂は決定的なものになり、離婚へつながってしまった。

喜美子のモデルとなった女性陶芸家・神山清子の人生を再現するのなら、「八郎と三津は駆け落ちする」というショッキングな展開になるはずだったが、制作サイドが選んだのは不倫ではなく、才能と価値観の相違。芸術家における才能の差はおしどり夫婦を不仲に向かわせるものになり、借金に対する価値観の違いは離婚を決定づけた。

ついに穴窯での窯焚きに成功したとき、まじめで安定志向に見えた喜美子が実はリスクを追う芸術家肌の人間であり、芸術家肌に見えた八郎が実は安定志向の人間だったという逆転現象が確定。「陶芸家としては凡人だった八郎との対比によって喜美子の才能が強調され、八郎との不仲によって才能が爆発した」と言ってもいいだろう。

皮肉にも、それまで重しのように喜美子の才能を抑え込んできた父・常治が亡くなり、一歩引いて立ててきた夫・八郎への遠慮がなくなったことで、女性陶芸家・川原喜美子が誕生した。当時はまだ男尊女卑が当然の世の中で、男性に振り回され、男性の陰に隠れていた女性が大成功を収めたことで、胸のすく思いがした女性視聴者は多かったはずだ。

窯焚き成功後の“7年スキップ”が示すもの

あらためて全体を見渡すと、『スカーレット』における最大の見せ場は、喜美子が穴窯の窯焚きに成功した2月5日の放送。第1話の冒頭にそのシーンが使われていたことからも、それは間違いない。

しかし、翌6日の放送では7年後にスキップして、喜美子は陶芸家としての名声を得ていた。これは、制作サイドが「窯焚き成功から名声を得るまでの7年間は喜美子の人生を描く上で、さほど重要ではない」と判断したことにほかならない。

そして、2月、3月の残り2カ月間の物語に選ばれたのは、息子・武志(伊藤健太郎)との物語。まず武志の成長の過程を見せた上で、白血病の闘病生活を描いている。これまで『スカーレット』は、喜美子が夢を失い、師匠を失い、両親を失い、夫を失う……という喪失の日々を描いてきた。それだけに、「最愛の息子を失うかもしれない」という最大のピンチが訪れるクライマックスは合点がいく。

それらの喪失は、喜美子を悲しませるとともに、我慢を強いてきた。『スカーレット』が描きたかったのは「そんな逆境のときにどう生きるか?」であり、やはり単なる女性陶芸家の成功物語ではなかったのだろう。

朝ドラは2015年後期の『あさが来た』がヒットして以降、大半の作品が牧歌的なムードで覆われ、「ヒロインがピンチに見舞われても、周囲の優しい人々に助けられて悲しみや我慢は長引かず、喪失感に見舞われることなく、解決していく」というパターンが占めていた。

ただ、そのパターンは前作『なつぞら』がそうであったように、視聴率はそれなりに獲得するものの、視聴者からは否定的な声が多かった。その物語も、視聴率も、評判も、まさに『スカーレット』と真逆だったのだ。その意味で、久々に「攻めた朝ドラ」と言えるのではないか。

『スカーレット』という喪失の物語がもたらす最終回は、どんな結末が待っているのか。ラストシーンでは、もし武志を失っていたとしても、喜美子は人生の楽しさや人間の温かさを感じながら、1人で作陶に励む……そんな姿が浮かんでくる。失い続ける喜美子の人生を見守ってきた視聴者にとっても、静かな感動が押し寄せる最終回となるだろう。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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