「狂騒の20年代」チャプリンは大暴落の前に株を処分 『金融の世界史』【書評】

「狂騒の20年代」チャプリンは大暴落の前に株を処分 『金融の世界史』【書評】

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  • 更新日:2017/10/14

日露戦時における高橋是清らの戦費調達と「桂・ハリマン事件」までの経緯をまとめた労作『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)を2012年に上梓し、好評を博した著者が、「分かりやすい通史的な金融史が読みたい」との読者の要望に応えて執筆したのが本書である。ここには、日本を含む世界の金融の歴史が、数々の興味深いエピソードとともに綴られている。

一連の挿話を要領よくまとめ、時系列に沿って整理する著者の手さばきは見事である。本書は、全15章72話(一話3~4ページ程度)からなり、終章の「投資理論の展開」が専門的で、やや難解な点を除けば、総じて平易に語られており、金融の歴史や知識を飽きることなく学べる好著である。

『金融の世界史――バブルと戦争と株式市場』
著者:板谷敏彦
出版社:新潮社
発売日:2013年5月24日

■チューリップのバルブをめぐるバブル

史上最初の「バブル」としてしばしば語られるのが、17世紀のオランダで起こったチューリップ・バブルである。本書でも、第27話〈チューリップ・バブルとカルヴァン派と欲得〉で取り上げられている。チューリップの球根(bulb)をめぐって起こったバブル(bubble)だが、実は「チューリップ・バブル」という言い方はあまりせず、通常は「チューリップ狂」(tulip maniaまたはtulipomania)と呼ばれるらしい。

著者は、チューリップ狂について論じた主要な著作、チャールズ・マッケイの『狂気とバブル』、ジョン・K・ガルブレイスの『バブルの物語』、エドワード・チャンセラーの『バブルの歴史』、チャールズ・キンドルバーガーの『熱狂、恐慌、崩壊』、ピーター・ガーバーのFamous First Bubbles(未邦訳)を挙げ、これらのうち自分はガーバーに同情的だと述べている。

チューリップ・バブル(いや、バルブ)に踊ったのは「宗教改革の改革派であり、質素、倹約で通したカルヴァン派のオランダ人たち」だったというのは、なんとも皮肉な話ではある。「オランダが、スペインというカトリックに象徴される中世キリスト教的束縛から解放されたその直後に、欲得ずくのバブルが発生した」ことを興味深いと語る著者は、同時に繁栄がなければ、バブルは発生したりはしないとも述べている。

■狂騒の20年代
――チャップリンは大暴落の前年に持ち株をすべて処分

本書に紹介された数あるエピソードのなかでも特に興味深いのが、「狂騒の20年代」と呼ばれるアメリカのバブルについて語った第47話〈大暴落とチャップリンの『街の灯』〉である。ちょうどベーブ・ルースやルー・ゲーリッグ、リンドバーグ、アル・カポネらが活躍・暗躍していた時代の話である。

当時、技術革新の波は映画界にも押し寄せてきていた。世間が音の出るトーキーに飛びつくなか、新技術に否定的だったチャップリンは、予定されていた次回作『街の灯』を従来どおりサイレント映画で撮影することにした。そんなチャップリンは、街に失業者が溢れている光景を目にして不信を抱き、1929年の大暴落の前年に持ち株をすべて処分していた。

一方、「狂騒の20年代」最後の日の10月23日にチャップリンと会食した愛国者で作詞作曲家のアーヴィング・バーリンは、信用取引で大量の株を買っていた。だが翌日の「暗黒の木曜日」の株価下落で全財産が吹っ飛ぶ。会食の際、持ち株を売却したチャップリンに激怒し、「君はアメリカを空売りするつもりか!」という言葉を浴びせたバーリンは、二日後に悄然として現れ、チャップリンに静かに詫びたそうである。

続く第48話〈長期投信の幻と株価の回復〉で著者は、大暴落以降の株価の回復期間に触れ、「消費者物価をもとにインフレ率をダウ指数に加味すれば、ダウは30年後に一度は以前の水準を取り戻すものの、本格的な回復は50年後の1980年代後半まで待たなければならなかった」と述べている。このことは、著者も指摘しているように、意外に軽視されており、留意すべき重要な点であろう。

金融の歴史について語るとき、とかくバブルの話ばかりが目立ってしまうが、著者はその反対の面にも目を向ける。もしも「狂騒の20年代」がなければ、アメリカン・ドリームの生活があれほど早い時期に到達できたかどうか疑わしく、「借金によるレバレッジが、幸福の実現を少しだけ早めたとも考えられ」る、と著者は述べている。

■金融の歴史と未来

「金融史とはお金に形を変えた人間の欲望の歴史」でもある。人類はその欲望のために同じ過ちを幾度も繰り返す一方で、「金融技術は長い年月をかけて少しずつ改良されてきた」という。確かに著者のいうとおり「改良されてきた」ともいえるが、悪い意味で「巧妙になってきた」という見方も成り立つ。

ただ、いずれにせよ、「金融は戦争の軍資金集めに利用されてきた一方で、国債を発明し、会社を誕生させ、才能ある望む者に資金を提供する役目を果たして」きた。「鉄道の敷設を助け、飛行機を開発し、新薬の発見を促し、インターネットによる情報網が世界を覆う手助けをしてきた」のも事実である。

本書全体を通じていえるのは、著者が人間の欲望の発露であるバブルを単純に「悪」として一刀両断に切り捨てていない点である。

本書で人類の金融史を学んだあとに気になったのが、インターネット空間に新たに登場してきたビットコインなどの「仮想通貨」の存在である。それは新手の「悪」なのだろうか? 仮想通貨が今後われわれの経済・社会にいかなる影響を及ぼすのかについては、それを一時の「あだ花」にすぎないと見るかどうかも含めて、いまも議論が続いている。

金融(技術)が戦争や技術革新、経済・社会の大きなうねりとともに発展してきた歴史を鑑みるに、次なる大規模な戦争や危機が仮想通貨の飛躍的な普及・発展を(その濫用も含めて)促すことになるのかもしれない。

評者にそれを見通すだけの力はないが、ともあれ金融の未来を考えるための地ならしの意味でも、金融の歴史をおさらいしておく必要があるだろう。本書はそれにうってつけの一冊といってよい。(寺下滝郎 翻訳家)

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