NASAのX線偏光観測衛星「IXPE」はブラックホールをどこまで観測できるのか?

NASAのX線偏光観測衛星「IXPE」はブラックホールをどこまで観測できるのか?

  • @DIME
  • 更新日:2022/01/14

ブラックホールは、アインシュタインが予言した天体。ブラックホール、アインシュタインというワードだけでも、多くの人の興味を駆り立てることだろう。本当に数年前までは、ブラックホールは予言されていた理論上の天体で、本当に存在するのかについては実はわからなかった。しかし、2015年の重力波の検出や2019年のブラックホールの撮影の成功を皮切りに、ブラックホールはいま“旬”な時期を迎えているといっても過言ではない。そして新しい手法で観測をしようと、NASAなどは衛星IXPEを打ち上げようとしている。今回は、そのような話題について触れたいと思う。

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https://www.nasa.gov/mission_pages/ixpe/images.html

ブラックホールとは?

繰り返しになるが、ブラックホールの存在を予言したのは、アインシュタイン。アインシュタインといえば、多くの人が知っている天才物理学者の一人だ。1921年ノーベル物理学賞を受賞しており、20世紀最高の物理学者とも評されている。彼の業績は、底知れぬほど多いのだが、よく耳にするのは、特殊相対性理論や一般相対性理論ではないだろうか。一般相対性理論は、筆者のような一般人には難解すぎて理解できないのだが、この一般相対性理論の中で、ブラックホールは予言されている。しかし、実は、アインシュタインが1921年に受賞したノーベル物理学賞は、この一般相対性理論ではなく光電効果などの光量子仮説と別の研究テーマなのだ。もし、生存していれば、何個ノーベル物理学賞を受賞したのだろうと思ってしまうすごい人物だ。

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こちらはアルバート・アインシュタインの蝋人形。

一般相対性理論では、「重たいものがあると、時空がゆがむ」ということが理論的に綴られている。その時空が一番歪む場所が、ブラックホールなのだ。ブラックホールは、太陽の重さの20~30倍のものから、桁違いに重いものがあるという。星の最後では中心に鉄ができる。そうするといままで水素などで起こっていた核融合反応などがないので、外へ行こうと爆発する力がなくなり、中心に向かって重力だけになり、それが非常に重いため、重力で穴が開いた状態、ブラックホールとなるという。

アインシュタインの予言から100年後にブラックホールがついに発見

ブラックホールが発見されたのは、2015年のこと。実際に見たわけではなく、ブラックホールから放出される重力波の検出に成功したため、ブラックホールの存在が証明されたというものだ。この重力波の検出に成功したのは、米国のLIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)の検出器だ。

この重力波というものもアインシュタインが予言していたもの。この検出した重力波は、2つのブラックホールが合体したときに、エネルギーが急に1つの天体になるので、重力波という時空のひずみの波が地球まで伝わってきたのだ。どれくらい離れたところかというと、なんと13億光年離れた場所。すごい話だ。

しかし、この段階でもまだ人類は、ブラックホールというものの存在は証明できたのだが、視覚的に見ることはできていないのだ。

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米国LIGOの重力波検出のラボ キャプ

(出典:LIGO

実際に見えたブラックホールは、リング状?

しかし、2019年すごいニュースが飛び込んできた。ブラックホールの撮影に成功したというニュースだ。日本も参画している国際協力プロジェクトのイベント・ホライズン・テレスコープで、M87という巨大な銀河の中心のブラックホールの撮影に成功したのだ。M87は、地球から5500万光年も離れた巨大な銀河だが、このM87銀河の中心に、以前から超巨大質量ブラックホールがあることは指摘されていた。

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)とは、世界中の電波望遠鏡をつなぎ合わせて、圧倒的な感度と解像度を持つ地球サイズの仮想的な望遠鏡を作り上げるプロジェクトのこと。

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry: VLBI)を使っている。世界中の望遠鏡を同期させ、また、地球の自転を利用することで、地球サイズの望遠鏡を作ることができるのだ。VLBIにより、イベント・ホライズン・テレスコープは解像度20マイクロ秒角という極めて高い解像度を実現。これは、人間の視力300万に相当し、月面に置いたゴルフボールが見えるくらいというから驚きだ。

地球規模の望遠鏡というのは、APEX(チリ)、アルマ望遠鏡(チリ)、IRAM30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(米国ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)。これらの望遠鏡群を使って撮影し、撮影によって得られた生データの合計は数PB(ペタバイト)にもなり、独マックスプランク電波天文学研究所と米国MITヘイスタック観測所のスーパーコンピュータで処理されたという。

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撮影されたブラックホール

(出典:国立天文台

ブラックホールを観測する新しい方法とは?

2021年12月9日NASAなどは2021年12月9日、X線偏光観測衛星IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)の打ち上げに成功した。全長約5mの衛星で、X線望遠鏡3台と、それぞれの焦点面に3台のX線偏光計を搭載している。これまでのどのX線天文衛星とも異なり、高感度のX線偏光観測に特化した世界初の衛星であるという。

このX線偏光観測衛星IXPEの特徴は、この偏光観測にあるという。

まず、このX線偏光観測によって恒星から流れ出した物質がブラックホールに吸い込まれる際に、「降着円盤」の構造が詳細に観測することができるという。降着円盤はブラックホールに近づくほど高温になり、ブラックホールの近くではX線が放出される。このX線の波は、円盤の面に平行な方向に偏っていると考えられている。つまり、X線の偏光を見ることができれば、詳細が明らかになるというのだ。

また、ブラックホールのごく近くでは、強い重力場やブラックホール自身の高速回転により時空がゆがめられることが知られている。それにより偏光にわずかな変化が生じるため、X線偏光を精度良く捉えることができれば、ブラックホール周りの時空のゆがみ具合やブラックホールの回転を観測できるという。このプロジェクトには、日本の理化学研究所や名古屋大学も装置開発などで参画している。

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NASAのX線偏光観測衛星IXPE キャプ

(出典:NASA

いかがだっただろうか。今回は、ブラックホールについて、アインシュタインの一般相対性理論の予言から、存在の証明、発見など背景を定性的に紹介した。そしていま、NASAのX線偏光観測衛星IXPEによって新しいフェーズに入り、ここでも新しい発見がどんどん出てくることだろう。非常に楽しみだ。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。

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