大手銀行が富裕層の“コンシェルジュ”化? 資産運用・相続サービス拡充

大手銀行が富裕層の“コンシェルジュ”化? 資産運用・相続サービス拡充

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  • 更新日:2021/02/21
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※写真はイメージです (GettyImages)

日本で「富裕層」が増え続けているという。アベノミクスで超金融緩和政策が進み、余剰資金が株式市場などに流れ込んで資産価値が高まったためだ。こうした資産の運用や相続対策で、大手金融機関がサービスを広げつつある。

【グラフ】日本で富裕層が増加! 2019年の純金融資産保有世帯数はこちら

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日本における富裕層は2019年、133万世帯にのぼり、10年間で57%もふくらんだ──。野村総合研究所が隔年で実施している調査の推計で明らかになった。

ここでの富裕層はあくまで、預貯金と株式・債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険などの保有金融資産合計から負債を引いた純金融資産が1億円以上の世帯。このうち、純金融資産が5億円以上の8万7千世帯が“超富裕層”で、こちらも増え続けている。

メガバンクなどが、こうした富裕層の資産を管理・運用したり、相続相談に応じたりするサービスに力を入れている。

三菱UFJ銀行は、富裕層向けビジネスを「ウェルスマネジメント戦略」として中期経営計画の一つに据える。なかでも資産規模20億円以上のオーナー経営者には専従スタッフをつけて、遺言信託や不動産売却などに機敏に対応している。20億円未満であっても地主や医者にも同様のサービスを展開。専従となった銀行員が窓口役を担い、案件に応じてグループ傘下の証券会社や信託銀行、不動産会社などへ紹介できるのも強みだ。

富裕層に対応する百数十人の部隊は、顧客開拓にも余念がない。預金の多い人はもちろん、企業決算などから富裕層を見つけ出しては、“飛び込み営業”を繰り返している。すでに他の金融機関や税理士が担当しているケースもよくあるというが、「『いろいろなところと比較してみませんか』『資産運用のセカンドオピニオンはいかがですか』などと話しかけている」(三菱UFJ関係者)と足で稼ぐ努力を続けている。

三井住友銀行も、推定保有資産20億円以上の大口富裕層への対応を進める。三菱UFJと同様、グループ企業との連携を背景にして、銀行員が富裕層の“御用聞き”に徹する。“コンシェルジュ”みたいとも言えなくはない。富裕層からの要望には、スピード感のある対応が重視されるという。

「お客さまのニーズは多様化しています。いろいろな情報を集められていて、通り一遍の説明では満足されません。金融市場が動けば『すぐ外貨預金がほしい』ということもあります」(三井住友関係者)

三井住友は大口の富裕層だけでなく、企業を退職した元役員らの“プチ富裕層”にも潜在的なニーズがあるとみる。プチ富裕層は、お手伝いさんや税理士に面倒を見てもらっているクラスとは違って、「健康とか家事とか、身の回りのことで苦労されていることもあります」(別の同行関係者)。

メガバンクが支店の統廃合を進めるなか、三井住友はフルサービスの店舗を減らしつつも、コンサルティングに特化した“軽量店”を増やして全体の店舗数を維持する戦略をとっている。

「デジタル時代でも『店舗で』というお客さまはいる。インターネットでは解決できない部分もあり、他行などと差別化できる」(同)

みずほ銀行は、デジタル化に対応して“非対面サービス”を拡充する一方、コンサルティング業務に力を入れる。店頭の手続きはタブレット端末を活用して省力化し、浮いた人員を富裕層を含めた相談などに振り向ける。

個人預金の規模で、ゆうちょ銀行、信用金庫業界に次ぐJAバンク。農協マネーを集めるJAバンクは、三菱UFJをも上回り、三井住友やみずほの2倍ほどの個人預金の規模になる。

JAバンク利用者の中核をなす農業従事者は、農林水産省の20年統計で平均年齢67.8歳と高齢化が進む。後継者が見つからないこともあり、広大な農地といった資産の管理・承継が課題だ。大都市近郊の農地などは、その資産価値も巨額になる。JAバンクは「都市部を中心に遺言信託にかなり力を入れており、農中信託銀行が特化してやっている」(JAバンク関係者)。

遺言信託は近年、金融機関が力を入れる大事な収益源となっている。遺言信託は、公正証書遺言の作成や保管、執行をするのが主なサービスだ。メガバンクや地方銀行などが加盟する信託協会によると、遺言書の保管件数は20年9月末で15万1748件。20年間ほどで5倍超に増えた。

ただ、銀行の遺言信託の手数料は、弁護士や税理士、司法書士に依頼するよりも高額だとされる。例えば、りそな銀行の専用サイトで遺言信託の手数料を見ると、一般型の基本コースで、契約時の手数料33万円、保管料が年間6600円、執行報酬は資産額で違うものの最低でも110万円だ。

司法書士平成事務所(札幌市)の碓井孝介代表は「銀行の手数料が高いのは、おそらく間接経費がかなりかかっているからではないか」と話す。保管料も毎年とり続ける理由はないという。公正証書で作成すれば、利害関係人の請求で公証役場が何度でも再発行する。遺言執行では銀行口座一つの解約に100万円のケースもあったという。「銀行は資産を持っていることがわかるので、営業をかけているのかもしれません」(碓井さん)

富裕層ビジネスに詳しい金融コンサルタントの高橋克英・マリブジャパン代表は「日本ではこれまで銀行がお金持ち層にほとんどタッチできていなくて、たいしたサービスもしてこなかった」と指摘する。

これまでは相続の相談を受けても、最終的には弁護士や税理士の仕事だと思われてきた。ところが超高齢化社会に突入し、銀行が信用力を背景に遺言信託などが収益源になると見るや、活動領域を広げているのだ。

「ブランド好き」が多い富裕層に対して、銀行の看板はビジネスチャンスにもなる。高橋さんは「モノを買うときには、最終的にセールスマンにおされて気持ちよく買いたい。(有名銀行員の担当者に)自分の自慢話を聞いてほしい、という人も多い」と解説する。

大手金融機関は、お金のあるシニア層の心をうまくつかめるか。(本誌・浅井秀樹)

※週刊朝日  2021年2月26日号

浅井秀樹

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