「ととのう」を医学的に説明できますか? サウナーが学ぶべき“サウナ基本のキ”

「ととのう」を医学的に説明できますか? サウナーが学ぶべき“サウナ基本のキ”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/22

コロナ禍にかかわらず、今サウナがブームです。最近では漫画『マンガ サ道』が話題を呼び、ドラマ化もされました。「サウナー」と呼ばれるサウナ愛好家たちも続々と現れています。

ブームを巻き起こしている背景に、仕事をする環境の大きな変化が挙げられます。インターネットが普及し、ここ数年、働き方が目まぐるしく変わりました。メールは絶えず届き、パソコンをつねに持ち歩き、仕事に際限がありません。コロナ禍ではテレワークという新しい働き方が取り入れられ、働く場所も様変わりしました。急激な変化に適応しようとビジネスマンは緊張を強いられる毎日です。

リラックスしたい、でも仕事の効率も上げたい――。そんなわがままをかなえてくれる「サウナ」に、注目が集まっているのです。なかでもサウナ人気の火付け役となった「ととのう」という新しいサウナ用語が、その効果をもっともよく表しています。

「ととのう」ってどういうこと?

「ととのう」とは、サウナ後の休憩で得られる特殊な感覚で、それはフワフワする浮遊感覚であったり、敏感に研ぎ澄まされる感じだったり人によって様々です。

ちょっと胡散臭く聞こえるかもしれませんが、「ととのう」を医学的に言うと「急激な温冷刺激による異常感覚」なのです。サウナ室→水風呂→室外で休憩という基本のサウナ浴に沿って、体内に起こる変化を追っていきましょう。

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人気が再燃するサウナ ©文藝春秋

最初のサウナ室では、一体何が起こっているのでしょうか?

人は室内に入ると、非常に熱い温度にさらされます。日常にはない高温です。これを感知した人体は生命が危機的状況にさらされていると判断し、生き延びようとします。すると、生体維持システムである自律神経のうち、心身を発奮させる交感神経が働き始めるのです。

体内は“ありえない様態”になっている

次の水風呂も、同様です。人体にとってはとても温度が低く、厳しい環境です。しかも高温から低温という激しい温度差のため、交感神経はアドレナリンを放出して、周りの環境に必死に適応しようとするのです。

最後に室外で休憩を取ったところで、人体は危機を脱します。安堵して交感神経から副交感神経へと切り替わり、全身が深くリラックスしていきます。忙しい現代人は自律神経が乱れて交感神経が優位になりがちですが、ここでは確かに副交感神経が働き、体内を穏やかな状態へと導いてくれるのです。

しかし、このとき、体内はありえない様態となっています。自律神経はリラックスしているにもかかわらず、血中にはアドレナリンという興奮物質が残っており、並存しているからです。

そのとき脳では何が起きている?

そのときの脳の反応を見るために、超高精度な脳波計を用いて30人を計測しました。すると、脳は想定通りに深くリラックスしているのですが、空間や視覚認識を司る右頭頂葉の一部が活性化していました。くつろぎながら、覚醒度が上がって頭がすっきりし、瞑想にも似た状態です。

サウナ後に感覚が明敏になり、アイデアが浮かんでくるのはこの働きによるのかもしれません。ヤフージャパンの川邊健太郎社長はサウナ好きとして知られており、サウナでビジネスの企画を練っているそうです。

これが「ととのう」の正体です。お風呂でも心身の疲れは取れますが、サウナほど冷温差が激しくないので、「ととのう」には至りません。「ととのう」はサウナでしか味わえない特権なのです。

「汗をかけばかくほど良い」は間違い!

サウナに正しく入れば、効果的に「ととのう」を体感できます。基本はサウナ室→水風呂→室外で休憩、という流れです。

まず、サウナ室の過ごしかたです。ここで汗をかけばかくほど体が温まった、サウナの効果を得られたと思う方がいらっしゃいます。しかし、これは間違いです。汗の量は指標になりません。なぜかというと、汗には体の“結露”が含まれることがあるからです。

コップに冷たい水を入れると、汗をかいたように水滴がつきますよね。それはコップ周辺の空気が水によって冷やされ、空中に含まれる水分が液化したものです。これと同じでサウナ室の気温と体の表面温度の差で、皮膚に水滴がつくことがあります。汗を多くかいたからといって、体が温まっているわけではありません。

気にするのは汗でなく、心拍数です。心拍数は手元の脈で測ります。サウナ室の高温で体に負荷がかかると心身を興奮させる交感神経が働き、心拍数ひいては脈拍が上がっていきます。そのため、汗ではなく脈拍で体内の変化を把握します。

水風呂には何分入れば良い?

変化を読み取るためにも、サウナへ入る前に、軽く運動したときの1分間の脈拍数を測っておいてください。その心拍数とともに同じテンポの曲も覚えておきましょう。

サウナ室に入ったら、あぐらや体育座りなど、できれば両脚を上げて座ってください。体の末端まで温められます。そして、脈拍を測りましょう。12分計や砂時計などありますが、必要ありません。自分の脈拍に集中しながら、お気に入りの曲を脳内で再生します。心拍数が曲のテンポと同じくらいに上がったら、水風呂へ移ってください。

水風呂も大事なプロセスですので、きちんと行っていただきたいです。緊張を和らげるためにも、深呼吸で大きく息を吐きながら入りましょう。急激な温度変化により失神などヒートショックを起こしやすいので、慣れない人は水風呂にいきなり入ってはいけません。水あるいはぬるま湯で汗を流しながら、全身を低い温度にゆっくり慣らしてください。水風呂が苦手な方は、水シャワーだけでもかまいません。

水風呂は、1分経ったら出てください。理由は、血液が体内を1周するのが1分ほどだからです。それ以上は体の中心部が冷えてしまうので熱くなった体表だけを冷まし、体の中心部は温かさを保ってください。

サウナと水風呂だけ往復するのはNG

最後に、休憩を取ります。水風呂後の1分間~2分間は「ととのう」状態になりやすいです。体が冷えないように水気をよく拭きとって、速やかに休んでください。休む場所は屋外が理想的ですが、スペースがなければ、脱衣所の扇風機前でもかまいません。

「ととのう」を堪能したら、さらに5分ほど休み続けましょう。サウナから水風呂へと目まぐるしく変わる環境に適応した体を休ませてください。忘れず水分も補給しましょう。

休まずにサウナと水風呂だけを往復する方がいますが、体に必要以上の負担をかけるばかりか、「ととのう」効果も得られません。サウナ→水風呂→休憩を3セット繰り返せば、体の深部までしっかり温まり、心身の疲労が十分に回復されます。

自律神経を測定した私の実験では、4セット以上行うと、一度上がった自律神経の機能が逆に低下し、ふらふらになってしまう方がいました。3セットが適切と考えますが、ご自身の体と相談しながら慣らしていくのがベストです。

コロナ禍における新マナー

人気のサウナですが、構造上換気が制限されていて、対人距離も取りづらい環境です。コロナ禍で利用する際には、特に「手・顔」と「空気」への対策も心がけてください。

「手・顔」については3点。みんなが触るところを触った手で目鼻口に触れない、飲食しない、唾液や鼻水が浮いていることがあるので水風呂に潜らない。「空気」はソーシャルディスタンスがもっとも重要です。マスクも大切ですが室内では着用できません。タオルで口元を覆う、会話を控えるなど飛沫を避けましょう。

日本サウナ学会ではコロナ対策をきちんと講じている施設を公開しています。学会ホームページか、「湯ノ国」というアプリをチェックしてみてください。

サウナは正しい知識をもって利用すれば素晴らしい活力を得られます。サウナを通じて多くの人が元気な毎日を送れるように願っています。

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加藤容崇氏(日本サウナ学会代表理事・慶應義塾大学医学部特任助教)による「本当に健康に良い『サウナ―』入門」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。

(加藤 容崇/文藝春秋 2020年12月号)

加藤 容崇

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