「異世界転生」小説、実はトレンドがめちゃめちゃ変化していた...!

「異世界転生」小説、実はトレンドがめちゃめちゃ変化していた...!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/21
No image

アニメでも大人気の「なろう系」小説

1月から放送されているテレビアニメで、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』、『俺だけ入れる隠しダンジョン』、『蜘蛛ですが、なにか?』が好評を博している。これらはもともと、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿された作品を原作としている。

この他にも、第2期が放送中の『転生したらスライムだった件』、『Re:ゼロから始める異世界生活』や、『回復術士のやり直し』、『ログ・ホライズン』など、「小説家になろう」発の「なろう系」小説が近年次々とメディアミックス展開されている。

No image

アニメ「転生したらスライムだった件」公式ホームページより

一見、すべて同じ「異世界転生」ものに見える「なろう系」小説だが、実はそのトレンドは大きく変化している。その背景には、ユーザーである読み手、書き手の戦略や嗜好が深くかかわっているのだ。

共通するのは「RPGの世界観」

冒頭で挙げた作品の多くは、ダンジョンを探索してモンスターを倒すようなゲームの世界観をベースにしている。それでは、なぜ「小説家になろう」において、コンピューターRPG(ロールプレイングゲーム)の世界観を持つ作品が多いのか。その要因の一つとして、「小説家になろう」に先行して、小説投稿サイト最大手だった「Arcadia」の存在が挙げられる。

「Arcadia」は管理人の舞氏が運営していたもので、大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』、丸山くがね『オーバーロード』、カルロ・ゼン『幼女戦記』、そして川原礫『アクセル・ワールド』(ウェブ連載時のタイトルは「超絶加速バースト・リンカー」)などが投稿されていた。

特に、川原礫が『アクセル・ワールド』で第15回電撃小説大賞を受賞し、自身のウェブサイトに掲載していた『ソードアート・オンライン』で人気を獲得していったことに象徴されるように、このサイトにはRPGの世界観で物語を書く執筆者たちが集まっていた。

これには、当時のライトノベルのトレンドも関係している。その頃の文庫判ライトノベルは、葵せきな『生徒会の一存』シリーズや、平坂読『僕は友達が少ない』シリーズに代表されるように、学園を舞台にしたいわゆる「日常系」作品が全盛期だった。そのため、非現実的な西洋ファンタジーRPGを求める読者、書き手がウェブに集まったという事情がある。

そして「Arcadia」から「小説家になろう」へウェブ小説の主流が移っていく中で、イチゼロ年代(2010年代)には『ソードアート・オンライン』が絶対的な人気を誇った。その主人公キリトのような、いわゆる「俺TUEEEE」的な主人公が、よりパターナイズされた形で書かれるようになり、現在へとつながっていったと考えられる。

「俺TUEEEE」に起こった変化

少し前まで「なろう系」小説といえば、まずは「俺TUEEEE」をキーワードとする物語が連想されることが多かった。

「俺TUEEEE」とは、ネットゲームにおいて他のプレイヤーに対して圧倒的に実力を発揮して悦に入る状態を指している。特に主人公が他の登場人物に比べて突出した能力を持っているため、苦労することなく異世界で大活躍することができるストーリーラインの作品群を指す。主人公が努力したわけではなく、異世界転生をする際、勝手に能力が与えられている点がポイントだ。

たとえば2013年から「小説家になろう」で連載されている『転生したらスライムだった件』では、通り魔に刺されて死んだサラリーマンの三上悟が、コンピューターRPGにおける最弱のモンスター・スライムに異世界転生してしまう。

No image

しかし転生する際に、相手を溶かすことで能力を奪える「捕食者」と、思考や解析などの能力を劇的に向上させる「大賢者」というスキルを獲得。その後もさまざまなスキルを身に付けていくことで、異世界で活躍する。スライムというモンスターが持つ弱いイメージを逆手に取ったところにオリジナリティがある一方で、物語の様式としては、「俺TUEEEE」の路線を着実になぞっている。

こうした「なろう系」小説の王道を念頭に置きつつ、2012年から15年まで連載された『無職転生』を見れば、すぐにその流れを大きく覆したものであることがわかるだろう。

20年近く引きこもっていた34歳無職の主人公は、親が亡くなったことで兄弟に家から追い出された直後、トラックに轢かれそうになった高校生を助けて事故死してしまう。

ここまでは典型的な「なろう系」小説の様式をたどりつつも、異世界に赤ん坊として転生した主人公は、必死に勉強して魔法を覚え、挫折や敗北を経験しながら成長していく。こちらは努力や苦い経験を盛り込んで物語が書かれている。

No image

この『無職転生』に限らず、2015年から連載されている『蜘蛛ですが、なにか?』など他のヒット作を見ても、「俺TUEEEE」というパターンが意識的に覆されていることがわかる。

また「小説家になろう」の投稿作品全体の傾向でも、かつて主流だった「俺TUEEEE」というパターンで書かれたものはかなり減ってきて、代わりに主人公が何らかの努力や挫折を経験する作品が増えているように見える。

「なろう系」小説がパターン化するワケ

「小説家になろう」に投稿される小説は、実際には非常に多種多様な内容になっている。しかし、多くの読者から閲覧されてランキングに入り、書籍化、アニメ化に至るものは、一定の様式に収束していく傾向が強い。

この理由の一つは、そういった作品が書きやすいからである。パターンが決まっている小説であれば、それに則れば比較的簡単に書けるため、あまり経験のない書き手にとっても創作のハードルが低くなる。

また、投稿者の中で特に書籍化を目指している層は、自分の書きたい題材よりも、まずはより閲覧されやすいパターンにあえて合わせて書くという戦略を採る。

サイト内の小説には、「残酷な描写あり」「主人公最強」など内容によってタグを付けることができる。そこで閲覧数の多いタグの要素を取り入れて、パターン化されている物語に寄せて書くことで、読まれやすく、ランキングで上位に入りやすい小説を、より効率的に作ることを目指す書き手もいる。

その中で作家性を出そうとするならば、すでに固定化した様式をどのように崩していくかがカギとなる。『無職転生』は、「小説家になろう」の典型的な様式にあえて成長物語を取り込むことで、差異を作り出したものと位置づけられる。

「悪役令嬢」から「追放冒険者」へ

「俺TUEEEE」が使い古されていく一方で、「小説家になろう」では、新たな物語の様式が次々と生み出されていった。

たとえば、イチゼロ年代の終わりに流行したのが、「悪役令嬢」である。「悪役令嬢」とは、「乙女ゲーム」と呼ばれる女性向け恋愛シミュレーションゲームにおいて、女性主人公(ヒロイン)と同じ男性を恋愛対象とし、ライバルとなるお嬢様キャラクターのことである。

代表作である山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』では、事故に遭って死んでしまった主人公が乙女ゲームの世界へ行き、ゲーム内でヒロインにいやがらせをするライバルの女性キャラクターに転生してしまう。

No image

悪役なので恋をした男性と結ばれることはなく、最終的には国外追放になったり、死んでしまったりするのだが、そういった結末を回避するために主人公は奮闘することになる。

また昨年頃から、軽井広『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』や、2月末に刊行されるメソポ・たみあ『ようこそ「追放者ギルド」へ ~無能なSランクパーティーがどんどん有能な冒険者を追放するので、最弱を集めて最強ギルドを創ります~』などをはじめ、「追放冒険者もの」と呼ばれる作品が人気を得ている。

異世界において、本当は実力を持っているのにパーティーの仲間たちから才能がないと見限られて一度は追放された主人公が、別のパーティーに入ったり転身したりすることで、真の力を発揮して活躍するというものだ。このように「なろう系」小説のトレンドは、少しずつ変化してきている。

No image

変化の背後にあるユーザーの事情

「小説家になろう」における投稿作品の流行は、ゲームの世界観を土台とし、一定の様式を踏まえた上で、他の作品との差別化を狙って形作られていく。その意味では、既存の様式にどういうネタを追加するかという発想の勝負であり、落語の世界の大喜利や三題噺にも似た創作過程なのだ。

まずは人気のある様式に書き手、読者が一斉に集まっていく傾向があるため、人気作が生み出されやすい環境がある一方で、だからこそ生じる課題もある。

「『小説家になろう』インタビュー 文芸に残された経済的活路」によれば、「小説家になろう」では10代から20代の読者がおよそ半分を占め、30代が2割強と続いている。その一方で上位にランクインするような書き手には、人生経験豊富で文章も上手い30、40代が多いという。

書籍化してデビューをする書き手の年齢層が比較的高いのは、「売れるためには流行に合わせるのも仕方がない」とある意味で割り切って、こうした創作環境に適応できているという側面が大きい。

そのため「小説家になろう」にとって、年上相手に戦わざるをえない10代から20代の若い書き手をどこまで引き付けられるかは、今後の大きな課題となるだろう。小説を投稿したり、サイトで読んだりしている高校生・大学生や、実際に自分の作品が書籍化されたことのある作家に話を聞いていくと、流行の変化についていけず、人気の様式が変わると離れてしまう書き手、読者も存在するという。

また、書籍化された作品の購買層は年齢が高いため、「なろう系」小説の読者自体が高齢化していると捉えられがちだが、10代から20代は、ウェブサイトのみで作品を読んでいるというケースが多い。そのため若い読者の「クラスタ化」とも言える現象が起きているという。

今の10代から20代は、いわゆるオタク文化に対する抵抗感が30代以上の世代よりもかなり薄くなっているものの、自分の好みに合った作品のみ受容し、他のジャンルにはあまり手を伸ばさないという傾向がある。そのため、「小説家になろう」は一般読者ではなく、一部のヘビーユーザーからの人気によって成り立っていると考えられる。

「なろう系」小説に触れているのは学校や職場の中では少数派であり、かつてのライトノベルのように所属を超えて同じ趣味を共有することは珍しく、共有の場はネットが中心になる。

これに対し文庫判ライトノベルは読むものの「小説家になろう」を読んでいない層では、特に中高生の場合は従来からの学園もの作品のほうが親和性が高く「なろう系」小説はアニメ化作品でなければなかなか手を出さない。このように同じ小説好きの中でも分断が進み、双方の話がかみ合わないこともあるのだという。

以上は、当事者や公共図書館の司書の方たちから聴き取った範囲の情報から組み立てた仮説に過ぎないため、より詳細にデータを取った上で考察していく必要がある。また近年のアニメに「小説家になろう」発の作品が増えていることで、状況が変わっていく可能性もあるだろう。

一方で、「小説家になろう」に投稿される人気作がどうしてもパターン化していく現状は変えがたい。それゆえに生じる文庫判ライトノベルとの関係や、今後の読者層、書き手の広がりをめぐる動向については、引き続き注視していく必要がある。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加