サステナブルな農場「クルックフィールズ」で食と暮らしの原点を探す

サステナブルな農場「クルックフィールズ」で食と暮らしの原点を探す

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/31
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〈ザ・ブラインド・ドンキー〉を主宰する料理人、原川慎一郎さんが、東京の隣にある千葉は木更津といすみへ。穏やかな太平洋となだらかな山という自然に恵まれた場所で体感したのは、おいしいものの背景にあるストーリーとシンプルな暮らしの真の豊かさでした。

食と暮らしの原点を 農場へ探しに。

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クルックフィールズの入り口。

広い。ひとことで千葉といっても、世界の入り口である成田も、ディズニーランドがある浦安も、九十九里浜もすべて千葉なのだ。

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農場内には一般向けにも有機野菜を生産・販売している「農地所有適格法人 株式会社 耕す」の畑と、多様な品種を育てながら体験プログラムを実施しているエディブルガーデンがある。

そんな千葉の中西部に位置する木更津に、2019年、〈クルックフィールズ〉という広大な農場が誕生した。東京・神田で〈ザ・ブラインド・ドンキー〉というレストランを営んでいる原川慎一郎さんは、ここへ月に2度、通っている。

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代表の小林さんも頻繁に顔を出し、さまざまなイベントに参加したりしているそう。

「Reborn-Art Festival 2017(さまざまなジャンルのアーティストが石巻/牡鹿半島を舞台に地元の人々とつくり上げる芸術・食・音楽の総合祭)に参加したことをきっかけに、代表の小林武史さんといろいろな話をしていたんです。そのうち彼が〈クルックフィールズ〉をオープンして、遊びにきているうちに、僕も料理でお手伝いするように」

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収穫したてのレタスのブーケを手に、みずみずしい葉を味見。無農薬で育てられた野菜には、力強い風味がある。

〈クルックフィールズ〉は、これからの人や社会の豊かさを提案することをコンセプトにしたサステナブルファーム&パークだ。30ヘクタールという広大な土地で、野菜農園を始め、養鶏、水牛やブラウンスイス牛の飼育とチーズ作り、シャルキュトリー作りなどを手掛けている。

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収穫した野菜について「これはどうやって食べたい?」などと話し合いながら、みんなで調理する。原川さんが来ることは、スタッフ同士の交流や研修の機会にもなっている。

ここに来ると、料理人としての血が騒ぐという原川さん。というのも原川さんは、決まったメニューを作るために材料を仕入れるのではなく、素材を第一に考える料理人だから。全国の農家から直接、自然農法や無農薬で育てた野菜を仕入れている〈ザ・ブラインド・ドンキー〉でも、「今週は何が届きますか?」と農家に連絡してから、その週のメニューを決めているという。

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ダイニングでテキサスバーベキューの仕込みをする原川さん。

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「ここにどんな素材があるか、それをいちばんおいしく食べるにはどうしたらよいかと考えたら、多いときは1日に2~3頭も持ち込まれるというジビエを、テキサスバーベキューにしてみたいと思ったんです」

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原川さんが丁寧に素材からその調理法、献立の組み立て方まで説明しつつ、スタッフみんなと一緒に作ったディナー。テキサスバーベキューで焼いた猪の肉に、エディブルガーデンで収穫した野菜で作ったサラダやソースを添えて。

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パンも場内のベーカリーで製造・販売しているもの。ブラウンスイス牛のホエーを使ったパンなどもある。

テキサスバーベキューとは、薪を使い、低温でじっくり長時間加熱する調理法で、アメリカで最も牛肉をおいしく食べる方法の一つと言われている。原川さんは数年前、この調理法を学ぶために、テキサスまで行き、レストランで3日間の研修を受けたそうだ。調理するのは、近隣で害獣駆除として狩られた猪や鹿といったジビエ。

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シャルキュトリーでは、ジビエを捌くところから手がけたソーセージや竹島さんのチーズなどを販売。

家畜ではないため、既存の解体所では扱うことができない。そこで〈クルックフィールズ〉は木更津市と共同でジビエ専門の食肉処理場を設立し、シャルキュトリーに加工して販売している。

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「ピットは薪からの直接の火ではなく、熱を対流させて加熱するのが特徴です。温度が低いと煙が出てしまう。この火加減がなかなか難しいんですよ」とのこと。

肉を焼くのに必要なピットと呼ばれる窯設備は、ここでビオトープを指導しているパーマカルチャーデザイナー、四井真治さんの手作り。原川さんがゲストシェフとなり、テキサスバーベキューを提供する一般向けのイベントも開催されている。

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中心的なスタッフ、新井洸真さん。

取材日はスタッフの研修兼コミュニケーションのための会合日で、小林さんや四井さんを始め、スタッフ20人ほどが集まった。

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エディブルガーデンや自生する茂みを散策しながら、摘んだ野菜や花。野菜が花をつけている様子を知り、摘みたてをかじって本来の風味を感じるということは、なんと贅沢な体験なのだろう。

原川さんは到着して早々に、解体された猪の肉にスパイスや塩をすり込み、下味をつけている。それをピットでじっくり焼いている間に、みんなはかごを手にエディブルガーデンへ。「これは何?」「芥子菜ですよ」などと話しながら、さまざまな野菜を収穫する。「これはスイバという野草。酸っぱいよ」と言われ、その場でかじってみる。はたまた生のブロッコリーのおいしさたるや。

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養鶏を担当する石川雅史さん。この卵を使った「平飼いたまごのたまごかダイニングの人気メニュー。

さらに歩いていくと、純国産種の鶏を育てている養鶏場がある。広々とした鶏舎は発酵床なので、糞は微生物に分解され、常に清潔。ストレスが少なく、鶏同士が争うことがないため、けが防止のためのクチバシの切断「デビーク」も不要となる。餌を噛めるので、消化するための腸が普通の養鶏の6倍も長くなり、きちんと栄養を吸収できる。

米ぬかやおからを混ぜて作る自家製の発酵飼料と、畑で育った野菜を食べて育った健康な鶏たちの産む卵は、黄身が淡いレモンイエローで、臭みがない。

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場内の低地にある池マザーポンドには、各施設からの排水が浄化槽と、微生物と植物による水質浄化システム“バイオジオフィルター”を通して流れ込んでいる。排水が環境を豊かにするという理想のモデル。

「鶏や牛の糞は畑の堆肥となり、畑で作った野菜は動物たちの餌となる。この広い農場のなかで、それぞれが循環しているんですね。無駄がなく、みんなで一つのシステムとなっていることを感じます」と原川さん。その場で卵をいくつかもらい、またレストランへと戻った。そして収穫物についてみんなで話をしながら、料理の準備に取り掛かる。

果たして料理ができ上がる頃には、すっかり日が暮れていた。ワイングラスを片手に会話が弾む。大勢でテーブルを囲み、和気あいあいと料理を平らげるうちに、夜が更けていく。

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ブラウンスイス牛は、春になると農場内に放牧されることも。

翌朝、チーズ作りを見学させてもらった。工房の中は一般公開されてはいないけれど、清潔な牛舎を外から眺めて雰囲気を感じることも、できたてのチーズを買うこともできる。春になれば、ブラウンスイス牛が放牧されている様子を見ることもできる。

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〈クルックフィールズ〉の魅力の一つが、希少な国産の水牛モッツァレッラが食べられること。本場イタリアで修業を重ねたチーズ職人、竹島英俊さんが、自ら水牛を飼育している牛舎に隣接した工房で作っている。

ここでチーズを作っているのは、竹島英俊さんだ。竹島さんは、イタリアでチーズ作りと水牛の飼育方法を学び、九州で牧場を開業。言葉にできないほどの並々ならぬ苦労を経て、〈クルックフィールズ〉に合流した。そんな竹島さんが夜明け前に搾乳し、作ったチーズは、その日のうちに全国の店に並ぶ。この鮮度が、国産のなによりの強みだ。

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モッツァレッラ作りは1人ではできない作業で、熟練の職人とのチームワークが必要。

イタリア仕込みのモッツァレッラを作る場面は、ずっと見ていても飽きることがない。刻んだパスタ(乳を凝集したもの)に熱湯をかけ、竹島さんの熟練した技で練っていくと、みるみる艶が出てくる。それを湯の中でちぎり、あの見慣れたモッツァレッラの形に仕上げていく。

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高台に立つ建物は、場内の卵とブラウンスイスの牛乳を使った絶品シフォンケーキの工房。

「機械で作ることもできるけれど、水牛のモッツァレッラだけはやっぱり手で作りたい。味がまったく違うんですよ」と竹島さん。出来立てを試食した原川さんの顔がほころぶ。

「何度食べても、しみじみとおいしい。一般的なモッツァレッラチーズと弾力がまったく違うんです」

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シフォンケーキの切り落としを使用したラスク。

モッツァレッラを食べながら、牛を育てるところからという仕事の厳しさに思いを馳せる原川さん。

「自分が食べるものに込められた人の手や思いを感じられることが、ここを訪れる最大のメリットかもしれませんね」

KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)
千葉県木更津市矢那2503
☎0438-53-8776
営業時間:9:00~17:00
※施設全体の営業時間です。各店舗、施設毎に営業時間が異なります。
定休日:祝日以外の火・水
入場料:休日 大人(中学生以上)¥1000 子供(4歳~小学6年生)¥500 3歳以下 無料 ※平日、荒天時(飲食エリア以外クローズの場合)は入場無料。
https://kurkkufields.jp

【鑑賞可能なエリア・作品・施設】
FARM:エディブルガーデン/酪農放牧地
EAT:ダイニング/ベーカリー/シャルキュトリー/シフォン
ART:草間彌生「新たなる空間への道標」/カミーユ・アンロ/ファブリス・イベール
PLAY:クリエイティブパーク/カラビナカー
ENERGY:ソーラーファーム/バイオジオフィルター
NATURE:マザーポンド/野生の森/ビオトープ
※宿泊施設タイニーハウスヴィレッジは近日予約開始予定。
※オーガニックファームや酪農場、養鶏場は立ち入り不可。バックヤードツアーなど限定での案内となる。
※詳細はオフィシャルサイトを参照。

PROFILE

原川慎一郎 Shinichiro Harakawa
フランス〈La Madeleine〉、三軒茶屋〈uguisu〉などを経て、目黒に自身のレストラン〈BEARD〉をオープン。その後、ジェローム・ワーグ氏とともに、環境に配慮し、食材のオーガニック化をコンセプトにしたレストラン〈the Blind Donkey〉を東京・神田に出店。

●情報は、2020年5月現在のものです。
※本記事内の価格は、すべて税込み価格です。
Photo:Norio Kidera Text:Shiori Fujii Edit:Chizuru Atsuta

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