トランプは本当に逆転できるのか?

トランプは本当に逆転できるのか?

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  • 更新日:2020/10/16
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13日ペンシルベニア州ジョンズタウンで集会を行ったトランプ大統領。地方の小さな町にもかかわらず、多くの人が集った(AP/AFLO)

今回のテーマは、「トランプは本当に逆転できるのか?」です。投票日まで残り19日になり、ドナルド・トランプ米大統領は重大な局面に直面しています。不利な選挙状況の中で、果たしてトランプ大統領の逆転はあるのでしょうか。

本稿ではトランプ氏の誤算について述べたうえで、鍵を握る2つの激戦州フロリダとペンシルべニアに焦点を当てます。

トランプの「5つの誤算」

終盤戦を迎えたトランプ大統領には、少なくとも5つの誤算がありました。第1の誤算は、10月15日の大統領候補のテレビ討論会が中止になったことです。

テレビ討論会を主催する委員会がリモートによる討論会での開催を発表すると、トランプ大統領は即座に「時間の無駄だ」と述べて拒否しました。トランプ氏は駆け引きに出たのです。

おそらく「リモート討論会」欠席の意志表示をしておき、15日の直前に「陰性のカード」を切って、バイデン氏を討論会に引きづり出そうという狙いがあったのでしょう。この狙いは、委員会が先に中止を発表したので、見事に外れました。

そこで、トランプ陣営のビル・ステピエン選対本部長は10月29日に第3回目のテレビ討論会の開催を提案したのです。支持率でリードしているバイデン陣営はその提案を決して呑まないでしょう。

「カンター・オクトーバー・サプラウズ」の不発

第2の誤算は、ウィリアム・バー米司法長官が16年大統領選挙におけるオバマ前政権のトランプ陣営に対するスパイ活動に関する報告書を、11月3日の投票日の前に出さないと述べたことです。

新型コロナに感染して自分に不利なオクトーバー・サプライズを自ら作ってしまったトランプ大統領には、それに対抗するために、この報告書を自分に有利な「カウンター・オクトーバー・サプライズ」に変える思惑があったことは確かです。

前回の米大統領選挙でジェームズ・コミー前米連邦捜査局(FBI)長官は、投票日の11日前にヒラリー・クリントン元国務長官に関するメール問題の捜査再開を発表しました。その発表が、クリントン氏に不利なオクトーバー・サプライズとなり、どちらの候補に投票するのか決めかねていた13%の有権者の票を動かしたといわれています。もちろん、トランプ氏に有利に働いた訳です。

その結果、コミー氏は党派色の強い政治的意思決定を下したと、非難を浴びました。仮にバー長官が投票日直前にオバマ前政権のトランプ陣営へのスパイ活動に関する報告を出せば、トランプ氏に有利なオクトーバー・サプライズになる可能性が高まります。バー氏はコミー氏と同じ轍を踏みたくなかったのでしょう。

トランプ大統領はバイデン前副大統領を「犯罪者だ」と呼び、バー氏の決定を「恥となるもの」として激しく批判しました。トランプ氏の「カウンター・オクトーバー・サプライズ」が不発に終わったからです。

ペンスは「マンスプレイナー」

第3の誤算は、大統領選挙でバイデン氏と競っている郊外の女性票を減らしたことです。

10月7日に行われた副大統領候補のテレビ討論会で、共和党副大統領候補のマイク・ペンス副大統領は民主党副大統領候補のカマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)に対して、討論会のルールを犯し攻撃を加えました。支持率でバイデン陣営にリードされているからです。

ただ、その作戦は完全に裏目に出ました。ぺンス氏の態度が、女性有権者から「マンスプレイナー(mansplainer)」として見られてしまったからです。

マンスプレイナーは、「女性は自分よりも物事を知らない」「女性は自分よりも理解していない」という態度をとる男性を指します。「マンスプレイニング(mansplaining)」は、マン(man:男性)とエクスプレイン(explain:説明する)の造語です。

ペンス氏は女性に対して傲慢な態度をとる白人男性として、女性有権者に映ったのです。実際、テレビ討論会直後に行われた米CNNの世論調査では、69%の女性有権者がハリス上院議員、30%がペンス副大統領を勝者に挙げました。ハリス氏が約40ポイントもリードしました。

米ABCニュースとワシントン・ポスト紙による共同世論調査(20年10月6~9日実施)では、男性の支持率はトランプ・バイデン両氏ともに48%です。ところが女性をみると、59%がバイデン氏、36%がトランプ氏を支持すると回答しました。バイデン氏がトランプ氏を23ポイントも上回っています。

18年米中間選挙で民主党下院は郊外の女性票を獲得し、多数派に返り咲きました。仮に激戦州で郊外の女性票を逃がすと、トランプ氏はかなり苦戦を強いられるでしょう。

選対本部長と共和党委員長のコロナ感染

第4に、ステピエン選対本部長とロナ・マクダニエル共和党全国委員会委員長が新型コロナウイルスに感染したことです。

16年米大統領選挙でトランプ氏の娘婿ジャエッド・クシュナー氏はステピエン氏を雇いました。ステピエン氏はデータに基づいた戸別訪問を柱とする地上戦を得意としています。

一方、マクダニエル委員長は前回の大統領選挙でトランプ氏のクリントン元国務長官に対するノックアウトパンチとなった中西部ミシガン州での勝利の立役者です。ミット・ロムニー上院議員(共和党・西部ユタ州)の姪であるマクダニエル氏は、トランプ陣営のミシガン州の責任者でした。その後、マクダニエル氏はその功績が評価され昇格し、共和党全国委員会委員長の座を仕留めました。

ステピエン・マクダニエル両氏の新型コロナウイルス感染はトランプ陣営にとってマイナス要因であったことは間違いありません。選挙戦略に優れた2人のコロナ感染で、トランプ陣営は実働部隊が以前ほど機能していなかった可能性があります。マクダニエル氏は回復し、10月15日に南部ノースカロライナ州で開催されたトランプ集会に参加しました。

テレビ討論会アドバイザーのコロナ感染

第5に、トランプ氏のテレビ討論会のアドバイザーであるケーリアン・コンウェイ前大統領上級顧問と、クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事が新型コロナウイルスに感染したことです。クリスティ氏は退院しました。

クリスティ・コンウェイ両氏は1回目の討論会後、トランプ氏にスタイルを変えるように助言しました。バイデン氏が意見を述べている際中に「割り込み」をせずに、語らせる時間を充分与えれば、同氏はつまったり、混乱するというのです。そうなれば、バイデン氏の認知機能の衰えを有権者に見せつけることができるという大きなメリットが生じるからです。

ただ、傾聴はトランプ氏のスタイルではありません。従って、スタイルの変更は困難でしょう。

「社会主義者―サンダーズ―バイデン」

新型コロナウイルスから復活宣言をしたトランプ大統領は早速、激戦州フロリダ州を訪問し、支持者を集めた大規模集会を開催しました。同州の選挙人は「29」です。トランプ氏は激戦州における「ツボ」を正確に抑えており、各州に合わせたメッセージを発信します。

例えば、フロリダ州の集会では「バイデンはカストロ(元議長)の大ファンだ」と語気を強めました。その意図は、同州の「反カストロ」及び「反社会主義」のキューバ系米国人の票の獲得です。

バイデン氏と民主党予備選を戦ったバーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)は、カストロ元議長を称賛したので、フロリダ州のキューバ系コミュニティの間では社会主義者とみられており不人気です。バイデン氏は前回の米大統領選挙でクリントン元国務長官が獲得できなかったサンダース氏を支持する左派の票を狙っています。

トランプ氏はそこに目をつけました。社会主義者、サンダース氏及びバイデン氏を結びつけて、「バイデンは(社会主義者の)サンダースの操り人形だ」と訴え、「バイデンは社会主義者だ」と言い切りました。

さらに、フロリダ州での集会でトランプ大統領は「私は常にプエルトリコの見方だ」と語気を強め、プエルトリコ自治連邦区の知事から支持を得たと強調しました。プエルトリコ系米国人の票を狙っているバイデン陣営に対して、切り崩しを図ったのです。

バイデンのお膝元―ペンシルべニア州

トランプ大統領は13日にペンシルべニア州を訪問し、大規模集会を開催しました。激戦州ペンシルべニア州の選挙人は「20」です。同州では、石油、天然ガス及び石炭の採掘産業と環境活動家の対立が争点です。トランプ大統領は雇用の確保を重視して、全面的に採掘に賛成しています。

一方、バイデン前副大統領は連邦政府が管理する土地に限り、採掘を禁止しています。つまり、実際は部分的反対なのですが、トランプ氏は「バイデンは採掘に反対だ」と、全面的反対のようにみせかけて繰り返し批判しています。そこで、バイデン氏は1回目の大統領候補によるテレビ討論会において、「私は採掘禁止に賛成ではない」と明言しました。

周知の通り、ペンシルべニア州はバイデン前副大統領のお膝元です。労働者の街「スクラントン」で生まれたバイデン氏は「スクラントン対パークアベニュー」という対立構図を作って選挙を戦っています。自分は労働者の見方であり、トランプ大統領はニューヨークのパークアベニューに住む超富裕層を代表していると訴えました。

これに対してトランプ氏はペンシルべニア州で、「バイデンはペンシルべニアを見捨てた」と反論しました。バイデン一族は東部デラウエア州に移ったからです。この件に関してバイデン氏は、「父親が失業し、デラウエア州で職を見つけたからだ」と説明しました。

10月22日に行われる2回目の大統領候補によるテレビ討論会では、トランプ・バイデン両候補はペンシルべニア州を巡って討論を交わす場面が出てくるかもしれません。

トランプの「狭い選択肢」

トランプ大統領が逆転勝利を収めるには、フロリダ・ペンシルべニア両州でバイデン氏を破る必要があります。

その場合、共和党の牙城である西部アリゾナ州、南部テキサス州及びジョージア州での勝利が大前提になっています。終盤戦においてトランプ氏は選挙スタッフ、資金及び時間といった資源を、共和党の牙城に費やさなければなりません。同氏にとってそこが痛手です。

一方、バイデン氏はたとえ大票田のフロリダ州を落としても、ペンシルべニア州、中西部ミシガン州(選挙人16、以下同)、ウイスコンシン州(10)の3州を抑えれば、勝利する公算が高まります。激戦6州で3勝(ペンシルべニア、ミシガン、ウイスコンシン)3敗(ノースカロライナ、フロリダ、アリゾナ)でも、勝利の可能性がバイデン氏にはあります。

というのは、クリントン氏が前回獲得した選挙人「232」に46(ペンシルべニア、ミシガン、ウイスコンシン州の選挙人の合計)を加えれば、278になり、勝利に必要な270を超えるからです。さらに、上の3州以外に中西部オハイオ州(18)をトランプ氏から奪還すれば、選挙人を296まで伸ばせます。バイデン氏はフロリダ州を落とした場合の戦略を持っています。

バイデン前副大統領はフロリダ州獲得に乗り出しながら、中西部を固める戦略をとることは確かです。バイデン氏によって縄張りを荒されるというトランプ氏の以前からの懸念が、いよいよ現実になってきました。

要するに、選挙人獲得においてトランプ大統領の勝利への選択肢は狭く、逆にバイデン氏は広いといえます。

海野素央

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