「なぜ人々はゾンビにひかれるのか」 近大准教授が語る学びの極意

「なぜ人々はゾンビにひかれるのか」 近大准教授が語る学びの極意

  • 毎日新聞
  • 更新日:2022/09/23
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近畿大の岡本健准教授=本人提供

近畿大総合社会学部の岡本健准教授(39)は、国内の大学で「ゾンビ学」を研究している異色の教員だ。「動く死体」として映画や小説など数々の作品に登場するゾンビを学ぶ講義は、近大でも屈指の人気だという。今年は自身が監修した参考書「ゾンビ英単語」も出版。どうもゾンビは学びと相性のいい存在らしい。【聞き手・遠藤大志】

【閲覧注意】ゾンビのメイクでラーメンを食べる岡本准教授

「ゾンビ学」って何ですか?

――ゾンビ学とはどんな学問ですか?

◆ゾンビは映画や小説、アニメなど多くのメディアに登場します。コンピューターゲームもそうです。映画にもなっておなじみの「バイオハザード」や、世界で多くの子どもたちがプレーしている「マインクラフト」にもゾンビは敵として出てきますね。

テーマパークやハロウィーンのイベントなどに行っても、コスプレをしたゾンビがよく現れます。そんな人々の想像の産物であるゾンビ像がどのように作り上げられ、変化してきたのか。そして、どのように受容されてきたのかを総合的に研究する学問です。

「豊かな文化を形作っている」

――ゾンビの面白さ・魅力とは?

◆概念が定まっておらず、自由さや柔軟さがあるところでしょうか。例えば、一般にイメージされる人食いパニックもののゾンビ映画は、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)から始まります。民家に逃げ込んだ人たちをゾンビが追い詰めていくストーリーです。

ただ、後年になると、ゆっくりとした動きが特徴だったゾンビが、走って襲ってくるようになったり、人間がウイルス感染によってゾンビ化したりする設定の作品も現れます。

さらに最近はゾンビにも人間だった頃の意識や心が残り、ゾンビの状態から回復していくという設定の映画が出てきました。これは社会に根強く残る疾病などへの差別について、批判的に描いているとも考えられます。こうしてさまざまな作品を分析すると、ゾンビ像は時代や社会を反映しながら、非常に豊かな文化を形作っていることに気づきます。

英会話や受験にも生きる?

――自身が監修し、日常会話や高校入試に求められる約2000語が収められた「ゾンビ英単語」が出版されました。

◆ゾンビ映画に出てくるようなシーンやせりふなどから中学生レベルの英単語を学べる内容です。出版社と近大の産学連携事業の一環として、例文の作成など編集作業には近大の学生も関わりました。実際に映画を鑑賞して、例文として活用できそうなシチュエーションをいくつも考えました。

ストーリーを通じて生きた英単語を学ぶことがコンセプトの一つです。登場人物たちは押し寄せる大量のゾンビに対してショッピングモールに立てこもったり、街から脱出しようとしたりして、生きることに必死なのです。サバイバルという極限状況では、「We have no time to feel sad(悲しんでいる時間はない)」といった、とっさの一言でもストーリー展開で重要な意味を持ちます。生き残るためのリアルな英文が学べるということが魅力かもしれません。

年に200人以上が「ゾンビ学」受講

――もともとゾンビ作品が好きだったのですか?

◆大学時代、香港武俠(ぶきょう)(カンフー)映画について学ぶ中国文化論の講義に出たことがきっかけです。最終リポート用のビデオ資料を借りるために訪れたレンタルビデオ店で、大量のB級ゾンビ映画があることに気づきました。「なぜ、人々はゾンビにひかれるのか」。そこが気になり、作品を見ていくうちに自分もハマっていきました。

――ゾンビ学は近大でも人気の講義だと聞きました。

◆総合社会学部の「現代文化論」という科目で毎年、200人以上の学生がゾンビ学を受講しています。ただ、ゾンビ作品に詳しくなることではなく、研究の仕方を学んでもらうことが目的です。ゾンビのような趣味的なテーマでも、学問的な作法を守れば何でも分析できるということを伝えたいのです。文献の調べ方や論文の書き方もみっちり学ぶので、学生にとっても負担は大きいと思います。

最終課題は、興味のある分野で自由にリポートを書いてもらいます。「なぜ、いじめがなくならないのか」といった真面目なテーマから、「アニメの実写化はなぜ炎上するのか」「なぜゴキブリは嫌われるのか」などとややユニークなものまで、テーマはさまざまです。2万~3万字ある卒業論文レベルのリポートを提出する学生もいます。

探究は趣味の世界でも構わない

――ゾンビから多くを学べるのですね。

◆自分の中に知識の体系をつくるには、何か核となるものが重要です。その核を中心にして、どんどん関連する知識がついていくからです。時代や社会、文脈に応じて柔軟に有りようを変えていくゾンビ文化を学ぶことは、こうした学びの一助になると思います。一見すると、狭い趣味の世界でも、本気で研究すれば、社会のあらゆる事象に通じる豊かな広がりをもっていることに気づきます。

最近はすぐに役に立つ実務的な学問がもてはやされます。けれども、趣味でも構わないから自分の興味のある分野を学生のうちにとことん探究することは、リサーチ力や思考力を鍛えるいいチャンスになると思います。自分が好きなものであれば、どの分野であれ自分の知識を広げてくれるテーマとなります。ゾンビ学はそんなことも教えてくれるのです。

おかもと・たけし

奈良県生まれ。北海道大大学院国際広報メディア・観光学院博士課程修了。専門は観光学。マンガやゲームなどサブカルチャーを通じた観光・地域振興に詳しい。京都文教大学講師などを経て、2019年から現職。著書に「巡礼ビジネス」(KADOKAWA)、「大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~」(扶桑社)など。

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