優秀な若者30人を無償で教育、世界最難関大に全員合格!"奇跡の私塾"の誕生秘話

優秀な若者30人を無償で教育、世界最難関大に全員合格!"奇跡の私塾"の誕生秘話

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/09/23
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世界一、入試倍率が高い理系大学はどこかご存じだろうか。それはインド工科大学(IIT)だと考えられている。IITは理系国立大学の総称で、インドの主要都市に23校存在する。合格率は約1%で、不合格者はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学するとまで言われている。
卒業生には、グーグルの現CEOスンダル・ピチャイ、インフォシス設立者ナーラーヤナ・ムールティやソフトバンクの元副社長ニケーシュ・アローラーなど、世界のITトップ企業で活躍する人材が多くいる。

その世界一難関のIITに驚異の合格率を誇る私塾がインドの片田舎にある。しかも学費、寮や食事や教材等も全て無償で提供しているというのだ。
私塾の名は「スーパー30」。創始者であるアーナンド・クマール氏は貧困家庭に育ち、ケンブリッジ大学に合格したものの、旅費が足りずに留学できなかった天才数学者だ。そんな彼の波乱万丈の半生を映画化したボリウッドムービー『スーパー30 アーナンド先生の教室』が9月23日(金)に公開される。

今回、アーナンド氏にインタビューができたので、タイム誌に「アジアで最も優れた学習塾」と称された「スーパー30」やインド人の世界的な活躍の理由について聞いた。

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主演のリティク・ローシャン(左)と「スーパー30」創始者のアーナンド・クマール先生

『スーパー30 アーナンド先生の教室』あらすじ
貧しい家庭の生まれながら天才的な数学の才能を持つ学生、アーナンド(リティク・ローシャン)。ある日、誰も解けなかった数学の難問の解法をケンブリッジ大学に送ったところ、大学の学術誌に掲載され、留学生として招聘されることに。しかし、貧しい家計から旅費が出せず、当てにしていた援助もすげなく断られ、いつも彼を励ましてくれていた父親も心臓発作で亡くなってしまう。留学を断念した失意のアーナンドは、町の物売りにまで身をやつすが、IIT進学のための予備校を経営するラッラン(アーディティヤ・シュリーワースタウ)に見いだされ、たちまち学校一の人気講師になり、豊かな暮らしを手に入れたが……。

仕事も縁談も投げうつほどの思い

――アーナンド先生は予備校の人気講師として豊かな生活を送り、恋人との縁談も進んでいたのに、すべてを投げうって無料の私塾「スーパー30」の設立に奔走された様子が映画の中で描かれています。ケンブリッジ大学を金銭的な理由で諦めた経験があるとはいえ、なぜそこまでの情熱が持てたのでしょうか。

アーナンド先生:インドには貧しい人がたくさんいて、父も私も貧しくて勉強する機会をまともに得られませんでした。裕福な家庭の子どもたちが通う予備校の講師をするなかで、貧しい人たちの教育のために一生を捧げたいという思いが一層強まりました。設立できるか確証はなかったけど、「Yes, we can(私たちならできる)」を信じていたんです。

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『スーパー30 アーナンド先生の教室』より

――ちなみに、アーナンド先生と恋人の悲恋は脚色なのですか?

アーナンド先生:ラブストーリーの部分については詳しく言えませんが、いまではお互いにそれぞれ家庭をもっています。この映画の90%は本当に起きたことです。父が心臓発作で亡くなったことも本当ですし、私を演じたリティク・ローシャンが自分の影のような存在に感じられたぐらい。私だけではなく、一緒に見ていた家族全員が何度も涙を流しました。映画を楽しむだけでなく、当時の感情を感じていましたね。

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『スーパー30 アーナンド先生の教室』より

公立学校の教育レベルの底上げが重要

――映画で見るとインドには日本のように予備校や塾が乱立し、教育がビジネス化されているように見えます。

アーナンド先生:公立学校の授業と受験のレベルに非常に大きな格差があります。誰かがその格差を埋めなければならない。お金持ちの子どもたちは予備校や塾に行ったり、海外に留学したりするでしょうが、貧しい人たちは取り残されてしまう。予備校や塾を禁止することはできません。根本的な解決は、公立学校の教育レベルを上げることなんです。

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『スーパー30 アーナンド先生の教室』より

――「スーパー30」の「30」は30人というクラスの人数からきているわけですが、なぜ30人なのでしょうか?

アーナンド先生:私たちは結束の固い家族のようなもの。だからそんなに大きくはできません。母が生徒のために料理を作り、兄がプログラムを運営し、妻も大いに手伝ってくれて、ひとつの目標に向かう献身的なチームとなっています。十分な準備をせずにプログラムを大きくしたり、支部をたくさん作ったりするとコンセプトが希薄になるので、今のところ大きくするつもりはありません。ただ、オンラインでの授業は計画していて、近いうちに実現しそうです。

――30人はどうやって選抜されるのですか?

アーナンド先生:全国から集った志願者にまず、筆記試験を受けてもらいます。それから、私の弟が合格者の経済状況を調べて、本当に貧しいかどうか確認して30人を選抜します。

――「スーパー30」を運営するうえで、政府、企業や個人から寄附を一切受け取っていないそうですね。それはなぜでしょう?

アーナンド先生:その必要性を感じないからです。1992年に私が始めたラーマーヌジャン数学学院や私の講演活動から得た収益で「スーパー30」を運営することができますし、多くの人がボランティアで協力してくれます。5,000万円ほど寄付してくださるという日本人の方もいらっしゃいましたが、そのときは必要なかったのでお断りしました。ただ、将来的には寄付を受け取ることになるかもしれません。

“知識を得るため”に勉強すれば、結果はついてくる

――日本ではいま、どんな親のもとに生まれるかで人生が決まってしまう、という意味の「親ガチャ」というネットスラングに注目が集まっています。カースト制が未だ残るインドではより切実な問題だと思いますが、「親ガチャ」についてどう思われますか?

アーナンド先生:親や環境に恵まれなくても、努力に勝るものはないと思います。日本人の方々は戦後、あれほどの打撃を受けたのに勤勉に働き、経済発展しました。子どもたちは前向きに一生懸命、根気よく努力することが大切。決して“受験の結果のため”だけに勉強してはいけない。“知識を得るため”に勉強すれば、結果は後からついてくるものです。

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『スーパー30 アーナンド先生の教室』より

――たしかに劇中、「雷はなぜ鳴る?」「扇風機はどうやって回る?」など日常に疑問をもち、「なぜ? どうやって?」を紐解くような学習法をアーナンド先生は生徒に教えていました。一方で、インドの学校は“テスト重視”だと聞いています。

アーナンド先生:そう言えるでしょうね。でもインドの現状は変わりつつあります。グローバル化のおかげで、スキルベースの学習に対するニーズは確実に高まっています。テストで優秀な成績を収めるだけでは何の役にも立たないことに、人々は気づきはじめているんですよ。とはいえ、テストはいまだに非常に重要です。特に入試は、成功するキャリアへの入り口になりますからね。

――「スーパー30」は、30人の中から競争率100倍以上と言われるインド工科大学に毎年20名ほどの合格者を出し、30人全員が合格した年が、設立の2003年以来4回もありました。「スーパー30」の経験から、親や家庭環境に恵まれなくても教育で人は変われると思いますか?

アーナンド先生:はい、思います。「スーパー30」は資金や環境に恵まれていないですが、私は生徒に4つの大切な精神を教えています。ポジティブ思考、継続的な努力、大きな忍耐力、そして自分の力に対する絶大な信頼です。これら4つは、すべて相互に関連しています。1つや2つでは十分ではありません。また、先ほどあなたが言ったように、私は生徒たちに「How and Why」で思考するように指導しています。問題を解決するには複数の方法がある。ひとつの方法だけを教えてはいけないと思います。

インド人の世界的活躍を支えるもの

――「アメリカとイギリスはコンピューターをつくり、中国と日本は発明品をつくった。でも、彼らの真似はしない。コンピューターも発明品も作らないけれど、インドは優秀な人材をつくった」という映画のセリフが印象的です。いま、グーグルをはじめ世界的な企業のトップにインド人が多い理由は何でしょう?

アーナンド先生:私たちの住むビハール州を含め、産業、貿易、仕事がない州がインドにはあります。こういった土地では教育が“作物”であり、泥沼から抜け出せるのは教育だけなんです。そういう意識が広がり、子どもに教育をすればチャンスがあると多くの人々が気づきました。以前は、運転手は主人に仕え、自分の子どもたちも同じ仕事に就いていた。でも、今は違う。自分名義の最後の土地を売ろうがどうしようが、子どもを“重要人物”にするために働くんです。

昔は、有権者は子供のための仕事を政治家に懇願していましたが、今、有権者は政治家によりよい学校と教育施設を求めるようになりました。教育が唯一の道――この意識がインド人の活躍につながっているのではないでしょうか。

第二言語の英語を話せるインド人は1割ほど

――「英語はお金より大事」「英語は大きな壁」というセリフが冒頭にあったり、生徒たちの英語に対するコンプレックスが描かれていました。いまや世界的に活躍しているように見えるインド人にとっても、英語は大きな壁なのでしょうか?

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『スーパー30 アーナンド先生の教室』より

アーナンド先生:インドは多種多様な民族がおり、多言語社会です。一番の公用語がヒンディー語で二番が英語と考えられていますが、第一公用語のヒンディー語でも人口の半数程度、英語にいたっては人口の1割程度しか話せる人がいない。だから、英語は大きな壁です。英語が話せないインド人は見下されるときもあります。大都市のミドルクラスでも英語を話せる人は少ないと言ってもよいでしょう。過去20年で英語を勉強し、話せる子どもたちは非常に増えてきました。

――映画ではインド訛りの英語を話す子どもとネイティブのような英語を話す子どもたちの分断も描かれていました。英語に訛りがあると、成功したとしても差別をされるのでしょうか?

アーナンド先生:そんなことはないと思います。差別をする人はいつもいますが、ほとんどの人は、そういった出自による違いを乗り越えられると思っています。

――この映画を観た人からはどんな反応がありましたか?

アーナンド先生:この映画を観たというたくさんの親御さんたちからメールをいただきました。それまで、インドの親は子どもによい教師を求めていても、将来、子どもが教師になることは望まず、エンジニアや医師になることを望んでいたんです。しかし、この映画を観た多くの保護者から子どもが教師になることを望んでいると聞き、大きな変化を感じています。

スーパー30 アーナンド先生の教室』は9月23日(金)より全国順次公開
(C)Reliance Entertainment (C)HRX Films (C)Nadiadwala Grandson Entertainment (C)Phantom Films.

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