アニメ『アグレッシブ烈子』が全世界から「共感」され続ける理由

アニメ『アグレッシブ烈子』が全世界から「共感」され続ける理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/17
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いま、海外からも人気を集めているNetflixオリジナルアニメシリーズ『アグレッシブ烈子』(英題:Aggretsuko)をご存知だろうか。

丸の内にある商社の経理部で働く25歳独身のレッサーパンダ・烈子が、上司や同僚からの理不尽な仕打ちを受けて怒りを溜め、カラオケの個室でデスメタルを歌いストレスを発散するという姿が描かれるアニメだ。

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もともとはサンリオのキャラクターなのだが、2016年にテレビアニメ化されて一気に話題に。『王様のブランチ』(TBSテレビ系)内で放送されていたことを覚えている人もいるだろう。

今シーズンで3作目となる『アグレッシブ烈子』。Netflixでのオリジナルシリーズ配信直後からまたたく間に注目を集め、NYTimes、BBC、CNNで取り上げられるなど大きな反響を呼んでいる。

海外ファンによる「#Aggretsuko」のハッシュタグを見ると「Rage against the Sh***y Boss.(くそ上司ぶっ潰せ)」「let’s Rage(怒れ)」「私も上司に怒鳴りたい」という声が聞かれるほか、ファンアートやアグレッシブ烈子のコスプレをした写真が連なりその熱狂ぶりが伺える。

さらに2018年の「サンリオキャラクター大賞」ではイギリス部門とブラジル部門で1位を獲得した。

なぜ烈子というキャラクターは共感を生むのか、国内のみならず海外からこれほどまでに注目が集まるのか? 脚本、監督を手がけるラレコ監督に話を聞いた。

「クソ上司!」という叫びは世界共通

ーーまずはじめ、2018年に配信されたシーズン1の時のお話をお伺いします。Netflixで全10話を制作すると決まった時に、何を描こうと思いましたか。

『王様のブランチ』で放送されていた1分番組だと、デスメタルネタでオチればいいので、登場するキャラはある意味で記号的なキャラクターでよかった。ただ、Netflixで1話15分という尺が与えられたとき、もうすこし生きた人間としてリアリティーを持たせたいと思い、ストーリーを厚く、きちんとドラマを描こうとしました。

ーー「#Aggretsuko」に見られる海外での烈子人気について、どういう点がウケていると思いますか。

まず、「人種」の壁を乗り越えているというのが大きいと思います。登場人物が日本人だと敷居高く感じる海外の方でも、動物キャラだとすんなり観られる。あとはデスメタル好きという設定もウケた。

でも正直、海外からの高評価は予想していませんでした。だって、お茶汲みをやらされるOLがストレスを溜めて上司への不満を様々な形で吐き出すなんて、30年前のドラマのステレオタイプじゃないですか。海外はおろか日本でも「こんな世界観もう古いよ」って言われると思っていたんです。

ところが、そのステレオタイプを描いたら、海外から寄せられる感想やSNSでは「共感」という言葉がたくさん使われていた。「共感できる」「これは私だ」と、世界中の視聴者が言っていて驚いたんです。

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ーー上司への不満やストレスは世界共通だったと。制作の際、海外の視聴者は意識していたのですか。

制作当初は全世界で配信されることを念頭にいれて、「シットコム」いわゆる海外ドラマ『フレンズ』『フルハウス』のような1話完結型のコメディを考えて制作を始めたのですが、途中で方向転換しました。

感情表現も厚く、まるで昭和のメロドラマみたいな描写も出てきてしまい、当初想定していた1話でオチがつくようなライトさはなくなりました。

日常を生きている人を「肯定」したかった

ーーシーズン1では経理部の上司であるトン部長との軋轢が描かれていました。トン部長からの「腰掛け」発言やお酌へのダメ出しに対してキレる烈子を見て、BBCやCNNの記事では「セクハラ問題、女性問題に切り込んだ」とも評されていますが、監督にはそういった狙いはありましたか?

確かにシーズン1が配信された2018年は#Metoo運動の盛り上がりもありましたが、描きたかったのは冷静な『告発』ではなく、主観的な『叫び』の部分だったので、そこに対して迫るとどうしても借り物みたいになってしまい、女性に対しても失礼ではと思って避けました。

でも「上司との衝突」はこの世界に生まれたら必然としてある問題ですよね。なので、男性でも同じように共感できるように、セクハラや女性問題ではなく“上司との人間関係”という視点で描きました。

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ーー 一方で、今回のシーズン3で烈子は、借金返済のために会社員のかたわら地下アイドルという特殊な仕事を始めました。「副業」というテーマのなかで、副業先が地下アイドルだったのはなぜでしょうか。

これまで烈子は、理不尽に対するフラストレーション発散の手段としてデスメタルを歌っていたのですが、一度完全な自己表現として歌う、ということをやらせてあげたかったからです。発散の手段が“手段”を超えてもいいんじゃないかと思って。だから歌えればアイドルでもバンドでも良かったのですが、アイドルにしようとなりました。

ーー3シーズン通して、烈子は毎回、転職や結婚などの転機を迎えるも、結局は元の会社でのOL生活に戻る…を繰り返していますよね。

それは夢に生きないことを決めた人たちの、選択を肯定したかったからです。たとえプロ並みの才能があっても本業にはできずにサラリーマン・OLをしている人って多いと思うんです。

僕はそういう人たちの生き方を否定したくない。だからどうしても、夢を掴んでハッピーエンドみたいな典型的なストーリーにはしたくなかったんです。夢に生きなくても日常は続いていく訳ですから。

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パワハラも婚活も副業もすべて「妄想ネタ」

ーー毎シーズン、攻めた旬のネタを多く取り入れていますよね。これまでパワハラ、婚活、副業、地下アイドル、マッチングアプリ、YouTuberなど世相に合わせたネタが登場しましたが、「このネタだけは手を出さない」や「こういう展開にはしない」と決めていることはありますか?

「烈子」では3シーズン通して恋愛模様も描いていますが、実はキスシーンは出していません。サンリオさんからダメと言われているわけではないのですが避けています。

キスシーンってなにか答えになってしまう怖さがあるんですよね。映画でもドラマでもキスシーンが入ると、「この二人はうまくいった」という記号になってしまう。もっとやきもきしたり、想像を膨らませて欲しいと思っているので(笑)。

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ーーキスシーンもない一方で、作中では実際にはモデルがいるのではないか?とも思えるようなリアリティあるセリフの連続ですよね。下調べや取材を徹底されているのでしょうか。

リサーチや取材は最低限しかしていないです。僕はサラリーマン経験も、もちろんアイドル経験もないです(笑)。ただ、脚本を書くときに気をつけているのは「ストーリーの都合でキャラクターの行動を捻じ曲げない」ということ。キャラクターをストーリーの駒と考えず、キャラの立場にたってセリフを書いているので、そこをリアルと感じてもらえるのかもしれません。

ーーシーズン3で登場する、地下アイドル「OTMGirls」たちの楽屋裏の会話や地下アイドルオタクの発言もですか?

すべて妄想ですよ(笑)

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烈子は「主人公」だから好かれている訳じゃない

ーー作中ではよく「真面目だけが取り柄の烈子」と言われていますが、なぜそのような性格になったのでしょうか?

誰の中にでもある弱い部分を反映させたのが烈子なんです。真面目で従順で言いたいことも言えないキャラは、日本人のステレオタイプですよね。それが、場合によっては自己嫌悪を引き出してしまい、烈子を嫌いだと思う人もいるかもしれません。

烈子って「怒り続けなきゃいけない」キャラなんです。よく「そんなこと言われたってできないよ!」って怒るじゃないですか。あれは義憤ではなくて、従順すぎて理不尽な相手に対して言い返すことができないという、自分で処理できないことに対してパニックになって怒っているんですね。

自分のキャパで対応できるものだったら人は怒らないですから。そういう誰でもある部分を追求していったら、烈子は理不尽さに対して「何もできない子」になったのかと思います。

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ーーでは、烈子のキャラ造形するにあたって気をつけたことはありますか?

ほかのキャラクターから好かれていることですかね。烈子は、受け身だし自分で選択しないし、文句ばっかり言う人物なので主人公としては嫌われるかもしれない。

ただ、同僚のハイ田がこれだけ烈子に恋をしていて、同期のフェネ子もマーケティング部のゴリも社長秘書の鷲美さんも烈子を好きだし、烈子の俗っぽさや弱さも含めて周りに好かれているということはしっかり描きました。

なんでこんなに周囲から手を差し伸べて貰えるんだろうと思うかもしれませんが、実際、現実の人間関係もそんなものじゃありませんか? 取り柄や美点がある人ばかりじゃないけど支え合って成り立っている。

ーーお話を伺っていて、監督は人間の弱い心やずるい気持ちさえも肯定しようという作家性があるのかなと感じました。

とりあえず現状を肯定したがるという性分ではあると思います。もしテーマが「戦争」「ヤクザ」のような、世間的に「悪」とされていたり、ない方が良いものを扱うことになったとしても、想像力を働かせてそこにいる人・関わった人のことを肯定したいと描きたいと思っています。

取材・構成/原田加菜

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Netflixオリジナルアニメシリーズ『アグレッシブ烈子』は全世界独占配信中

ラレコ/アニメーター、アニメ監督、脚本家。1971年生まれ。茨城県出身。代表作に『やわらか戦車』(Livedoor)『ちーすい丸』(日本テレビ)『英国一家、日本を食べる』(NHK)、『兄に付ける薬はない!』(TOKYO MX)など。2006年に大ヒットし多くのグッズ化もされた『やわらか戦車』では文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」のエンターテイメント部門1位を獲得した。

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