「社員のボランティア活動」と株価の意外な関係

「社員のボランティア活動」と株価の意外な関係

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/11/25
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ボランティアと企業の株価の関係とは?(写真:polkadot/ PIXTA)

上場企業を中心にボランティア休暇の導入が進むなど、働きながらボランティア活動をするための環境が徐々に整いつつあります。今回は社員のボランティア活動への参加が増えた企業と減った企業の間で、株式パフォーマンスにどのくらいの違いがあるのか、調べてみました。

行きすぎた足元の利益追求で企業の持続可能性は下がる

近年、ちまたではサスティナブルという言葉を聞く機会も増えましたが、企業経営でもサスティナブル経営(サスティナビリティ経営)が求められるようになってきました。サスティナブル経営と聞いて、ピンとくる方もそれほど多くないかもしれません。サスティナブルは日本語で“持続可能な”という意味です。持続可能とは “遠い将来に向けて続けていく”ということ。ですからサスティナブル経営とは「自社の企業活動を、遠い将来に向けて続けていくための経営」になります。

それだけ聞くと“企業を経営するうえで当たり前じゃないか”と思うかもしれません。しかし意外にも実践することは難しいようです。経営者は遠い将来より、足元の会社の利益の動きに意識が向かいがちだからです。

数年前になりますが、自動車メーカー数社で完成車検査の不正が発覚したことを覚えている方もいるかもしれません。これこそ行きすぎた足元の利益追求のために起こった典型事例です。

製造を終えたクルマは国が定める安全基準の検査に合格しないと完成車になりません。ある自動車メーカーでは、一定の知識や技能を持つ有資格者が行わないといけない検査を、無資格者に行わせていました。クルマの安全性を重視するなら検査は厳格に行われる必要があります。しかし、人手不足への対応や従業員教育が十分に行われなかったことなどから、企業のコンプライアンス(法令遵守)に対する判断が甘くなってしまいました。

少ない人手や従業員への研修を削るなどコストを抑えれば、そのときの利益は増えます。しかし不正の発覚で信用が失われてしまえば、企業の持続可能性(サスティナビリティ)は大きく下がってしまいます。

サスティナブル経営については、さらに発展した解釈が一般的となっています。先に触れましたが「自社の企業活動を、遠い将来に向けて続けていくための経営」がサスティナブル経営です。そのためには、平たく言えば「世の中のために悪い影響を与えることを減らして、良いことを行っていく」必要があるのです。少々、大ゲサにも聞こえるかもしれません。しかし、企業がサスティナブルに発展するには重要なことなのです。

先ほどの自動車メーカーを例に挙げて見ましょう。給料を増やして人手を確保したり、従業員研修などにも力をいれれば、企業にとっては目先の費用は増えますが、完成者検査不正を防げたとも考えられます。それだけでなく雇われた人の給料が増えれば、モノを買う余裕が生まれて、クルマを買う人も増えるでしょう。また、クルマの安全性を重視すれば事故を減らしていけるかもしれませんし、そうなればクルマの利用も増えるでしょう。

それだけではありません。“悪い影響を与えることを減らす”という観点では、排ガスの少ないクルマを作ることが上げられます。こうしたクルマが増えれば、環境への負荷が減り自然災害の頻発を抑える方向に向かうかもしれません。それが人々の幸福な生活にもつながり、クルマを買う人も増えていくでしょう。ちょっと壮大な話にも聞こえますが、サスティナブル経営は、遠い将来を見据えた企業へのメリットを目指していくものです。

社員のボランティア活動と株式パフォーマンスの関係

さて、サスティナブル経営の説明が長くなりました。社員が行うボランティア活動が重要と見られるようになったのは、サスティナブル経営への注目の高まりと大いに関係します。

サスティナブル経営では“世の中のために良いことを行う”ことが重要ですので、その1つが社員のボランティア活動です。企業が行う営業活動の範囲に限り、世の中の役に立つというだけでなく、ボランティアを通じれば社員の関心があるさまざまな分野で貢献することができるのです。これは企業のイメージアップの面でもサスティナブル経営の実践になります。

最近はボランティア休暇制度を持つ企業も増えてきました。有給休暇として扱われるボランティア休暇は、企業が休暇に相当する分の給料を負担しているわけです。サスティナブル経営を行ううえで、こうした配慮まで持てる企業は、経営の余裕もあり、それを評価して株式パフォーマンスも良好となるかもしれません。

そこで下図で、ボランティア休暇制度が“ある企業”と“ない企業”の株式パフォーマンスを比較してみました。分析は2010年度からで株式パフォーマンスは3年間で計測しています。サスティナブル経営の対象となる項目ですから短期というより、長期的な企業活動に影響が強いと考えたため、3年間と少し長い期間での株式パフォーマンスとの関係を調べました。

ボランティア休暇制度があったとしても…

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図の中で2019年は6.0%となっています。これは2019年度(2020年3月までの1年間)にボランティア休暇制度がある企業のほうが、ない企業と比べて2021年度までの3年後(2022年3月まで)で株式投資収益率が平均して6.0%上回ったということを示します。

確かに2019年度はボランティア休暇制度がある会社のほうがパフォーマンスは良かったようです。しかし2011年度から9年間で見ると、マイナスとなっている年も4回もあり、ボランティア休暇制度がある企業のほうが、ない企業と比べて株式パフォーマンスが良いとは言えないようです。

それでは社員のボランティアと株式パフォーマンスは関係がないのでしょうか。実はそうではありません。下図は別の角度から社員のボランティアと株式パフォーマンスとの関係を見てみました。ボランティア休暇制度の利用者が“増えた会社”と“減った会社”の株式パフォーマンスを比較してみたもので、分析期間や株式パフォーマンス計測の方法は先ほどの図と同様としています。

実質が伴わなければ株式市場で評価されない

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図から棒グラフがマイナスとなった年は1回しかありませんでした。それ以外の8年はボランティア休暇制度の利用者が“増えた会社”が“減った会社”より株式パフォーマンスが上回りました。つまり、ボランティア休暇制度の利用者が“増えた会社”のパフォーマンスが良いことがわかります。

これらの2つの図から言えることですが、面白い傾向として、いくらボランティア休暇制度があっても、制度を利用しやすい環境で、実際に利用者が増えていく企業でないと、株式市場では評価されないということです。制度があるだけでサスティナブル経営に向けた“かけ声”だけが大きくても、実質が伴っていなければ、実際に休暇を利用したボランティアを行う社員も増えないでしょう。やはりその背後にある企業の文化や社員の姿勢が重要であることがわかります。

今回の分析から社員のボランティア活動への参加姿勢が強まる企業の株式パフォーマンスが高いことがわかりました。そしてボランティア制度があるだけで、実際に社員の活動が高まらない企業には株式投資をするうえで銘柄選別の際に注意が必要です。

(吉野 貴晶:ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長)

吉野 貴晶

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