脱炭素ブームで迷走する「電力政策」...結局そのツケは国民が払うことになる

脱炭素ブームで迷走する「電力政策」...結局そのツケは国民が払うことになる

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/21
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2030年は「太陽光発電」が最も安い?

カーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)の中核をなす、電力政策が迷走している。電力政策を所管する経済産業省の方針が、原子力と太陽光の間で“右往左往”する始末だ。

経済産業省の「総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ」は7月12日、2030年時点での発電コストは、原子力発電よりも太陽光発電が安くなるとの試算を示した。発電コストの試算は6年ぶりで、太陽光が原子力を下回るのは初めてのことだ。

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photo by iStock

この試算は石炭火力、LNG(液化天然ガス)火力、原子力、石油火力、陸上風力、洋上風力、太陽光、水力、地熱など15種類の電源について1kWh当たりの発電コストを分析したもの。

この結果、2030年の発電コストは、太陽光(事業用)が8円台前半から14円台後半となり、原子力の11円台後半以上よりも安くなり、発電コストとして最安となった。(表1)

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表1「2030年の電源別発電コスト試算」

ちなみに2020年の発電コストは、原子力が11円台後半以上で、太陽光の12円台後半を下回っていた。

政府は2030年度のCO2排出量を、2013年度比で46%以上の削減目標を打ち出しており、今回の試算で太陽光が原子力を発電コストで下回ったことで、一躍、電源の主役に“躍り出た”。

大臣自ら「待った」

ところが、翌7月13日の記者会見で、梶山弘志経産相は「(原発は)太陽光や液化天然ガスの発電と比べ遜色はない。風力なども含めた全体のなかでは低廉だ」と述べ、原発が発電の主力であるとの認識を示した。

梶山経産相は太陽光発電について、「天候に左右されるため、発電量の変動に備え、バックアップ電源なども必要になり、数円程度のコストが生じる試算もある。安定かつ安価な電力供給や気候変動問題への対応を考えれば、安全確保を前提にした利用は欠かせない」と原発の優位性を説いた。

梶山経産相は、前日に経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の出した試算をたった1日で見事に“手の平返し”したのだ。

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梶山経済産業大臣/photo by gettyimages

この背景には、「省内の原発推進派と再生可能エネルギー(再エネ)推進派の確執がある」(経済産業省関係者)という。

実際、今回の試算には“曖昧さ”が残る。試算の前提は発電所の新設にかかる費用であり、太陽光の試算の前提には梶山経産相が指摘したようにバックアップ電源や送電網への接続費、太陽光パネル設置の用地費などのコストは含まれていない。

不信感が募る太陽光パネル…

太陽光については、4月30日の「実は“穴だらけ”…温暖化ガス46%削減の要『太陽光発電』の『不都合な真実』」で様々な問題があることを指摘した。

そして、太陽光発電の設置基準が不明確な点について、「例えば、中山間地などで、山林を伐採して施設を設置すれば、豪雨の際などに雨水を自然浸透処理できずに濁流の発生や山崩れが発生する危険性もある」と述べた。

残念なことに、豪雨により7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区では大規模な土砂崩れによる土石流が発生し、多くの人が命を落とした。

その原因として、静岡県や林野庁は「直接的な原因ではない」と否定しているものの、一部では太陽光発電所建設のための森林伐採などの工事が指摘されている。

いずれにせよ、太陽光発電施設への不信感が高まっているのは否定できない事実だ。

かといって、原発も…

一方、梶山経産相が必死の釈明を行った原発にも様々な問題点がある。

経産省は2030年度に発電量の2割を原発で賄う方針だが、そのためには30基程度の原発の再稼働が必要となる。

しかし、国内にある原発36基(現在建設中の3基を含む)のうち、2011年の東日本大震災による東京電力福島第1原発の事故後、再稼働できたのは10基にとどまる。

原発再稼動に対して、地元住民の抵抗感が強いことに加え、東電柏崎刈羽原発でのテロ対策不備など不祥事の発覚により信頼性が低下していることも、再稼働を難しくしている理由の一つだろう。

また、原発の老朽化も大きな課題だ。政府は福島第1原発の事故後、2012年に原子炉等規制法を改正。原発は運転期間を原則40年とした。そして、例外として60年の運転期間を認めている。

仮に36基すべての原発が稼働し、2030年度に発電量の2割を原発で賄うとしても、その時点で15基は運転期間が40年を超えることになる。

36基すべてを例外規定である60年運転としても、2050年になると、運転可能な原発は23基にまで減少してしまう。

東日本大震災後の2014年に政府が策定した「第4次エネルギー基本計画」では、原発の建て替えを削除している。その後も、原発の建て替えに関する計画は復活しておらず、つまりは「建て替え」という選択肢も限りなく薄い。

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美浜原発/photo by gettyimages

そんな中で、6月23日、関西電力の美浜原発3号機が10年ぶりに再稼動した。この原発は運転開始から40年を超えており、福島第1原発事故後、運転期間が40年を超す原発が再稼動したのは初めてだ。ただ、再稼働は4ヵ月限定で10月には再び稼働を停止する見通しだ。

老朽化した原発を運転するしかないという現実の中で、菅義偉首相が打ち出した2050年にCO2排出量をゼロにするカーボンニュートラルが果たして実現できるものだろうか。

低コストにはウラがある

経産省の電源コスト試算に話を戻そう。2030年に太陽光のコストが大きく低下すると試算された要因は、技術革新と太陽光発電が拡大するという見込みからだ。しかし、これは非常に不確実性が高い。

そもそも技術革新がどの程度進み、太陽光パネルの価格などがどの程度下がるのかははっきりしないし、本当に太陽光発電が拡大するのかは不確かで、太陽光発電の拡大によりパネルなどの量産が進み価格が下がる保証もない。

太陽光など再エネは、主力の火力や原子力に比較して発電コストが高く、政府はFIT(固定価格買取制度)により再エネ普及を促進してきた。この買取代金は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」として私たちが支払う電気代に加算されている。

しかし、この買取価格は上昇し続けている。2021年度の標準的な家庭が支払う再エネ賦課金の負担は、初めて年額1万円を超えることを、3月31日の「菅首相の掲げる『脱炭素』の先に待つのは、『電気代増加』か『原発再稼働』か」で指摘したばかりだ。

2020年の国内での再エネ発電量は全体の21.7%、再エネ賦課金が1kWh当たり2.98円。カーボンニュートラル実現のために経産省が作成した「グリーン成長戦略」では、2050年の発電量の約50~60%を再エネで賄う計画である

そうなれば再エネ賦課金は2~3倍になり、家計に大きな負担を強いることになるだろう。

さらに老朽化した原発に頼るのが難しいとなれば、2050年には再エネの発電比率が60%以上に上昇する可能性は高い。我々が負担する費用はいかばかりか。

6月30日の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」では、2050年に再エネ100%で発電した場合の1kWh当たりのコストを分析した。

RITE(地球環境産業技術研究機構)は18円、自然エネルギー財団は9.18円、デロイトトーマツコンサルティングは再エネ95%で19円、日本エネルギー経済研究所は27円と、各シンクタンクとも、概ね平均発電コストは2020年の2倍になると試算している。(表2)

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表2「2050年時に再エネ100%で発電した場合のコスト」

これがそのまま我々国民に降りかかってくるとして、果たして受けいられるだろうか。

スイスでは国民がノー

こうしたカーボンニュートラル実現のための、再エネ発電による電気料金の国民負担増加に対して、国民投票による“ノーを突き付けた”のがスイスだ。

スイスでは、CO2法改正を問う国民投票が6月13日に行われた。

この改正案は、(1)エネルギーに対し1トン当たりのCO2に200スイスフラン以上の税金を課す、(2)ガスと石油の暖房は事実上禁止、(3)ガソリンは1リットルあたり12セント以上も値上げされ、税金が1リットル当たり総額で1スイスフラン以上となるというもの(1スイスフランは約120円)。

当初は可決されると見込まれていたが、家計への負担の大きさが明らかになってからは世論は逆転。賛成48.4%、反対51.6%で否決された。

果たしてこの事例を菅政権はどう見ているのだろうか。

政府は現在、概ね3年に1度見直しされる、第6次エネルギー基本計画の策定作業を行っている。

しかし、カーボンニュートラル実現のため、様々な政策が打ち出されているが、国民負担に対する明確な説明はない。

菅政権は、カーボンニュートラル実現のための国民負担を明確にし、国民負担に対する軽減策を検討すべきだ。それが、カーボンニュートラルが国民に受け入れられる方法ではないだろうか。

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