米元国防次官補ジョセフ・ナイの警告「金正恩を舐めてはいけない」

米元国防次官補ジョセフ・ナイの警告「金正恩を舐めてはいけない」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/11/14
No image

安倍首相との会談を皮切りに始まるトランプ大統領のアジア訪問。この間にも、北朝鮮情勢は予断を許さない状況にある。日米関係と極東情勢に精通する世界的知性が、「北朝鮮動乱」を語り尽くした。

金正恩はなぜ核に固執するか

「金正恩のことを、挑発行動を繰り返すだけの、まるで正気ではない独裁者だという人がいます。しかし、私はそうは思わない。金正恩は自暴自棄になっているわけではなく、計算ずくで行動しているのです」

<こう語るのは、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授(80歳)。世界的な国際政治学者でありながら、アメリカのカーター政権で国務副次官、クリントン政権では国家情報会議(NIC)議長や国防次官補などの要職を歴任した人物だ。

米国の東アジア戦略策定にも携わり、沖縄・普天間飛行場返還の日米合意を主導したことでも知られる。

'00年から3度にわたって共同執筆した『アーミテージ・レポート』は、対日外交の指針として、今も米国の対日戦略の基本文献だ。日本と歴代米政権の仲介者として活躍し、安倍晋三首相とも何度も面会してきた。

この米国の極東戦略の世界的権威が、本誌の独占インタビューに答えた。>

北朝鮮が核を放棄する意思を示さないかぎり、対話には応じない――クリントン政権から続いた宥和政策は結局効果がありませんでした。

金正恩はアメリカの圧倒的な軍事力に怯えることもなく、慎重に核兵器開発を続けてきました。これは、決して金正恩の挑発や思いつきではなく、非常に綿密な戦略によるものでした。

'94年10月、私がクリントン政権で国防次官補を務めていた時、アメリカが北朝鮮に核開発を凍結させ、見返りに軽水炉を提供する「米朝枠組み合意」が成立しました。

しかし北朝鮮はそれを無視し、ウラン濃縮による核開発を続行したうえ、'03年には核拡散防止条約(NPT)からの即時脱退を表明します。その後も、国連の制裁にもかかわらず、核実験と長距離弾道ミサイル実験を繰り返しています。

なぜこうなったのか。北朝鮮にとって核開発プログラムは、手にしている唯一の外交カードだからです。この20年間、アメリカは北朝鮮に核を断念させるべく、13.5億ドル(約1540億円)を投じてきましたが、北朝鮮がカードを捨てるはずがないのです。

確かに金正恩は今年9月に「米国のおいぼれを必ず火で罰する」などという暴言を吐いている。だが、彼はすべてを計算して行動しています。

金正恩を舐めてはいけない。十分な軍事力を持てたとの確信を得れば、武力を使って、韓国との「再統一」を宣言する可能性だってあります。

No image

Photo by GettyImages

この状況下、トランプ大統領が来日し、6日に安倍晋三首相と首脳会談を行った後、7日に韓国で文在寅大統領、8日には中国で習近平国家主席とそれぞれ会談します。

いまトランプの頭を悩ませているのは、当然ながら金正恩のことです。

アジア歴訪のなか、最大のポイントになるのは8日の習近平との会談でしょう。北朝鮮が輸入している食料と燃料の大半を供給しているのは中国です。

弾道ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮に対し、中国を通じて圧力をかけるべく、トランプはさらなる要請を行う。これがどこまで行くかが焦点です。

'94年、私の苦い経験

北朝鮮問題に関するかぎり、トランプと安倍首相の間に、大した対立はなく、首脳会談は和やかに行われます。トランプは就任前は日本に批判的な言動が多かったのですが、今はそうではない。

安倍首相は、トランプとの首脳会談を経て、日米同盟が強固であることを北朝鮮に見せつけることが非常に重要です。うまくやらないと、金正恩の戦略に簡単にやられてしまう可能性がある。

安倍首相とは、私が教鞭をとっているハーバード大学でも話しましたし、来日時にも何度も会って意見交換をしています。

'07年の第1次政権時代の不人気を考えると、安倍政権が史上最長の政権になりつつあることに感慨を覚えます。10月の総選挙で自民党が圧勝したのは、日本人が安定を望んでいることの表れでしょう。日米同盟の安定にもつながり、日米両国にとって、プラスに働きます。

No image

Photo by GettyImages

一方、トランプと韓国の文在寅大統領は、良好な関係とはいえません。文在寅が北朝鮮との関係を改善させようと動いたことに対して、トランプは時折批判さえしています。

しかし北朝鮮の核開発を止めさせたい、という一点では韓国も日本と変わりませんから、根本的な部分では一致するはずです。

しかし、習近平との間となると別です。トランプは今年の4月6日と7日、アメリカ・フロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で習近平と会談を行いました。

トランプは習近平に対し、「北朝鮮の核問題について、より強硬な態度をとってくれるのであれば、米国の貿易赤字削減については譲歩する」という提案を行いました。

確かにその後、中国は北朝鮮への態度を硬化しましたが、核実験を中止させるほどの影響力は持たなかった。

だから、今回のトランプ・習会談では、北朝鮮に対する態度をめぐって、激しい議論になる可能性があります。

さて、こうした外交努力が無となった場合――北朝鮮のたび重なる核実験とミサイル発射実験に対して、アメリカは軍事作戦をとるでしょうか。

トランプの選択肢の中に、先制攻撃が入っていることは間違いない。ただし、それは非常に難しいオプションです。将来の損失を未然に防ぐ目的の「予防戦争」は、北朝鮮に対して挑むには、失われる命があまりにも多く、リスクが高い。

なぜなら北朝鮮には、核兵器を抜きにしても、そもそも報復攻撃能力があるからです。ところが米軍には、北朝鮮の核施設やすべての通常兵器を、一撃で破壊する能力はありません。

そこで、ピンポイント攻撃の主張が出てきます。ミサイル発射台や核再処理工場、ウラン濃縮施設といった特定の場所への攻撃です。もし、このピンポイント攻撃をするなら、北朝鮮の応酬はどのようなものになるでしょうか。

'94年、米国は、北朝鮮がプルトニウムから核兵器を製造するのを阻止するため、寧辺の核施設に対して先制攻撃を行うことを検討します。私が国防次官補を務め、国際安全保障を担当していた時期です。

しかし、北朝鮮にはDMZ(非武装地帯)に、約1万5000両の大砲と多連式ロケット砲が配備されています。ここから北朝鮮が韓国のソウルを攻撃する可能性がありました。

もし攻撃されたらソウルは火の海となり、壊滅してしまう。非常に高い代償であるという結論に達し、攻撃を断念しました。

つまり、北朝鮮は、核兵器がなくても、韓国や日本、さらにはアメリカと対峙してきたのです。通常兵器で充分に戦う能力があるからです。そしてこの状況は、現在まで変わっていない。

ICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射準備されていることがわかれば、そこに先制攻撃をすればいいという意見もありますが、移動発射台にミサイルが隠されていれば、発射前に破壊できるかどうかは確定できません。

ミサイル発射前に、ミサイルシステムにサイバー攻撃を仕掛けることは、一つの可能性としてあります。アメリカは実際イランの核施設のウラン濃縮用遠心分離機を破壊するサイバー攻撃を成功させています。

核戦争のリスクは?

とはいえ、北朝鮮を牽制するためだけに軍事力を限定的に使用すると、かえってリスクが大きい。エスカレートし、全面戦争になってしまう可能性があるからです。

アメリカ側から戦争を始める可能性は低いと思いますが、北朝鮮が日本やグアム、アメリカ本土を狙ってミサイルを発射すれば、アメリカは軍事攻撃を辞さないでしょう。

日本の話をしましょう。もし北朝鮮が発射したミサイルが日本に落ちるようなことになれば、アメリカは応酬すると考えます。日米安保条約第5条に基づいて、アメリカは日本を守らなければなりません。何より、日本には在日米軍があります。

日本に有事があれば、多くのアメリカ人にも犠牲が出てしまう以上、米国は報復攻撃を行い、北朝鮮という国家を確実に終わらせるでしょう。それは限定的攻撃ではない。北朝鮮国家の完全な消滅を意味します。

そのリスクを、金正恩は理解しているはずですから、核による自滅的な行動は、アメリカも北朝鮮もとらないでしょう。

金正恩は計算ずくで行動している以上、核戦争ともなれば、それが北朝鮮の崩壊と終焉につながるとわかっているからです。

ただし、自分が殺されると判断すれば、金正恩が先制攻撃をする可能性は捨てきれません。通常の戦争の危険性は常にあり、誤算のリスクも存在します。

1914年、バルカン戦争がその後4年に及ぶ第1次世界大戦に広がることを予測したヨーロッパの首脳は、一人としていなかった。

しかし、金正恩を抑えこむことは不可能ではない。彼は自分のレジームの破壊や北朝鮮の崩壊を見たくないからです。

彼がアメリカに対して求めているのは、自己の政権の安全の保証ですが、それだけでなく、より繁栄している韓国を威嚇する能力も求めているのも事実です。だから、彼らは核兵器の保有を続ける。

非常に強力な制裁を科し、北朝鮮を交渉のテーブルにつかせるのも一つの方法です。アメリカが行ったイランとの核合意は強力で、実効性もありましたが、それと同様のやり方が北朝鮮に対して効果があるかどうかは、まったくわかりません。

そして残念ながら、北朝鮮に対する一連の経済制裁は、それほど効果が上がっていません。

No image

Photo by GettyImages

これは、ひとえに、中国にかかっています。彼らがどれだけ真剣に、北朝鮮への食料と燃料の供給をカットするか次第なのです。中国は現在の経済制裁で、なんとかトランプを黙らせているものの、金正恩を止めさせるほどの効果は出ていない。

中国は、アメリカが高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」を韓国に配置させたことに苛立っています。しかしアメリカにとって、北朝鮮のミサイルが韓国や日本に向けられている以上、それを迎撃する能力を高めるのは当然のことです。

中国がそれを気にくわないと思うのであれば、北朝鮮のミサイル実験を止めさせるべきです。

中国が北朝鮮に対して真剣に向き合わないのは、北朝鮮の暴発を恐れているからです。彼らが心配しているのは、北朝鮮の兵器よりも、政権が崩壊した後に中朝国境がカオス状態になることです。

難民が中国に流れてきますし、北朝鮮国内での異なるグループの内戦が生じ、韓国人やアメリカ人を巻き込むかもしれません。中国は、北朝鮮の非核化をずっと望んでいるものの、彼らの最優先事項はあくまで国境の安定であって、非核化は二の次の話なのです。

そういう意味で、トランプ・習会談は、もっとも重要な意味を持ちます。

8月にトランプが、「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と北朝鮮に関して述べました。米国が軍事作戦を検討していると表明すること自体は、中国に対する圧力になります。

しかし、トランプという人物は非常に気まぐれな性格です。政権幹部の発言を夜中のツイッターで覆してしまうという特異な性格で、政治とコミュニケーションを破壊している。明確な戦略で動くのではなく、取引を重要視する。

トランプは実際4月にアフガニスタンでイスラム国の拠点に大規模な空爆を行い、息子のトランプ・ジュニアは、それを爆弾の絵文字を使ってツイートして賞賛しています。このような振る舞いをする大統領は過去にも例がなく、予測が難しいところがあります。

「殺人者の政権」の今後

一方で、金正恩がいくら計算ずくと言っても、彼の行動の意味を解釈するのも非常に難しい。

9月15日以降、北朝鮮がミサイルを発射していないのは、中国が金正恩に対して、「我々は非常にシリアスである。事態を甘く見ていると思ったら大間違いだ」と圧力をかけたからかもしれませんが、真相はわかりません。

金正恩は、自分の叔父を処刑し、異母兄を暗殺しました。自分の敵になりそうな人物を進んで殺す人間です。そういう意味では金正恩政権が「殺人者の政権」であることを忘れてはならない。

金正恩が暗殺されたり、何らかの形で死んでしまったりするとどうなるか。朝鮮人民軍の誰かが後継者になるでしょうが、その人物が核を保持し続けるかどうかは、中国次第です。

中国が新政権をサポートすると申し出れば、ひょっとしたら核を諦めるかもしれません。

No image

Photo by GettyImages

真の解決策を見出すのは難しいですが、私としては、次に金正恩が長距離弾道ミサイル実験を行ったときに、中国を動かして、北朝鮮に対する食料・燃料の供給を止めさせる――。これがもっとも効果的で、現実的なように思えます。

「あの男は正気でない」と金正恩をみくびっていると、北朝鮮を封じ込められないどころか、全面戦争を避けることができなくなってしまいます。

(インタビュー/大野和基)

ジョセフ・ナイ
37年生まれ。'64年からハーバード大学で教鞭をとり、米民主党政権で要職を歴任、提唱した「ソフト・パワー」は、オバマ政権の外交政策の根本となる

「週刊現代」2017年11月18日号より

No image

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

中国・韓国・アジアカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
「嫌韓」でなくてもさすがに呆れる「韓国よ、そこまでやるか!?」
なぜ?米国を訪れた韓国人85人が入国を拒否される=韓国ネットからは「拒否されて当然」の声
中国車の心臓部に日本製部品を使用している以上「排斥など無意味」=中国報道
韓国のおもてなしにイラッ。米国が文在寅政権に突きつけた「制裁」
中国人観光客が日本で起こす問題、「民度が低い」で片付けて良いのか

注目のキーワード

キーワードで気になるニュースを絞りこもう

  • このエントリーをはてなブックマークに追加